第76話 作戦会議
シルヴィア率いる五人パーティー対セージの試合が始まろうとしていた。
試合の場所はサッカー競技場のような形の闘技場だ。各学園に一つずつあり、対抗試合は第一学園の闘技場で行われることになっている。
試合は闘技の首輪という専用装備をつける。
闘技の首輪は装備品ではあるが防御力は0だ。闘技の首輪の効果は、装備すると回復魔法が効かなくなり、HPが0になるまで外れない。
そして、HP0と同時に外れて首輪をつける前のHPに戻り、状態異常『麻痺』になるというものだ。
これはFSのゲームでは直接的には出てこない物である。
闘技場自体は出てきており、そこでの戦闘は回復禁止である。回復魔法を使っても回復しなくなるのだ。
ゲーム上はそのシステムについて詳しく書かれていなかったので、その設定を知ったときセージは密かにテンションを上げていた。
試合のルールとしては、闘技の首輪が外れると退場となり、全員の首輪が外れた時点で負けとなる。
麻痺で倒れた者に対して攻撃すると、そのチームは失格となる。
闘技の首輪は学園以外でも王国騎士団の模擬戦や年に一回行われるトーナメント戦に使われていたりする。
普段使われることは稀だ。つけていれば一撃で倒れることはないとはいえ、回復が出来ないので確実にHPが減っていき、麻痺で倒れるからである。
さらに、外れた後は技工師に直してもらう必要がありコストがかかるため、そう簡単に使うことは出来ない。
今回は事前に申請していたので闘技場も闘技の首輪も使用に問題はなかった。
教官の独断で急に話を進めているように見えるが、実のところ事前にセージと相談して決めたことだ。話を聞いてもらい真剣に訓練に取り組んで貰うため、強さを示す必要があると考えたのである。
そんなことは知らないシルヴィアたちは作戦を立ててセージを叩き潰そうとしていた。
今回パーティーに選ばれたのはシルヴィアとライナスの他にチャド、ハドリー、ゴードンの三人だ。
この五人で作戦を立てる、とはいえ魔法が使える者はシルヴィアだけで、シルヴィアも魔法が得意とまでは言えない。
作戦といっても全速力で近づき多方向から攻撃を仕掛けるくらいなので、決めることは立ち位置くらいである。
「私とライナス、チャドが先行ね。ライナスが右、チャドが左、私は中央を行くわ。ハドリーとゴードンは少し離れて中衛としてついてきて」
まずはシルヴィアがそう提案する。
大雑把な作戦だが、セージが魔法を使うことはわかっており、魔法使いに対してはまず接近することが一番だ。シンプルに動く事が最も効果的なのである。
「俺らはなんで中衛なんだよ。全員前衛で良いだろ」
シルヴィアにハドリーが問いかけた。同じく中衛のゴードンもそれに頷いている。
もちろん全員前衛で相手に早く接近することにもメリットがあるため、シルヴィアは肯定する。
「そうね。けれど、切り札があるかもしれない」
ただ、シルヴィアは教官が自信を持って戦わせるということは何か対策があるのだと考えたのだ。
「切り札? そんなのあるのかよ。五人相手だぜ?」
「そうね。例えば……特級魔法とか」
「はぁ? 使えるわけねぇだろ」
ハドリーは呆れたように言い捨てるが、ライナスはシルヴィアに同意する。
「いや、可能性はある。授業の合間にスタンリーから聞いた。特級魔法かはわからないが、見たことのない強力な氷魔法を使っていたらしい。始まってすぐにそれを放ってくるかもしれない」
ライナスはセージと異なる授業だったが、仲が良さそうにしていて一緒の授業のスタンリーに聞いたのだ。
「どうだかな。あいつは氷魔法なんて見たことねぇだろ。中級魔法と間違えたんじゃねぇか?」
「そんなわけないじゃない。特級魔法じゃなくても最近新たな修飾魔法詞の話も聞くわ。何にしても強力な魔法を使ってくることは想定しておくべきよ」
そして、ライナスもシルヴィアに続いて注意を促す。ライナスもセージを警戒していた。
「それにレベル51だ。もしかしたら勇者になっているかもしれない。となると、特技は強力、ステータスの上昇も大きい」
「それこそありえねぇな。レベル51なんてはったりだよ、はったり。まったくビビりすぎじゃねぇの。ライナス、負けたからってそりゃないぜ」
「ハドリー、油断しないで。試験でも授業でも優秀なことはわかってるでしょ」
「つっても、特級魔法に勇者だぁ? そんなやつがこんなところにいるわけねぇだろ。それにな、授業で優秀だからって強いのか? それなら俺ももっと勉強してやるよ」
「教官も認める実力があるのは事実よ。セージも余裕がありそうだし」
「そりゃ引っ込みつかなくなってんだろ。意地になってるだけだ」
「ハドリー!」
シルヴィアは大きな声を出してハドリーを睨む。ハドリーは勢いに押されたかのように怯んだが、すぐにその視線を手で払い答える。
「はいはい。わかってるよ。俺達は広範囲の魔法を避けられるくらい離れてついていく。それで良いんだろ? けどな、グダグダ言おうと魔法を一発耐えりゃ止めるやつはいねぇ。囲んで終わりだ。それに変わりはねぇからな」
投げやりに言うハドリーだが、言っていることはまともだ。シルヴィアもそれはわかっていた。
(その通りね。普通なら一人では絶対に対応できない。でも教官もそれをわかっているはず。何があるっていうの?)
お互いの開始位置は五十メートル以上離れている。ただ、この世界の者はステータスにより強化されているため、装備を着けていたとしても動きは速い。
初撃の魔法を唱えた後、前衛が接近するまでの時間は短い。それでは、二撃目の魔法を唱えることは出来ないのが普通である。
そのため前衛が攻撃を止めて後衛が魔法を唱える時間を稼ぐのが基本戦略なのだ。魔法使い一人ではどうしようもない。
「とりあえず、前衛、中衛に別れて離れて行動。後は全力で近付いて攻撃。これでいいね? 一発目の魔法は言っていた氷魔法の可能性が高いけど怯まず突撃しましょう」
「呪文を唱えながら逃げた場合はどうする? それにスタンリーが見たことのない速度で中級魔法を使うとも言っていたぞ」
「またスタンリーかよ。ライナス、からかわれてんじゃねぇの?」
ハドリーがライナスにまた絡む。ハドリーは力だけでいうと一級生トップであり、魔法や特技無しの戦いであればシルヴィアやライナスと互角の戦いができる。
ただ、一級生全体の認識としてはシルヴィアとライナスがツートップであり、ハドリーにとって面白くない。それもあって突っかかっているのだ。
「ハドリー、油断するなって言ってるでしょ」
「適当言ってるんじゃねぇよ。逃げながら呪文なんてそんな賭けをするか? 失敗したらどうする」
多くの魔法使いはあまり動かない。息が詰まったりすると呪文が正確に唱えられず発動しないことがあるからだ。
だからこそ前衛が必要になるのである。
「けれど、入試の時も戦闘中に中級魔法を使っていたわ。使えると思っておいて。でも、逃げるにしてもここの広さは限られているし、魔法を使う時は必ず止まる。どうなっても突撃することには変わらない。もし中級範囲魔法がきたらライナスは右、チャドは左から避けて回り込んで。私は中央突破する」
「中央突破? 魔法に対してか?」
シルヴィアは教官とのやり取りだけでなく五対一で戦うことに不満があった。
速攻で終わらせてやろうと画策しているのだ。
「そうよ。近付かれるのを一番嫌がるはず。それならウォール系、ファイアウォールを使う可能性が一番高いわ。その時は魔法に飛び込んで速攻を仕掛ける」
「速度低下の祈りには注意しろよ。防ぐことができなくても、分かっていれば対処しやすい」
「わかった。不意をついて攻撃するから、回り込んで逃がさないようにね」
五人が集まり作戦会議する間、セージは離れたところで羨ましそうに見ているのであった。
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