第129話 耐魔法訓練
選抜パーティーに選ばれたのはシルヴィアパーティー、デイビットパーティー、そしてハドリーパーティーである。
予備パーティーも一つあるが、基本はこの三パーティーで試合に挑む。
ハドリーパーティーはハドリーとゴードン、ラッセル、アレン、ミックの五名である。
選抜試験の時、ラッセルはシルヴィアパーティーにいたが、セージが戻ってきて外れた。戦いでは目立たなかったが、魔法の中を駆け抜け、シルヴィアと共にサイラスを倒したことは高い評価となった。
もともと貴族で魔法は得意、さらに二級生首席になれるほど剣の技術も高いのである。セージにはやられっぱなしではあるが、実は優秀な学園生だ。
ハドリーとゴードンは元々近接戦闘でトップを争う技能を持っている。そして、二人は学外訓練の時にほとんど学園にいて魔法の勉強をしていた。
その勉強に対する姿勢は魔法を教えている教官オリビエも驚くほどである。
それに『授業で優秀だからって強いのか? それなら俺ももっと勉強してやるよ』という発言。
ハドリーは自分で言ったことを実行していたとも言える。
実はセージの勉強会にゴードンが参加していた。ハドリーは直接は出なかったが、監督役として勉強会に出ていたオリビエを捕まえて教えてもらっている。
そんな猛勉強のかいがあり、選抜試験では余裕を持って魔法に耐え、モーガン、アドルフ、オリビエ相手に善戦していた。
ただ、サイラスとセージが援護に来て、あえなく敗北となった。
パーティーの一人は魔法で倒れ、二人はサイラスとセージペアにあっさり倒されていたからだ。
学園に残っていたため、固定のパーティーを組んでおらず、余っていた者の寄せ集めのパーティーだった。
試合自体はボロ負けであったが、二人の実力は確かなので選抜されている。
ミックは控えパーティーのリーダーだ。デイビットパーティーは全員が同等の実力を持っているためパーティー丸ごと選抜されたが、ミックのパーティーはそうではない。
ミックが他の四人を引っ張る形で成り立っていたため、今回はミックだけがハドリーパーティーに入った。
アレンはラッセルと同じで新一級生である。アレンは剣より魔法が得意という第三学園では非常に珍しいタイプの学園生だ。
入学時はラッセルに一歩先を行かれていたが、最近はライバルのような存在になっていた。
セージを含めると新一級生が三名も入ることになる。異例のことであるが、全員が第三学園では珍しい魔法タイプの戦士であるため、今回の戦いでは重要だった。
選抜試験は九月初旬。九月は夏季休暇、三月は冬季休暇となる。十月一日から学園が始まり、その十日後には学園対抗試合だ。
準備期間は約一ヶ月。その間に、戦闘訓練やパーティー戦の調整、勉強会などを行っていた。
そして、学園対抗試合まで後数日まで迫ったある日。セージたち選抜メンバーは魔法に耐える訓練をしていた。
「行くぜ!」
銅鑼の音が鳴り響くと共に、デイビットが気合いを入れる。そして、五十メートル程離れた所にいるセージに向かって全力で走り出した。
その途端、セージのgrandis修飾上級火魔法『フレイム』が襲いかかる。
デイビットたちは燃え盛る炎の中を走る。そして『フレイム』を抜けて、そのままセージの隣を駆け抜けた。
「よっしゃあ!」
「くそっ、またジェイラスかよ」
軽く息を乱しながら口々に言う。デイビットパーティーの中で最も速いのがジェイラスだった。
これは耐魔法五十メートル走とセージが呼んでいる訓練法である。
魔法の中を怯まずに駆け抜け、相手に素早く接近して攻撃するための訓練であり、昔から良く行われているものだ。
これをしたからといって、素早さに好影響があったとしても、魔法系のステータスに影響はない。
(マジで速くなってるなぁ。俺もやっとこうか。今度はオリビエ教官を呼ぼうかな?)
最初、セージはこの古典的な訓練法に反対だった。魔法耐性を上げるなら勉強した方がいいからだ。
ただ、すでに何度も勉強会は開いており、試合を目前にして勉強をしてもそうそう上がらない。
それに、実際に訓練してみると効果があったのだ。魔法の衝撃は変わらないが、それに対しての身構えを整え、精神的な怯みを失くすことが目的だ。
今ではセージも魔法の砲台として進んで協力している。
再びセージが銅鑼を叩く。セージは呪文を準備しているため、銅鑼を合図に使っていた。
次に走り出したのはハドリーパーティーである。
「ヘイルブリザード」
セージは特級氷魔法を発動する。放たれる魔法は、上級魔法か特級魔法からランダムでセージが選んでいた。
「特級か!」
「負けねぇぜ!」
氷の礫が吹き荒れる嵐の中を何とか足を止めずに走る。
最初に走りきったのはミック。そして、アレン、ハドリー、ゴードンと続き、ラッセルが最後だった。
「また最下位だな、ラッセル」
そのハドリーの言葉に、ラッセルは言い返せず「くぬぁ!」と悔しがる。
ただ、大きな差ではない。場合によっては追い抜けそうな僅差である。ハドリーたちより年齢が二歳下で体格差を考えると十分な能力であった。
「ハドリーもそんなに速くないだろ」
ミックの冷静な言葉にハドリーはチッと舌打ちすると「俺はいいんだよ」と言って離れる。
「まったく。ラッセルも気にするなよ。ダメージ量で言えばハドリーに勝ってるんだし」
「……俺が一番遅いっていうのは、間違ってない」
ラッセルはそう呟くと、元の位置に戻っていくアレンを追いかけた。ミックも一つ溜め息をついて戻って行く。
(このパーティー、大丈夫なのか? 実力的には二番手だろうけど、バラバラすぎない?)
セージは心配しながらまた銅鑼を叩く。ミックパーティーの残りメンバーと新一級生の一人である。
実力というよりハドリーパーティーが上手くいかなかったときに入れ換えがしやすいように考えられた控えメンバーで、デイビットパーティーより一段劣る。
セージのgrandis修飾上級火魔法『フレイム』は厳しそうだった。
(うーん。ハドリーパーティーがどうなるかわからないし頑張って欲しいけどなぁ)
そして、次はシルヴィアパーティーだ。
セージは銅鑼を叩くと共に魔法を発動する。ベンがいるので、もたもたしていられないのである。
「タイダルウェーブ」
発動したのは特級水魔法。ヘイルブリザードより効果範囲は狭いが、今回の様にまとまって走って来る場合は最も効果的だ。立ち止まらず走り抜くことは困難だろう。
容赦ない魔法攻撃に真っ先に対応したのは先頭を走るベンだ。魔法が当たる直前にベンは跳躍。
タイダルウェーブは巨人族より高く、さらに幅もある。しかし、ベンはその上を越え、クルリと回転して着地。そして、再び走り出す。
(このチートめ)
そうすることがわかっていたセージは、魔法を放ってすぐに召喚していた精霊シルフに「トルネイド」と指示する。
精霊シルフは朱色の衣装をひらめかせて元気良く舞い踊る。その躍動と共にいくつもの荒れ狂う竜巻がベンを襲った。
ベンは竜巻に囲まれてダメージは免れないが、隙間を縫うように駆け抜ける。
実は、ベンはマルコムから指導を受けていた。
それはリュブリン連邦からケルテットの町までという短い期間のことであったが、確実にベンの能力を上げている。
(学園対抗試合、ベンがいれば勝てるんじゃないか? まぁ耐久力は無いから囲まれたらキツいだろうけど。一対一なら勇者相手でも勝てそう)
そんなことを考えていると、駆け抜けて少し息を乱したベンがセージに文句を言う。
「精霊召喚はなしって話だったよね?」
この訓練は第一学園を想定している。上級か特級の範囲魔法を使って来ることが想定されるため、そこからセージがランダムに選んで発動するという方式であった。
「あー、でもまぁ訓練になるでしょ? ほら、相手が精霊を召喚してきたときとか役に……」
「精霊士なんて相手にいないから!」
「えっ? そうだっけ?」
「知らないわけないでしょ……」
疲れた様に言うベンに笑顔で首をかしげるセージ。
もちろんセージは精霊を使わないルールを覚えている。ただ、すでに何度か魔法を放つ中で、ベンは圧倒的な速さで魔法を駆け抜けてくるのだ。
「まぁ少しぐらい嫌がらせ、じゃなかった、鍛えないとね」
「今、完全に嫌がらせって言った!」
「そんなことないって。訓練になるでしょ?」
笑顔のセージにベンが溜め息をつくと、今度はシルヴィアたちが集まってくる。
「いいじゃないか。試合で相手するのは五人だ。二発くらい、どうということはないだろ」
「そうよ。三発受けることだってあるんだから」
「ベンはあともう一発くらい増やしてもらえばどう?」
ライナス、シルヴィア、チャドが口々に言う。三人とも盾でガードしながら耐えており、他のパーティーより速かった。
「他人事だと思って……」
「うーん。最初から召喚しておけばギリギリもう一発挟める、かな?」
「いやいや、考えないで! セージの魔法三発はやばいって」
「タイダルウェーブ直後のフリージングゾーンってどうなるんだろ」
「それ、ホントに止めてよ?」
真剣に考え始めるセージにベンは念押しするのであった。
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