第138話 天邪鬼なハドリーと素直なアレン

 第一学園対第三学園の一番手の戦いが引き分けに終わり、第三学園の二番手『ハゴミアラ』が登場していた。

 そして、第一学園が一人ずつ紹介されながら入ってくる。学園生もそれに答えるように手を振りながら入場していた。


「ちっ、気に食わねぇ野郎どもだ」


「いちいち気にするなよ」


「はっ! ズタボロにされるとも知らねぇで、おめでたいやつらだぜ」


 たしなめるミックにハドリーが毒づく。第一学園相手でも特に普段と違いはなかった。


「まったく。ラッセルどうだ? 知ってる奴はいるか」


「クレイブくらいだな。他は会ったことも……!」


 ラッセルが驚く先に見ているのは第一学園で最後に出てきた者。

 勇者ブルース・ガーランドが登場したところであった。


「あ? どうした?」


「おい、ハドリー。聞いてなかったのか? 勇者が出てきたぜ」


「二番手に勇者? どうなってんだよ」


 第一学園一級生には二人の勇者がいるのだが、二番手パーティー『夜明け』にガーランド公爵家の勇者を投入していた。

 この采配は二番手で相手の三番手まで大ダメージを与え、三番手の王子パーティーが圧勝して終わるための布石ともいえる。

 それに、第四王子アルヴィンは王子なので前衛中央に組み込まれているが、同じ勇者で騎士科のブルースと並ぶと前衛としての能力は劣ってしまう。

 そのあたりのことも考慮された采配であった。


「そう来たか。これは厳しいな。さっきと隊列を変えよう。しかし、誰が勇者に対応するか」


 一般的に一番手から三番手にかけて強くなっていく。そのため、勇者は二人とも最後の三番手にまとまって出てくるものだと考えていたのである。

 ミックたちとしては第一学園の二番手を倒して、三番手に少しでもダメージを与えつつ戦いの情報を得て、次に繋げることを考えていたのである。


「ここは俺に行かせて欲しい」


 パーティーメンバーのアレンは、ここにきて初めてとも言える自己主張をしていた。

 その言葉にハドリーはじろりとアレンを見る。


「勇者相手に一人で行く気か?」


「倒せるとは思ってないけど、誰かが抑えなきゃいけないだろ?」


「まっ、抑えるんならいいぜ。できるんだったらな」


「ハドリー、言い方が悪い」


 咎めるミックに、ハドリーは肩をすくめる。


「はいはい。いいんじゃねぇか? どうせ勇者に一人はつかなきゃなんねぇ。アレンならちょうどいいだろ」


 アレンはパーティー内で魔法に関してトップのステータスがあり、VITもハドリー、ゴードンに次いで高い。剣技は最下位だが、耐久力だけでいえば優秀であった。

 言い直したハドリーにミックは呆れた声を出す。


「最初からそう言いなよ」


「いちいちうるせぇ」


 不機嫌そうにハドリーが睨むが、ミックは全く気にしていない。

 パーティー『ハゴミアラ』の中では、これくらいの言い合いは日常茶飯事である。


「とりあえず、アレンが勇者、ハドリーとゴードンは前衛、俺とラッセルが後衛に走る。ただ、向こうは前衛後衛で連携をとってくるだろう。ラッセルは風魔法で出来る限り引き離してくれ。ゴードンはラッセルについて魔法を放つ際に支援を。ハドリーは俺の支援を頼むぞ」


「言われなくてもわかってんだよ」


「おそらく初撃は特級氷魔法でくるだろう。効果範囲から外れるまで離れるわけにはいかない。一直線に並び最短距離で詰める」


「遅れんじゃねぇぞ、ラッセル」


 こうして、ハドリーが口を挟むのを聞き流しながらミックが行動を決めていき、開始位置に並ぶ。

 ミックとハドリーが左側、ラッセルとゴードンが右側、そして、アレンが中央に配置した。


 アレンは勇者ブルース・ガーランドと戦えることに気合いが入っていた。

 実はアレンが学園対抗試合に出たかったのは、ブルースと戦いたかったからである。最後に登場すると思っていたため、二番手の試合を勝ち、少しでも剣を交えようと思っていたところでブルースが登場し、思わず立候補したのだ。

 ただ、アレン自身は特に因縁があるわけではない。因縁があるのはアレンの母、クラリッサ。クラリッサは元ガーランド家の令嬢だったのである。


 ガーランド家長女であったクラリッサは、初代勇者の子供と政略結婚し、勇者の血を取り込むという使命があった。

 学園在学中に初代勇者の三男と婚約が決まったのだが、その男が結婚目前にしてクラリッサの妹と結婚すると言い出したのである。

 クラリッサの妹は当時十五歳。婚約者がいてもおかしくはない歳であったが、不思議なことに全くそんな話はなかった。


 ガーランド家はどうしても勇者の血筋が欲しかったため、その話をすんなりと通し、妹との婚約に切り替えた。そして、押し出されるようにして、クラリッサが余ることになったのだ。

 ただ、そんなことをすると醜聞になってしまう。婿入りする勇者の子供を悪く言うわけにはいかないため、表向きはクラリッサに問題があったことにされた。


 公爵家とはいえ十八歳で婚約者に捨てられ、さらに悪者にされて良い嫁ぎ先があるはずもなく、妹の婿が公爵家を継ぐことは決定しているため婿をとることもできない。

 クラリッサは家を出て平民として生きることを決意する。それは婚約者が妹に代わってからわずか三日後のことであった。


 その数ヵ月後、王都の劇場で、貴族の子息が悪役の令嬢と婚約破棄し、庶民の娘との愛を選ぶ、という演劇を開演。徐々に話題を集めて、王都で流行したが、貴族に目をつけられて一年経たずに閉演。その演目は禁止となる。

 ただ、これは注目を受けることが目的だった。

 さらに間を開けずに新たな演劇を始める。それは、婚約者を妹に取られて絶望している時にひょんなことから再会した従者と共に様々な困難を乗り越えて結ばれ、元婚約者たちは破滅する、という演劇だった。

 そして、開演からわずか数ヵ月後、王都から逃げるようにして各地を転々とし、王国の東端、ミストリープ領に拠点を移した。

 現在は演劇で得た金を元手に服飾関係の店を運営し、ミストリープ領周辺では名の知れた商会となっている。


 アレンはクラリッサの長男であったが、あまり商業に興味を持てなかった。ドレスや流行の服を多く扱う商会だったことも大きい。商会のことは妹に任せてアレンは強くなることを目指した。

 これは元従者でクラリッサの護衛をしている父親の影響があったからだろう。父親は従者から護衛に変わるため、強さが必要になる。日頃から訓練を欠かさなかった。

 アレンは商会を継がないと決めてから、戦闘訓練の時間を増やし、護衛としての道を考え始めた。


 王都第三学園に入学したのは、より強くなるためであり、そして、自分のルーツを知るためでもある。

 平民が直接貴族を見ることは少ない。ただ、王都の学園に入れば少しは関わるだろうと考えた。実際は全く関わりがなかったが、学園対抗試合に出られたら見ることはできる。

 さらに、勇者ブルース・ガーランドがいるとわかってからは、ブルースが一級生になる年の試合に出られるよう必死に訓練に励んだ。


 アレンは自分でもなぜここまでブルースと戦おうとしているのかはわからなかった。

 家に不満があるわけでもなく、貴族になりたいとも思わない。恨みもなければ、どんな顔をしているかもまだわからない。

 他人のような従兄弟というだけである。

 それでも、戦ってみたいという気持ちは強かった。


 アレンは呪文を唱え終えて前を向く。

 第三学園『ハゴミアラ』は試合開始の銅鑼の音と共に一斉に走り出し、アレンは一直線にブルースに向かった。

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