~神霊亀編~

第42話 襲来の知らせ

 ボス連戦から合格発表までの三週間、なりふり構わずステータス上げに力を入れた。ボス戦で自分の力不足を感じたのである。


 特にHPと防御力が低くて耐久力の無さが目立っていた。

 一撃で倒れるような状態では周りに負担をかける、というよりも隠れてないと戦えなくなる。

 筋トレも増やして、何とかステータスの底上げをしようと頑張っていた。


 そして、これまではどちらかというと生産職をメインにしていたが、ボス戦を機に戦闘・支援職をメインにランク上げをしたのだ。

 そして、セージは中級職をマスターし、上級職まで進んだ。



 セージ Age 12 種族:人 職業:勇者

 Lv. 51

 HP 1745/1745

 MP 8606/8606

 STR 238

 DEX 414

 VIT 207

 AGI 245

 INT 999

 MND 943


 戦闘・支援職

 下級職 中級職 マスター

 戦士 魔法使い 武闘士 狩人 聖職者 盗賊 祈祷士 旅人 商人 聖騎士 魔導士 暗殺者 探検家


 上級職

 勇者  ランク5

 精霊士 ランク70 マスター


 生産職一覧

 下級職 マスター

 木工師 鍛冶師 薬師 細工師 服飾師 調理師 農業師


 中級職

 錬金術師 ランク50 マスター

 魔道具師 ランク26

 技工師  ランク2

 賭博師  ランク50 マスター


(うーん。良い感じに能力が上がってきたけど、やっぱり近接戦をするには物足りないな。職業勇者でSTRとかはガッツリ補正が掛かっているはずなのに)


 そんなことを考えながら自分のステータスを眺める。


(INTのカンストはいいんだけど、耐久力がなぁ。まぁたかが三週間で劇的に変わるわけないか)


 レベルが上がったのでステータスは全体的に上昇していたが、HPとVITについてはまだまだだ。


 ちなみにカイルのVITは500を超えている。レベルはセージが上回り、勇者補正が掛かっているというのに、カイルの半分にも届いていない。


(しかし、こんなに早くランク上げができるなんて思わなかったな。カイル達に手伝いを頼んで良かった)


 もちろん一人ではこんな速度のランク上げなんてできない。カイル達に手伝ってもらったのである。


 カイルのパーティーは一級冒険者であり、その中でもトップレベルの実力を持っている。

 当然魔物討伐の要請も多く、難易度も高い。そこでセージのランクが合いそうな依頼を受けてもらい、ランク上げをしていた。


 ボス討伐依頼が一件あったが、求めるランクのモンスターが大量発生していたため、カイルにお願いしてボス討伐を一日遅らせてもらったくらいだ。

 一日で400体以上倒す日もあり、本当になりふり構わずといった具合である。


(やっぱり勇者は賭博師と聖騎士、精霊士は魔導士と錬金術師の組み合わせに間違いない。ただ、勇者以外のランク上げが終わったら戦闘支援職のランク上げができなくなるし、そろそろ生産職の上級職を攻めないと)


 セージは上級職になれたとき、内心ほっとしていた。条件は合っていると確信していたが実証したわけではなかったからだ。

 賭博師と聖騎士をマスターすれば勇者になれると豪語し、これしろあれしろと指導しておいて間違えてました、だとルシールに顔向けできないと心配していたのである。


 それに、カイル達に対してもそうだ。カイル達にランク上げを手伝ってもらう代わりにセージは上級職の情報を渡したのである。


 三週間はセージのためにランク上げをしていたが、カイルたちはその後すぐに自分のランク上げに集中しようと考えていた。

 レベル50でちょうど良い狩り場をすでに見繕っていて、近々そのあたりを巡る計画にしている。

 マルコムとヤナはすでに必要な職業をマスターしているため、生産職のランク上げに注力していた。



 三週間経ったセージの合格発表の日。

 この日はレベル・ランク上げは休みにしているため朝はゆっくりだ。

 そして、セージは学園、カイルとマルコムは冒険者ギルド、他は買い物に向かった。


 ちなみに冒険者ギルドは朝早くが最も混む時間で、依頼の取り合いになることも良くある。カイルはそんな時間を避けて、少し遅めに行くことが多い。

 高ランクの依頼が取り合いになることなんて滅多になく、逆に依頼を指名されたり、ギルドから直接依頼されたりするからだ。


 セージはカイルたちと別れた後、学園に向かい店を外から眺めながら歩いていた。


(あっ、強力な装備も売ってるんだ。メガアーマーとか普通に終盤で使える装備だし。欲しいけど今の体に合わせて作ってもらってもすぐに成長するしなぁ)


 この世界では鎧などの防具はオーダーメイドが一般的だ。剣や杖などであれば既製品も多いが、身に付けるとなると体に合わせる必要がある。

 基本的には店内に展示品があり、それをベースに鍛治師と相談して発注する。


 そういうこともあって防具は高価になるため、中古を取り扱う店も多い。

 ただ、店に騙されたりすることもあるため、買い物前には鑑定が使える商人に職業変更するのが基本である。


(あっ、固定剣テンがある! しかも安い! って当たり前か。使い道がほとんどないし。でもこれがあれば神木の道でランク上げが捗るな。孤児院にお土産で買って帰ろうかな)


 固定剣テンとは、どんな攻撃力でもダメージが十になる剣である。

 シリーズでもほとんど出てこない剣なのでまさか普通に売っているとは思わず、セージのテンションが上がったのだ。


 終盤で出てくるこの剣の使い道は一つしかない。メタルミニゴーレムというHP10しかないのに防御力が高すぎてクリティカルでしか倒せない魔物がいて、それを一撃で倒すための装備だ。


 魔物のHPを測るために使う暇人がいたりするが、基本的にメタルミニゴーレム戦以外で装備されることはない。

 セージはテンがあればスライム狩りでランク上げが簡単にできるなと考えていた。


(いやーラングドン領へ帰る前に武器屋とか見て回ろうかな。掘り出し物があるかも)


 ウィンドウショッピングを楽しみながら歩き、もうすぐ学園に着くというところで、マルコムが呼び止めた。


「セージ!」


「あれ? どうしたんですか? 冒険者ギルドに行ってたんじゃ……」


「見つかって良かった! さっき冒険者ギルドに情報が来たんだけど神霊亀が動き出したみたい。セージはラングドン領に帰る予定でしょ? 神霊亀がラングドン領に向かう可能性があるんだ」


 FSは十年が一区切りということから、セージは神霊亀の侵攻も後一年以上余裕があると予想していたため、驚きを隠せなかった。


(まじか。予想より早い。撃退に失敗したから早まってるのかな? この三週間で鍛えたからまだましだけど、神霊亀が相手じゃ荷が重いぞ。追い返すだけならなんとかなる?)


「もしかしたら違う方向に行くかもしれないけどね。まだわからないから、神霊亀の動きが止まるまでは拠点に……」


「マルコムさん。ラングドン領行きの魔導船っていつ出ますか?」


 この世界の移動手段はほとんど徒歩か馬車なのだが、魔導船という空飛ぶ船も存在していた。

 王都を中心に各地の領都や主要都市を往復しているのだが、ラングドン領には一ヶ月に一回くらいしか飛んでいない。


 そもそも乗るのに金貨一枚以上必要になるので、利用者が貴族や大商人しかいないからだ。


「……明日の朝だけど、まさか行くつもりじゃないよね?」


「もちろん行きますよ。明日の朝ならまだ時間はありますね」


「本気? 神霊亀って知ってる? 普通の魔物じゃないんだよ。僕らは調査に行ったから知ってるけどさ。あれは戦う相手じゃないね。ビッグタートルは知ってるでしょ? あれの百倍くらい大きいんだよ」


「高さはどれくらいでしたか?」


「高さ? えっと、僕の五倍以上あったかな?」


(五倍以上となると八メートルくらい? これが本当なら小さい方かな)


 神霊亀はFSで何度も登場するが、その時々で大きさが異なる。十メートル程度の時もあれば二十メートルを超える時もあった。

 二十メートル級になると今の状態では追い払うことも困難だが、八メートルなら現在でも対応できるとセージは考える。


「それなら何とかなりそうですね」


「なんとかなる……のかな? ならないよっ! 無理だってあれは!」


「大きければちょっと厳しいですけど小さい方ですから」


「小さい方? えっ、僕の話聞いてた? 僕の五倍だよ?」


「マルコムさんの五倍ならそこまで大きい訳ではないですよね?」


「あれっ? なんか背が低いって馬鹿にされてる? 僕はそこまで小さくないからね!」


「例えば、この建物の倍くらいってことですよね?」


「えっと、まぁそうだね。それくらい……ってわかってるなら止めようよ! 家の倍ってもう魔物の大きさじゃないから! セージは強くなったし魔法を使う人族の中ではたぶん最強だよ? でも神霊亀は剣も魔法もほとんど効かないから……」


「えっと、準備があるので急ぎますね」


 マルコムの話を聞き流して行こうとするセージをマルコムは慌てて引き留める。


「話聞いてよ! とっ、とりあえず拠点に来て!」


「はーい!」


 マルコムは走り去りながら返事をするセージを見送って、急いでカイルのところに戻るのであった。

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