第81話 日常訓練とラッセル

 学園の一級生のスケジュールは歪だ。半年で学ぶ予定の座学を始業式から一、二ヶ月間に凝縮して学び、その後学園対抗試合に向けてランクとレベル上げに勤しむのである。


 セージは最初座学にはあまり期待していなかったが、受けてみると意外と楽しかった。

 自信を持っていた魔法学であっても知らないことがあったからだ。

 魔法についての議論はエルフ族であるヤナとしかしたことがなかった。エルフは魔法とは何かという所や魔法言語解析など魔法の原理を学ぶことが重要だと考えている。


 しかし、人族は実用的だ。魔法の原理については三級生の間で終わるくらいしか学ばない。

 それよりも、どの魔法が何秒続き、どれだけMPを消費し、ステータスによってどれだけダメージを与えるかなどということや、呪文詠唱をどうすると失敗するかなど、実際魔法攻撃を使用したり受けたりする時に必要な知識が多かった。

 一人では検証しきれないこともあるため、こういったデータは興味深かった。

 その他にも魔物がこの動きをしたときには噛みつきの攻撃でこんな音がしたら魔法が来るなどが学べる魔物行動学など楽しく聞いていた。


 座学を詰め込むとは言え、体を動かさないと鈍るため、一日二時間は必ず実技訓練がある。

 ちなみに訓練では闘技の首輪は使わず、ダメージ量は申告制だ。あまりステータスに差があるとすぐにHPが減ってしまい訓練にならなくなるため、ある程度相手は決まっている。

 セージは第三学園の中では高レベルだが、元々近接戦闘のステータスは低く、職業は探求者に変更している。攻撃力が低く耐久力は高いため訓練には適しており、多くの学生と勝負することができた。


 ただ、セージは基本的に勝負に負けている。

 訓練は魔法や特技なしで純粋な剣技の勝負が多いからだ。学園生たちは魔法や他の特技を織り混ぜた訓練もしたいが、そもそもまだ使えないのである。

 セージの場合は、本気で魔法を使うと訓練にならないというのもあるが、剣技を鍛えるために魔法を使わないようにしている。


「やっぱり守り過ぎな部分があるね。もう少し大胆にいけたらいいんだけど。特に攻め時は」


「そうですね。でも、どうしても反応してしまって。頭ではわかっているんですが反射的に動いてしまうんですよ」


 ライナスたちはHPに守られていることに慣れているため、攻撃が当たろうと押しきる、肉を切らせて骨を断つような戦法がとれる。

 しかし、セージはHPがあるとわかっていても、剣が少しでも当たりそうなら守る、避ける動作が出てしまうのだ。

 この世界に来て何年も経つが、その間も近接戦闘は極力避けてきた。近接戦闘といえば騎士団の訓練くらいで、一朝一夕で身に付くようなものでもない。

 そもそも剣の技量自体も負けており、勝てる要素がないのであるが。


「でも、安心するよ。完璧過ぎて人じゃないんじゃないかと思っていたけど、剣技だけなら余裕で勝てるんだから」


「当たり前じゃないですか。勝てないからこそあれだけ魔法と特技を乱発していたんですからね。特にライナスさんには」


「それは光栄なことだね。でも、魔法と特技がありでも勝てるようになるつもりだから」


 ライナスが微笑みながらセージに答える。

 もう訓練も終わりの時間になったとき、二級生が一人駆け寄ってきた。


「セージっ! 勝負しろぉ!」


 息を乱しながら宣戦布告しに来たのは元グレイアム男爵の息子ラッセルだ。

 没落して第一学園どころか第二学園にも入れず、仕方なく第三騎士学園に来た者だ。ラッセルは半年毎に進級、一年半で卒業して誰よりも早く王国騎士団に入ろうと画策していたが、最初の昇級試験では落第してしまい一晩中泣いていた、という情報をセージはベンから聞いていた。

 そんなこともあり、入学して即二級生で、さらに一級生の扱いになっているセージに突っかかって来たのである。


「勝負はいいですけど、魔法はありですよね?」


「いや……こ、今回は魔法無しで勝負だ」


 実はセージとラッセルは一度戦っている。魔法ができるからといって一級生と同じなのはおかしい、俺だって魔法は得意だから同じ扱いにしろ、ということで決闘を申し込まれたのだ。

 その戦いでセージは高速でファイアボールを打ち込み続け、ラッセルはそれに対応できずに負けている。


「あれ? いいんですか? 魔法が得意とのことでしたが」


 あえて丁寧に答えるセージにラッセルは顔を赤くする。


「お、俺は剣の方が得意なんだ! 騎士なら正々堂々剣で勝負しろ!」


「剣が得意だったんですね。特技はありなんですか?」


「当たり前だ!」


「では勝負しますか」


「おう! かかってこい!」


 セージは一定距離離れ、ラッセルに手を向ける。


「始めてもいいですか?」


「いつでも来い! 魔法使ったら反則負けだからな!」


 セージはその言葉にニコリと笑って、ラッセルに手を向けたまま立ち、そのまま動かない。


「来ないなら俺から……!?」


 セージの手が光ったと思うと、そこにはラッセルが持っていた剣が握られていた。セージはその剣を振りかぶる。


「ナイフスロー」


 ラッセルと反対方向に投げ飛ばした。高速で飛んでいく剣に焦るラッセル。


「おい! お前っ……!」


「正々堂々、剣で勝負です!」


「卑怯だぞっ! 誰か剣をっ!」


 ラッセルは近くにいたライナスを見るが、ライナスは笑顔で投げ飛ばされた剣を指差した。

 当たり前だが、試合で他者が手助けするようなことがあってはならない。試合開始の同意があり、特技が有りなので、ルール上何も問題はないのだ。『スティール』を受けたとしてもそれは油断する方が悪いのである。


 ラッセルが戸惑っている内に、セージは斬りかかった。ラッセルは盾で防御するが剣で反撃することができない。


「ガゼルパンチ」


 武闘士の特技をラッセルは右手で防御しようとして失敗。顎に強打が入る。

 そして、倒れようとするラッセルに連続技を繰り出す。


「アルマーダ」


 狙いは盾を持つ左手。セージの回し蹴りに対応出来ず、ラッセルの盾は弾き飛ばされた。

 そして、セージはチャンスとばかりに追い討ちをかける。


「メガスラッシュ」


「うぉっ! おいやめっ!」


 止めようとするラッセルを無視してセージは剣を振りかぶる。


「メガスラ……」


「降参! 降参だ!」


 ラッセルはセージの容赦ない攻撃に慌てて降参する。打ち下ろされようとしていた剣が止まった。


「はい。僕の勝ちですね」


「くっ、卑怯だぞ! 正々堂々って言っただろ!」


「えぇ、魔法を使わずに剣で戦うんですよね」


「俺の剣盗んだだろ! それにお前、全然剣使っでっ! 痛ってぇ……あっ、あれ? 教官?」


 頭に拳骨を落とされたラッセルは後ろを見て教官がいることに気付く。


「何をやっている。早く戻れ」


「いや、こいつが卑怯なことをしてきたんです! 剣を盗んだり、盾を蹴り飛ばしたり、何も持っていない俺に攻撃をしてくるんですよ!」


「それは反則だとルールを決めていたのか?」


「ルールは魔法禁止で反則ではありません。ですが……」


「だったら、何故戦おうとしない? 装備を奪われることは騎士として生きていく中で必ず起こるだろう。その時に、剣を奪うのは卑怯だと、武器を拾うまで待ってくれと言うのか? それを聞くやつがどこにいる」


「ですが、正々堂々剣で勝負だと言いました!」


「ラッセル。この前、魔法で負けてたよな? それで一方的に魔法を禁止して、今度は盗賊と武闘士の特技も禁止するつもりか? それが正々堂々だと言うんだな?」


 ラッセルは口を開いたが、次の言葉は出てこなかった。悔しさのあまり俯いて、涙を浮かべながら黙り込む。その時、カーンと鐘が鳴り始めた。


「戻るぞ、ラッセル。剣を拾ってこい」


 ラッセルは何も言わずに敬礼して、パッと背を向けて駆け出した。それを見て教官はセージに向く。


「セージ、戦いを見ていたがあまり褒められた戦い方ではないな。勝つことは第一だが、騎士は戦い方も求められるものだ」


「申し訳ありません。サイラス教官の配慮で一級生に混ぜていただいた手前負けるわけにはいかず、戦いで圧倒することを優先しました」


 睨みを利かせる教官にセージは敬礼しながら飄々と答える。実際にはサイラスがセージに一級生に混ざるように頼んだことだが、セージはあえてそう表現した。

 教官は少しの間セージを見て、ふと表情を緩める。


「なるほど。サイラス教官がお前を目にかけているのもわかるな」


 そう言うと、教官はラッセルを連れて去っていった。


 その後、セージはライナスたちから「ちょっとやり過ぎじゃない?」と言われたが、次の日「セージっ! 勝負しろぉ!」とラッセルが絡んできたのを見て、皆呆れるのであった。

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