第22話 勉強会
翌早朝にトーリ、ルシールと共に領都に向かった。護衛としてギルを含む二十人の騎士が付いており、かなり安全な行程である。
何事もなく順調に進み、二日後にはラングドン家に到着。早馬で必要な物はすでに伝えられていて、セージたちが着いた時には全ての用意が揃っていた。
すぐに用意された大量のセンの葉や薬草などの処理を行い、そして魔法水を用意した。後の工程はトーリや他の薬師に任せることになる。
蒸留に時間がかかるので、全てを作り終えるのに徹夜で作り続けて二日かかるとの試算が出ていた。完成すれば先に出発した軍を追いかけて、現地に着き次第作戦開始となる。
セージはその作戦までの二日間、特段することがないため、試験に向けて勉強と訓練を行うことになった。午前中に座学、午後から実技の予定である。
まずは座学が始まったのだが、教えるルシールは二時間後には困っていた。
「セージ、座学の試験は数学、言語学、魔法学、自然学、世界学だ」
「ええ、それは最初に聞きましたが」
「つまり、私から教えることはもうない」
「……そんな気がしました」
試験と言っても平民にそこまで求めていない。学びに必要な力を測る、つまり足し算引き算ができる、文字の読み書きができる、魔法がどういったものか知っているといった基礎的な部分が解ければ合格だ。さらに難しい問題も出るのだが、解けなくても不合格にはならない。ただ、セージにとっては簡単な問題ばかりだ。
数学、言語学、魔法学、自然学についてはルシールよりも理解が深く、むしろセージにとって自然学については理解度を下げて合わせることの方が重要であった。
それに、セージはFSの世界について非常に詳しい。しかし、ラングドン領など、そもそもFSシリーズに出てこなかった地域についての知識はほとんどない。その穴を埋めていく作業で二時間のほとんどを使ったと言ってよかった。
「しかし、魔物分類学、魔法システム論、呪文解析学など学園の講義にはさらに深い内容もあるぞ。それも、セージにとってどこまで役に立つかはわからんのだが」
「いえ、今から楽しみですよ」
「セージはどうしてそんなに賢いんだ? なぜそんなに勉強が好きなんだ?」
セージはその問いに首を傾げる。
(うーん、賢いわけじゃないし、勉強が好きなわけでもないんだけどな。FSの世界が好きだから興味があるだけで)
「僕は興味があって覚えただけですから」
「それに勉強だけじゃない。トーリから聞いたが、高品質薬の作り方を教えたのはセージなんだろう?」
「あれ僕が考えたわけじゃないんですよ」
「どういうことだ? セージも誰かに教えてもらったのか?」
「そんな感じなんです。えーっと、実はハイエルフの書いた書物を読んだだけなんですよ。あっ、他の人には内密にお願いしますね」
ルシールはさらりと言われた言葉に絶句した。古代エルフ語は大戦で失われたと言われている言語だ。それはこの世界の住人にとって破格の能力である。
「つまり、ハイエルフが考えたものを僕がマネをしただけなんですね。本当に賢い人は知識だけでなくそこから何かを生み出すことができる人だと思います。それに僕は勉強が好きなんじゃなくて、この世界が好きで、だから知りたいだけです。なので、勉強してるっていう意識もあまりないですね」
ルシールはセージの言っている意味はわかるが、上手く頭を整理することができずにいた。
数学、魔法学など本をパラパラと読んだだけで全て理解しており、古代エルフ語を読めて実践できる人物が賢くないと言われ、賢いの定義がわからなくなる。
「そうか……セージは将来何になりたいんだ? もし学者になりたいならすぐなれると思うが」
ルシールはふと湧いた疑問を口にする。セージは将来のことを聞かれて少し考え込んだ。
(何になりたいんだろ。そういえば考えたことなかったな。急にこの世界に飛ばされて、生きることとランクを上げることに必死だったし。うーん、学者は別になりたいとは思わないな。やっぱり、冒険か。冒険に憧れてRPGにハマったんだから。せっかくFSに来れたんだから楽しまないと損だ。世界を見たいしキャラに会いたいし楽しみ尽くしたい)
「僕は冒険者になって世界を見て回って楽しみたいですね。そのために強くなろうと思っています」
「楽しむために強くなりたい?」
それはルシールの中にない発想だった。戦いのため、生活のため、生きるため、様々な理由で強くなろうとする。
そして、ルシールが強くなりたいと願ったのは認められたかったからだ。
「そうです。この世界は危険も多いですからね。午後から実技の訓練をしますけど、元々鍛えるのが好きというわけではないんです。でも楽しむために必要だから全力で鍛えるつもりですよ」
(魔王に滅ぼされるわけにいかないし、神霊亀の件もあるしな。もしものために強くならないと。まぁ、この世界はステータスが見えるからモチベーションが上がるっていうのもあるけど)
「必要だから、か」
ルシールが呟くように言う。セージはルシールが考え込んでいるので、ラングドン家に置いていた本で唯一興味を持った各職業の特技や魔法が載っている分厚い本、特技魔法大全に目をうつす。
その姿はとても嬉しそうでニマニマと笑みがこぼれるほどであった。
ルシールは座学があまり好きではなく、実技ばかり力を入れていた。しかし、学園を出てから座学の重要性も感じ始めたのだ。
貴族にしてはMPが低くて特技を放てる回数は少なく、魔法は苦手だ。指揮をとろうと思ってもどんな戦略が有効かわからない。もっと勉強しておけばと何度も思った。
ブツブツ言いながら読むセージを見ながらルシールはポツリとつぶやく。
「私も勉強するか」
その言葉は本に集中したセージに届くことはなく、ルシールは邪魔しないように魔法学の本を開いた。
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