第128話 vsシルヴィアパーティー
シルヴィアパーティーはシルヴィア、ライナス、チャド、ベン、ラッセルの五人である。
ラッセルは、進級試験でセージと戦った後は全勝して無事進級を果たした。正確には進級は十月からになるのだが、九月の選抜試験に志願して加わっている。
ちなみに、ラッセル以外にも進級したのは九人いて、上位三人は選抜試験に加わっていた。ただ、パーティーはすでに出来上がっている所が多く、入る所がないため、セージが抜けた所など、足りない部分に収まっている。
試合開始の合図と共に走りだしたのは他のパーティーと一緒だ。
バフはチャドが担当しており、始まる直前にかけている。特に試合前の制限はないため、魔法の呪文を唱えるなど準備をしておくのは当然のことである。
シルヴィアは中央に単独で走り、向かって右側にチャドとライナス、左側にラッセルとベンが二人一組でいた。
パーティーが全員バラバラではなく三ヵ所に別れることで魔法に巻き込まれにくくする狙いがある。
セージの魔法は範囲が広いとはいえ、そこまで距離をとられると三ヵ所のどこかを狙うしかない。
対して教官たちは、チャド側にアドルフ、モーガンがオリビエを守るように配置し、ベン側にサイラス、セージが位置していた。
セージと教官たちはシルヴィアを近接戦闘で対応することにして両側を狙う。
そして、魔法を発動しようとしたとき、ラッセルとライナスが『ハウリング』を発動した。
「来いやぁ!」
「こっちだ!」
狙われやすくする特技『ハウリング』が効くのは魔物だけではない。対人戦闘でも効果がある。
一瞬注意を引く程度のことだがタイミングによっては効果的だ。
特技が発動した瞬間にベンとチャドが全力で走り出していた。
(ラッセル、意外とやるな)
セージはラッセルに向けて『ヘイルブリザード』を発動する。他の教官も『ハウリング』を使った者に発動していた。
サイラスだけは『ハウリング』を想定し、一拍置いて高速で迫るベンに『ウィンドブラスト』を放つが、ベンはそれをものともせず駆け抜ける。
(これ、結構ヤバいんじゃないか?)
ベンのレベルは68。忍者の補正もあり圧倒的に早かった。
接近したベンはサイラスの攻撃を避けて剣を一閃。『カウンター』が発動する。
サイラスはそれを盾で受け流して反撃しようとするが、すでにベンはセージに走っていた。
追いかけようとしたサイラスにシルヴィアの『フレイム』が襲いかかる。
(ベンが来たか。近接戦闘は厳しいな)
ベンはセージに『ファストエッジ』を発動。セージは呪文を唱えていたため、盾で受けながら通常攻撃で対応する。
それをベンは後ろに引いて避け、ポンと剣を上空に放り投げた。
(んっ? そうかっ!)
ベンは両手で印を結ぶと「スイトン」と呟いた。
襲いかかる水流の蛇をセージは咄嗟に盾で防御するが、水蛇がセージに纏わりつく。『スイトン』の効果で一瞬動きが止まった間に、ベンは放り投げた剣をキャッチしながら、オリビエの方に走りだしていた。
(曲芸師かよ! というか狙いはオリビエ教官か!)
仕返しとばかりにセージは『フロスト』を唱える。
ダメージを受けたのはベンだけでなく、近くに来ていたシルヴィアとラッセルが巻き込まれた。
その隙にサイラスは『ウィンドバースト』をラッセルに発動。ラッセルを吹き飛ばし、シルヴィアに『メガスラッシュ』を発動する。
(サイラス教官なら二人相手でも何とか戦えるよな? 問題はオリビエ教官だ)
オリビエにとってベンは相性の悪い相手だ。素早い動きによって捉えにくい攻撃に突然放たれる魔法。
オリビエは魔法を放つどころか、防御するだけで精一杯になる。
(まずはベンを止めないと)
オリビエが倒されると、ベンはチャドかライナスの援護に回ることが考えられた。そうなると戦況は厳しくなる。
セージはベンを追いかけるが、明らかにベンが早い。
オリビエはベンの攻撃を盾で受け止めたが、ベンは止まることなく回り込んで『メガスラッシュ』を放つ。
(って、追いかけたけど今のベンに勝てる? 上級職の特技を使うか。一応止められてはいたけど、そうも言ってられないし)
この戦いは第一学園を想定しているため、上級職の特技は使わないように言われていた。第一学園に勇者はいるが、精霊士など他の上級職の者はいないからだ。
ベンの攻撃がオリビエに直撃。オリビエは体勢を崩しながらも、その次の攻撃は防ぎ、何とか持ちこたえている。
(ベンの動きがヤバい。接近戦は無理だな)
セージは剣をしまい、少しの距離を置いて上級氷魔法『フロスト』を発動し、精霊士の特技を使う。
「サラマンダー、サモン」
陽炎が立ち上ぼり紅蓮の髪の男、サラマンダーが姿を現す。その間に、セージは『カトン』を発動していた。
ベンは『フロスト』で動きを止められたが、その直後の『カトン』はサイドステップで直撃を避ける。
オリビエがその隙にベンから離れ、セージは「フレアインパクト」と呟いた。
サラマンダーが動き出すと共に『スイトン』を発動する。
ベンはオリビエに攻撃を仕掛けようとしていたが、その動きを止められる。
そして、サラマンダーの拳が地面に突き刺さった。
炎の波動はベンに直撃。ただ、逃げ切れなかったオリビエ教官にも被害がおよぶ。
(オリビエ教官、ごめんね!)
発動までの速さや効果範囲を考えるとサラマンダーが適していたのだが、乱戦になった状態では敵だけに当てるのは難しい。
ベンは背後からセージの猛攻を受けては、さすがに無視するわけにはいかない。
オリビエからセージの対応に切り替える。
セージはベンが来た瞬間に特技を発動する。
「地槍撃」
さらにオリビエも『フロスト』を発動した。
地面から三連撃の土の槍が飛び出す。それをベンが盾でいなし、避ける。しかし、三撃目の時に『フロスト』の効果で一瞬遅れ直撃。そうしている間にセージは「サラマンダー、サモン」と呟く。
一旦消えたサラマンダーが再び姿を現す。
ベンが『カトン』を発動しながらセージに接近。
セージは後ろに飛び、「螺旋炎弾」と呟きながら羽ばたくような動作をする。『メモリー』で覚えたヘルワイバーンの特技である。
炎を纏う螺旋の渦が打ち出される。
『カトン』に紛れ、見えない位置からの強襲に、ベンは避ける間もない。
しかし、ベンは反射的に盾で受けていた。
(さすが!)
「フレアインパクト」
セージは容赦なくサラマンダーを使役して特技を発動。さらに『スイトン』を発動する。
ベンは盾を構えたまま『スイトン』に向かって跳躍。硬直時間を滞空時間に変える。
(あっなるほど! そういうのもありか)
さらに跳躍して『フレアインパクト』の直撃を避け、ダメージを軽減した。
(マジでこれ避けるの? それに直撃を外してるとはいえ、よく耐えるな。忍者の耐久力は高くないはずなのに)
ベンの動きに感心しながら、セージは『地槍撃』を発動する。
セージの特技と同時にベンは『カトン』を発動。ただ、セージはすでに後ろへ下がっていてダメージは小さい。
セージはベンと接近戦をする気はなかった。
それがわかっているベンは『地槍撃』の一撃目を防御しながら突撃する。
二、三撃は跳躍で回避しながらセージに急速に接近。
そのまま、セージに攻撃を仕掛けた。
「メガスラッシュ」
「シールド」
ベンは動じずに回転しながら踏み込み、セージの背後に攻撃を仕掛ける。
(ミスった!)
特技『シールド』は僅かに体が止まる。ベンが連撃を狙っていることを考えて使うべきではなかった。
セージは避けきれないことはわかったが、何とか体をひねり直撃をずらす。バランスを崩したところに追撃がくる。
セージは飛び込むようにして地面を転がり避けるが、起き上がった時にはすでにベンが追撃を繰り出していた。
(キツいな!)
「ノーム、サモン」
ベンの攻撃に耐えながら地の精霊を召喚する。渦巻く砂塵と共に現れたのは三角帽を被り気だるげに座る十歳くらいの少年の姿をした精霊ノームである。
それと同時に、オリビエが『フロスト』を発動した。
(ナイス! さっすが教官!)
セージはベンの猛攻に特技発動の体勢を取るのが難しかったのだ。セージはベンから飛び退きながら『デザートフィールド』を発動する。
ノームは地面をトントンと叩くと指をパチンと鳴らした。
その音と共に地面から滲み出てくるかのように砂が現れ、ノームを中心に十数メートルが砂漠に一変する。
セージのパーティーはノームの加護によって固い地面に立っている感覚だが、それ以外の者は動きにくくなる。また、一部の魔法の効果や威力が変化するなどの影響もある。
ただ、この魔法自体は補助的な効果しかなく、攻撃能力はない。それに、効果時間は十秒程度であり、ノームは発動中ずっと座っているため、他の精霊を呼ぶことができないなどの制約があった。
(これでちょっと余裕ができる)
それでもセージにとっては大きいことだ。
ベンは砂に足を取られて本来の動きができなくなる。そして、それはベン以外の者も同様である。ライナスとチャドが足を取られていた。
(ゲームではほとんど使わなかったけど、意外と使えるかも)
魔物相手だと使い勝手が悪かったり、別パーティーがいると巻き込まれたり、使用者のセージには砂地になった感覚がわからなかったりするので今まで使っていなかった。
しかし、ベンの様子からかなり柔らかい足場になっていることがわかる。
セージでもベンと近距離戦ができる程効果があった。
セージはスッと離れてベンに手をかざす。
「インフェルノ」
噴き出す業炎柱。特級火魔法の直撃に耐えきれず、とうとうベンが倒れた。
(危なかった。ベン強すぎ、というか今なら学園で近接戦闘最強では? レベルが高いから当然とも言えるけど)
その後、オリビエとセージがモーガンとアドルフの援護に入り、チャドとライナスが倒れる。
シルヴィアとラッセルはサイラスに足止めされ、二人がかりで倒したものの援護には間に合わず、四対二では勝てるはずもない。
こうして試合は終了し、見ていた学園生たちが回復に向かう。
起き上がったシルヴィアたちは悔しそうにすることはなく、あれはこうした方が良かったなどと次に向けての反省会を始めていた。
これもカイルたちとの訓練の成果の一つである。
(さすがだなぁ。見習わないと)
結果としては四人生き残った教官側に対して学園生側は全滅ではあるが、モーガンとオリビエは余裕そうな顔をしつつHPがほとんど残っていなかった。
そのため、最後のシルヴィア、ラッセルとはヒヤヒヤしながら戦っていた。
選抜試験でここまで教官側を追い詰めたのはシルヴィアパーティーだけである。
ちなみに、ラッセルは今回の戦いで良いところが見せられなかったため悔しそうにしていた。
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