第139話 アレンvsブルース
(よし、行くぜ!)
第三学園『ハゴミアラ』は試合開始の銅鑼の音と共に走り出す。
アレンは一直線にブルースに向かった。
第一学園パーティー『夜明け』は想定通り魔法を発動する。
特級氷魔法『ヘイルブリザード』と上級風魔法『ウィンドブラスト』である。
(後衛二人とブルースが特級魔法か。セージよりは弱いけど、第二より強力だ)
氷のつぶてと共に吹き荒れる暴風の中、アレンたちは走り抜ける。
そして、アレンはブルースに対して手を向けた。
「フロスト」
「グランドスラッシュ」
(速い!)
魔法を発動する前に接近して特技を放つブルース。わずかに『フロスト』の発動が早く、ブルースに氷魔法が当たり一瞬氷柱に包まれて動きが止まる。
その隙にアレンは盾を構えつつ剣を一閃。
(くっ、重い!)
先にとどいたブルースの剣を盾で防御し、衝撃に耐える。そして、アレンの剣もブルースの盾に阻まれる。
(これは……まずいぞ)
続く攻撃を受け流し、剣を振るいながらアレンは焦りを覚えた。
ブルースによる攻撃はハドリーを相手にしたときよりダメージが大きい。その上、ベンほどではないが速さもある。
魔法のダメージはセージと比べれば低いが、アレンよりは高い。
全てのステータスで相手が上だと考えられた。
(それでもやるしかない!)
アレンは呪文を唱えながらブルースに攻撃を繰り出す。ブルースも応戦していたが、特技は使わなかった。
(特技を出さないってことは魔法を使うつもりか。何がくる? 特級魔法は……ないか。周りを巻き込むからな。フロストの可能性が高いけど、ウィンドバーストにも気をつけないと)
アレンが刺突を繰り出すとブルースは後ろに跳躍して避けつつ、魔法発動の体勢をとった。アレンは追わずに手をかざす。
「「フロスト」」
アレンはブルースに放ち、ブルースはハドリーとミックに向けて放っていた。
(なっ! こいつ!)
ハドリーとミックは第一学園を相手に優位な戦いを繰り広げていたが、急な援護魔法を受けて崩される。
アレンはブルースに一足飛びで近づきながら『メガスラッシュ』を発動。
ブルースはそれを受け止めて反撃の剣撃を放つ。
通常の攻撃ではあるが、ブルースの攻撃力であれば、アレンの『メガスラッシュ』と同等の威力がある。無視するわけにはいかない攻撃だった。
(このままではどうしようもない……!)
アレンの通常攻撃ではダメージは小さいが、特技を使っていては魔法が使えない。ただ、魔法も効果的とまでは言えない。
しかし、剣技で圧倒できるかと言えば、それも無理であった。ガーランド家は魔法に強いが、騎士科のブルースは近接戦闘も得意としている。
ブルースが戦いながら周りを見て援護できる余裕があるのは明白だ。
(くそっ! 俺は……この程度なのか!)
勇者のレベル上限は70で職業のステータス補正も大きい。レベル50の中級職とはステータスが大きく異なる。
それでもアレンは戦えると思っていた。
元公爵令嬢の母から学んだ魔法の力と学園で磨いてきた剣の技術。体格も勝っており、第一学園の学園生と比べて同等以上の力がついていると感じていたからだ。
それは、間違った考えではない。実際に他の第一学園生と比べれば勝てるほどである。
しかし、今回の相手は勇者だ。レベル70と50というレベル20の差、勇者と聖騎士のステータス補正の差。これらは、技術や体格などで埋められる差ではない。
(それでも、俺が引き付けなければ……負ける)
この時、アレンは得意としている魔法を使うことをやめ、近接攻撃で攻める戦法に切り替える。
ブルースが他の者を援護する隙をあたえないためには、特技で押し切るしかないと考えたのである。
「メガスラッシュ」
気合を入れて繰り出す一撃は盾に阻まれ、反撃の剣が襲いかかる。アレンはそれを受け流しながら『ファーストエッジ』を放つ。
大きなダメージを与えられている手応えはないが、確実にHPを削っていることは確信できる。
(呪文を唱え終わったか?)
アレンは特技を使って攻めながら、ブルースの口元を見て呪文の発動を予見する。
そして、攻撃を一歩下がりながら受け流し、深く相手に飛び込みながら『ハウリング』とつぶやき、剣を振るった。
ブルースは大きく後ろに飛びながら魔法を放つ体勢をとる。
(ここだ!)
「フロスト」
「こっちに来い!」
ブルースの意識がアレンに向く。ブルースはまさか『ハウリング』が使われると思っていなかった。
魔法を使う瞬間は無防備になるため、攻撃のタイミングだ。特技『ハウリング』は事前に唱える必要があるため呪文も特技も使えなくなり、発動しても相手の注意を一瞬引くだけである。
マイナスが大きいことはアレンもわかっていたが、パーティーとしてはプラスになると考えていた。
ブルースの魔法『フロスト』はアレンに対して発動される。
その瞬間にアレンは横飛びし盾を構えた。
魔法の効果により一瞬動きが止まるが、ブルースの攻撃は盾で受けることができる。
(よし! 何とか抑えた。次は効かないだろうが)
ブルースは再び呪文を唱え始めているようで、次も魔法が来ることはわかった。
人などを相手に『ハウリング』を使う場合、それを読まれていると効きにくいため、今度は異なる方法で止めなければならない。
(何とかして注意を……いや、次は発動自体を止める!)
攻撃の応酬をした後、呪文を唱え終わったブルースにアレンは特技を叫ぶ。
「メガスラッシュ!」
それに合わせてブルースは後ろに飛びながら魔法を発動しようと構えた。
そこに飛び込むように踏み込んだアレンは『ファストエッジ』を発動。アレンは『メガスラッシュ』を発動したように見せかけて、発動するような動きをしていなかったのである。
しかし、ブルースはさらに後ろに飛んでいた。
(なにっ!)
ブルースはアレンが魔法の発動を阻害しようとしてくると想定していたのだ。
アレンの発動した『ファストエッジ』はブルースに届かず空を切る。
(くそっ!)
「インフェルノ」
ブルースはアレンに特級火魔法『インフェルノ』を発動。ブルースはこれでアレンが倒れるだろうと考えたからだ。
発動する瞬間、アレンは武器を捨ててブルースに飛びかかる。
アレンが近くにいるとブルース本人も『インフェルノ』に巻き込まれるため、後ろに飛ぼうとしたが、その前にアレンがブルースを掴んだ。
「
アレンは業炎に包まれながら武闘士の特技『巴投げ』を発動する。
実は、アレンは武闘士をマスターしていた。元々聖騎士と魔導士だけをマスターしていたのだが、二級生でセージとラッセルの戦いを見て、暗殺者をマスターすることでさらに強くなると考えたのである。
暗殺者の特技だけでなく、暗殺者になるための武闘士や盗賊の特技も有用だからだ。
暗殺者のマスターは間に合わなかったが、武闘士だけはマスターできていた。
武闘士の特技『巴投げ』は柔道の巴投げと同じ動作をする特技であり、発動が早く、相手を掴む唯一の特技だ。ただ、使う機会が少ないマイナーな特技でもある。
後ろに倒れ込みながら相手を蹴り上げるので、発動後は地面に倒れた姿勢になる。その上、武器を持っていては発動できないので、発動後の状態は非常に悪い。
しかもステータスによっては相手の体勢を崩すこともできず、ダメージも通常攻撃と変わらないとなれば使い時が無いと言っても過言ではない。
アレンがあえてここで『巴投げ』を使ったのは、もうHPがほとんどなかったからだ。
急いで『インフェルノ』から逃げても間に合うかどうかはギリギリ。耐えてもブルースの一撃を防御すらできない状態になることは目に見えている。
それならばブルースを魔法に巻き込むことが最善と思えたのだ。
(間に合え!)
削られていくHPを見ながら焦る心を抑え、ブルースを掴んだまま倒れ込み、蹴り上げた。
それに対して、ブルースは空中で体をひねり、体勢を崩しながらも叩きつけられること無く着地する。
(このっ……!)
アレンはブルースを逃がさないように引っ張ろうとしたが、その意識とは逆に手は力無くブルースを離していた。
起き上がろうとする体は痺れて動かない。
すでにHPが0になっていたのである。
ブルースはそのまま逃げるように飛び退く。
そして、巻き起こる業炎が消え去り残ったのは、仰向けに倒れたアレンの姿だった。
(くっそぉ! 俺が相手するって言ったのに、情けないっ……!)
いくら力を入れようとも動かない体。周りはまだ戦いの中盤。
アレンの力ではブルースのHPを大きく削れなかった。最後はブルースの魔法に巻き込んだが、それでも半分は残っているだろう。
そんな中で一人倒れている。
ブルースが援護に加われば今の体制も崩れ、第三学園は一気に不利になるだろう。
ブルースを抑えきれなかった自分が、相手にならない程の実力差が情けなくて仕方がなかった。
そして、母親から様々なものを奪ったガーランド家に負けるということが何より悔しくて、今更になって自分がブルースを倒すために戦いたかったのだと気づいた。
勇者の血がなんだ、そんなものが無くとも強くなるのだと証明したかった。
ただ、勇者と聖騎士の差、そしてレベルの差は、体格や剣技の差など軽く超えられるほどに大きなものだった。
(強く、もっと強くなりたい……!)
アレンの気持ちとは対照的な青い空。そして、遥か上空に浮かぶ雲を見つめながら、アレンは心の中で慟哭するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます