第75話 シルヴィアは反抗する
学園にカーン、カーン、カーンと一定のリズムで三回鐘が鳴り響く。これは区切りの時間を示す鐘である。
避難や戦闘準備の鐘の叩き方もあるのだが滅多に使われることがない。
(さて、次は戦闘訓練ね)
一級生向けの授業だったため、教室にいた者全員が訓練に向けてきびきびと行動する。
シルヴィアは一級生に混ざって行動するセージを見ていた。
首席であるシルヴィアは、セージに対して分からないことがあれば聞くように言っており、12歳ということもあるので気にかけていた。
しかし、少しの戸惑いはあるようだが、特に困った様子はない。
なぜかデイビットのグループと仲が良くて、一緒に行動しているということもあるが、元々何となく学園のシステムがわかっているようであった。さらに授業では難解な質問でさえ容易に答えており、すでに一級生のクラスに溶け込んでいるようだ。
(本当に孤児院出身なの?)
だからこそセージの不自然さがシルヴィアには感じられた。
これは学園生活二日目のことである。学園に来るまで孤児院で暮らしていた子供が学園生活に馴染んでいることに違和感があった。
孤児院で集団生活をしていると言っても、ここでの生活とは大きく異なるからだ。
セージは授業の合間の時間に色々と質問されており、それをシルヴィアは関心がないふりをしながら聞いていた。
五歳で孤児院に拾われて、十歳から鍛治屋で働いている。
モンスターの大発生でたまたま活躍でき、ラングドン家から推薦をもらって学園にきた。
運良く入試での成績が高く、試験を受けて二級生になり、九月の試験で一級生になる予定だからこのクラスに来たという。
(いや、意味がわからないから! ずっと孤児院で暮らして鍛治屋で働いていた子供がどうやってモンスター相手に活躍するの? 言語学はまだしも、どうやって数学や魔法学を学んだの? というかそんな昇級あり!?)
この略歴に嘘は無いのだが、シルヴィアにしてみれば、はいそうですかと理解できるものではなかった。
(実際に入試では圧倒的だったし、授業内容はすでに理解してるみたいだし。嘘は無さそうだけど、あまりにもおかし過ぎるわ)
そんなことを考えながら訓練に向かう。シルヴィアは隊長、ライナスが副隊長の役割だ。
全員が整列するとシルヴィアが先頭に立つ。
「敬礼!」
号令と共に右手を左胸に当てる。指の先まで意識して伸ばしてぴったり揃えるのがグレンガルム王国式だ。三級生が初めにしっかり指導されることである。
セージはラングドン領での訓練ですでに身に付けていた。整列にもブレがない。
(本当に12歳? 若返りの秘薬でも使った騎士じゃないの?)
視線を戻し、壇上に乗った教官が軽く手を上げるのを確認すると「なおれ!」と号令をかけた。
「いつもならすぐに訓練を始めるところだが、半年後に来る騎士学園対抗試合を見据えて訓練の内容を変更する。重点をおくのは戦士と聖騎士以外の職業だ。まずは職業を変え、そのステータスに慣れろ」
その宣言に生徒たちがざわめく。
二級生まで剣技を磨くことが第一であった。それが一転して戦士系以外の特技や魔法だ。
平民が多い第三学園で魔法が使える者も戦士、聖騎士以外のランクを上げている者もほとんどいない。
(急に別の職業の訓練? 魔法で対抗するっていうの? それじゃ絶対に勝てない。今までの対抗試合で証明されてるはず。どうしてそんなことを……)
過去にも魔法使いを仲間にいれて対抗試合に挑んだことはある。しかし、魔法の正確性や速度、そして威力が全く違う。
相手の方がINTとMNDが高く、守りを担う聖騎士もMNDに補正がつくため高い。魔法ではあまりHPを削ることができないため、結局物理で攻撃した方がマシと言われている。
「戸惑いはあるだろうが今年の方針だ。それぞれ戦士や聖騎士以外のランクを上げてもらうことになる」
その言葉にシルヴィアはたまらず手を挙げた。
「どうした、シルヴィア」
「過去の対抗試合から魔法が有効ではないとお聞きしました。二級生までも剣術の訓練が全てです。現在戦闘で有効な魔法が使えるものもいません。今から魔法を学んでも効果が低いと考えます」
「その意見には正しい所もあるな」
「であれば何故魔法を学ぶのでしょうか。本期の一級生は優秀だとお聞きしました。このまま剣の練度を上げることこそ勝利に繋がると考えます!」
「その通り。お前達は優秀だ。だがな、戦闘開始直後、遠距離から魔法を放たれたらどうする? お前たちもわかっているんじゃないか? 第一第二学園との戦いを想像したことはあるか?」
冷静な教官の言葉にシルヴィアは黙った。去年の学園対抗試合をシルヴィアたちは観覧している。
相手の魔法に対して為す術もなく倒れていく一級生を見ていたのだ。相手は学園トップの者たちである。前衛も魔法を使え、騎士としての動きの練度は高い。
そして、魔法は試合開始前に準備することが可能だ。つまり、魔法の射程距離に入った瞬間、相手五人の魔法が発動する。
第三学園が勝つには後衛まで速攻で仕掛けることだが、そう簡単にはいかないのである。
(だからって、魔法を学んだところで大して変わらないでしょう。結局勝つのは無理って事なの?)
そう思ったのはシルヴィアだけではない。後ろで整列した学生たちは同じように悲観した考えを持った。
「それに魔法だけではない。他の職業の特技を学ぶ場合もあるだろう。戦いに勝つために学ぶのだ」
勝つためと言われようと、楽観できる者はいない。そもそも魔法が得意な者も支援特技が使える者もほとんどいない。
(魔法の腕は第一第二騎士学園の方が圧倒的に上。他の職業ランクなんて半年程度特訓したところでどうともならないわ。結局マスターしなきゃ使えないんだから)
そんな思いが顔に出ていたのだろう。教官は続けて言う。
「今さら遅いと思っているやつがいるようだが、今からでも下級職、中級職のマスターくらいできる。ランクを上げることを意識して、魔物学の授業を思い出してみろ。剣技以外にも戦い方があるということを知り、魔法使いとの戦い方を考えろ。セージ。まずは戦い方を見せてやれ」
急にセージに話が振られたが、セージは慌てずに手を上げて前に出てくる。
(この子が手本になるわけ? 本気なの? 多少魔法が使えるようだけど、その程度なら他にもいるわ)
「はい! それでは模擬戦をしましょうか。闘技場に……」
「ちょっと待ってください! 教官から教えて頂くのではないのでしょうか!」
教官は髭を撫でながら答える。
「俺は剣以外は全く使えん」
「魔法なら魔法学のオリビエ教官がいらっしゃいます」
「オリビエ教官は魔法以外使えない」
「しかし、剣技は我々が上だと自負しております。私は魔法も使えますし、戦士として戦うことも可能です」
「それは正しい。が、勘違いをしているようだ。戦士以外の特技や魔法、と言っただろう。お前は剣と魔法以外に何が使える? 入学試験を見ていなかったのか?」
そう言って軽く睨みを効かせるとシルヴィアは黙った。ただ、不満が目に浮かんでいる。
今さら違うことをしても遅いと思っていたからだ。今回の対抗試合は捨てて、来年の布石のために試されると感じていた。
「それにお前は魔法を侮っている部分があるな。この中で魔法耐性は高いが十分な訳ではない。今まで聖騎士を重視してきたが耐魔法を考えて魔導士で戦うことも……いや、まずはセージと戦え。強力な魔法使い相手に戦うということ、多彩な特技の厄介さがわかれば、話を理解するだろう。シルヴィア、五人パーティーを組め」
そういって壇上から降りようとしたが、ふと思い出したように振り向いて言った。
「そういえば、セージの現在のレベルは51だ。舐めてかかるとすぐに終わるぞ」
そう言い残すと壇上を降りた。
中級職の限界レベルであるレベル50を過ぎている、つまり上級職を持っているという事実を暴露されてセージに視線が集まった。
しかし、セージはその視線を微笑んで受け流して言った。
「さて、闘技場に行きましょうか」
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