第25話 初ボス&初パーティー
何かを通った感覚にセージは辺りを見渡す。
(なんだったんだろう)
「止まれ、セージ!」
後ろからついてきていたギルが鋭い声を上げる。
そして、すぐにセージをかばうように前に出た。
「どうしたんですか?」
「ボスは初めてなんだな」
(ボス? あれ? さっき倒されたって話だったけど)
「ボスって二体いたんですか?」
「そのようだな。さっきボスの境界を通っただろ? 弱い魔法士が放つウィンドウォールを通ったみたいな感覚。ボスが近くにいるって証拠だ。すまねぇな。こうなる前に俺が気付くべきだった」
少し戻ってみると壁に当たる感覚があった。透明で全く見えないが一方通行の壁があるらしい。
「ボスの境界に一度入ったら逃げられねぇぞ」
(そんなのあるんだ。ゲームでもボス戦は逃げられないけど、こういうことなのか)
「騎士や冒険者が死ぬ原因で一番多いと言われているのがこれだ。ボスを倒すまで逃げられんが、だいたいはそれ以外の魔物は出てこねぇ。ボスに集中しろ」
「はい」
「よし。まずはパーティーを組む」
その言葉と共にパーティーの申請がステータスを表示したときのように視界の端に届く。承諾を意識するとパーティーの項目が追加された。
(パーティーになったら名前、レベル、HP、MPは確認できるのか。ステータスは……見れないな。たぶん)
「パーティーになりました」
「よし、パーティーなら『スケープゴート』が使える。これを使えばセージのダメージを俺が受けれる様になるから安心しろ。ただ、すまねぇが俺は回復が苦手だ。回復してくれると助かる。回復魔法は使えるだろ? パーティー内なら触れなくても使えるからな」
「わかりました。回復役になります。それに支援もできますから。AGI上昇もかけますね」
「おっと、今は止めろよ。アイテムや特技を使った時点で戦闘開始になる。こんな森の中で何かもわからんボスに不意を突かれたくねぇ」
「そうだったんですね。ボスを見つけたら遠くから攻撃魔法を撃つとかは?」
「それはできるが、攻撃してセージが狙われた時が危険だ。まずは俺が注意を引く。敵によって攻撃魔法が必要になるかもしれんが、基本は支援と防御を重視してくれ」
「了解です」
「よし進むぞ。慎重にな」
辺りを警戒しながら歩くギルにセージは着いていく。
(攻撃したら狙われるってことはヘイトのシステムがあるってこと? FS12から何度か導入されたし。支援でもヘイトが溜まるはずだけど、どれくらいたまるのかな。今まで敵は一撃だったからよくわからん。こんなことならパーティー戦をやっておけばよかった。もしヘイト管理に失敗して狙われたら、ひとたまりもないぞ)
森の中を慎重に進む。特技・魔法やアイテムを使わなければ、ボスが不意を突いて出てくることはほとんどない。
とはいえ、時間が経つと動き出したり、隠れていたりするボスもいるため、緊張感を持ち続ける。
(結構神経がすり減る。これってボスの範囲に入ってから大勢でしか倒せないレイドボスだとわかったらどうするんだろ。完全に詰み? 第一騎士団と魔法騎士団が百人以上でボス戦に行ってて大袈裟だと思ったけど、そりゃ何が出るかわからないボスに挑むならそうなるよな)
しばらく進むと森の中にぽっかりと木々のない場所が現れた。そしてその中央には三メートルを超える巨体のリザードマンが立っている。
「キングリザードマンかよ。強えぇがまだマシだぜ」
(キングリザードマン? 初見のボスだ。通常のリザードマンとの違いはなに? 大きさだけならいいんだけど)
今までのFSにキングリザードマンというボスは出てこなかったためセージは情報が欲しかった。
「キングリザードマンと戦ったことがあるんですね。リザードマンとどう違うんですか?」
「違い? そりゃ強さだろうな。レベル40以上のパーティーなら倒せるくらいか。俺は全盛期を過ぎてるがレベル50だ。互角に戦える」
(そりゃ強さは違うだろうね。まぁどうしようも無いくらい強い訳ではないことはわかったけど。攻撃パターンとかそういうのが知りたいんだよなぁ。そんなこと言っても難しいか)
「互角って言うのはステータスが同じくらいってことですか? 魔法は使いますか? 弱点はリザードマンと同じですか?」
「そうだな。感覚だが、俺より相手のほうが体は強いが遅いって感じか。攻撃を受けたら防御しててもHP100くらい削られそうだ。あと、魔法は使わねぇし弱点も同じのはずだ」
(ふむふむ。ギルでそれってことは俺なら一撃死じゃない? 魔法なしはありがたいけどさ。リザードマンは火と水に強く、氷に弱いだよな。魔法耐性は低いからとりあえず風魔法で対応か。いや、攻撃はやめて回復と支援だけにした方がいい? 狙われるわけにはいかないし)
「もう質問はねぇか?」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ作戦だ。俺は森を出てすぐに相手の注意を引く。そしたら狼煙を一つ上げろ。これで援軍が来るはずだ。俺はキングリザードマンに接近戦を挑む。セージは隠れながら支援と回復をしてくれ。攻撃魔法は使えたら助かるが、狙われる可能性がある。無理はするな」
「わかりました」
「それじゃあ、開始だ!」
ギルが森から出て『ハウリング』と言い、思い切り叫んだ。
「トカゲ野郎! 勝負だ!」
それに気付いたキングリザードマンは剣を構えて走り出し、ギルもそれに向かって行く。
セージはその隙に狼煙に魔法を使って着火し、隠れるように移動する。
お互いの攻撃が一閃。お互いに盾でガードし、少し間合いをとる。
(後は支援と回復だ。とりあえずAGI上昇をかけて、これを切らさないようにしないと)
セージは鈴を取り出してリズミカルに鳴らし、バフをかける。
バフと呼ばれる旅人のステータス上昇系特技はカイルのパーティーメンバーであるジェイク、デバフと呼ばれる祈祷士のステータス低下系特技はマルコムにそれぞれ基礎を教えて貰っていた。
(バフはこれだけか。鈴しか持ってないし。キングリザードマンにデバフって効くのかな?)
バフは演奏なので楽器が必要だ。セージが必要なのはAGI上昇くらいなので、他の楽器は荷物になるため持っていたなかった。
また、デバフは敵の耐性によるため、効くかどうか、効いたとしてもどれくらいの効果かはわからない。戦闘中にキングリザードマンの速度が下がったり戻ったりすると戦いにくいだろうと思い、試しに攻撃力低下をかける。
一瞬キングリザードマンの色が変化したように見えた。
(かかったっぽい! ギルのダメージ量も減ってるな。よし、一応回復魔法を使って、あとは防御力低下をかけて、風魔法で攻撃は一分間で一回、二回くらいは大丈夫かな?)
ギルのダメージ量は思ったより大きかったが、キングリザードマンと安定して戦っているため後衛のセージは余裕を持てていた。
防御力低下の祈りをしながら呪文を唱える。
「Lieru grandis ventus acri occitis ante hostium」
キングリザードマンとギルが間を離れる時を見計らって魔法を発動する。
『ウィンドカッター』
ちょうど良くキングリザードマンが攻撃しようとした瞬間に当たりバランスが崩れる。
その瞬間、キングリザードマンがギョロッとセージに目を向けた。
ビクッと緊張が走ったが、すぐにギルが攻撃してキングリザードマンの意識を取り返す。
『ハイド』
セージは敵のターゲットから外れる盗賊の特技を発動して隠れるように移動する。
(あっぶない。一撃でアウトなんだから慎重にしないと。思ったよりヘイトの溜まりが早い。風魔法が思ったより効いているのか? デバフのヘイトが高めの設定?)
ギルのHPを確認しながら、セージは考察する。
(デバフの効果は二割程度かな? 回復を少し増やしても対応できるし、バフと回復に専念して隙があれば攻撃魔法がいいかな? ヘイトも管理しやすいし。いや、防御低下をかけてダメージ量を増やした方がターゲットに取られにくい? 検討しないと。中級より低級で数を撃った方が戦いやすいかもしれないし。でもタイミングが難しいな)
セージは初めてのボス戦でありパーティー戦に集中するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます