第147話 忍者ベン

(あれ? これってキツ過ぎない?)


 ベンはエヴァンジェリン・アルヴィンペアと戦いながら疑問を浮かべた。


 戦闘開始から魔法を抜けてアルヴィンと少し剣を交え、エヴァンジェリンに向かったところまでは計画通りだ。

 おかしくなったのはその後、アルヴィンがベンを追いかけて走ったのである。


(なんでついてくるの!?)


 ベンは能力がバレていないため、まずセージを倒しに来るだろうという想定だったのだ。

 その間に王女を倒し、周りの支援に走るという計画はあっさりと破綻する。


 それでも、アルヴィンが追いつく前は、全力で王女を攻撃し上手く回っていた。

 面白いくらいに『カウンター』が決まり、このまま王女狙いで戦おうと考える。

 そんな時に飛び込んできたのはアルヴィンだ。


(なんか雰囲気変わった?)


 アルヴィンがエヴァンジェリンを守ったところで様子が変わる。

 エヴァンジェリンは普通の魔法使いの様に前衛に隠れて魔法を放つような動きをし始めた。


(これは面倒だな。というか、この状況ヤバい?)


 エヴァンジェリン相手であれば相性はいいが、そこにアルヴィンが加わると厄介である。

 それは、ベンが耐久力に乏しいからだ。

 忍者は素早さに特化しており、攻撃力もそれなりにある。ただ、防御力の補正が小さい。

 上級職ということもあって、中級職相手なら問題ないだろう。

 しかし、相手は勇者二人。防御力は心もとない。


 エヴァンジェリンが『フロスト』を唱えて、アルヴィンが攻撃する。

 それをベンが『スイトン』を使いつつ対応し、さらに『カトン』を使って牽制した後、エヴァンジェリンに攻撃を仕掛る。

 しかし、防御と共にアルヴィンを盾にするように逃げられ、さらにアルヴィンから反撃の剣が襲いくる。


(一人で勇者二人相手は鬼畜すぎる。誰か応援にきてよ!)


 戦いながらそう嘆くが周りも余裕はない。

 ライナスとチャドは押されており相手の方が優勢だ。


 ライナスは獣族の住む土地、リュブリン連邦で訓練を積んでいたこともあり、獣族相手の動きは慣れている。だが、相手の装備が強かった。

 強力な一撃を正面から受け続けるわけにもいかないが、チャドが後衛と戦っているため引き付けないといけない状態だ。


 チャドの相手は後衛カーラ・ミストリープ。カーラは魔法科ではあるが、近接戦闘も得意としている。

 だからこそ、勇者アルヴィンに次いで二位の実力者として第一学園一番手パーティーに加わっているのだ。

 近接戦闘だけではチャドが有利なのは変わらないが、相手は魔法の扱いに長けており、完全に抑え込むことはできない。

 その上、獣族のトマにも注意しておかないと、不意に攻撃されてしまう。

 そして、隙ができるとカーラが魔法を発動するのだ。

 今のところ不利な状況だった。


(ライナスとチャドは無理だとしても、シルヴィアとセージならクリフォードは倒せるだろうし、援護に来てくれるよね? 僕もかなりヤバいし)


 アルヴィンの攻撃を受け流しつつ攻撃。そのままエヴァンジェリンに仕掛けようとして、アルヴィンに止められる。

 ベンはアルヴィンに止められることがわかっていた。

 ただ、魔法を自由に使わせるわけにはいかないため、牽制を入れているのである。

 もし、ライナスの方に魔法が放たれると厄介だからだ。


 アルヴィンから気合いの入った一閃が放たれ、ベンは一端後ろに跳躍する。

 それと同時にアルヴィンも後ろに跳んでいた。

 そして、エヴァンジェリンが魔法を発動する。


「タイダルウェーブ」


(あっ、やばっ!)


 特級水魔法『タイダルウェーブ』により水の壁が押し寄せる。

 『タイダルウェーブ』は効果範囲が『ヘイルブリザード』より狭く、距離があると避けられやすい。近接戦が始まれば『インフェルノ』より味方を巻き込みやすい。

 そのため使われる機会が少ないが、相手を濡らすことができるのは大きなポイントである。


「テイルウィンド」


 ベンは背面跳びをしつつ追い風を起こす特技を発動した。

 追い風の効果もあり『タイダルウェーブ』の上をふわりと越え、空中で一回転捻りを入れて着地。

 そのまま縮地のごとく相手に近づく。


(隙あり!)


 驚くエヴァンジェリンに一撃を加えるが、盾で防がれ、アルヴィンが攻撃してくる。

 それを盾で受け流した後、連撃に繋げようとしてくるアルヴィンに『スイトン』を発動した。


(まさかタイダルウェーブを使ってくるとはね。あー、避ける訓練しておいてよかった。やっぱり下級職の特技も役に立つなぁ)


 ベンは狩人もマスターしている。

 それはセージを見て下級職も役立つと思い、自分なら狩人や旅人が合っていると思ったからだ。


 さらに攻撃を仕掛けるが、エヴァンジェリンは防御しながら後ろに下がり、アルヴィンが斬り上げながら割り込んでくる。


「カウンター」


 その攻撃を体を捻りつつ避け、さらに剣を振るう。それは盾で防がれ、反撃の動作が見えた。


(やっぱり堅いーー)


 そう思いながら軽く横に跳躍した瞬間、アルヴィンは魔法を放つ姿勢で後ろに跳んでいた。

 反撃の動作はフェイント。

 魔法を放つことが目的だった。


(やられたっ!)


「テイルウィンド」


「インフェルノ」


 ベンは腰に付けたホルダーに剣を差し込みながら、アルヴィンたちに向かって豪炎を駆け抜ける。

 剣の鞘は動きが多いと邪魔になるため、基本的に持っていない。ただ、必要があれば二十センチもない長さの鞘に納める。

 ベンの剣は短めとはいえ邪魔にはなるのだが、走るだけなら問題はなかった。


「スイトン」


 炎から抜け出した瞬間に特技を発動し、一歩で接敵する。

 エヴァンジェリンはアルヴィンに隠れつつ盾を構えた。

 アルヴィンも盾を構えつつ攻撃に移ろうとするが『スイトン』により一瞬隙ができる。

 そこで、さらにエヴァンジェリンに向かって一歩踏み込み、剣を掴んだ。


神速シンソク


 居合い斬りのように放たれる剣閃。

 エヴァンジェリンの感知能力を超えた剣は、まさに神速。

 防御しようとした時にはすでに直撃していた。

 続く『弐の太刀』を放ちながら復活したアルヴィンの攻撃を避け、剣を上に投げつつ印を結ぶ。


火遁カトン


 ベンは炎虎が跳ぶと共に剣を掴み、そして攻撃に移る。

 しかし、アルヴィンは炎虎を盾で殴り消し、ベンの剣に合わせて剣撃を放つ。

 その後ろでエヴァンジェリンは手をかざしていた。


「フロスト」


(やっぱり厳しいよ。この攻撃力に魔法の連携、勇者二人は無理! セージかシルヴィアが来てくれたらいいんだけど、それも厳しそう)


 セージとシルヴィアはクリフォード相手に有利な戦いを繰り広げているが、シルヴィアのHPはほとんど残っていない。


(シルヴィアは勝つために徹底してるな。勇者相手にセージがほとんど無傷ってすごい)


 シルヴィアはセージを守り続けることを目標にしていた。

 相手で注意するのは騎士科の勇者クリフォード・シトリン、そして獣族のトマ・ルノアール。

 魔法科の三人がもし残ったとしても、セージが万全の状態で負けることはないと信頼しているからこそシルヴィアはクリフォード戦にかけていた。


(また魔法か!)


 アルヴィンが後ろに飛びつつ魔法を放つ体勢になっている。

 追いかけようとするが、エヴァンジェリンが前に出て止めた。


「フロスト」


 魔法が発動した瞬間、今度はエヴァンジェリンが後ろに跳躍。

 そして、魔法を放とうとする。

 ベンはあえてそれを追いかけるように跳んだ。


「インフェルノ」


 『フロスト』によって一瞬動きを止めながらも接近しており、魔法に巻き込む。

 エヴァンジェリンは全力で後方に跳び、手をついて一回転しながら着地する。

 すでにエヴァンジェリンは近接攻撃を諦め、剣を投げ捨てていたため身軽になっていた。

 それを追って一撃を入れるベンにアルヴィンが攻撃する。


(勇者二人の連携は凶悪すぎ!)


 アルヴィンとエヴァンジェリンは『フロスト』と『インフェルノ』を中心に使って攻めてきていた。

 エヴァンジェリンの近接攻撃は話にならず、アルヴィンの攻撃でさえも直撃どころかほとんど受け流されているからだ。

 ベンはなるべく魔法を発動させないように攻撃しているが、勇者二人を相手にして完全に止めることはできない。

 魔法の完全回避はできないため、ダメージは着実に積み重なっていた。


(本格的にヤバくなってきた。特級魔法が辛い。体力的にもキツいよ)


 アルヴィン相手だと接近戦より少し距離を保ちつつ戦う方が良いのだが、それだと後ろのエヴァンジェリンがフリーになり魔法を自由に発動させることになる。

 超接近戦で牽制を入れつつ戦うしか無かったのだ。


(あーシルヴィアが倒れたか。さすがに勇者相手は厳しかったよな)


 シルヴィアのHPの減少を見ていたので驚きはないが、戦いが予想よりも厳しく感じられた。


(何とか生き残ると思ったんだけどなぁ。ってクリフォードも倒れた?)


 クリフォードが倒れるところが、たまたま視界に映る。

 そして、セージとベンの視線が一瞬からみ、セージはライナスの方に向いた。


(うん……やっぱりね)


 ベンは援護は来ないだろうと薄々気づいていた。ライナスの状況が悪かったからだ。

 ライナスたちが戦っているトマとカーラが援護に来ると厄介である。

 先に倒しておきたかった。


(はぁ、仕方ない。全力で引き付けるけど、もうそんなにはもたないよ)


 そう思いながら、攻撃をしかける。


神速シンソク


 ベンは勇者二人相手に耐え忍ぶのであった。

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