第144話 『紅蓮』登場
場内アナウンスによって、第一学園三番手『紅蓮』の準備が整ったことがわかった。
「かなり時間がかかったな。何をやっていたんだ?」
ライナスはそう言いながら眉をひそめた。
二番手が退場してから三番手が出てくるまでに時間がかかり、闘技場内で待たされていたのである。
「セージがあんなことするからじゃない? 警戒してるのよ」
ため息をつくように言うシルヴィアにセージが反論する。
「あれは仕方ないって。全員でいったら無駄にダメージ受けるし」
「そうかもしれないけど、非常識な作戦であることは間違いないでしょ」
「それはまぁ……珍しい作戦かもしれないけどさ」
そうしているうちに『紅蓮』の一人目が登場してきた。
最初は第四王子アルヴィン・レイ・グレンガルムである。
「おおっ、早速王子が出てきた。ベン、頑張ってね」
今回の作戦ではベンが勇者と戦うことになっていた。勇者と一対一で戦えるのはベンとセージだが、セージは後衛としての動きの方が得意としているからだ。
「勇者の相手は厳しいんだけどなぁ。装備はどう? あれっ? セージ、ちゃんと見てくれてる?」
ベンは探検家にはなっていないため『ホークアイ』が使えず、姿はちゃんと見えていない。
遠くまではっきりと見ることができる特技『ホークアイ』が使えるのはセージだけだ。
ベンの問い掛けに「あっ」と声を漏らしてから答える。
「ちゃんと『ホークアイ』で見てるよ? うん、ずっと見てる」
「セージ、今発動して見たでしょ?」
「ソンナコトナイヨー」
「……まったくセージは」
呆れたように言うベンに、セージは気を取り直して情報を伝える。
「えっと、紅蓮剣・焔、ドラゴンの盾、黒曜の鎧、防呪の腕輪、サラマンダーグローブ、風神の靴ってところかな」
「全部わかるところがすごいよな」
「知らない装備があって、性能がわからないけど」
感嘆の声を上げつつも困惑するライナスとチャド。装備の半分は聞いたことがないものであった。
上位の装備は平民が持てるような物ではなく、見ることさえ稀なことだ。
「ざっくり言うとこっちより少し上の装備。どちらかと言うと近接戦闘向きかな。あとデバフ無効」
「それなら想定内ってところね」
シルヴィアがそう答えたところで出てきたのはカーラ・ミストリープだ。
「ミストリープ家なら後衛だね。詳しくは知らないけど優秀な魔法使いだと思うよ」
ベンは貴族家の名前からどんな者かある程度判断できた。元諜報部隊の家系だったからである。
流石に最新の情報には疎くなったが、未だに情報は集めている。
「装備は、魔剣士のつるぎ、ボックルの盾、防呪の腕輪、魔法の指輪、妖精の首飾り、神秘のローブ、旅人のブーツ、占い師のタイツ? これはたぶんだけど。なかなかバランスのいい装備だね。性能的にはこっちと同等程度、いや、魔法関係は上かな」
「やっぱりいい装備で来るなぁ」
しみじみと言うベンにセージは頷く。
「ほんとにね。これならこっちももっといい装備にすれば良かったよ」
「へぇー。もっといい装備も用意できたんだ」
そんなチャドの突っ込みに、セージは「あっ、次はトマだ。ここで出てくるかぁ」と誤魔化した。
三番目に現れたのは獣族のトマ・ルノアール。登場と共に会場が少しざわめく。
実は人族以外が出場することは初めてのことだった。
「まさか本当に獣族が出てくるとは。可能性は考えていたけど意外だな」
「接近戦で来ることはわかっているし、対応はできるだろうけどね」
チャドとライナスが話していると、セージが驚きの声でつぶやく。
「王者の爪に黒装束、精霊の腕輪ってマジか」
「どうしたの?」
「国宝級の装備で来てる。近接攻撃特化にはなるけど、耐魔法も優秀だし、王子より上位の装備だよ。これは結構きついなぁ」
獣族は魔法関連のステータスが非常に低く、剣が持てないなど制約が多い。
ゲームバランスとして、獣族専用装備は優遇されていた部分がある。
「獣族の相手はライナスとチャドだよね。気をつけて」
「あぁ、油断しない。どんな装備で来ようと全力で戦うだけだ」
「まぁそうだね。戦い方は変わらないよ」
気合いを込めて言うライナスとチャドに、シルヴィアが「頼もしいな」と笑う。
その時、アナウンスで流れたのは、パーシヴァル・クロフトに代わりエヴァンジェリン・レイ・グレンガルムが登場することであった。
「えっ? どういうこと?」
「ベン、どうしたの?」
驚くベンにセージが首をかしげる。セージ以外のメンバーも驚き、観客席にもどよめきが起こる。
そんな中をエヴァンジェリンは手を振りながら歩いていた。
「どうしたのって、エヴァンジェリン・レイ・グレンガルム様は勇者の一人だよ! 王族覚えてないの!」
王であれば別だが、セージが生活していたケルテットの町で他の王族の名前を聞くことなんてない。
聞いたとしてもセージは王族などにはあまり興味がなくて覚えていないのであるが。
「それはいいとして、出てくる勇者は王子一人だったはずだよね? どういうこと?」
「セージが目立つから王子が連れてきたんじゃない?」
冷静に返すシルヴィアにベンが叫ぶ。
「勇者二人目って厳しすぎでしょ!」
「ベンも上級職でしょ?」
「それはそうだけど……」
「ベン、自信を持ちなさいよ。勇者と同等には強いでしょ」
「いやいや、勇者との接近戦は厳しいんだけどーーえっ!?」
さらに、ユリシーズ・クロフトに代わり、クリフォード・シトリンが登場する。
「今度は何? 装備は王子たちと比べたら普通というか、僕らと同じ程度だけど。急に代わったからかな?」
「そうじゃなくて、クリフォード・シトリン様も勇者なんだよ。どうなってるの?」
「あれも勇者なんだ。勇者が三人って、結構厳しいな」
「厳しいっていうかパーティーに勇者三人っておかしいでしょ! やっぱりセージを止めるべきだったかなぁ。もう少し加減していればこんなことにはならなかったのに」
肩を落とすベンにシルヴィアがポンと背を叩く。
「今さらじゃない。それに、これくらいの方が楽しめそうでしょ」
「楽しめないでしょ! 勇者が一人いるだけでも全く強さが違うのに三人だよ!?」
「そう? ベンも相手が勇者一人なら余裕、二人でもまだ大丈夫、とか思っていたんじゃないの?」
「それは……まぁ」
「そういうことよ。勇者が三人いても勝てない相手ではないわ。それに、やることは変わらない。ただ、全力を尽くすだけ。さて、作戦を変えましょうか」
その力強い言葉に気持ちを切り替えた。そして、ライナスが問いかける。
「誰が誰につく?」
「チャドとライナスは予定通り獣族に走って。たぶん後衛が一人つくと思う。王女はおそらく前には出てこないから、ベンが接近戦で倒して。魔法は強力だから使わせないように。セージ狙いで勇者が来たら私が盾になる。ただ、悔しいことに私じゃ止めきれないから、ベン、急いでね。あと、支援して欲しいんだけど、セージ、精霊呼んでくれる?」
「いいよ。今回は精霊士として戦うつもり。上級職ってことはバレてるだろうから今さら隠してもね。何より、ここまできて負けるのは嫌だし」
セージはなるべく力を明かさないようにしていたが、今回は精霊士を解禁する予定だった。
負けるのは嫌という言葉に頷きつつライナスが言う。
「最初の魔法はヘイルブリザードだよな? 次の手はどうする?」
「こうなると相手の動きが読めないんだけど、動かなければシルフ、僕の近くに多く来そうならルサルカ、ベンを止めようとしてきたらウンディーネかな。あとは……」
こうして最初の動きなどの大まかな作戦を立てる。あまり時間をかけると笛の音で注意されるため急ぎだ。
「そのあとは訓練通りの動きで。いい?」
全員がこくりと頷く。
「それじゃ、あとは相手を倒すだけね。いくよ!」
「「「「おう!」」」」
そして、セージが中央、右にシルヴィアとベン、左にライナスとチャドが配置し、試合開始の銅鑼が鳴り響くのであった。
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