第136話 テッドは静かで騒がしい
第一学園の一番手『聖氷』が紹介のアナウンスと共に一人ずつ闘技場に入ってくる。
対する第三学園の『永久の道筋』は紹介済みということで省略されてすでに入場していた。
その中で『永久の道筋』メンバーのテッドは、登場してくる『聖氷』に真剣な目を向ける。
(一人目は光の剣と精霊の盾! さっすが第一! まさか学園の試合にこれを持ってくるなんてねー。まぁ、僕らも同等装備だし、防具はこっちが上なんだけど。今の装備を初めて見たときはびっくりしたよなー。これ買うお金はどこからきたんだろ。というかどこで買ったんだろ。盾に製作者の名前はついてるけどダリアって誰? 一度も聞いたこと無いし。これを作れるなら有名な技工師のはずなんだけどなぁ)
テッドは探検家の特技『ホークアイ』を用いて相手を確認していた。
今のテッドの職業は探検家である。マスターするまで時間がなかったので、聖騎士に戻すことができなかった。ただ、中級職の中で最も防御力が高くなる職業であるため、ステータス的に悪くはない。
セージから支給された防具なども相まって、テッドは第三学園でもトップクラスの耐久力を誇る。
(ダリアって人族の名前っぽいし、ドワーフ族じゃなさそう。もしかして、有名なドワーフ族が偽名で人族の町に来てセージが仲良く、ってそんなわけないか。おっと、二人目は破魔の剣と魔法の盾! これもいい! 二人ともフォルクヴァルツ製だろうな。近くで見てみたい。いやー、対抗試合に気合い入れてるなぁ。というか入れすぎ。まっ、こっちの装備もやばいから相手のことは言えないんだけど)
フォルクヴァルツ製とは、王都から北にあるドワーフの里フォルクヴァルツで作られた製品のことである。
優秀な武器、魔法効果のついた武器のほとんどがフォルクヴァルツ製と言われており、その価値は非常に高い。
普通の平民であれば見ることもない武器である。
テッドが武器に詳しいのは、親が武器商人だからである。生まれた時から武器に囲まれた生活をしていた。
それに武器への興味もあったので一般的に売られている装備はもちろん、あまり見かけない強力な装備についても詳しくなった。
そんな商人の子であるテッドが第三学園にきたのは次男だったからだ。
親としては、騎士団に入ってくれればそれをツテにして武器を卸すことができるかもしれない、入れなくても優秀な冒険者にでもなれれば宣伝になる、と考えてテッドには幼い頃から剣の訓練をさせていた。
もちろん打算だけではなく、騎士になれれば、店で兄の補佐をするよりいい暮らしができるだろうという考えもある。
兄が店を継いでテッドは騎士団を目指す。テッドとしてもそれに不満はなかった。
兄と仲が悪いとかではなく、そもそも商人に向いていないと思っていたからだ。
武器は好きでも、金をやりくりすることや人と交渉をすることはやりたいと思えなかった。商人に必要なスキルは商品への知識だけではないのである。
それに騎士団であれば、いい武具が見れるだろうという理由もあった。
(あっ、三人目の装備良いなぁ! 聖騎士系統で揃えてる! 騎士団関係、騎士団長の子供とか? でも若干性能は落ちるかも。見た目で選んだのかな? あっ、別に性能は悪くないというかむしろ良いよね。聖騎士の剣とか普通は持ってないし。みんなの装備が良すぎて混乱してきたー。この場所だけで金貨何枚? 百枚は余裕で超えるよ、絶対。ここにある装備全部売り払ったら遊んで暮らせそう。そんなことしない、というかできないけど!)
聖騎士系統とは聖騎士の剣、盾、鎧の三点セットのことだ。
装備を聖騎士シリーズで固めても効果が追加されるわけではないが、装備の統一感が出て見た目はいい。
王国騎士団には騎士爵という爵位を持つ者がいる。騎士爵を持つものは上級騎士、持たなければ下級騎士、騎士でなければ兵士と分類される。
貴族の息子などであることが多いが、平民でも比較的なりやすい一代限りの爵位である。
一代限りと言っても、その子供は第一学園に入ることができる。
その昔、騎士爵の子供が第二学園に多く入り、第一学園に優秀な者が少なかった時、学園対抗試合で第二学園が優勝したから騎士爵の子供でも第一学園に入れるようになった、という噂はあるが、記録には残っていない。
「一人目がリーダーみたい。剣と盾はこっちと同等、鎧は対魔法効果は無いけど防御性能は同じ。二人目の装備は一人目とあまり変わらないし、三人目は少し落ちるけど良い装備だね」
「マジかよ。やっぱ第二よりキツい」
「想定はしてただろ。こっちより上じゃないだけマシだ」
(うわーっ! 後衛が氷結の剣だ! 本物だよね!? 初めて生で見た! 絵でしか見たことないんだよな! 魔法の盾も持ってるし、貴族ってこのレベルなの? 聞いてた話と違うんだけど! まさか家宝でも持ってきた?)
報告は冷静にしているが、心の中ではかなり騒がしいテッドである。
探検家になっているのはテッドだけなので、得た情報をパーティーメンバーに知らせるのが試合開始前の役割だった。
(えーっ! 後衛二人とも氷結の剣! これはすごいなぁ。さすが貴族。杖を装備するかと思ったのにそうくるかー。予想以上に良い装備を揃えてるなー)
「他にはどうだ?」
「後衛が剣と盾を装備してる。二人とも氷結の剣だから氷属性の効果がくるよ。直撃には気をつけて」
「女の名前もあったけどそいつもか?」
テッドは『聖氷』に目を向けたままコクリと頷く。
誰がどこに配置するか確認する必要があるので目が離せない。
「第一にしちゃ珍しいな。こっちに合わせて装備を変えてきたのか?」
「いや、シルヴィアのような感じかもしれねぇぞ」
「あいつは完全に前衛だろ。第一なら後衛でも戦闘訓練はしてるだろうけど」
「俺がリーダーを抑える。ダスティンが二人目、テッドが3人目の前衛を抑えて、スタンリーとジェイラスは後衛に走ってくれ」
そして、デイビットはいつものように声をかける。
「よし、集中だ。相手が第一だろうと関係ない。勝ちにいくぞ!」
「おう!」
テッドはパーティーメンバーに位置を指示して、自分は右端に進む。
そして、歩きながら速度上昇のバフをかけた。
テッドの場合は試合開始前から戦いが始まっている。
鈴を鳴らした後は、オカリナのような笛を取り出して静かに演奏する。笛の音は魔法防御力の上昇である。
速度なら鈴だが、魔法防御力は笛なので戦闘中にかけ直しはできない。ただ、最初の魔法を少しでもダメージを抑えて切り抜けるためには必要なことだった。
(あー、相手は聖騎士かぁ。悪くないけど、やっぱ氷結の剣が気になるなぁ。こっそり後衛に走っちゃう? しないけどね! さて、これで準備完了。そろそろ始まるかな?)
そう思ったところで銅鑼の音が鳴り響く。
(計算通り!)
テッドはオカリナを腰の袋に入れながら、皆に向かって一つ頷き、全員一斉に走り出した。
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