第140話 ラッセルvsクレイブ
試合前の作戦会議が終わり、ラッセルとゴードンは右側に配置するため移動する。
『ハゴミアラ』の作戦としては、アレンが勇者を引き留めつつ耐え、その間にハドリーとミックが相手を倒す。
そして、三人がかりで勇者を倒すのである。
ハドリーとミックのペアは攻撃的だ。
ハドリーの力は第三学園トップ。ミックはサポートや魔法もできる万能タイプだが、元々のパーティーではメインアタッカーとして活動している。
二人とも体格は優れているので、第一学園相手でも有利に戦え、相手を早く倒せると考えられた。
その中でラッセルの役割とは、次に備えてダメージを最小限に抑えて勝つことで、ゴードンはラッセルのサポートだ。
勇者がいるため厳しい戦いになり、全員が生き残ることはないだろうと想定された。
そこで、ラッセルは耐久重視で戦い、次の戦いで一撃でも魔法を発動するためのHPを残そうという計画である。
(よし! やってやるぜ!)
ラッセルは試合開始位置に立って気合いをいれ、盾と剣を構える。
試合開始の銅鑼の音が鳴り響くと、一直線にクレイブへと向かった。
それと共にゴードンも走り出す。
ラッセルたちは、第一学園パーティー『夜明け』による魔法の嵐を駆け抜けて接近していた。
クレイブと後衛の魔法使いは、予想通り連携を取る体勢になっている。
ラッセルは打ち合わせ通り初撃を放つ。それに対してクレイブは防御の体勢を取ると共に攻撃。
お互いに攻撃を受け流し、そのまま後衛に攻撃しようと踏み出した。そして、入れ替わるようにゴードンがクレイブに攻撃を仕掛ける。
第二学園の試合からそうくると読んでいたクレイブは焦らずに攻撃を受けて反撃する。
(かかったな! 食らえっ!)
ラッセルはクレイブの背後から手を向けていた。
「ウィンドバースト」
魔法が直撃し数メートル吹き飛んでいく。
その直後、後衛から繰り出された剣撃を何とか盾で防御しつつクレイブを追った。
そして、それと切り替わるようにゴードンが後衛に攻撃を仕掛ける。
(任せたぞ!)
ラッセルはゴードンを信頼して、クレイブに斬りかかった。
しかし、すでに体勢を立て直して盾を構えており、攻撃は防がれる。そして、斬り上げるような反撃が襲いかかった。
ラッセルは盾を押し退けるようにして、後ろに回り込もうとする。
そこでクレイブから放たれる強力な一閃。
ラッセルはそれに盾を合わせて、クレイブの剣の上を飛び越えるように一回転する。その勢いのまま剣撃を打ち込んだ。
それに対して、クレイブはすぐに反応し、素早く反転すると盾を構えて斬撃を繰り出す。
お互いに剣と盾を合わせる形になった。
(まだまだぁ!)
押し合うようにして離れたと見せかけて、着地と共に一足飛びで近づきながら突き刺すような一撃を放つ。
それは盾で受け流され、反撃の一閃が襲いかかった。
ラッセルは慌てずに回転して盾で受け止め、遠心力の乗った会心の剣撃を叩き込む。
しかし、それは盾に阻まれ、さらなる反撃が襲いかかる。
(くそっ! なかなか崩せない!)
ラッセルは隙を与えない猛攻を仕掛けてクレイブの体勢を崩し、魔法を放ってさらに攻める、という計画は思い通りにいかなかった。
クレイブは第一学園のメンバーに選ばれる実力がある。最初こそ油断したものの、相対した状態で容易く崩れるほど弱くはない。
(俺はどうすべきなんだ?)
ラッセルは視界に映る仲間のHPを見て自分の戦いを考える。
アレンのHPの減少が想定よりかなり早かった。しかし、弱いわけではないことはずっと訓練を共にしてきたのでわかっている。
(想像以上に勇者が強い。このままではまずいぞ)
勇者ブルースはアレンが倒れると、他のメンバーのサポートに行くだろう。
そうなれば第三学園は瓦解する。それは明らかだ。
(時間がない。でも焦るな。焦れば終わりだ)
ガリガリと削られるアレンのHPがタイムリミットのように感じられる。
はやる気持ちを抑え、焦るなと自分に言い聞かせながら戦う。
しかし、打開策は思いつかない。そして、クレイブの隙は小さく、対応も早い。
攻めあぐねている間にアレンのHPが急激に減少する。
(なにっ!? 特級魔法か!)
視界の端には特級火魔法『インフェルノ』による業炎が立ち上がっているのが見えている。
それはもう時間が無いことを示していた。
ラッセルは覚悟を決めて斬りかかった。それは盾で防がれ、返される鋭い反撃。
そこで、守りを捨てて攻めに転じる。
時間をかけると援護が来て、なす術もなく倒れると思ったからだ。
ダメージを受けようと相手を倒すことのみを考えるべきだと判断した。
「ウィンドバースト」
ラッセルは反撃を無視して魔法を放っていた。
クレイブはまさかそのタイミングで魔法が来るとは思わず、焦りながら盾で防御する。
(冷静に、攻める!)
辛くも『ウィンドバースト』を盾で受け止めたクレイブに対して、「メガスラッシュ!」と言いながら一足飛びで近づく。
それに対してクレイブは魔法を発動しようと手を向ける。その瞬間、剣を振るわず、飛び越えるように跳躍した。
クレイブは魔法を避けようとすると予想していたため、魔法を唱えながらラッセルの動きを追っている。
(読まれたか!?)
「ウィンドバースト」
しかし、クレイブが想定していたのは左右に避けることだった。
まさか上に跳ぶとは思っておらず、無理に手を向けて大きく姿勢が崩れると魔法が発動しないため追いきれなかった。
発動した『ウィンドバースト』はラッセルの足に当たる。
その衝撃で体が空中で一回転。ラッセルは何とか地面に手を付きつつ着地すると、そのまま掬い上げるように剣を振るう。
「メガスラッシュ!」
振り向きながら盾を合わせようとしてきたが、剣は盾を掠めるように通り抜けて直撃。
(よし! 入った!)
クレイブはその衝撃を堪えて、薙ぎ払うように剣を叩きつけようとする。
このタイミングなら、普通は一旦引くだろうという力のこもった一撃。
しかし、今のラッセルに距離を取るという選択肢はない。
(攻めきる!)
盾を構えて、剣と反対に回り込むように移動しながら剣を振るう。
すでに勇者の援護が入り、三対二の劣勢になったハドリーとミックのHPはぐんぐんと減り始めていた。
まだ耐えているがそう長くは持たないだろう。
ハドリーとミックが倒れた瞬間、勇者たちの援護がラッセルたちに来て終わる。その前に戦いを終えなければならない。
ダメージを抑えて勝つなど悠長なことは言ってられなかった。
クレイブの反撃に合いながらもラッセルは攻撃の手を緩めない。
(まだ倒れないのかっ!)
猛攻を仕掛けるが、攻撃は受け流されて手堅い反撃が繰り出される。
クレイブは直撃を入れてから防御重視になっており、そう簡単には崩せなくなっていた。
もうハドリーとミックのHPは残り少ない。タイムリミットが近づいている。
その時、クレイブの後ろからゴードンが近づいてくる姿が見えた。
(よし! 倒したのか!)
ゴードンが後衛を倒して援護に来たのだ。最後に魔法を受けてHPは残り少ないが、これで二対一である。
ゴードンは背後から攻撃を仕掛け、クレイブはそれに気づいて二人から離れるように横跳びで避けた。
ラッセルはそれを追って斬りかかり、ゴードンもそれに続く。
(時間がないっ!)
ハドリー、そしてミックが立て続けにHP0となる。相手は残り四人。勝ち目はない。
それでも、最後まで戦う意志は変わらなかった。
次に繋げることを考えて、少しでもHPを減らすためだ。
ゴードンとラッセルの連続攻撃。
しかし、クレイブは攻撃することを止め、後ろに下がりながら受け流し、避けていく。
(もう来たか!)
ハドリーたちと戦っていた三人はラッセルたちに近づいてきている。その中でも勇者が速い。
間もなく上級氷魔法『フロスト』が放たれる範囲に入るだろう。クレイブは耐え切ろうとしていた。
ラッセルはおもむろに手をかざす。それを見たクレイブは『ウィンドバースト』対策にゴードンを壁にするような位置取りをしつつ、『フロスト』対策で距離をとろうとした。
しかし、唱えたのはそのどちらでもない。
「フレイム」
ラッセルが放ったのは上級火魔法『フレイム』。『フレイム』は『フロスト』より発動可能距離が長く、『ウィンドバースト』より効果範囲が広い。
ただ、近接戦をしている距離で放てば、当然自分たちも巻き込まれる。
本当は物理攻撃で倒し、少しでもHPを減らすため最後に勇者たちに向けて発動しようと『フレイム』を用意していたのだ。
しかし、勇者がすでに近づいており、ラッセルには魔法を放たれて耐えられるほどのHPは残っていない。
呪文を唱え直す時間もなく、勇者にダメージを与えるより一人減らす方が効果的だと考え、巻き込まれることを承知で放ったのだ。
ゴードンは炎の中でクレイブに『メガスラッシュ』発動。
ラッセルも炎に包まれながら攻撃しようと一歩踏み出す。
しかし、そこでHPが0となり膝をついた。
(くっそぉ……!)
ラッセルが倒れ、ゴードンとクレイブも炎が消え去ると共に倒れる。
ラッセルの魔法による自爆で決着がつき、勇者たち三人が残った第一学園『夜明け』が勝利となるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます