幕間~大樹の迷宮内部~
第186話 輪番1
大樹の迷宮内部。
最奥でドリュアスと神聖馬を確認した後、最初の部屋まで戻ってきた。
そして、食事の後は就寝である。
セーフティゾーンで魔物は現れないだろうと考えられるが、油断するわけにはいかない。
輪番で見張りをすることになり、輪番用のパーティーを組んでいた。
四パーティーあるので輪番は二時間半程度の交代になる。
ただ、そんなに正確に時間はわからない。
混沌地帯は真っ暗なので時計は用意しているが、それほど正確に測れるものではないからだ。
そして、セージはヤナ、ジェイク、ウォルト、クリフと組んでいた。
元のパーティーから考えるとバラバラのメンバーだ。
エヴァンジェリンが女性限定パーティーを作ったため、せっかくだからとあえてごちゃ混ぜにしたのである。
これから一緒に戦っていく上で、コミュニケーションを取っておくことは重要だ。
ただ、ヤナはそんなことよりもセージと魔法についての話がしたかった。
そして、今の話題は融合魔法についてだ。
料理の時に融合魔法の話はしたが、メテオの話をした後、呪文についての話になって終わっていた。
まだまだ話し足りないのである。
「メテオの他にメイルシュトロームしか使えないのは、対応する属性の魔法を覚えてないから?」
風と水の融合魔法『メイルシュトローム』は水流の大渦を巻き起こす魔法だ。
地上にいる敵に対してはメテオの方が効果範囲が広く、前方に飛ぶので味方を巻き込みにくい。
なので、今はメテオの使用率が圧倒的に高かった。
「たぶんそうですね。氷と雷の融合魔法グラシエスフルメンが発動しないですから。賢者をマスターして使えないってことは雷魔法が使えないからとしか思えません」
「雷魔法が使えるようになれば発動する?」
「そうですね」
そうあっさりと答えるセージ。
それを見て、ヤナは周りの者にはわからないほど小さく微笑む。
それは、セージが当然のように答えたからだ。
普通は呪文を唱えて発動しないとなると、呪文を間違えたのだと思うだろう。
一度も使ったことがない魔法ならなおさらだ。
呪文の読み方を試行錯誤し、どうすれば発動するかを考える。
しかし、セージは魔法が発動しないのは魔法の属性が足りないのだと言い切った。
その呪文に対する自信はヤナですら持っていない。
「そういえば、回復と治療の融合魔法フルリバイブも使えますね」
「フルリバイブ?」
「HP0から全回復。フルヒールとリバイブの効果を合わせた感じです」
「フルヒールとリバイブは回復魔法と復活魔法じゃないの?」
その言葉にセージは、これは言ってなかったなと思い出す。
「便宜上復活魔法って言ってますけど、リバイブは治療魔法に入るんですよね」
「リバイブが治療魔法?」
「そうです。それは間違いないですね。となると、HP0で付与される状態異常『行動不能』で、魔法特技使用不可と回復不可が効果でしょうか。それを治療するのがリバイブ、ということですね。まぁ、これは仮説ですけど」
そこでヤナは口元に指を当てて少し考えた。
話を聞いているだけのクリフとウォルトは首をひねっている。
セージはFSの公式でリバイブが治療魔法に分類されていたのを知っているので、正確にいえばそうなってしまうのだ。
ただ、詳しい内容まで書いていないので、その解釈は想像となる。
セージとしても復活魔法の方がわかりやすいとは思っており、普段は復活魔法と言っていた。
「HP0から1に回復しているけど、回復魔法にはならない?」
「そうなんですよね。それが難しいところなんですけど、HP0は状態異常『行動不能』の表示のようなものだと思っています。HP0の状態になると食べても寝ても0のままですし。もしHP0が状態異常でなければ回復魔法で回復するはずですから。つまり、0と1の間は回復しているわけではないとなります」
「寝ても回復しないとは言われているけど、セージはHP0で寝たの?」
「一度検証はしましたよ。HPは回復しませんでした」
ヤナはやっぱりという反応だったが、周りで聞いているウォルトとクリフは引いていた。
この世界の常識からするとHP0の状態で寝るなど正気の沙汰ではない。
「HPは加護。神から受けた加護によって魔法が使えて体が守られている。その加護を治療するという考え方?」
「そうですね。ただ、もしかしたら加護がなくなったから状態異常になるのではなく、『行動不能』自体に加護を無くすという効果があるのかもしれません。この間、一撃必殺技を持つ魔物と戦ったんですが、やっぱりダメージを受けた感覚はなかったんですよね。つまり、『行動不能』を付与されただけなのかなと思います」
「確かにその方が近いかもしれない」
ふむと考えるヤナ。
ウォルトとクリフはその違いにどういう意味があるのかさっぱりわからなかったが、口を挟まずに黙っていた。
「ところで、一つ聞きたいことがあるんですけど」
「なに?」
「エルフ族って商人と農業師をマスターしたら何が現れるんですか?」
それは獣族に『振付師』があるとわかってから気になっていたことだった。
人族が『賭博師』、獣族が『振付師』。
エルフ族も何か別の職業があるのだと考えたのだ。
ヤナとしては、むしろセージが知らなかったことに驚きつつ「占い師」と答える。
「占い師! なるほどなるほど! ヤナさんはなっているんですか?」
「なってない。けど、占い師になった者は何名もいるから間違いない」
「ほうほう、そうですか。占い師がくるとはなかなか。マスターした者はいますか?」
「いるらしいけど私は会ったことがない。占い師をマスターするのは難しいから」
「もしなったら教えてくださいね。マスターできるか試してみたいです。ただ、僕も占いはそれほど知らないんですよね。何を基準に上がるんでしょうか」
「何かを占った時点で上がるもの。最初は簡単。途中から全く上がらなくなるらしい」
セージと交流があるエルフ族はヤナくらいだ。
占い師をマスターすることで現れるエルフ族専用職が何かが気になっているセージである。
そして、ウォルトとクリフはへぇーと思いながら聞いていたが、人族のセージがなぜそれほど食いついているのかがわからなかった。
魔法の話でも職業の話でも、二人は基本的に話についていけていない。
「ふむふむ。占いって四柱推命、手相、タロットとかたくさんあるけどやったことはないし。適当でもいいのかな? うーん、むしろ靴飛ばしでもいける?」
「靴飛ばし?」
「あーした天気になーれ、ってやつです」
「どういうこと?」
「靴をポンッと飛ばして表なら晴れ、裏なら雨とかそんな占いです」
「聞いたことないけど」
「もしヤナさんが占い師になったらやってみましょうよ」
ヤナがきょとんとしてからコクリと頷く。
魔法以外に興味を持たないため、ランクも魔法が関わるものしか上げていない。
ただ、魔法と関係がなく見えても巡りめぐって魔法に関わることもあると知り、最近はいろいろと挑戦しようと考えていた。
そんな二人の会話にジェイクが口を挟む。
「ヤナ、セージ、交流が目的じゃないのか?」
その言葉に今度はセージがきょとんとして「そうでしたね」と頷く。
わざわざバラバラのパーティーを集めたのは、今後の戦いのためにも交流することが重要だからだ。
今のままではすでに交流の多いセージとヤナの仲を深めるだけになる。
「魔法に関する情報、ある?」
ヤナがコミュニケーションをとろうと考えて口を開く。
ただ、聞いたことは魔法についてだ。
それを聞いたウォルトとクリフは顔を見合わせる。
お互いに無理だという表情をしていた。
基本的に魔法についてセージとヤナに言うことなどない。
ただ、こうして聞かれたからには何かを答える必要がある。
ウォルトとクリフ。
どちらが答えるかを視線でやり取りして、ウォルトが仕方ないとヤナの方を向いた。
冒険者になったのはクリフが先だが、ラングドン領騎士団ではウォルトが先輩だったからだ。
「あー、魔法……魔法の、避け方についてとかどうだ?」
「避け方?」
ウォルトが苦し紛れに出した話にヤナが首を傾げる。
ヤナとセージは基本的に魔法を使う側の話をしていたので、使われる側から考えることは少なかった。
しかし、ラングドン騎士団ではどちらかというと魔法使い相手にどう戦うかを考えることが多い。
「例えば、ファイアボールが追尾できる限界なんだが、発動者の方向に進むことはないから、こう飛んできたときに、この辺りが安全になるとか……」
ウォルトが地面に書きつつ説明する。
その説明をクリフが手伝いつつ、セージとヤナが興味深そうに聞く。
この話は適当に流されると思っていたのだが、予想外に興味を持たれて、大きなプレッシャーを感じていた。
「つまり、正面にきた場合は、この位置で斜め前に跳ぶのが避けやすいってことだ」
「でも実際のところ、ファイアボールなら避けるより正面から防御して攻撃に移る方がいいですよね」
ウォルトとクリフの言葉にセージはうんうんと頷く。
「なるほど。ファイアランスとか他の魔法もそうなんですか?」
「いや、ファイアランスならこの位置で前に跳んだ方がいい。これより近けりゃ真横だな」
「下には避けないの?」
「下に避ける場合は……」
セージとヤナの質問にウォルトとクリフが答え、ジェイクはたまにスッと発言する。
こうして意外と和気あいあいとした雰囲気で夜が更けていくのであった。
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