第180話 ベンvs神聖馬

(このっ!)


 ベンはメインで神聖馬の相手をしていた。

 サポートとしてミュリエルとウォルトが入っている。

 三人体制になっているのは、神聖馬の技に『隔絶の檻』があるからだ。


 『隔絶の檻』は回避不可能で、行動不能になる技。

 攻撃することも攻撃を受けることもできず、ただ光の檻に閉じ込められる。

 そうなると神聖馬を引き付けることはできない。

 一人で相手をするのは不可能であった。

 それに三人はマルコムほど回避できるわけでもない。


(ディバインスフィアだ!)


 神聖馬の周囲に数十個の白い球体が浮かび、次の瞬間にはそれが高速で打ち出される。

 それは『ハウリング』を使い続けているベン狙いだ。

 直線ではなく揺らいだり曲がったりしながら飛来する球体を回避することは難しい。

 それでもベンは離れつつ、何とか直撃だけは避けている。

 しかし、ギリギリの戦いに息が上がっていた。


(あと五発、四、三っ……!)


 無理な体勢で避けたところで球体が掠め、その衝撃でバランスが崩れる。


(くそっ!)


 ベンは片手をついて転回しながら避けようとするが間に合わず、足に球体が当たる。


(まずいっ! 次の攻撃が――)


「こっちまーでおーいで!」


 ヘイトを稼いで魔物の注意を引く特技『ハウリング』を使ったのはミュリエルだ。


(助かった!)


 神聖馬がミュリエルに向かって『ホーリーレイ』を発動する。

 上から雨のように降り注ぐ光。一定範囲にランダムで降るため、回避は不可能だ。

 ミュリエルはその範囲から逃れようと走り出す。


 それと同時に発動したのはヤナの『インフェルノ』。

 業炎に包まれる神聖馬。

 そこにルシールの『メテオ』が襲いかかる。


 神聖馬はその中で再び『ディバインスフィア』を発動した。

 それに対して、セージが魔法を発動する。


「オリジン」


 賢者マスターによって覚えられる原初魔法『オリジン』。

 神聖馬を中心に、様々な色をした十二個の球体が円形に並び、そこから連続的に発射される十二本のレーザーが大きなダメージを与えていく。

 そして、神聖馬を中心に混沌とした色の魔力爆発が起こった。


(やっぱり綺麗)


 魔力爆発は球体が浮かぶ円形の範囲から出てくることはなく、渦巻きながら円柱状に上へたち昇る。

 複雑に混ざりあった色は神聖にも邪悪にも力強くも儚くも感じられ、見る者を惹き付けた。


 そして、威力も絶大だ。

 高耐久のマーブルゴーレムでさえ一撃で沈める威力に戦慄した。

 ベンはセージが練習で使っているところを見ていたが、まだ見慣れない。


(次こそはしっかり避けないと!)


 HPが回復して体勢を整えたベンは、切り替えて『ハウリング』を唱える。


「こっちで遊ぼうよ!」


 その言葉が終わった瞬間、ベンに向かって神聖馬が突撃の体勢をとった。

 そして、特技『聖角の一撃』が発動する。

『聖角の一撃』は一撃必殺。

 防御しようと掠めようと、つのに当たりさえすればHPが0になる凶悪な技だ。

 対処法は避けるしかない。


(速いっ!)


 相手の体勢から特技は予見していたが、その動きはベンの予想を上回っていた。

 矢の如く飛び込んできた神聖馬を、ベンは飛び越えるようにして避ける。

 しかし、神聖馬はそれに反応して、後ろに方向転換した。


(もう来るの!?)


 避けたら追撃してくることは、セージから聞いていたのでわかっていた。

 しかし、まさか逆方向へ跳ぶのにそこまで速いとは思っていなかったのだ。


(間に合え!)


 ベンは少しだけ高く跳びすぎていた。

 ギリギリで避けるべきだとはわかっていたが、少し余裕を持ってしまうのは仕方がない。

 しかし、そうなると滞空時間が長くなり、攻撃に対処する時間がなくなる。


 着地と同時に横っ飛び。

 足を蹴り飛ばされてダメージは受けたものの、何とか角に触れることはなかった。

 ベンは地面を転がってすぐに起き上がる。


 それと同時に、神聖馬に『インフェルノ』と『メテオ』、さらにミュリエルの『ハウリング』が発動する。

 神聖馬は魔法の中で『隔絶の檻』をミュリエルに放つとベンに突撃してきた。


(えっ!? 聖角の一撃!?)


 魔法に紛れて発動モーションが見えなかったため、慌てて跳躍して飛び越える。

 しかし、神聖馬はそこで後ろにステップを踏んで、後ろ蹴りを放った。


(やられたっ!)


 神聖馬は特技ではなく通常の突進攻撃を仕掛けていたのだ。

 空中にいては避けようがなく、特技も間に合わない。

 ベンは直撃を受けて吹き飛ばされる。


「駄馬! こっちに来い!」


 今度はウォルトが『ハウリング』を使って注意を引く。

 神聖馬は『ホーリーレイ』を発動。

 そして、それを返すようにセージが原初魔法『オリジン』を発動させた。


 壁に叩きつけられたベンは息がつまるほどの衝撃を受けながらなんとか立ち上がる。

 神聖馬は戦闘向きの魔物ではないのだが、それでも格上であることに変わりはない。

 一撃でHPが半分近く削られていた。


(こんなことじゃ駄目だ。早く見切らないと)


 すぐに回復魔法がかかり、ベンは焦りながら立ち向かう。

 セージたち魔法組は前衛を巻き込まないように配慮しながら魔法を発動している。

 ベンが神聖馬に対する前衛のトップとして選ばれたのは、攻撃を避けてMP消費を減らし、魔法の発動に合わせてすぐに引くことができるからだ。

 それに、同じ職業のマルコムであれば、おそらく全て避けきっているだろうと感じていた。


 パーティー内での最速はマルコムとベン。

 マルコムはその驚異的な能力で避けているが、ベンには難しい。

 それもあってミュリエルとウォルトがついているのだが、ベンは自分がやらなければならないと思っていた。

 ベンは「ハウリング」と呟き、叫ぶ。


「こっちだ! 早く来い!」


 その発言の中に、ベンは自分を呼ぶ声が微かに聞こえたが、目の前の神聖馬の動きに集中しており、視線を向ける余裕はなかった。

 神聖馬は『ホーリーレイ』を発動し、その間に『聖角の一撃』の体勢に移る。


(っ! 避けきってやる!)


『ホーリーレイ』の範囲から逃れ『聖角の一撃』を避けるために踏み出そうとした。

 しかし、その足は蔓に妨害されてバランスを崩し、思わず膝と手を地面につく。

 ダークドリュアスの『蔓草の氾濫』の範囲に入っていたことに、ベンは全く気がついていなかった。


(当たる……!)


 すでに迫ろうとしている神聖馬を見て、瞬時に理解した。

 起き上がり、蔓を切り、跳躍して避ける。そんな動作が間に合うはずもない。


 それでも諦めず、起き上がった瞬間、横から衝撃がきた。


(えっ?)


 エヴァンジェリンの体当たりだった。

 寸でのところで神聖馬を回避。

 しかし、神聖馬の『聖角の一撃』には二撃目がある。


「シールド!」


 エヴァンジェリンは盾で防御するが、その上から神聖馬の角が当たった。

 HPの加護が砕け散る音が聞こえる。

 神聖馬はそのまま突き上げ、エヴァンジェリンは宙を舞った。

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