第131話 vs第二学園
一試合目はデイビットパーティーが登場していた。
闘技場に下りる階段の前に部屋があり、他の第三学園のパーティーはそこで控えている。
「おぉ、すげぇな」
「さすがに緊張するぜ」
デイビットたちは闘技場のフィールドに立って、観客席を見渡す。
第三学園にも闘技場はあるが、ここまで立派なものではなく、観客がいるということもほとんどなかった。
観客の注目が集まり、少し圧倒されてしまう。
「北側、第三学園パーティー『永久の道筋』、デイビット、ジェイラス……」
観客席では声を大きく響かせる特技『ホイッスルボイス』を用いて観客にアナウンスしている。
闘技場は広く、特技を使っても全体に響くような声にはならない。そのため、十数人が等間隔で並んで一斉に声を上げていた。
(とうとうここまで来たか。まさか俺たちがこうやってこの場に立てるなんてな)
闘技場に立ってデイビットは感慨深く思う。
デイビットのパーティーは二級生の初期から五人でやってきた。
二級生に上がって最初に組んだパーティーが続くことは珍しい。メンバーのバランス調整や強さを合わせるための入れ替えもあれば、方針が合わなくて解散することもある。
こうして初期メンバーがそのまま対抗試合のパーティーに選ばれることは稀だ。
(次は第二学園が入ってくる。どんなやつらが出てくるか)
学園対抗試合の初戦は第二学園対第三学園の戦いである。
第三学園と第二学園が戦い、勝者が第一学園と戦うトーナメントになっている。
例年、初戦は第二学園が勝つのだが、第一学園は第二学園の戦いを見ているため有利だ。そして、たいてい第一学園が勝つ。
「南側、第二学園パーティー『第二学園三番剣』、パーティー長、エイベル!」
ドンドンッと太鼓が鳴り、エイベルが登場する。ちなみに、第二学園は例年同じパーティー名であり、第二学園三番剣、二番剣、一番剣となる。
(第二学園は個別の登場かよ。俺らは適当だってのに。まっ好都合だけどな)
第三学園は全員登場してパーティーメンバーが列挙されただけだが、第二学園は一人ずつ名前が呼ばれて登場してきていた。
楕円形の両端からパーティーが入場するので、デイビットには対戦相手がどんな者か判別できない。
ただ、パーティーメンバーのテッドが探検家になっており、特技を駆使して相手の装備や特徴を伝えてくれる。
その時間が得られることはメリットであった。
「ってくらいか。全体的にこっちより性能は一段、いや、それ以上劣るし、対策してきた戦略で問題ないだろうな」
そのテッドの言葉に、スタンリーたちが盛り上がる。
「マジか。これはマジで勝てるぞ」
「全員ビビらせてやるぜ」
(予想通りか。見落としはないよな。あとは魔法に対応できるかどうかだ)
メンバーのテンションが上がる中、デイビットは「ふぅ」と一つ息を吐いて力を込める。
「よし、集中だ。魔法に関しては向こうが上。油断するなよ。だが、いつも通りの力を出せば、この戦いは勝てる。第三の強さ、見せつけてやろうぜ!」
「「「「おう!」」」」
デイビットたちは気合いを入れて試合開始場所にばらける。陣形は全員が等間隔に離れて真っ直ぐ並ぶ形だ。
順番はデイビット、スタンリー、テッド、ダスティン、ジェイラスである。
相手の陣形は真ん中に寄っているため、両端のデイビットとダスティンは接近するための距離が遠くなるのだが作戦上これで問題ない。
闘技場には三本のラインが引かれており、中央に一本、中央から二十数メートル離れた両側に一本ずつである。試合開始前は両側のラインの外側にいなければならない。
その他の戦闘ルールとしては、闘技の首輪が外れた者に対する攻撃や戦闘中のアイテムの使用が禁止されているくらいで、魔法や特技、装備などに制限はない。
お互いの準備が終わった後、笛の音がなり、静かな緊張感が漂う。そして、開始の合図となる銅鑼の音が鳴り響いた。
その瞬間、飛び出すように走り出すデイビットたち。
第二学園の騎士科の三人は前に出て、魔法科の二人は後ろに下がった。
そして、五人とも魔法を発動するため手を前にかざす。
(きたか!)
デイビットたちはそれに構わず盾を構えて突撃。
そこに上級火魔法『フレイム』が襲いかかる。
五人全員が『フレイム』を放ったことで、一面が火炎の海に一変した。
炎の魔法を使うことが多いのはダメージ量が高いからである。特に『フレイム』の場合は盾で防ぐ行動が取れないため、ダメージが通りやすい。
火炎に包まれながら、その衝撃にデイビットたちは驚いた。
(まさか……この程度なのか?)
今まで、訓練でセージの魔法を受けてきた。当然『フレイム』も受けていたが、受ける衝撃が全く異なっていたのである。
デイビットたちにとって魔法を使う相手は教官のオリビエとセージくらいだ。意外とオリビエは優秀で、第二学園の生徒より能力は高いのだが、セージには圧倒的に負ける。
デイビットたちは、相手が貴族なので、セージレベルの魔法が来ると思っていたのである。
実際は貴族といっても魔法系ステータスがカンストしている者などおらず、grandis修飾魔法詞も知られていない。
複数人の魔法を受けたところでセージ級の魔法にはならなかった。
(なんだよこれ! 余裕じゃないか!)
セージの魔法と比べれば明らかに軽い衝撃に、デイビットは思わず笑ってしまう。
デイビットは二人から魔法を受けていたが、スピードを落とすことなく炎の中を駆け抜けた。HPを確認すると、セージの魔法一発で受けるダメージの半分にも満たない。
後衛の魔法使いと前衛の騎士では放つ魔法に威力の差があり、バラけているが配置によっては三人の魔法攻撃範囲に入る場合もある。デイビットは端にいるため受けた数は少ない。
だが、最もダメージを受けたスタンリーでさえセージの魔法半発分であり、まだHPに余裕があった。
(あの訓練厳しすぎるだろ!)
炎の中から飛び出したデイビットたちは、二度目の魔法の呪文を唱えている相手に接近する。
その姿に第二学園生は驚いた。例年であれば、炎に阻まれて時間が稼げるのだが、すぐに突破して来て、大きなダメージを受けている様子もない。
第二学園の騎士は慌てて剣を装備して構えを取る。
(よっしゃあ! いくぜ!)
デイビットとジェイラスはジャンプしながら魔法発動の体勢をとった。
「マグナウェーブ!」
着地した二人が発動した魔法は、相手を挟み込むように襲いかかる。
中央に配置していた者だけは前に進んで避けたが、他の四人は巻き込まれた。
(よし! 決まった!)
テッドが唯一避けた騎士に『メガスラッシュ』を放つ。
その隙にスタンリーとダスティンが後衛に向かって走った。
デイビットたちの魔法では大きなダメージは見込めないが、一番の目的は後衛に向かって走り抜けるためのサポートをすることだった。
(よし! 順調だ!)
デイビットは作戦通りに進んでいることを確認する。
二度目の魔法を使わせることなく、一対一の戦いに持っていくことができた。
騎士科の者は鍛えられているが、魔法科は近接戦闘を苦手とする者が多い
スタンリーとダスティンであれば、後衛を倒すまでにそれほど時間はかからないだろう。
そうなれば二対一の戦いになり、俄然有利になる。
(勝ちは見えたな。あとは次に向けてダメージを抑えるだけだ)
学園対抗試合は勝ち抜き戦となり、その戦いの間に回復する時間はない。
ダメージを受けたまま次の試合に挑むことになるのである。
そのため、勝つとしてもなるべくHPを残す、負けそうでも次の戦いのために相手のHPを削ることは重要であった。
「メガスラッシュ!」
デイビットはそう言いながら軽い攻撃を放つ。
それに対して相手は一拍おいて『メガスラッシュ』を発動して反撃する。
これは特技によって動きが一瞬止まるところを狙った攻撃だ。
ただ、デイビットは特技が発動するほど力を込めていない。
デイビットは攻撃が防がれた瞬間に横飛びして攻撃を避けつつ今度こそ『メガスラッシュ』を放つ。
相手は右足を軸に回転し、盾を合わせると『ファーストエッジ』を発動した。
それをデイビットはサイドステップで避ける。
(くっ! さすがにそう簡単には倒せないか)
第二学園生も対人戦闘の訓練を積んできており、その近接戦闘の技術は高い。簡単に圧倒できるほどの技術の差はなかった。
ただ、ステータスも装備も第三学園が上であり、戦いは有利に進む。
そんな状況でも、デイビットは無理をして攻撃を仕掛けず、落ち着いて慎重に戦っていた。
(焦るな。この俺の役割は相手を抑えることだ)
しばらくすると後衛の魔法使いを倒したスタンリーが挟み撃ちするように攻撃を仕掛ける。
その時点で、第二学園三番剣のメンバーは自分たちが負けるだろうと確信した。
そして、後衛が二人とも倒れた時点で、前衛は防御を考えない捨て身の攻撃を始める。
少しでも相手にダメージを与えて二番手に繋げようとしたのだ。
そんな第二学園に対して、デイビットたちは真正面から受け止めることを避け、二対一、三対一で無理をせずに戦う。
(これで終わりだ!)
「メガスラッシュ!」
最後に残った『第二学園三番剣』のリーダーが倒れる。
残ったのは『永久の道筋』の五人。
誰も倒れることのない快勝である。
(勝ったんだよな?)
静まり返った闘技場内にドォンと銅鑼の音が鳴り響き、戦闘が終了したことを知らせた。第二学園の者が出てきて、第二学園三番剣のメンバーを治療していく。
「よっしゃあ! 勝ったぜ!」
「マジで勝った! すげぇよ!」
デイビットたちが歓声を上げた。
しかし、歓声を上げたのはデイビットたちのみ。その思わぬ番狂わせに、闘技場の観客席はざわつくのであった。
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