第26話 ギルは守りそして守られる
ギルはラングドン第一騎士団の元団長だった。前当主が隠居を決めると同時に引退し、騎士団の新人育成や次期当主であるルシールの護衛をしているが、未だに復帰を望む声があるほど信頼が厚い。
平均より頭一つ大きな身長、鍛え上げられた肉体、磨かれ続けた剣技。ギル自身は歳による衰えを感じていたが、周りからは今もなお最強だと言われている。
そんなギルだからこそ重要人物であるセージを任されていたのだが、キングリザードマンを前にして不安があった。
(こんなとこまで援軍が来るのにどんだけかかる? セージにつられて深入りしすぎたな。こんなミスをしちまうなんて)
ギルは魔物の掃討戦もある程度のところで切り上げるつもりでいた。しかし、とどまることを知らないセージの戦いぶりに、ギルはどこまで戦っていけるのかを見てみたくなり、止め時を見失ってしまった。
(全盛期ならまだしも、今の俺で時間稼ぎができるか? キングリザードマンが動くまで隠れるか? いや、隠れても誰も来なきゃ意味がねぇ。くそっ弱気になってどうする! 勝つ気でいけ!)
不安はあったが、セージに弱気になっている所を見せるわけにはいかない。心の中で気合いを入れる。
「もう質問はないか?」
「はい」
「それじゃあ、開始だ!」
ギルはセージに向けて宣言すると、森から出て戦士の特技『ハウリング』を使い、気合いを入れて叫んだ。
「来いよ! トカゲ野郎!」
そして、一直線に走る。反応したキングリザードマンも剣を構えて向かってきた。
(セージを失うわけにはいかねぇ。絶対に勝つ!)
『メガスラッシュ!』
ギルの放つ戦士最強の特技が一閃。同時にキングリザードマンも剣を振るう。お互いに盾でガードし、少し間合いをとる。
(くそっ、思ったよりHPが削れてる! せめて十年若けりゃまだマシだったのによ!)
その時、ギルに鈴の音が届き、速度上昇の効果がギルにかかった。一歩の踏み出しで気付き、キングリザードマンの横に飛ぶ。
(こいつはすげえな!)
久々に受けるバフは、全盛期の動きに近づくような感覚だった。
勢い良く振るった剣はあとわずかでかわされたが、戦いに希望を感じる。
(この動きに慣れりゃまだいける! いつ効果が切れるかわからんが、長く続いてくれよ!)
キングリザードマンの剣線を避けて突きを放つ。敵のラウンドシールドを掻い潜り腰にヒットした。
それと同時にキングリザードマンの返す刃が迫り、ギルはそれを盾でガードする。深入りはせず後ろに飛んだ瞬間、ギルのいた場所にラウンドシールドによる攻撃が通り抜けた。
(勘は鈍ってねぇようだが、一撃一撃が重い。それに、こっちの攻撃が効いてる気がしねぇな)
お互いにHPに守られており傷つくことはない。しかし、衝撃は伝わってくるため、その手応えで判断していた。
その時、キングリザードマンの色が変化したように見えた。
(なんだ? キングリザードマンに補助の特技ってあったか?)
踏み出そうとしたギルが警戒して止まると、キングリザードマンから攻撃に打って出た。
巨体から繰り出される剣撃をバックステップで避ける。しかし、それを読んでいたキングリザードマンは踏み込みながら剣で凪ぎ払った。
ギルは剣を巧みに動かし防いだものの衝撃を受け止めきれず、わずかにバランスが崩れる。
その時またキングリザードマンの色が変化したように見えた。
(なんだってんだ! 色が変わるのは!)
渾身の剣が振り下ろされるが盾でガードし、カウンターの一撃を繰り出す。
『メガスラッシュ』
その攻撃をキングリザードマンはガードせずに盾攻撃を放った。
先に届いたのはギルの特技だ。メガスラッシュの直撃はキングリザードマンに大きなダメージを与える。
ギルは手応えを感じ、直後にキングリザードマンの攻撃が直撃して地面に叩きつけられた。
ギルは受け身を取りながら一瞬HPに意識を向ける。事前にセージが回復魔法を発動していたためHPに問題はない。
(助かるぜ!)
一回転して盾を構えた瞬間、キングリザードマンにセージの魔法が当たった。
キングリザードマンがちょうど剣を振りかぶった時に当たったためバランスを崩し、セージにギョロッと目を向けた。
(行かせるか!)
一足飛びで接近しながら掬い上げる様に剣を閃かせる。キングリザードマンは盾を合わせながら後ろに飛んだ。
この時、感覚的にキングリザードマンの攻撃力と守備力が落ちていることに気付いた。
そして、三十年前に短期間だけいた仲間がデバフを使っていたとき若干色が変化したことを思い出す。
(あの色はデバフか! 言えよ! ってパーティー戦初めてでわからねぇのか!)
ギルはステータスを確認しながら『ハウリング』と呟く。
「お前の相手は、俺だ!」
そう吠えながら斬りかかった。キングリザードマンもギルに攻撃を仕掛ける。
(ハウリングを使う前からこっちがターゲットにされてたな。また何かしたのか、セージ)
お互いに斬撃を繰り出し防ぎながら戦闘が続く。ギルはHPを確認しながら戦っており、HPが一定の値を過ぎた時に回復されることに気付いた。
(これをガードしたら……やっぱり回復してるな。しかも全回復ってフルヒールか? いや、ちげぇな。ちょうど回復するように調整してやがる。全くあいつは、魔法は何十回と撃てるし、多彩な援護もできて、回復も上手いってわけか!)
ギルはキングリザードマンと互角の戦いを繰り広げているが、それがセージのサポートのおかげであるとわかっていた。
戦闘前にセージにはレベル40のパーティーで倒せると言ったが、それはギルが二十代のころ五人パーティーで倒した経験のことを言っていた。
今のギルはレベル50で聖騎士のランクも剣の技術も高いが、ステータスとしてはレベル40で二十代の時と同等だ。パーティーも一人しかいないし、連携どころか一方的に守ろうと考えていただけだった。
セージの前では大きく言ったものの、実は援軍が来る前に全滅の可能性が高いと考えていた。しかし今は時間を掛ければ勝てるとさえ思える。
(パーティー戦が初めてとは思えねぇな。後衛が何人も居るみたいだ。こんな安定感のある戦闘なんて久しぶりだぜ。あいつはまだ十一歳だろ? すげぇな)
キングリザードマンの動きに慣れてきており、少し余裕が出てもう少し攻めようかと考えていたとき、攻撃から伝わる感覚に違いがあった。
「セージ! デバフが切れた!」
反射的に言ってしまったギルにセージから返答が届く。
「攻撃、防御、両方デバフが必要ですか!」
「できれば頼む! デバフがあれば戦いやすい!」
「ではハウリングをお願いします!」
(思わず頼っちまったが、セージにも余裕がありそうだな。しかもハウリングをしろってことは狙われないよう計算してんのか)
ギルは『ハウリング!』と大声で言い、気合いを入れる。
「かかってこいやぁ!」
怒号と共に繰り出した突き刺すような攻撃は盾で防がれたが、ギルもキングリザードマンのカウンター攻撃を見切って盾で受け止める。そのとき、キングリザードマンの色が変化しデバフがかかったことがわかった。
「これで大丈夫か!」
「はい! でも、もう少しハウリング多めでお願いします!」
「おう!」
さっきと違う位置からセージの声が届く。
(対応は早ぇし、MPは尽きねぇし、動き回る体力もあるってか。しかも、これだけ魔法と特技を使って狙われないなんてあるのか? あるんだろうな、そんな技術が)
その後も戦闘は続いたが、セージの援護は途切れることがなかった。
HPが減れば回復され、バフは切れる様子がなく、相手には常にデバフがかかっている。ヘイトも管理されていて後衛を心配する必要もない。
目の前の敵に集中して戦うだけでいい。
(守るつもりが守られてるとは。まったく頼りになるヤツだぜ)
ギルとセージ対キングリザードマンの戦いはちょうど援軍がついた頃に決着がつき、たった二名で倒したことはラングドン領軍の中で話題になるのであった。
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