第137話 テッドvsセドリック
第三学園は試合開始と共に一斉に走り出した。
それに対して、第一学園パーティー『聖氷』は特級氷魔法『ヘイルブリザード』を発動し、テッドにとっては見慣れてきた氷の嵐が巻き起こる。
(発動したのはリーダーと後衛の二人か。って三人が特級魔法!? はぁーさすがだなぁ。二人は発動してないけど、フロストを放つつもり? 絶対そうだ。動きを止めて攻撃って戦法でしょ。初っぱなに放たないならそれしかないし。フロスト受け確定だなぁ)
テッドは、発動するときに手が淡く光るところを見逃さなかった。
リーダーと後衛の二人が発動しているため、テッドの相手である聖騎士は魔法を使っていない。そのため近づいた時に一発受けるだろうと考える。
第一学園の『ヘイルブリザード』は第二学園の魔法と比べて強力だ。
しかし、テッドたちは怯むことなく駆け抜ける。
ダメージは小さくないが、何も受けてないかのように走れるのは訓練の賜物であった。
(強いけど、威力はセージの半分くらいか。って、半分とかやばすぎ。やっぱりセージはおかしいな。ステータスどうなってんの? 魔法攻撃力を上げる装備なんてセージは持ってないのに)
一般的に魔法使いは杖を装備する。杖には魔法に関する能力を上げる効果があったりするからだ。セージは杖を装備してもステータス的にメリットが小さいため装備していない。
『ヘイルブリザード』を抜けて相手に接近すると、想定通り残りの二人が上級氷魔法『フロスト』を発動する。
デイビットとジェイラスは『フレイム』を発動していた。
(はいはいはい。やっぱりそうくるよねー。わかってた。よくある戦法だし)
フワリと冷気と氷の結晶が漂った瞬間に横に跳躍した。
そして、氷に包まれて一瞬動きが止まる。その隙に相手が攻撃を仕掛けてきていた。
しかし、テッドはその動きを予想しており、難なく盾で対応する。
跳躍したのは避けるためではなく、相手の攻撃の方向を読みやすくするためだった。
(このダメージ量なら何とかなりそう。聖騎士の剣ならこんなもの? 探検家でVITが増してるってこともあるけど)
相手は『聖氷』三人目、聖騎士シリーズを装備した者、セドリックである。
ちなみにセドリックは第五騎士団副団長の息子である。攻めるより守るタイプの戦い方をするタイプだ。
(強さもラッセルと同じくらい? 動きも似てるし。ラッセルは元貴族だから似てるのか? 隙はないんだけど持久戦ならしやすいな。ラッセルと訓練しといて良かったー。といっても、ラッセルは攻める方が得意だけど)
テッドは剣を受け反撃しながら思う。テッドの役割としては前衛の動きを止めることにある。
他のメンバーが相手を倒して、援軍として来るまで引き付けつつ耐えるのだ。
セドリックは防御重視のテッドを倒そうと『ファストエッジ』などを織り交ぜ、素早い攻撃で攻め始める。
(さすが第一。状況を見て切り替えてくるかー。まっ、ベンより遅い攻撃だけど。って、ベンより速いやつなんていないか。というかベンは速すぎ。あいつ強くなったよなー)
テッドは無駄なことを考えながらも、戦闘には集中している。
セドリックとは互角以上に戦えていたが、探検家は防御重視で攻撃力のステータス補正は聖騎士より下だ。さらに、攻撃系の特技は覚えない。
探検家になるためには旅人と狩人になる必要があるが、旅人はバフのみ、狩人は弓が必要な特技がほとんどで、攻めることは難しい職業である。
聖騎士はマスターしているため、聖騎士の特技を使った攻撃が主体だが、お互いに攻めあぐねていた。
テッドとセドリックが一対一で戦っている間に、どんどん戦況は変化していく。
『聖氷』は『フレイム』を受けた時に前衛が後衛まで下がり、セドリック以外は二人組になっていた。
後衛は前衛を支援する形で近接攻撃を行い、魔法を放つ時は前衛が後衛を守る。
その連携の完成度は高い。
後衛が『フロスト』を唱え、その発動と共に前衛が『ウィンドバースト』を発動する。
一人を吹き飛ばして、一人を二人がかりで攻撃する戦法だ。
(あの連携魔法はキツイ。対策がとれるかなぁ。でも自分がここから離れるわけにもいかないし、相手はすぐには倒せるとは思えないし。戦況はちょっとまずいけど、ギリギリ勝てるか。微妙なところだな。おっと、危ない。今の攻撃は上手かったな)
セドリックは空振りしたと見せかけて、切り上げに繋げていた。もしテッドが攻撃を仕掛けていれば直撃していただろう。
(こういうことをしてくるから厄介なんだよな。でも時間かけるのもまずそう。攻めは苦手なんだけどなぁ)
テッドは考え事をしながらもセドリックとの攻防は続いていた。
セドリックの突き刺すような剣を受け流してテッドは特技を発動する。
「メガスラッシュ!」
テッドの攻撃に盾を合わせながらセドリックも剣を振るう。
お互いに防御した後、テッドは盾で剣を押し込むようにして体当たりを繰り出した。
(おっ、ちょっとバランス崩した? ふりじゃないよね?)
「ファストエッジ!」
セドリックはそれを盾で弾きながら後ろに跳ぶ。
テッドは追い打ちをかけようと踏み出そうとした瞬間、セドリックの橫に向けて跳んだ。
「ウィンドバースト」
セドリックの魔法がテッドの足をかすめる。
(やっぱり! 厄介なやつ!)
テッドは跳びながら、魔法を放った直後のセドリックに一閃。
セドリックはそれを剣で受け止めて直撃を避ける。
体をひねって着地したものの、急に跳んだことで体勢が崩れたテッドは連撃に繋げず、一拍おいてから踏み出す。
セドリックもテッドに向いており、仕切り直しといった状態だ。
(攻めきれないか。けど、デイビットたちは反撃してるみたいだし。無理に攻めず持久戦狙いの方がいいかな? うーん、難しい)
デイビットとスタンリーのペアは反撃に転じていた。スタンリーが猛攻を仕掛けて、その隙にデイビットが前衛に『ウィンドバースト』を発動。
直撃を受けた前衛は数メートル吹き飛ばされ、その間に後衛を二人がかりで攻撃していた。
相手の『フロスト』&『ウィンドバースト』のコンボを無力化するのは難しいため、似た戦法をやり返すという方向にしたのである。
しかし、相手の対応も早い。すぐにスタンリーに向けて用意していた『ウィンドバースト』を放って牽制すると、急いで後衛と合流する。
(全員HPがなくなってきた。第一学園には勇者が出てくるはずだし、次のパーティーのHPを少しでも削りたいところなんだけど)
今年の第一学園には二人の勇者がいる。一番手にはいないため、ここで少しでも優勢にもっていきたいと考えていたのである。
(あー、スタンリーが倒れたか。ダスティンもヤバいな。相手も一人倒れた。ほんとギリギリだな)
テッドは視界に表示されている皆のステータスを見ながらも相手のことを観察する。
(こっちの相手も焦ってきてる様子だし、たぶんHPが減っているはず。というか、もうそろそろ倒れるんじゃない? まぁ俺もヤバいんだけど)
テッドはセドリックが魔法を発動する姿勢をとる瞬間に踏み込む。
「メガスラッシュ!」
「フロスーー」
魔法発動の寸前にテッドの攻撃が直撃し、セドリックが膝をつく。
テッドが続けて攻撃しようとしたところで、セドリックは腕輪と共に地面に倒れた。
(よし! って、もうほぼ全滅か!)
テッドがパーティーの支援に向かおうとした時、ちょうどデイビットが前衛を倒し、後衛に倒されたところであった。
残っているのはテッドと『聖氷』の後衛一人。
そして、その後衛はすでにテッドへ手を向けている。
テッドのHPは上級魔法に耐えられるほど残っていない。テッドは魔法が使えないが、接近しようと近づく間に魔法が発動されるだろう。
(無理! 詰んでる!)
「ランダート!」
「フロスト!」
上級氷魔法が迫る中でテッドが狩人の特技で生成した矢が飛ぶ。
『ランダート』の威力はそれほど高くないが、テッドが使える特技の中で中距離攻撃ができるのはダート系特技だけであった。
(やっぱフロストがきたか。これを耐えるのは無理だなぁ)
テッドは氷魔法の直撃を受けて膝をつく。
(あーもうちょっとだったのに、ってあれ?)
その時に見えたのは、ふらりと倒れようとする『聖氷』後衛の姿であった。
(まさか、こんなことあるんだ)
苦し紛れに放った『ランダート』は魔法を放った後衛に直撃。残りわずかだったHPを削りきったのである。
第三学園『永久の道筋』と第一学園『聖氷』は、全員が倒れる相討ちとなるのであった。
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