第145話 最終戦開始

 セージが中央、右にシルヴィアとベン、左にライナスとチャドが配置し、決戦の銅鑼が鳴り響く。

 第一学園三番手『紅蓮』対第三学園三番手『幻想冒険団』の最終決戦が始まった。


(さて、相手がどうくるか)


 セージがバフの鈴を鳴らしながら走り出す。それと共に第一学園『紅蓮』も王女以外が走り出した。


(意外と積極的。だけど、王女だけは完全な後衛か。まぁ想定通りかな)


 セージ以外は一瞬立ち止まって動かなかったため、第一学園は驚きつつ魔法をセージに向けて放とうとする。

 その瞬間にシルヴィアたちが走り出した。

 そして、それと同時にセージが魔法を発動する。


「ヘイルブリザード」


 第一学園は誰に照準を合わせるか戸惑いつつも魔法を発動。

 トマ以外は全員が特級氷魔法『ヘイルブリザード』である。勇者三人はセージ、後衛のカーラ・ミストリープはライナスとチャドが対象だ。


(くーっ、さすがに特級魔法はちゃんと効くなぁ。一発は受けてくれたけど)


 シルヴィアはセージに『スケープゴート』を使うことで、一発だけダメージを肩代わりしていた。

 セージは賢者であり、レベルも高いが、それでもシルヴィアの方がまだHPの総量は高い。

 ただ、セージの方が魔法防御力が高いので、魔法に関してはセージが受けてシルヴィアがダメージを引き受ける方がメリットがある。


「ウンディーネ、サモン」


 相手の魔法をものともせずに駆け抜けながらセージは精霊召喚を唱えて、すぐに呪文を唱え始める。


(とりあえず結構バラけてるしウンディーネで様子見かな。効果範囲は広いし)


 水流が巻き起こり現れたのは水の精霊ウンディーネだ。艶やかな藍色の髪をふわりと揺らめかせ穏やかに微笑む。

 その姿に観客席ではどよめきがおこり、第一学園の者も表情が変わった。


(目立つなぁ。仕方ないけど)


 ヘイルブリザードを突き抜けてすぐに第三学園も魔法を放つ。


「フロスト」


 セージ以外も『フロスト』や『ウィンドバースト』を放ち、ベンはすでにアルヴィンと接近戦に入っている。


(さすがベン。一番乗りだ)


「アクアマインスフィア」


 セージが魔法に続いて特技を発動する。

 ウンディーネがパシャッと水をかけるような動作をすると、その雫がキラキラと宝石の様に輝きながら飛散し、空間に無数のシャボン玉のようなものが浮かんだ。


(これって地味だけど凶悪な嫌がらせだよな)


 そう思いながらセージは呪文を唱え始めた。

 『アクアマインスフィア』は同じパーティーの者が触れても何も起こらないが、相手が触れた瞬間破裂する。

 衝撃のわりに一発のダメージは大きくない。しかし、不意に衝撃を与えられたり、当たらないように意識したりする中で戦うことは難しい。

 また、動き回ればダメージは積み重なり、特級魔法にも匹敵するダメージ量になる。

 ベンは『アクアマインスフィア』の中で攻撃して撹乱したあと、後衛の王女に向かった。

 それを第四王子が追いかける。


(追いかけるんだ。こっちに来る可能性が高いと思ったけど。まぁ王女に近接戦闘させるわけにはいかないだろうし妥当かな? というか気合いあるなぁ、第四王子)


 第四王子アルヴィンは『アクアマインスフィア』を避けようとせず、盾を構えて破裂させながら走っている。

 セージとシルヴィアに向かってくるのはもう一人の勇者クリフォード・シトリンだ。


(こっちの勇者に信頼があるんだろうけど。一学年下だったから十四歳? それにしてはいい体格だよなぁ。俺もこれくらい欲しかった)


 クリフォードは十四歳にして、すでに百八十センチ近い身長であり、セージより頭一つ大きい。さすがに筋骨隆々とまではいえないが、しっかりと鍛えられていた。

 シトリン家は初代勇者を婿入りさせた公爵家であり、クリフォードはその直系である。その強さは騎士科最強と噂されている。


(さて、どう戦うか。ベンは勇者二人任せても大丈夫かな? さすがにキツい? まぁきっと何とかするでしょ)


 戦いを見ていたウンディーネは近くにあった『アクアマインスフィア』に近づいて、ちょんっと指でつついた。するとそこから連鎖的に『アクアマインスフィア』が弾けて消えていく。

 そして、ウンディーネはいたずらっぽく微笑むと水の渦に包まれて消えた。


「フロスト」


 セージは魔法を発動し、そのまま精霊召喚を行う。


「ノーム、サモン」


 そして、再び呪文を唱えながらクリフォードと戦闘を始めているシルヴィアの支援に向かった。

 そして、渦巻く砂塵と共に、気だるげな地の精霊ノームが現れる。


(ここからは接近戦か。自信はないけどやるしかない。シルヴィアでも勇者相手は荷が重いし、というかダメージがヤバイな)


 シルヴィアのHPを確認してその攻撃力の高さに驚く。シルヴィアは攻撃を受け流しているようにみえるが、ダメージはしっかり入っていた。

 そこにセージも加わり、突き刺すような攻撃を繰り出すが盾でいなされる。


(堅いな。さすが騎士科最強。やっぱり魔法主体でいくしかない)


 ダメージは通るが手応えは小さい。セージはシルヴィアの陰から攻撃を加えながら呪文を唱えきり、魔法を放つ。


「フロスト」


 そして、続けて精霊の特技を放つ。


「デザートフィールド」


 ノームは地面をトントンと叩くと指をパチンと鳴らした。その音と共に、地面から滲み出てくるかのように砂が現れ、ノームを中心に十数メートルが砂漠に一変する。

 セージとシルヴィアはその影響を受けないが、クリフォードは足をとられる。

 しかし、クリフォードはシルヴィアの攻撃を受けつつ堪えて、上級氷魔法『フロスト』を発動した。


(ここで発動してくるか。なかなかやるなぁ)


 『デザートフィールド』によって、氷と水魔法は弱まり火と地魔法が強まるが、『フロスト』の一瞬動きが止まる効果は消えない。

 その一瞬でクリフォードはしっかりと砂を踏みしめ、剣撃を繰り出す。

 シルヴィアはそれを受け流して反撃し、それに合わせてセージも攻撃を仕掛けた。


 クリフォードはその場から動かない。そのままシルヴィアの攻撃に盾を合わせつつ、セージの攻撃を無視して、横凪ぎの一閃を振るう。

 そこでセージが繰り出すのは会心の剣撃。攻撃が直撃し、クリフォードはわずかに眉を動かした。


(魔法使いの補正で攻撃力は高くないと思って油断した?)


 上級職の精霊士であれば攻撃力の補正は小さいが、セージは特級職の賢者である。攻撃力の補正は勇者と同等だ。

 思い切り振るった攻撃が直撃したとなれば、それなりのダメージにはなる。


(でも、この状況なら動かずに戦うって選択はありかも。未知の砂地で下手に動くよりはマシか)


 クリフォードは砂地になってから動いていなかった。その場で攻撃をいなし、剣を振るう。

 直撃を受けてからは防御重視になっていた。

 ただ、二人がかりで攻撃するためダメージは蓄積しているだろう。


(まっ、目的は行動を制限するだけじゃないから)


 セージはシルヴィアに合図を送り、クリフォードの攻撃を避けるタイミングで大きく後ろに飛んだ。

 そして、魔法を放つ体勢をつくる。


「インフェルノ」


「フレイム」


 セージとシルヴィアは魔法を発動して、巻き込まれないようにさらに後ろに飛ぶ。

 クリフォードは二つの火魔法による業火に包まれる。『デザートフィールド』によって強化された魔法だ。現在の魔法攻撃では最大威力を誇る。

 そして、魔法範囲から逃れようにも足場が悪い。


(これは効くだろ。あと何度か同じことをしたら倒れるんじゃないか?)


 ノームは業火が消える前に姿を消したが、再度『サモン』されて、少し嫌そうな顔をしながら現れる。

 その間にも炎から抜け出したクリフォードとの戦いは続いている。

 近接戦闘はシルヴィアが守るように前に出て、セージが支援する形だ。

 クリフォードはセージを攻撃するように見せかけつつ、セージを守ろうとするシルヴィアを狙っていた。


(シルヴィアがまずいな。クリフォードより先に倒れそう)


 セージはクリフォードの後ろに回り込んで攻撃を仕掛ける。

 すると、クリフォードはその攻撃をシルヴィアに突撃する形で避け、剣が閃く。


(完全にシルヴィア狙いだな。これは厳しい)


 シルヴィアはセージを『スケープゴート』によってかばっていたため、元々HPが削れている。すでに大きくHPを失っていた。


「フロスト」


 セージは魔法発動に続いて『デザートフィールド』を発動する。

 再び近接戦が始まり、セージは魔法のタイミングをはかる。


(さっきと同じ戦法だけど相手も同じだな。もう少し移動するのかと思ったけど。対策をとらないつもり?)


 さっきと同じ手にかからないよう『デザートフィールド』から抜け出そうとするかと考えていた。しかし、クリフォードはまたその場から動かずに戦っている。

 そして、クリフォードの攻撃と共に後ろへ跳んだシルヴィアとセージ。

 その瞬間にクリフォードはシルヴィアへ手を向けた。


「インフェルノ」


 クリフォードは特級火魔法『インフェルノ』を発動。

 シルヴィアとセージは着地と同時に『フレイム』と『インフェルノ』を発動した。


(まずい。シルヴィアがやられる)


 盾役がいないと魔法が使いにくい。クリフォードはシルヴィアを先に倒してセージに近接戦闘を仕掛けるつもりだった。


「ルサルカ、サモン」


 ノームが消えると共に召喚したのは氷の精霊ルサルカである。


(ベンもキツそうだけど、それよりライナスがヤバいな。ガチ装備トムを相手によく耐えているけど。早く支援に行かないといけないのにこっちもヤバい)


 シルヴィアが『インフェルノ』から抜け出した時には、剣を振りかぶっていた。

 クリフォードの動きを読んだ攻撃だ。


「メガスラッシュ」


「シールド」


 同じく『フレイム』から抜け出したクリフォードは攻撃を想定して盾を構えており、物理攻撃無効の特技『シールド』を発動していた。


(あれを防ぐか!)


 セージはシルヴィアの攻撃は完全に隙をついたと思っていた。クリフォードの対応に驚きながら、一歩遅れてセージが攻撃を繰り出す。

 それに合わせてシルヴィアも『ファストエッジ』を発動。

 クリフォードとシルヴィアの剣の応酬は激しさを増す。

 そして、セージに「下がれ!」と鋭い声を発した。


 その言葉に素直に従うセージ。

 シルヴィアは覚悟を決めていた。

 もうHPは0に近い。

 だが、HPが1であろうと攻撃はできる。

 ギリギリまでHPを見極めて最後まで相手を削るつもりでいた。

 クリフォードはシルヴィアに攻撃を仕掛ける。


「グランドスラッシュ」


「シールドバッシュ」


 シルヴィアは通常攻撃ですら耐えられないほどのHPしか残っていなかった。だからこそ、同時に攻撃判定が入る『シールドバッシュ』を発動したのである。


「フロスト」


 距離をとったセージは魔法を発動。シルヴィアが倒れる。


「フリージングゾーン」


 クリフォードは『フロスト』を受けながらも全力でセージに近づこうとする。

 ルサルカがフワリと手を動かしそっと掴む。その手を口元に添えて優しく息を吹きかけた。

 輝く息が大地に触れた瞬間、氷が急激に広がり周囲を凍らせていく。

 クリフォードは見たことのない特技に一瞬逡巡したももの足を止めなかった。


 氷に触れた瞬間クリフォードは凍り始める。

 攻撃するチャンスではあるが、セージは逃げた。


(とりあえず安全に魔法が使える距離で戦わないと)


 セージは呪文を唱えながら距離をとって戦闘するのであった。

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