~リュブリン連邦編~

第82話 学外訓練の始まり

 セージの学園生活は意外と順調だった。

 授業は興味深いし、ベンの所では魔道具師のランク上げが捗る。

 デイビットたちとは良く話すし、実技では今までおろそかになっていた近接戦闘の訓練になる。

 試合形式になると、ラッセルだけでなくシルヴィアやライナスなどもセージと戦いたがるので充実していた。


(思ったより馴染めている気がする。避けられなくてよかったー。学園生活で青春したい、みたいな願望はないけど仲良くできるのに越したことはないし)


 セージが受け入れられたのは、第三学園では上級魔法を見ることも珍しいくらいだったこと、そして学園生活が始まってすぐの戦いだったことが大きい。

 この世界では勇者のように飛び抜けて強い者が存在し、第一学園の同級生にもいることはわかっている。一級生たちはセージはそういう存在だと大雑把に認識したのだ。

 実際のところは、第一学園で勇者や特級魔法が使える者など一握りだ。加えて、全てをマスターし、魔法系ステータスがカンストするような者などいないのだが、疑問を持ったのはシルヴィアくらいである。

 そのシルヴィアも、特級魔法がそんなに簡単なものじゃないと言いたかったが、皆が納得していることもあり、少し魔法から離れている内にそんな時代になってきたのかと困惑していた。

 それに、魔法や特技を使わなければ意外と弱いという事実も、安心感を与えるのに役立っていた。


 一級生たちだけでなく教官にも受け入れられている。剣技だけの場合、セージは一級生に混ざるには拙いのだが、真面目に取り組む姿に好感を持たれていた。

 地味に影響を受けていたのは魔法学などを受け持っている教官である。入試の成績も知っており、セージが来る授業ではプレッシャーを感じ、入念に準備をするのであった。


 ちなみに、セージの出自は孤児院で親もわからないという情報から、王が平民に手を出して産まれた子供だとか、公爵家の娘の家出事件と関係があるとか、様々な憶測が流れていた。

 そのため、第三学園で最近の話題の中心にいるセージだったのだが、本人は全く気付かず過ごしていた。


 そんな日々を過ごしながら二ヶ月ほど経ち、ここからレベル・ランク上げに集中することになる。学外訓練の始まりである。

 特に学園対抗試合に参加する候補者は重要であり、四ヶ月間でレベル上限まで上げることが目標である。

 基本的にランク上げは二級生までで終わっており、中級職の者ばかりである。それに、剣の基礎がしっかりしており、魔法や魔物に対する理解もある。レベルを上げるだけであれば十分な期間であった。


 ただ、今回は新たな職業をマスターするという目標もあるため、二ヶ月を待たずにレベル・ランク上げに行く者もいるくらい慌ただしかった。

 こんなことは例年では考えられないことである。

 五人三パーティーで全十五名が選抜されるのだが、実はそれほど人気がない。

 どこかで第二学園に勝てないと思っているからだ。観客の前で一蹴される所を見られたくはないのである。


 しかし、今回は異なった。特に直接セージの戦いを見た上位グループはパーティーメンバーに入ることを目標に訓練していた。

 試合の後日にセージが開催したMND向上講座も盛況で、職業も攻撃特化で武闘士になる者や補助のため旅人になる者、はたまた魔法士になる者など様々である。

 各自の意識が変化していることにセージは嬉しく思っていた。


 ちなみに、二級生まではレベルよりランクを上げて確実に聖騎士になるようにしている。聖騎士をマスターしてからレベルを上げないのは、適切な訓練と体作りをするためだ。

 ステータスのある世界でレベルの影響は強力である。力任せの戦い方になったり、体に負荷がかかりにくくなったりするのだ。

 MPが足りなくて特技が使えないと困るため、ある程度のレベルは必要だが、普通は聖騎士をマスターした時点でそれなりのレベルになっている。

 なので、基本的に二級生の間はレベル上げをしないように言われているのである。



 セージも学園から出てランク上げに勤しもうとしたのだが、そのためにはパーティーを組まなければならない。

 ソロで魔物の討伐は危険なため、必ずパーティーを組まなければならない。

 そこで、今回セージが組んだパーティーメンバーはシルヴィア、ライナス、チャド、ベンの四人だ。

 シルヴィアとライナスは一緒に訓練することが多く、ベンは魔道具師仲間だ。

 チャドは野心のないタイプで余っていただけである。高レベルで本気を出せば学園一速いとも言われているが、生活面はゆったりしているという人物だ。


 この四人はすでにレベルが高く、レベル40台だった。二級生の時点でそれなりのレベルがあり、さらに一級生になる前の休みの期間にレベル上げに取り組んだからだ。

 しかし、冒険者としての活動はしていなかったので、級はセージの六級が最も高い。

 シルヴィアたちは、低級冒険者で受けることができる依頼がレベル上げに適していなかったため、冒険者として動いていなかった。


 今回も冒険者としては活動できないのだが、それでもまずは冒険者ギルドに行き情報収集をする。危険情報や魔物の発生状況などを確認するためだ。情報収集は基本中の基本、時に命に関わるので欠かすことはできない。


「ウラル山脈のストーンゴーレムの討伐、ラミントン樹海のコブラキングの皮の納品、ヴォルタ湖周辺のドラゴンモドキの討伐、あとは……」


「ラミントン樹海でいいんじゃない?」


 ベンが自分たちに合った依頼を探しているとチャドが気軽に提案した。

 シルヴィアは依頼をしっかり確認して、チャドの提案に同意する。


「そうね。この中だと一番近いし、魔物も多いみたい。この中では良い依頼じゃない?」


 魔物は無限に現れると言っても過言ではないが、増減はする。一度根絶やしにすると数が回復するまで時間がかかる。特に強力な魔物は長時間必要だ。

 多くの者にとって魔物は少なければ少ないほど良いが、冒険者の場合は魔物がいない所に行っても金にならないので適度に多い場所が良い。

 そのような所を探すためにも情報収集は欠かせないのである。


「それじゃあ決まりだな。セージもそれで良いか?」


 ライナスの言葉にセージは頷く。


「良いですよ」


(本当はウラル山脈の方に行きたいけど)


 セージとしては特技の収集のためストーンゴーレムと戦いたかったが、内心を隠して答える。

 セージなら問題ないが、他のメンバーは物理攻撃メインである。防御力の高いストーンゴーレムとは相性が悪く、物理攻撃メインだと戦いたくない相手だろう。


(まぁでも、良い魔物が見つかるかもしれないし。ウラル山脈はラングドン領から見えてたけどラミントン樹海は全く知らないから楽しみだな)


 ちなみに六級冒険者では当然、ラミントン樹海の依頼を受けられない。その場合、コブラキングの皮を納品しても、買い取りはされるが依頼料は貰えなくなる。

 外での活動は全て自費になるので資金的に困るところだが、騎士団を目指している四人にとって、それよりもレベルとランクを上げることの方が重要なのだ。


 全会一致で決定し、早速馬車にのってラミントン樹海に向かうのであった。

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