第132話 ロブは焦る
ロブはウィットモア領騎士団団長の次男であった。
王宮以外の領所属の騎士団の子供が王都の騎士団に行くのは珍しいことではない。
王国騎士団の中に領の人材を入れておくことで情報収集ができるなどのメリットがあるからだ。
また、王国騎士団の中で階位が高くなれば、自領にとって利益のある行動を取らせやすくなる。
実際はそこまで単純なものではないのだが、上級貴族であれば王国騎士団の中に関係者がいるのが普通でもある。
ロブが王都の学園に入ったのは、そんな役割を求められていたからだ。
三歳上の長男はウィットモア領の騎士団で小隊長になっている。騎士団の団長は世襲制ではないが、幼い頃から稽古をつけられ、体作りができる環境にあるのは有利である。
長男も学園に通っていたが、成績は中の下に入るくらいだった。王国騎士団に入っても下級騎士で終わることが見えていたため、ウィットモアに戻ったのである。
ロブは持ち前の体格の良さと磨いてきた剣術によって、第二学園のトップ層、選抜メンバーに入れるほどの実力を身につけていた。
ウィットモア領主の息子、クレイブ・ウィットモアと同学年であるため、二人とも王国騎士団に入り込み、ゆくゆくは裏から手を回すことを、ウィットモア領の領主から期待されている。
学園対抗試合では第三学園に圧倒的な力の差で勝ち、第一学園との試合の中では自分の存在をアピールしつつ、領主の息子クレイブに勝ちを譲る。
そんな計画をしていたロブだったのだが、今の状況はすでに破綻していた。
(くそがっ! こんなはずではなかったのに!)
例年、第二学園三番剣のパーティーが倒されることはあっても二番剣で終わる。
第三学園の最後のパーティーがダメージを負った状態で自分たちと当たり、魔法で一掃する。もし、想定よりさらに強くても、瀕死の二番手を魔法で一掃し、三番手に圧勝する。
そんな想定をしていた。
ただ、それは妄想と成り果てる。
第二学園三番剣は早々に敗退し、控え室に戻ってきたのである。
そして自分たち第二学園二番剣と第三学園の一番手が当たることになった。
(ここまで強いなんて聞いてねぇぞ!)
ロブは事前にウィットモア家の者から、今年の第三学園は強いという情報を得ていた。
わざわざ試合前に第三学園のところに行ったのは、偵察を兼ねて挑発しに行き、冷静さを失わせようと考えてのことだ。
例年と比べて自分たちが弱いという印象を与えるわけにはいかなかった。
(こんなところで終わってたまるか!)
闘技場に降りてすぐに戦いの準備をする。控え室で相手の特徴を聞いて、すでに戦い方の計画はしていた。
試合開始の銅鑼の音と共に、第三学園一番手のパーティー『永久の道筋』が駆けてくる。聞いていた話とは異なり、一直線ではなく前衛三人、後衛二人のような陣形だ。
(関係ねぇ! ぶちかましてやる!)
前衛を一掃した後、後衛を倒せばいいと考え、ロブたち五人は前衛に手をかざして魔法を発動する。
「フレイム!」
三番剣との戦いでHPはかなり消耗していると考え、ダメージが見込める『フレイム』を全員が唱えた。
しかし、前衛三人はそれをものともせず駆け抜けてくる。
(こいつら! まだHPがあるのか!)
驚きつつ盾と剣を構えた時、フレイムの炎が揺らめいた。
その瞬間、暴風がロブの両側にいた前衛に突き刺さる。一人は盾で弾いたがバランスを崩して地面に手をつき、もう一人は正面で受け止めて地面を削りながら数メートル後退する。
(くそがっ! やられた!)
フレイムの後ろから上級風魔法『ウィンドバースト』を放ったのはデイビットとジェイラス。
二人の魔法攻撃力はそこまで高くない上に距離もある。第二学園の者を吹き飛ばすほどの威力は出ないが、前衛が後衛に走る隙は生まれていた。
(仕方ねぇ! まずはこいつを相手してやる!)
相手をするのはまっすぐ近づいてきたテッドだ。
ロブは一足飛びでテッドに近づくと、フェイントを織り混ぜながら会心の一撃を繰り出した。
テッドは無理に避けようとせず、『シールドバッシュ』で冷静に受け止める。
(チッ! こいつ堅いな)
ロブは手応えでテッドの防御力の高さがわかった。周りを見ると前衛二人が後衛の援護に向かっている。
それを追いかける第三学園の後衛。
テッドは視線を反らしたロブに「メガスラッシュ」を発動。ロブはそれを受け流して剣を振るいながら後ろに飛ぶ。
それと同時に魔法を発動する体勢をとり、デイビットに手をかざす。
(好きにさせてたまるかよ!)
「フロスト!」
「ファストエッジ!」
テッドはロブが魔法を発動した隙に放った素早い攻撃が直撃する。
(こいつっ! 第三のくせに!)
「メガスラッシュ!」
ロブの特技『メガスラッシュ』をテッドは後ろに飛んで避ける。その瞬間に『テイルウィンド』を発動した。
(何っ!)
後ろに下がったテッドを追撃するため、一歩踏み出し斬りかかっていたロブは、急接近するテッドに対応できない。
「シールドバッシュ」
体当たりのようなテッドによる『シールドバッシュ』。
それを、ロブは辛くも盾を合わせて防御しながら反撃の『メガスラッシュ』を放つ。
テッドはそれを盾で受け止め、ロブの連撃を後ろに飛んで避ける。
「ランダート」
テッドは矢を投げる特技を発動し、さらなる追撃を躊躇ったロブに突き刺さる。
(鬱陶しい!)
ロブは『ランダート』にまぎれて『ファストエッジ』を繰り出していたテッドに一歩踏み出して『メガスラッシュ』を放つ。
(速攻で決めてやる!)
ロブは攻撃重視で攻め立て、テッドはそれに応戦する。
さすがに二戦目ということもあり、しばらくするとテッドが倒れ、その頃にはあと一人になっていた。
一人残ったジェイラスは最後に『フレイム』を発動し、打ち倒された。
(くそがっ! 予想以上にダメージが入った!)
歴代の中で第三学園に負けるなんてことは一度もない。
負ければ、初めて第三学園に負けた者たちとして、自分の経歴に傷が付くことは避けられないだろう。
ここまで騎士になるため順調に進んできていたというのに、まさか学園対抗試合で追い込まれることになるとは想像もしていなかった。
ロブは憎々しげに運ばれていく『永久の道筋』を見送る。
そして、交代に第三学園の二番手パーティー『ハゴミアラ』が登場してきた。そこには、ラッセルも含まれている。
姿ははっきり見えないが、アナウンスの中に名前が入っていた。
「まずはあんたたちがフレイム。その後私たちがアイスウォールで進路を防ぐから。ちゃんと抑えなさいよ」
(相変わらずうるせぇな。お前も大して役に立ってなかっただろ)
ロブの内心は荒れていたが、今は仲違いしてる場合ではないので抑える。リーダーはロブではなく、後衛の者だった。
手早く作戦を立てるとすぐに戦闘位置に向かう。作戦を練っていると第三学園の強さを認めるようなものであり、あまり時間をかけるわけにもいかなかったのだ。
位置につくと銅鑼の音が響いて戦闘が始まる。
「フレイム!」
前衛三人が上級火魔法を放つが、当然第三学園のパーティーは減速することなく駆け抜ける。
ただ、それはロブたちにとっても想定の範囲内だ。
「アイスウォール!」
後衛の二人が二か所に発動。中央と端に隙間を作っているため、ロブたちはそこに向かって走る。
アイスウォールがあるため三か所のどこかに来るはずだった。
そして、ロブに向かってきたのはラッセル一人だ。
(もう一人来てもよかったが、まぁいい。お前のクセはわかってるぜ! 返り討ちにしてやる!)
ラッセルを迎え撃とうとした瞬間、アイスウォールが二つとも粉々に砕けた。
(何っ!?)
驚いて周囲を確認しようとするが、それを止めるかのようにラッセルが斬りかかる。
(この野郎!)
剣を振るうラッセルにロブは反撃するが、お互い空振りとなる。
ラッセルは、深くは踏み込んでいなかった。
そのまま通り過ぎるように跳躍しながら反転したラッセルは上級氷魔法『フロスト』を発動。
ロブはその効果によって一瞬動きが止まった。
その隙にラッセルは後衛に走る。
(なっ! 行かせるかよ!)
ロブはラッセルと戦うつもりでいたため、その行動に驚きながら追いかけようとした。
その瞬間、ロブは背後から強烈な衝撃を受ける。
後ろから近づいたハドリーが『メガスラッシュ』を発動していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます