第112話 ちゃんばらトリオ2

 HP0事件から、セージがブレッドたちの訓練にたまに訪れるようになった。

 セージは早く強くなりたかったのだ。HPが減っても恐れずに向かってくる姿に、ブレッドたちは自分たちの不甲斐なさを知った。

 セージとしてはHP0でも死なないと分かれば、HPは減れば回復すればいいという程度のものでしかない。HPが回復されるので、ブレッドたちの訓練も捗り、HPが減ることに慣れていく。


 また、セージはブレッドたちから学ぶことも意外と多かった。

 魔物の解体方法や新しい魔物の情報、武器の整備のやり方など、知らないことは貪欲に聞いていく。

 セージの知識はゲームに偏っている。

 新しい地域はわからないし、魔物の解体や武器の整備の方法ももちろんわからないのだ。


 そんなセージと共にいることでブレッドたちは徐々に変わってきた。

 今までギルドでの仕事を嫌々やっていたが、何とかして技術や知識を得ようと取り組み始めた。

 それに、戦闘訓練でも強くなろうという意思でHPが減っても食らいつくようになった。


 そうすると、徐々にギルド内や常連の冒険者から目をかけられるようになる。

 十二歳になった時、ギルドの仕事を減らして冒険者になったのだが、仕事仲間からは上手くいかなかったら戻ってこいと声をかけられるほどになっていた。

 冒険者を続けられる者は少なく、特に若い時は上手くいかずに無茶をしやすいので、口を酸っぱくして注意する者もいた。

 そんな心配とは裏腹に、ブレッドたちは冒険者として少しずつ実績を積み上げた。


 セージほどではないがランクを意識しており、全員冒険者になる前からスライム狩りをしていたこともある。そこではセージの勧めによって全員商人をマスターしていた。

 その後は聖騎士を目指していたが、これもセージの勧めでブレッド、マイルズ、フィルはそれぞれ盗賊、旅人、魔法士をマスターした。

 これが役だったのである。バフや魔法があることで戦闘の効率が上がり、盗むや鑑定を使うことで旅の効率が上がる。

 そして、ラングドン領都や別の地域にまで活動範囲を広げた。

 苦労や失敗もあったが、17歳という若さ、かつ三人組という少人数ですでに三級冒険者になっていた。


 ある日、領都にある冒険者ギルドで、魔物の大量発生の情報が流れてきた。

 ラングドン領の南にある元ナイジェール領、現グレンガルム王国領にあるソンドン洞窟で、魔物が大量に発生しているという話だ。

 ソンドン洞窟とは王国内でも珍しいほど巨大な洞窟で、入口の高さは百メートル以上ある。奥に進むとさすがにそれほど大きくはないが、大型の魔物が暴れるだけの空間はあり、強力な魔物が出現しやすい。


 元ナイジェール領は現在、王国の第八騎士団がメインとなって統治している。ただ、人手は足りていなかった。

 塩が豊富に取れ、王都で使われる塩の半分はナイジェール産と言われている。他にも有用な素材が得られる魔物などもいるが、王国としては塩が最も重要であった。

 ナイジェール崩壊後、ウルニ塩湖からの盗みが増加したり、仕事を無くした者が悪事を働き治安が悪化したり、問題が多くて第八騎士団だけでは警備と再建は難しい。

 しかし、王国としてはアーシャンデール共和国との国境線とウルニ塩湖が重要で、他のことは大して興味がなかった。


 また、王国貴族の中にもナイジェールの領主になりたいという者はいなかった。

 王都から最も遠い最南端、そしていつ動くかわからない神霊亀を抱える領地となると仕方がないことである。

 そして、ソンドン洞窟は現在の主要な道から離れた所にあるため、第八騎士団からも放置されていたのだ。ただ、大量に魔物がいるとわかっても、第八騎士団が動ける余裕はない。魔物の脅威はどこにでもあり、治安維持、街道の警備など、すでに手が足りていない状態である。

 そこで、冒険者ギルドに依頼が流れたのだ。


 ブレッドたちがたまたまラングドン領都に戻った時、ちょうど話が伝わってきた所で、すぐに行動を開始した。

 それはレベル上げのためである。

 実はブレッドたちは勇者になり、レベル51に到達していた。ソンドン洞窟の魔物はちょうどいいレベル帯であったのだ。


 そして、領都からケルテットの町を抜けてソンドン洞窟に行く時、久しぶりに孤児院に寄ろうと考えた。

 自分たちがケルテットから離れて忙しくなったということもあるが、レイラが嫁いでいなくなり一番下だったセージもすでに孤児院を出ている年齢で、何となく疎遠になっていたのだ。

 お土産として、保存食や領都で買った甘味などを持って孤児院を訪ねると、異様な雰囲気であった。

 どういう状態かわからなかったが、明らかに異種族に見える者たちが二パーティー分ほどいて、ミランダや孤児たちは戸惑っている様子だ。


「おいっ! 何やってんだ!」


 それを見てブレッドは大声で威嚇した。しかし、頭の中は冷静である。

 戦闘になった場合、誰から狙うか、ボスは誰か、見極めようと観察し、目を見開く。


「あれ? ブレッド? マイルズとフィルも久しぶり! まさか会えるなんて奇遇だね」


 気楽な声を出して現れたのはセージだ。ブレッドは困惑しながら問いかける。


「……おう、奇遇だな。で、これはどういう状況なんだ?」


「どういう状況って、ちょっと用事があったから寄っただけ?」


「異種族が多いみたいだが」


「そうだね。でも人族が一番多いよ? あっ、この人は小人族じゃなくて一応人族だからね」


「一応じゃなくて人族、ってこれ何回目?」


「いや、緊張感をほぐそうと思って。ほら、警戒を解いてよ。みんな僕の知り合いだから。それに、ジッロさんとトーリさんは知ってるでしょ?」


 そう言われると確かに見覚えがあった。ただ、人族にとって異種族を見分けるのは難しく、トーリとヤナも並んで比べなければ違いがわからないだろう。

 ここまで雑多な種族が集まるなんてケルテットではまず無いこと、しかも、荒くれ者が多いと言われる獣族までいる。

 何か問題が起こったと思うのは当然のことだ。

 ブレッドたちはセージが現れてからも警戒はしていた。しかし、ふとそういえばセージはこんなやつだったなと思い、戦闘態勢をやめる。

 異種族なんてことを気にせず急に大勢で孤児院に押し掛け、皆を困惑させるセージを想像できたのである。


「セージ、ここに来るまで目茶苦茶目立っただろ」


 その言葉にセージは「うーん」と考えて、他の者を見る。目立つことに慣れている者や周りを気にしていない者ばかりだったが、ベンとエイリーンは何度も頷いていた。


「まぁ目立ってたみたいだね」


「……久しぶりにあったけど、ホント変わらねぇな」


「久しぶりってそんなに経ったっけ? 二年振りくらいにはなるのかな?」


「そんなもんだ。ヘンゼンムート領の方まで行ったりしてなかなか戻って来てねぇし」


「そうだったんだ。何か用事があって帰って来たの?」


「いや、これからソンドン洞窟に行く予定でよ。ケルテットも通るからついでに寄っただけだ」


 そこでセージの目がキラリと光る。


「ソンドン洞窟って、確かレベル50推奨のフェイクコアトルとかアックスオーガとかが出てくるとこだよね? わざわざナイジェール領に、ってことは大量発生とか?」


「……良くわかったな」


 ブレッドが感心したように言うが、魔物の大量発生を求めているセージとしては当然考える所である。

 何もないのにわざわざ元ナイジェール領のソンドン洞窟に行くとは考えられなかった。

 元ナイジェール領はグレンガルム王国の南端である。高レベル冒険者が南のアーシャンデール共和国に出入りするのはややこしく、東西は大樹海とウラル山脈に挟まれている。

 移動だけで金と時間を費やし、他に行き場所もなく、神霊亀という危険もある。

 何もなければ行かないだろうと考えたのだ。


「ブレッド、パーティー組もうよ。一緒にソンドン洞窟に行こ。僕とベンが入ったらちょうど五人だし。あっ、ベンも行くよね?」


 ベンは良くわからないまま頷く。

 セージは適正レベルの魔物の大量発生と聞いて、聞き流すことはできなかった。

 情報を聞いた相手から魔物を横取りするわけにはいかないので、それなら一緒に行こうという魂胆である。


「セージはさすがにまだ早いだろ。それに俺たちは、なぁ」


 ブレッドたちは顔を見合わせる。レベル51であり、パーティーになればすぐに上級職であることがわかってしまう。

 実はセージはブレッドたちに勇者のなり方を想定して教えていたのだ。この世界で上級職は特別だが、当時のセージはまだあまり理解していなかった。

 勇者になれたのはセージのおかげなので明かしても良いのだが、ベンのことはわからないので言い淀んだ。

 しかし、セージは気にせずパーティー申請を送る。


「申請出したよ。承認よろしくね。ベンさんもブレッドに送ってくださいね」


 ブレッドは仕方なくセージを承認して、表示されたステータスに目を見開いた。

 セージのHPは普通だが、レベル52でMP9999である。薄々セージも上級職じゃないかと思っていたが、人族でMP9999はあり得ない領域だ。

 人族の魔法使いなら王国魔法騎士団でもその半分にも満たない。


「おっ、ベンさんと同じレベルだ。ランク上げにちょうどいいね」


「えっ?」


 ブレッドたちはさらりと明かされるその言葉にまた驚く。

 いつの間にか上級職は誰でもなれるような職業になったのかと混乱しながら、申請を許可するのであった。

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