第127話 vsデイビットパーティー in 選抜試験

 進級試験の後にあるのは、選抜試験である。選抜試験とは学園対抗試合に出るメンバーを決める実技試験のことだ。

 学園対抗試合には三パーティー、補欠が一パーティーの合計二十人が選ばれる。例年、第二学園に惨敗していることから、年によっては押し付け合いにもなることもある。ただし、今年はメンバーに入ろうと思う一級生が多く、気合に満ちていた。


 ピィーという笛の音と共にデイビット、スタンリー、ダスティン、ジェイラス、テッドのパーティーは教官たちに突撃を始める。


(デイビットたちには頑張って欲しいけど、手加減するわけにはいかないからなぁ)


「ヘイルブリザード」


 特級氷魔法『ヘイルブリザード』は虚空に無数の氷の礫が現れ、猛烈な嵐となって的に襲いかかる魔法だ。セージの魔法攻撃力となるINTはカンストであり威力は絶大である。


 今回、セージは選抜試験を免除されて教官と共に立っていた。

 それは、現在の第三学園には魔法が堪能な教官が一人しかいないからだ。そこで、確実に選抜試験を通るセージを教官側の魔法使い役として入れることになったのだ。

 教官役と言っても、セージが合否の判定をするわけではないが、一緒に戦いたいパーティーメンバーを希望することくらいはできる。


(試合に出れるのはいいんだけど、選抜試験を受ける気でいたから何か複雑な気分だな。一人だけ特別扱いっていうのも気が引けるし。あんまり反発は無いようだけど)


 学園生たちの中でセージが選抜試験を免除されることに不満を持つものはほとんどいなかった。たとえ不満があったとしても、それを表に出したりはしない。

 不満を言っても、じゃあセージと戦って勝ってこいと言われて終わりである。

 近接戦闘ならまだしも、対抗試合の条件でセージに勝てる者がいないと全員わかっていた。

 それにセージ以上の魔法の使い手はいないので、当然とも言える。


 また、装備の問題もある。

 対抗試合で使用する装備は決まっていない。これもまた、第一学園が有利な理由だ。例年、第一学園が第二学園に勝つのは装備の差が明確に出ていた。

 第三学園の装備も悪いとは言えないが、第一第二学園に比べると劣ってしまう。


 そこで、今回使用する装備は全てセージから供給されたものだ。

 基本的には自分の装備を使うものだが、強力な装備でないと上級魔法に何度も耐えられない。

 セージはこの試合のために鍛冶師ガルフの弟子、ダリアと元孤児で服飾師のティアナへ発注していたのである。


 ガルフやジッロに頼んだ方が良いものが得られるのだが、超一流の装備を貸し出すのは目立つので止めていた。

 ただ、ダリアとティアナも年齢にしては優秀な腕を持っており、セージの頼む装備はこの世界でそうそう手に入らない性能の物である。

 そして、それが十五セット用意されるのだ。さらにセージは専用装備を持っている。

 そのため、どれだけ安く見積もっても総額は金貨百枚をゆうに越えるだろうと噂されており、完全に目立っていた。

 学園に来ているので比較的裕福な家庭が多いとはいえ、ここまでは手が出ない。


 様々な要因からセージをメンバーから外すことは考えられない。また、魔法使い不足から教員側に立っていないと第一第二学園を想定した試験にならないため、仕方がないとも言える。

 ちなみに、第三学園の中で闘技の首輪を直すことができるのも、生産職をマスターしているセージだ。戦いとは関係がないが重要な役割ではある。


「ロックブラスト」


「フレイム」


「ウィンドブラスト」


「マグナウェーブ」


 セージの『ヘイルブリザード』に続いて、教官のオリビエ、サイラス、モーガン、アドルフが順に地、火、風、水の上級魔法を発動する。

 これらの教官に加えてセージが入り、五人パーティーである。


 アドルフはこの中で最も若く、実技ではサブに入ることが多いのだが、戦士にしては魔法も使える万能タイプである。

 ちなみに、魔法専門の教官であるオリビエはもちろん、サイラスも魔法は得意だが、モーガンは苦手である。モーガンは今年の試験官になりたくはなかったが、他に適任者がいなかったので渋々引き受けていた。


 戦いは第一学園を想定しているため、試験はまず魔法の連打から始まる。

 試験を受ける学園生たちはその魔法の嵐の中を突っ切り接近しなければならない。

 中には魔法を使えるようになった者もいるが、それは遠距離攻撃ではなく、接近戦で戦闘するための補助としての役割だ。

 セージ相手に遠距離で魔法を撃ち合おうとする者などいない。


(おっ、デイビットたちは結構耐えてそう。さすがだな)


 セージは魔法を受けたときの反応で受けるダメージを想定していた。

 魔法防御力によって受ける衝撃が異なるからだ。高い魔法防御力を持っていれば、『ヘイルブリザード』の中を駆け抜けることもできる。

 また、教官たちは燃え盛る炎や飛来する岩に怯まず突撃できる精神力も確認している。


 デイビットたち五人は全員魔法を抜けてきていた。

 全員離れてバラバラに走っているため、五発全てを受けたわけではないが、セージの特級魔法を含めて三発巻き込まれたジェイラスも耐えている。

 セージの装備によってダメージは減少し、衝撃も軽減される。それでも、やはり魔法攻撃を何度も受けるのは厳しく、教官パーティーに接近する前に倒れる者もいた。


(でも、欲を言えばもう少し魔法防御力が欲しいな。特級魔法でも難なく抜けれるくらいには。また勉強会しようかな)


 セージは学外訓練に行く前、ステータス向上勉強会を数度開いていた。全員参加したわけではないが、思ったより多くの一級生が参加し、実際に魔法防御力に関わるステータスのMNDが上昇している。


 そして、デイビットたちは接近戦に持ち込む。デイビットたちの作戦は一対一で戦うことだ。

 教官の方が強いのだが、魔法使いのオリビエなら近接戦闘で倒すことができる。他の教官とは防御重視、セージには魔法を使わせないように戦い、援護を待つ。

 何とかこれで勝てる可能性があると考えた。


 しかし、そう上手くはいかない。

 オリビエは魔法専門の後衛だが、だからといって戦えないわけではないのだ。

 近接戦闘において剣はほとんど使えないが、その分盾を使った防御に全力を出していた。その盾さばきは前衛の教官に引けを取らない。

 低いVITは装備で補い、スタンリーの猛攻に耐える。


 もう片方の後衛であるセージはテッドの攻撃を受け流して反撃する。

 テッドもセージの剣を盾で受けて反撃。

 しかし、テッドが剣を振るう瞬間、セージは全力で後ろに飛びながら魔法を発動する体勢をとる。

 テッドが慌てて追撃しようとするが間に合わない。


「フロスト」


 上級氷魔法が発動。テッドだけでなくスタンリーとダスティンも一瞬氷に包まれる。

 その瞬間を見逃すはずはない。

 セージは流れるように剣を振るう。


「メガスラッシュ」


 テッドは防御せずに特技を繰り出した。


「メガスラッシュ!」


 セージは横に移動しながらその剣閃を盾で受け流し、さらに反撃する。


(さすがルシィ。もっと教えてもらいたいなぁ)


 近接戦闘中に無理なく魔法を使うことは難しい。

 セージが行った魔法発動の動きはルシールから教えてもらったものである。

 ルシールはソロで魔法を使いながら戦う時もある。戦闘中に魔法を使う一瞬の余裕ができるタイミングを作ることが重要だった。


(もう少し近接戦闘についても考えないと。さてそろそろ終わるか)


 ダスティンを倒した教官アドルフがテッドを後ろから襲撃。なすすべなく倒れ、それを皮切りに次々と倒された。

 全滅と共に闘技の首輪の特性で麻痺したデイビットたちが治療されていく。起き上がった者は皆悔しそうにしているが、この戦いは優秀な方であった。


(デイビットたちはメンバーに入れそうな感じだけど、シルヴィアたちが強かったから印象は薄いなぁ。というかベンが強すぎ)


 様々なパーティーの中で飛び抜けていたのが、デイビットたちの試験の前に戦ったシルヴィアのパーティーだった。


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