第70話 パンタナル湿地散策

 パンタナル湿地は王国最大の湿地で、部分的に低木や小さな湖が点在しており、近くの山から見る分には美しい場所である。

 しかし、実際に歩くと湖に魔物が潜んでいたり、草に隠れた水溜まりに足を突っ込んだりするので注意が必要だ。


 しばらくすると点々と魔物が見え始め、セージは魔物から見つかりにくくする特技『ステルス』を発動する。

 湿地は障害物が少なくて隠れることができないため、完全に見つからないようにするのは無理である。

 ただ、セージの場合は戦わないためではなく囲まれないために使っているだけなので、それで十分であった。


(確かにここで戦うのは嫌だろうな。足場が悪いし、隠れる所はないし、湖から魔物が飛び出してくるし。何より汚れるし。人気がないのもわかる)


 実際に歩いてみると色々な部分が見えてくる。魔物の強さは六級程度だが、なかなか厳しいと思えるところだった。

 セージは技の収集ができて、FSの世界を見て回れているので気分は上々である。


 それに、セージは探検家をマスターしている。

 探検家は戦闘中にはあまり役に立たないがフィールド探索の時に使える技が多い。

 パンタナル湿地では特技『サーベイ』を使うことで隠れた水溜まりが落とし穴になっていたとしても視覚的にわかるのである。

 森の中などでも多少役に立つが、この場所での恩恵は大きかった。


 襲いかかるポイズンフロッグやヘドロスライム、ベノムスネークなどを倒していく。

 他にもビッグフロッグなども出現するが、依頼に書かれていない敵は避けていた。

 格下の敵とはいえ、あまり倒しすぎると経験値の累計が馬鹿にできない値になってしまうからだ。


(それにしても楽だな。聖護の腕輪作っておいてもらって良かった)


 セージは神霊亀戦で使っていた状態異常無効の装備、聖護の腕輪を装備していた。

 ソロ冒険者のセージにとって最も怖いのは状態異常である。状態異常攻撃をする魔物がいないと言われている所でも必ずつけるようにしていた。


(うーん。やっぱりフロッグ系が多い。でも、ボスがいるにしては魔物の数が少ない気がするな)


 セージは周りに注意しながらズンズンと進んでいく。

 今回セージはガルフ製の勇者の剣を装備している。さらに出現する魔物は基本的にレベル30以下を対象としていた。

 STRが高くないとはいえセージはレベル51である。ちゃんと攻撃が入れば楽に倒すことができた。


 技集めの時はあまり魔法を使わないようにしている。

 遠距離から魔法を使うと魔物をすぐに倒してしまい、技が見れないからだ。それに、学園では剣術が重要になるので鍛えるためということもある。


 セージは湿地を散策して順調に魔物を狩っていく。

 最初は湿地で滑って反撃を食らったりもしたが、二時間もしないうちに慣れていた。


(湿地広すぎ。十キロ以上歩いてる気がするけど終わりが見えないし。全力では走りにくいから帰りも時間がかかるだろうし。ボスもいないし)


 さすがにセージでも見渡す限り湿地帯が広がっている光景を見続けていると飽きてくる。

 それに、王都周辺では他のパーティーに会うことが多かったが、この湿地では遠くに見えることすらなかった。人気が無い上に広すぎるのである。


(奥の方は魔物の数は少し増えてる気もするんだけど。暗くなったら困るし、あと少し進んで何も変わらなかったら引き返そうかな)


 そう思った時、遠くから微かに声が聞こえた。


(ん? 他のパーティー?)


 セージは途中で出会った他のパーティーには挨拶するようにしており、そのままついて行くことも多かった。

 ついて行くと言っても、パーティーに入れてもらうわけではなく、戦い方を見学したり、少し戦闘を手伝ったりするだけだ。

 もちろん断られることもままあるが、セージの幼い見た目と駆け出しソロ冒険者という点で受け入れてもらえることが多い。


 助けを求める形で一緒に行動するが、実際は色々見て回りたいけれど目的を達成したあとに経験値をなるべく得たくないためである。

 それに、他の冒険者の話を聞き、戦い方を見るのは勉強にもなった。

 セージはFSに詳しいが、それはゲームとしての話である。ゲームではあまり使えなくても、現実的には効果的な場合があるのだ。


 今回も話しかけようと思って声がした方向に進むと、魔物と戦っているパーティーの姿が見えた。


(おっ、もしかしてボス戦? ヒュージフロッガーだ!)


 そのボスを一言で表すと巨大蛙。

 体長は三メートル近くあり、紫に黄が斑に混じっている毒々しい色合いである。

 過去のFSでも出てきていたので、セージの知っている魔物であった。


(大きさは戦っている人の二倍くらい? 初期のFSの魔物ってサイズ感が分かりにくいんだよな。あれに近寄りたくはないなー)


 初期、特にFS6以前のゲームで出てきた場合、グラフィックの表示の都合上、表現できる限界がある。見た目や設定としての大きさは知っていても、現実で見るのとは異なった。


(前衛四、後衛一か。攻撃魔法役は無し。まぁ仕方ないよな)


 人族の冒険者の中で攻撃魔法を主体で使う者は少ない。全員戦士というパーティーになっている場合もあるので、後衛が一人いるだけでもマシである。


(せっかく見つけたけど先を越されてたら仕方ない。あー、ヒュージフロッガーの『猛毒の霧』が覚えられるか検証したかった。二体目が出てきたりしないかな?)


 魔物の技を『メモリー』で覚えるには戦闘状態に入って技を見なければならない。

 しかし、セージはボスから百メートルほど離れて観察していた。


 戦いの途中で割り込むのはマナー違反だからだ。

 セージはその事を知っていたのだが、ついこの間失敗している。

 セージから見て負けそうだと思って戦闘に割り込んで共闘したとき、戦闘後に怒られたのである。ギリギリの戦いを乗り越えてこそ強くなれると信じている者もたまにいるのだ。それに、獲得経験値などの問題もある。


 全滅している、もしくは助けを求められて戦闘に加わるのが基本だ。

 しかし、普通の魔物ならまだしも、ボスの場合は範囲に入ると戦闘に加わったとみなされてしまうため難しいところである。


(近づいたら怒られるよなぁ。見たところ戦えてるし。こっそり参加して……はダメだよな。引き返そうかな)


 セージがそう思った時、ヒュージフロッガーが紫と黄が入り雑じった息を吐き出した。


(あっ、そういえば麻痺対策ってしてるのかな?)


『猛毒の霧』は毒に加えて麻痺の効果がある。

 このフィールドに来るからには毒対策をしているはずだが、麻痺を使う魔物はいなかった。

 セージは状態異常全てを防ぐ装備があるため意識していなかったが、麻痺を食らうと厄介である。


(ゲームでは確率百パーセントじゃなかったけど、どうなんだろ? 麻痺の状態ってどうなるのかも知らないし。ゲームだと動けなくなるけど)


 そう思いながら注目していると、『猛毒の霧』を受けた前衛全員の動きが明らかに悪くなり倒れていく。後衛が慌てていた。


(これはピンチ? 乱入しても大丈夫かな?)


 セージはヒュージフロッガーに向けて走り出す。しかし、離れていた上に足場が悪く、すぐには着かない。

 その間にヒュージフロッガーは前衛を順番に叩き飛ばしていく。


「手伝ってもいいですかー!」


「お願いします!」


 後衛が即座に返事しながらセージの方をチラリと見て、もう一度見た。


「子供!?」


 そんなリアクションは気にせず、セージは後衛の前に立つ。そして、高速で飛来するヒュージフロッガーの舌を盾で防御した。


「セージ?」


 急に名前を呼ばれ、一瞬視線を向けて確認する。そして、すぐにヒュージフロッガーに立ち向かった。


(んっ? 何処かで会ったかな?)


 すでに呪文を唱えていたので答えることは出来なかったが、セージは全く思い出せず内心で首を傾げるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る