第41話 エルダートレント戦

「なんだ、余裕そうじゃん! せっかく急いで倒してきたのにさー!」


 ミュリエルの気楽な声が響く。戦闘中だったが思わずカイルは振り返った。


「ミュリ! 無事……」


「余所見なんてらしくないなぁ」


 マルコムがカイルを守るようにエルダートレントの攻撃を受ける。


「マルコム!」


「いろいろ話はあるんだけど、ボスを倒してからだね。それじゃ」


 マルコムはそう言うと『ハイド』と呟きながら森の中に隠れた。


「カイル! パーティー!」


 カイルにミュリエルからパーティーの申込があることに気付き、すぐに承諾する。

 パーティーメンバーはカイルの他にミュリエル、マルコム、ジェイク、そしてセージが入っていた。


(ヤナじゃなくてセージ? どういうことだ?)


「カイル! 行くよっ! これ飲んで!」


 困惑するカイルにミュリエルがMP回復薬を渡してエルダートレントに突撃する。


「一人で突っ走るな!」


「早く早くっ! おりゃー!」


(どうなっているんだ!?)


 カイルは回復薬を一気飲みしてミュリエルを追いかける。ミュリエルはすでに斬りかかっていた。


『メガスラッシュ!』


 ミュリエルの気合いの入った声が響く。別に大きな声を出したところで何も変わらないのだが、ストレス発散も含めて気合いを入れていた。


 というのも、普段はメインアタッカーとして攻撃特化の戦い方をするのだが、キラーパンサー戦ではサブとして連携や立ち回りを考えつつ戦っていたからだ。頭を使って戦うのがストレスになっていた。

 エルダートレント戦ではひたすら攻撃という指令が出て解放されているのだ。


『メガスラッシュ!』


 カイルが追い付いた時には二撃目に入っており、防御が疎かになっている。


「ミュリ! 防御を考えろ!」


 カイルがフォローしながらミュリエルを咎める。


「攻撃優先! 今はそうして!」


 ミュリエルは大声でそう言い、さらに攻撃を加えるため剣を振りかぶる。


(どういうことだ? 何か作戦があるのか? いや、仲間を信じよう。攻撃だ)


 ミュリエルの『メガスラッシュ』は僅かにエルダートレントの攻撃が早く、掠める程度しか当たらなかった。


「ミュリ! 攻撃重視と焦るのとは違うんだぞ!」


 そう言った瞬間エルダートレントのターゲットが変わった感覚がした。

 エルダートレントの陰からマルコムの姿が一瞬見える。


『メガスラッシュ!』


 カイルはその瞬間に全力で攻撃した。ターゲットを取り返したと感じる。

 ターゲットになっていないからといってエルダートレントの場合は全く攻撃されない訳ではない。しかし、頻度は明らかに下がるため重要なことだ。


(マルコムが裏で攻撃していたのか。しかし、まさかターゲットをとられるとは)


 起き上がったミュリエルと共に近距離戦を繰り広げる。使う特技は『メガスラッシュ』『シールドバッシュ』。

 ターゲットの取り合いをするかのように攻撃重視でエルダートレントに立ち向かう。


 エルダートレントの攻撃が直撃しても一回転して起き上がり、すぐに攻撃に向かう。

 カイルは攻撃しながらもパーティーのHPをちらりと確認して驚愕した。


(ミュリのHPが減ってない! 攻撃を読んで回復しているのか!)


 セージとジェイクは後衛に届く攻撃を防御しながら、それぞれ回復とバフを担当していた。

 セージはHPが一定以上減るのを見計らって回復魔法を発動しており、HPが半分以下にならないよう調整している。それに、いざとなれば回復の特級魔法で全員を全回復するつもりでいた。

 今度はカイルが攻撃を受けてHPが減った瞬間全回復する。


(攻撃優先か。こういう戦い方もあるんだな。回復魔法特化、俺かジェイクができればいいが)


 カイルのパーティーは、得手不得手があるものの全員回復魔法が使える。その万能さは他のパーティーにはないものだが、回復魔法専門と言えるメンバーはいなかった。


(回復魔法に専念したら……いや、無理だな。この魔法発動速度は真似できない。そういえばマルコムはどこにいるんだ?)


 カイルは考えを巡らせながら戦いを続け、順調にエルダートレントへダメージを与えていく。

 ミュリエルは頻繁に、カイルは時々エルダートレントの攻撃が直撃するのだが、すぐに回復されるので問題はなかった。

 残りMPが半分ほどになったとき、エルダートレントの葉の色が赤色になった。


(もうHPが一割になるまで削ったのか! 早いな!)


 すると、マルコムがひょっこり現れる。

 実は裏で気付かれないように隠れながら特技『フイウチ』を連発していたのだ。

 マルコムが走りながら言う。


「さぁ逃げるよ! 後衛を守ろう!」


「よっしゃー! カイルも行くよっ!」


 カイルは返事をして後衛の方に向かう。


(次はどうする気だ? 魔法だけで攻撃するのか? このまま押し切ってもいい気がするが)


 後衛に向かう途中でエルダートレントの攻撃が激しく、そして無差別になった。

 エルダートレントの攻撃範囲は広いが、今までターゲットになっていたのはカイルとミュリエルだ。後衛には全攻撃の二割程度しか届いていなかった。


 後衛への攻撃から守るため急いで駆け寄り、守りの要としてエルダートレントの正面に立つ。

 その時、全員のHPが全回復した。


(魔法士より聖職者が得意だったのか? ヤナとは攻撃魔法の話ばかりだったような気がするが)


 襲い来る枝を剣や盾で弾き返しつつ考える。

 カイルが来たことによってヤナとセージまで通る攻撃が大きく減った。カイルは視野が広く、多角的に襲い来る攻撃を的確に防ぐことができるのだ。

 その能力からリーダーの役割を任されていると言っても過言ではない。


『インフェルノ』


 呪文を唱え終わったセージがエルダートレントに特級魔法を放つ。しかし、炎に包まれながらもエルダートレントの攻撃は止まない。


(葉が赤になってから攻撃が激しくなるとは聞いていたがこれほどとは)


 守りに徹しているため大きくダメージを受けることはないが、確実にHPが減っていた。それをジェイクが回復していく。


『インフェルノ』


 セージのインフェルノが終わった途端、静観していたヤナが戦闘に加わり、特級魔法『インフェルノ』を発動。エルダートレントは炎から解放されてすぐにまた炎に包まれた。


(ミュリとマルコムが回復魔法? 攻撃と回復の役割を交代したわけか)


 カイルはジェイクだけでなくミュリエルとマルコムも回復魔法を使っていることに気付き、回復魔法を使い始める。


 攻撃が激しくなっているとはいえ、セージ一人とカイルたち四人との役割交代だ。持ちこたえられる回復力になる。

 ヤナのインフェルノが終わると、今度はセージが発動する。


『インフェルノ』


(これは強烈だな。強力な魔法使いが二人いるとこんなこともできるのか)


 カイルはエルダートレントが炎に呑み込まれているのを見ながら思った。

 セージのインフェルノが終わるとジェイクが『レインアロー』を発動し、そのあとセージが再び『インフェルノ』を唱える。


 カイル、マルコム、ミュリエルに守られながら、セージ、ヤナ、ジェイクの連続遠距離攻撃が続き、やがてボスの攻撃がピタリと止まった。


「よし! 倒したぞ!」


 エルダートレントはパキパキと音を立てつつ只の木に変化していく。

 普通の魔物であれば逃げる。トレントも速くはないが逃げるのは一緒だ。この変化はボス特有のものだった。


 しばらくするとエルダートレントは枯れた巨木に成り果てた。

 マルコムとジェイクは価値の高い素材を取るため、まずは倒した後放置していたキラーパンサーの方に行く。他のメンバーは装備の確認や水分補給などを行っていた。


 ボスを倒したからといって魔物が居なくなるわけではない。ボスを倒した達成感で気分は高揚しているが、そんなときこそ冷静に次に備えることが重要だとカイルたちは考えていた。


(しかし、連続魔法攻撃は強力だったな。今までは攻撃魔法をヤナに頼っていたが他の仲間も覚えるべきか? いや、あれはヤナの上を行くセージがいてこそ出来ることだろうな。俺たちは魔法ではヤナに全く歯が立たない)


 カイルは素材の剥ぎ取りを興味深そうに見学しているセージを眺める。その姿だけ見ると年相応の子供らしさがあった。


(的確な作戦、それを行う実行力。予知のような回復と最速の特級魔法。ボスを圧倒した人物には見えないな。まったく、大したもんだぜ)


 セージはカイルの視線には気付かず、剥ぎ取りをするマルコムを質問責めにするのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る