第43話 響く嘆き

 セージは不合格であったのだろう肩を落とす者たちとすれ違いながら学園に到着した。

 受験番号が貼り出されるなんてことはなく、受付で合格かどうかを聞くシステムだ。

 セージが名前、年齢、推薦者の名前を言うと、受付の人が合格を祝福してくれた。


 (合格だろうとは思ってたけど、やっぱりほっとするな。さて、神霊亀戦に備えないと)


 手早く入学手続きを済ませると、学園生が呼び止める声を無視して学園を飛び出し様々な店を巡った。

 武器屋や道具屋だけでなくギルドも回って買い込んでいく。


 持ち切れなくなればカイルたちの拠点に戻り荷物を置いてまた出ていく。

 二回目に戻ったときには、カイルたちのパーティーが全員揃っていた。


「セージが帰って来たよ!」


「またいっぱい買ってきたねー!」


 マルコムとミュリエルがすぐに反応してくれる。


「いやー、神霊亀と戦うとなると、色々と用意しようと思ってしまって、使うかわからないものまで買ってしまいました」


 少し照れたように笑うセージに、カイルは呆れたように言う。


「相変わらずだな。本気で神霊亀と戦うつもりか?」


「もちろん戦います。ラングドン領の町、ケルテットは僕の故郷ですから。でも、無理だと思ったらすぐに逃げますよ」


 神霊亀はイベント戦でボスではない。

 ゲームではボスとして出てくる場合もあるが、基本は倒せない敵なので一定時間後に逃げるか撃退するかのどちらかである時がほとんどだ。


「逃げることができるとは聞いているが本当かはわからないぞ」


「そうですね。でも、僕は逃げれると確信していますし、逃げることもないと思っています」


(ゲームでもイベント戦で逃げてるし、FS7と10では逃げるコマンドが使えるし、それは確実。あとは神霊亀の行動パターンが変わったり技が増えたりしてなければ大丈夫だろうけど、それはわからないし)


 セージはこれまでの生活の中でゲームで出来ることはこの世界でも全て出来ると確信していた。

 自信満々で答えるセージを見て、カイルは苦笑する。


「会ったときから不思議な少年だと思っていたが、ここまで共に生活をしても印象が変わらないな」


(そういえば会ったときに不思議な少年って言われたな。どこがなんだろう。それに不思議って良い意味で言われているのかな?)


 六歳の時にカイル達と会ったときのことを思い出しながらセージは首を傾げる。


「それで、セージは神霊亀を倒せるのか?」


 カイルの率直な質問に、セージはあっけらかんと答える。


「倒すのは無理ですよ?」


 その言葉に全員が「えっ?」とセージを見た。そして、ミュリエルとマルコムがいち早く反応する。


「あれっ? 無理なの?」


「ちょっと待って! なんとかなるって言ってたよね!?」


「なんとかなるっていうのは町を守るってことです。神霊亀を追い返すだけですよ」


「追い返す? そんなことができるのか?」


 今度はカイルがセージに問いかける。


「できます。HPを一割削ることができれば撃退ですから」


「一割? 八年前の戦いでは精鋭の騎士たち千人が束になって攻撃を仕掛けて止めることができなかったんだぞ」


「まずレベル50のステータスで神霊亀の攻撃に耐えられないですよね。それに、大きなダメージを与えるのが難しいでしょうし。千人いても1パーセントも削れなかったと思いますよ」


「なるほどな。だが、それならセージも攻撃に耐えられないだろう。神霊亀の攻撃を全て避けるつもりか?」


「なるべくは避けますし、魔法なら装備を整えれば数発耐えれるでしょう。物理攻撃は気合いの盾で凌ぐ予定です」


 気合いの盾とはHPが最大の時、HPが0になる攻撃を受けてもHPが1残る装備のことだ。

 ゲームでは低レベルの縛りプレイ御用達の盾だが、この世界では特殊効果が付いた盾の中で最も使われていないと言われている防具の一つである。


 当たり前だが、一撃でHPが0になるダメージを与えてくる魔物と戦う者なんていないからだ。


「それで、セージなら神霊亀にダメージを与えることができるのか?」


「今は勇者ですけど精霊士に変えて、霊装を使った上で弱点の特級氷魔法を放ち続けます。神霊亀のステータスがわかりませんが、ここまですれば少なくとも一発で数千のHPを削れると計算しています」


 精霊士は上級職の中でINT補正が最も高く、精霊を召喚することができる職業だ。

 そして、霊装は最も強力な特技で、召喚した精霊を身に纏い、ステータスの補正や呪文の短縮などの効果を得る。

 代わりに一秒につきMP10消費するため、魔法を打ちながらだと人族離れしたセージでも数分程度しか持たない。

 もちろんカイル達も一緒にランク上げをしていたため、その特技のことを知っている。


「姿を見てみないとわかりませんが、予想HPが一千万くらいなので厳しい戦いにはなるでしょうけどね」


「一千万……!」


「ふーん。なんだか数字が大きすぎてわからないけど、精霊士のセージでも倒せないなんてやばいね」


 絶句するマルコムと呑気に言うミュリエル。カイルは考え込んでいる。


「今は倒せませんけど、もう少し成長したら再戦しますよ。とりあえずレベル70以上にはしたいですね」


「おお! さすがセージだね! 私でも倒そうとまで思わないなぁ」


「いやいや、追いかけて再戦するとか正気じゃないって。触れないようにしようよ。カイルも言ってやって」


 マルコムが黙り込むカイルに話を振る。


「あぁ、そうだな。再戦のことよりも今回の襲来のことだ。セージ、一人で戦うつもりか? 俺達が戦ったらどうなる?」


「ラングドン領軍には要請しますので、何人か付いてきてくれないかなと思っています。最悪の場合は一人ですが、さすがに一人で戦う用の装備と魔道具が揃わなければあきらめますね。もしカイルさんたちが一緒に戦ってもらえるなら、とても助かります。結局のところ防御が不安なのでカイルさんがいれば安心しますね」


「そうか。わかった」


 そう言って頷くカイルにマルコムは悟る。


「あっ、これは戦う流れ? 本当に? みんなはいいの?」


 ヤナは頷き、ジェイクは「任せる」と呟く。ミュリエルは「セージが行くなら楽しくなりそうだし」と笑った。そして、カイルは宣言する。


「よし。冒険者ギルドの依頼、神霊亀の討伐を受けよう。明日の朝、魔導船に乗ってラングドン領に向かう。準備するぞ!」


「はーい!」


 元気に声を上げたのはミュリエル一人だが、ヤナとジェイクもすぐに支度を整えるため部屋を出ていった。

 カイルとマルコムがギルドに行ったときに、神霊亀の討伐を受けてくれと頼まれており、その話はパーティーに話してある。


 低ランクパーティーが行ってもどうしようもないため、ギルドは高ランクパーティーに声をかけていたが、ほとんどのパーティーが断っていた。そんな中、カイルは保留にしていたのである。

 ちなみに明日の朝に出る魔導船は定期便ではなく、ラングドン領が要請して出す臨時便だ。

 マルコムは仕方ないといった感じで重い腰を上げる。


「こうなるとは思ってたけどさ。まぁ、僕は防御も魔法も向いてないし出来ることはないけど」


 そこでセージがマルコムに言う。


「あれ? マルコムさんが前衛の主役のつもりですよ?」


「……僕が前衛の、主役?」


「そうです。ミュリエルさんとカイルさんは防御。ジェイクさんはバフと回復、ヤナさんは回復専門、マルコムさんは近接攻撃を頼もうと思ってるんです」


「近接攻撃を? 一人で? 神霊亀に?」


「もちろん他の人にも戦ってもらえるか聞きますが、誰も来なければ一人ですね。それにマルコムさんが一番適していると思いますし。近接攻撃で活躍してもらえるんじゃないかなって」


「そっか。そういわれると頑張りたくなるなぁ……神霊亀が相手じゃなければね! あいつ相手に近接はダメだって! 適してるってなに!? セージもレベル50じゃダメージを与えられないって言ってたじゃないか! 囮にでもするつもり!?」


「大丈夫ですよ。あとでちゃんとダメージを与える方法を教えますから」


「本当に? 嘘じゃないよね?」


「あっ、試したことはないので、あとで検証しておきます」


「試したことないの!? 不安しかない!」


 ちゃんと検証するように念を押しながら嘆くマルコムであった。

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