第71話 永久の道筋
王都の冒険者ギルド所属パーティー『永久の道筋』。そのメンバーはデイビット、ダスティン、ジェイラス、スタンリー、テッドの五人であり、王都第三学園の二級生だ。
五人の出身地はバラバラで特別仲が良いというわけではなかった。二級生に上がって始まった訓練でパーティーを組んだのがたまたまその五人だったのだ。
全員が商人の息子ということもあって意気投合し、それ以来、冒険者としても五人でパーティーを組むことにしたのである。
二級生になると外に出ることも可能になり、冒険者業を小遣い稼ぎ程度に緩く活動していた。
しかし、入学試験をきっかけに頻繁に冒険者業を始めた。それは、焦りがあったからだ。
デイビットとスタンリーは入学試験の時に圧倒的な強さを持つ少年、セージを見ていた。
他の受験者より明らかに年下にもかかわらず、ライナスを寄せ付けない強さは注目の的になっていた。
確実に合格し三級生になることはわかっている。後輩に負けられないと思い、鍛えようということである。
ダスティン、ジェイラス、テッドは他の受験生の試験を行っていたため見ていない。そんなやつがいるのか半信半疑だったが、レベル上げをすることに異論はなかった。
五人のレベルは一番低いスタンリーがレベル23で一番高いジェイラスがレベル28であった。
二級生の訓練の時から『永久の道筋』として冒険者登録しており、すでに七級まで上がっていた。
それから四ヶ月後には六級になった。これは十六歳の駆け出しパーティーにしてはかなり速い方だ。
これほど素早く級が上がったのは手分けして依頼をこなしたからである。
そもそもレベル25であれば六級、レベル30を超えれば五級程度の強さである。それに、騎士として日々鍛えているのだ。
十六歳という年齢的に、若干のステータスの低さはあるが、それでも七級以下の依頼に苦戦するほどではない。
それともう一つ頑張って依頼を完了させていった理由がある。
お金の問題だ。
五人は武器や防具の新調にお金を使い、親に借金をしていた。
五人ともすでに成人しているので、親に援助されることはない。それでも担保も利子も無しでお金を借りられるというのは親の優しさが入っているのだが。
ちなみにジェイラスとスタンリーは僅かだが利子をつけられているため焦っていた。
冒険者として頑張ればすぐに返せるだろうという見通しは甘く、なかなか金を稼ぐことはできなかった。
七級では依頼料が低いのである。六級に上がっても高いとは言えなかった。
冒険者業だけで生活ができるようになるのは五級から、三級以上であれば少し余裕のある生活になると言われているくらいだ。
学園は寮制で生活は保障されるとはいえ、短期間でお金を貯められる程ではなかった。
そんな時に手に取ったのは常設依頼『パンタナル湿地の魔物討伐』である。
足場が悪いところで戦うのも、装備が汚れるのも嫌だったが、背に腹はかえられない。
六級で最も依頼料が良くて食事もタダになるとなれば受けるしかなかった。
常設依頼なので、毎日受けることも可能だ。一定の成果さえ上げ続ければ、お金を稼ぎ続けられると考えた。
パーティー内で依頼を受けるかは少し揉めたものの、金欲しいという点では全員一致している。
それに、今は休み期間に入っているため冒険者業に集中できるが、一級生になると頻繁に冒険者業をするわけにはいかなくなるのだ。
特にスタンリーとテッドは利子のことを考えると、学園が始まる前に何とか返済したかったので説得にも力が入った。
結局、依頼を受けてリンドールの町へ行き、ギルドで依頼を確認した後、すぐにパンタナル湿地へ向かった。
時間はすでに昼を過ぎていたのだが、魔物の強さを聞いて舐めてかかっていたのである。
一番レベルの高いジェイラスはすでにレベル32になり、五級冒険者並みだ。その他の仲間もレベル30前後になっており、六級の依頼で苦戦することも無いだろうと考えた。
そして、その考えが甘いことはすぐに思い知らされる。
パンタナル湿地は普通に歩くだけでも注意が必要なのである。
特に落とし穴とも言えるような水溜まりが凶悪であった。
浅いものならまだしも場合によっては膝近くまで深さがある。歩いていて急にガクンと落ちるのだ。
最初に嵌まったのはスタンリーだった。少なくないダメージを受けて倒れる姿を見て仲間達は軽く笑いながら手を貸したが、その後他のメンバーも嵌まり、しばらくすると笑えなくなった。
特に戦闘中が厳しかった。しっかりと剣を振るうことがなかなかできないのである。
少し滑るだけ、少しの段差があるだけで感覚が狂い力が乗せられない。
踏み込んだ先に穴があったらと考えると思い切りよく踏み出せない。
攻撃を受けて踏ん張ろうとした足がとられて、危機に陥ることだってある。
初日は慣れない足場に苦戦し、泥だらけになりながらもなんとか依頼の数は達成した。しかし、身体的にも精神的にも疲れきったデイビットたちは皆黙り込んで帰路についた。
ギルドは町の中で最もパンタナル湿地から近い場所にある。それは泥だらけになった冒険者達を洗うためだ。
靴を洗う程度ならタダなのだが、全身となると専用の洗い場が用意されていて料金がかかる。
五人はもちろんそこを利用するしかないほどに汚れていた。町につく頃にはすでに暗くなっており、お風呂代わりに体を洗う。
そして、依頼達成料とタダでご飯を食べるための証明札を受け取った。
何とか夕食で少し癒され宿に入ってから気づいた。
「この依頼、割りに合わないんじゃないか?」
呟いたのはデイビットだが、ダスティンとジェイラスも思っていたことだ。ちなみにスタンリーとテッドは疲れ果ててすでに眠っていた。
今回、荷物をギルドに預けたり体を洗ったりする料金だけでなく、毒を無効にする装備をギルドで借りている。それに食事はタダだが、宿にお金はかかる。
依頼達成に必要な数ちょうどしか倒していなかったので追加報酬はなかった。
依頼は昼から始めていたとはいえ、日が暮れるまで戦ってほとんどお金は残らないとなると文句も言いたくなる。
「もう止めようぜ。こんなん続けられねぇよ」
天を仰ぎながら言うダスティンにジェイラスが答える。
「止めてどうするんだよ。金がないんだよ俺たちには。やるしかない」
「もっと良い依頼を探そうぜ」
「無いから来たんじゃないか」
「ここよりマシなやつはあるだろ」
「そのマシな依頼ってやつは何だよ。それで金が貯まるのか?」
「知らねぇよ。探そうっつってんだろ」
「散々探して結局……」
「うるせぇ! 黙って寝ろ!」
向かいのベッドから怒りの声が飛んで来て二人は黙った。
ここは二段ベッドが六つ置かれた大部屋だ。ベッド以外は何もない部屋で、本当に寝るだけの場所である。金の節約のため個室はとれなかった。
五人の他にも宿泊客がいて、声を上げたのは若手の行商人の男である。言葉は悪いがマナーとしては当然である。
「すまない。ダスティン、ジェイラス、もう寝よう。どうせ長くても後八日間だ」
デイビットの言葉に二人はしぶしぶベッドに入った。
次の日もその次の日もポイズンフロッグやベノムスネークなどを倒していく日々。
悪い足場にも徐々に慣れていき、レベルも上がって戦いは少し楽になった。ただ、何日も通うと町に近い方にいる魔物は少なくなってしまい奥まで入らないといけない。
依頼は達成できるものの移動だけで時間をとられるようになり、収入が大きく増えることはなかった。
さらに、奥に進むにつれてハードフロッグなど手間取る上に依頼内容に含まれない魔物も増えてくる。
ただ、囲まれると危険なので無視して逃げる訳にもいかない。
徐々に厳しさを増す依頼の達成に皆疲れていた。
そして、今までより明らかにフロッグ系が多いことに気づいていなかった。
七日目、もうすぐ終わるという気持ちを胸に剣を振るう。町に近いところは大体行き尽くして、奥まで入り込んでいた。
ポイズンフロッグ3体とバブルフロッグを倒し、やっと依頼を達成したと思ったところで、さらにハードフロッグ 3体が湖から飛び出してきて、戦闘を開始する。
「くそっ! テッド! ここは俺が抑える! スタンリーの援護に回れ!」
「ジェイラス! 回復魔法を頼む!」
「ジェイラス! こっちもだ! 回復に集中してくれ! ダスティン! 一人で抑えろ!」
「当たり前だ! 俺一人で余裕だぜ!」
「テッド回り込め! 俺が正面で受ける!」
連戦に最初は戸惑ったが、慌ただしい戦闘は徐々に落ち着いていく。
一体一体湖に逃げていき三体全て倒したが、予想外にダメージを受けた。
全員が辺りを警戒しながら回復などして態勢を整えていく。
「そろそろ止めどきじゃねえか? 今日で終わりにしようぜ」
「俺もそう思うな」
ダスティンの言葉にテッドも同意する。ハードフロッグはレベル30以上のパーティーで戦う魔物だ。
もちろん戦えないわけではないが、連戦になると厳しく、回復薬等のアイテムを使いすぎると赤字になってしまう。しかも、ハードフロッグは依頼の対象外である。
今日依頼の達成状況から明日は厳しいと感じていた。
しかし、スタンリーはそれに反論する。
「おいおい。ここで止めてどうするんだよ。後一日で終わりだろ?」
「一日くらい止めてもなんとかなるって」
「何ともならないからこんなところに来てるんだよ。もうすぐ返済の金額まで届くんだぜ?」
「ちょっとくらいなら良いじゃねぇか」
「お前な、利子がないからって……」
「落ち着けよ」
ダスティンとスタンリーの話を遮ったのはデイビットだ。スタンリーが睨むがデイビットは怯まずに続けた。
「次に依頼を達成するのは難しいって皆思ってるだろ? 今日の依頼はもう達成したんだ。まずは引き返そうぜ。先のことは戻ってから考えよう」
「ルートを変えて魔物の生息地を探しながら戻っても良いし」
デイビットの言葉にテッドが提案した。スタンリーは、黙って見守るジェイラスを一目見て、しぶしぶ頷く。
方向性が決まり戻ろうとしたとき、全員に緊張感が走る。
ボスの領域に入った感覚がした。
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