少年期~成長と戦い~

第20話 成長と再会

 ワイルドベアとの死闘から時は経ち、セージは11歳になった。約五年間、着々とレベル・ランク上げを進めて下級職は全てマスターできそうなところまで進んでいた。

 一覧にすると以下の通りだ。


 セージ Age 11 種族:人 職業:狩人

 Lv. 20 

 HP 129/129

 MP 1414/1414

 STR 40

 DEX 126

 VIT 30

 AGI 53

 INT 184

 MND 182


 戦闘・支援職一覧

 下級職

 戦士  ランク1

 魔法士 ランク30 マスター

 武闘士 ランク1

 狩人  ランク27

 聖職者 ランク30 マスター

 盗賊  ランク30 マスター

 祈祷士 ランク30 マスター

 旅人  ランク30 マスター

 商人  ランク30 マスター


 中級職

 魔導士 ランク1


 生産職一覧

 下級職

 木工師 ランク26

 鍛冶師 ランク27

 薬師  ランク30 マスター

 細工師 ランク30 マスター

 服飾師 ランク30 マスター

 調理師 ランク30 マスター

 農業師 ランク30 マスター


 中級職

 錬金術師 ランク14

 魔道具師 ランク1

 賭博師  ランク50 マスター


(やっとここまで来たか。とうとうここで出来るレベル上げはもう終わりだな。長かったような短かったような。十二歳までには確実に下級生産職をマスターできるだろうし。この地域を出るまでにできることをしないと)


 この日にレベルは20まで上がり、これ以上レベル・ランク上げをするなら地域を変える必要が出てきた。

 正確に言うとレベル上げはできるがランク上げができない。レベル20で倒すのにちょうど良い魔物はこの周辺にはいなかった。ちなみにワイルドベアはもう少し上のレベルで戦うべき相手だ。

 弱い魔物を倒していると、レベルは上がるがランクは上がらない。ランク上げを重視するセージは狩りを一時ストップするしかなかった。


 そもそもレベル20まで上げるのに五年の歳月をかけたのはランク上げのために魔物の選別を行っていたからだ。

 魔術師のヤナから一般的な下級魔法の全てといくつかの上級魔法を教わっている。日帰りできる範囲で、セージが一撃で倒せない魔物はいないので、レベル上げだけならレベル20まで一年もかからなかっただろう。


 ランク上げのためには倒してはいけない魔物が多数存在していたのである。

 強さと経験値が比例していないのだ。ここはFSシリーズが混ざった世界であり、シリーズのどこで出てくるのかによって、強さと経験値の物差しが違う。

 例えば、下級魔法で十分倒せる魔物なのに経験値がワイルドベアと同じくらい、なんて場合さえある。


 そんな魔物を倒していればランクが全く上がらないままレベルがガンガン上がっていくことになる。

 すると、ランクを上げるために強い魔物と戦わなければならなくなり、特に耐久性のないセージにとって致命的だった。


(最初は10体で1ランク上がるなんて結構甘いなと考えていたけど、レベルを気にしてランクを上げるのがかなり辛い。この世界の人がランクを気にしなくなるのもわかる気がする)


 セージはこの世界でランクよりレベルが重要視されている理由の一つが身を持って理解できた。

 情報収集と膨大なFSの知識から狩る魔物を決めて、同じ魔物ばかり100体200体と狩り続けるようなセージでさえ、レベル20に到達しても下級ランク全てをマスターすることはできなかった。

 この世界の住人にこんな環境でランクだけ上げようなんて思う人はよほど酔狂な者だろう。


 周辺でランク上げが出来なくなったセージだが、やることがまだ残っていた。

 それは、ガルフの鍛冶屋での修業、そして、孤児院の改築である。

 鍛冶師と木工師のランクを上げきりたいというのもあるのだが、お世話になった孤児院に恩返しがしたいと思っていた。

 ちなみに木工師ジッロの店には約十才で鍛冶屋に入る頃、さすがに時間が無くなり通わなくなった。しかし、今でもたまにセージが店に行ったり、ジッロが孤児院の改築を見に来てアドバイスをくれたり交流は続いている。


 鍛冶では調理器具などを修行の合間に自分で買った原料を使って少しずつ作って寄付している。

 木工では椅子や机などを新調していたが、12歳には出ていくことを決心してからは孤児院の改築を進めていた。全てセージのポケットマネーだ。

 高品質薬は爆発的に売れるということはないが順調に売れ続けており、セージの資産は五年間でかなり貯まっていた。そのお金の一部を使っているのである。


 孤児院のメンバーは大きく変わっていた。

 最初のメンバーは全員一人立ちして、セージが最年長になっている。新しく入るものも少なくて人数が徐々に減り、一時期は全員で四人しかいなかった。


 しかし、つい一週間前に、近くの町で起こった魔物の襲撃により一気に流れ込んできた。

 新しく入ってきた子供は10人であり、人数は急激に増えて賑やかになった。

 人数が増えてもセージが稼いでいたので特段困ることはないし、孤児院を出たメンバーが少しずつ援助してくれていたりする。


 10才から働いていた服飾店でそのまま就職したティアナはセージが調理器具の寄付をしていると聞き、得た賃金の一部から孤児院の子供のために服を作成、寄付している。

 張り切ってたくさん作ってくれたのは良いものの、はじめは人数が減っていたときだったので服が余るほどだった。今は人数が急に増えて足りなくなったので非常に助かっている。


 ローリーは町の小さな商会で働いている。商会に孤児が入るのは珍しいが、それはローリーが読み書き計算を勉強していたからだ。同室だったセージが教えたりしていたこともあり、商会で働けるようになった時にセージはローリーからとても感謝された。そして、セージもそのことを嬉しく思い、買い物するときはそこをひいきにしていた。


 セージとチャンバラをして遊んでいた一番やんちゃだった子たち三人は冒険者になって領都に行ったが、他の子は宿屋の下働きなど町のどこかで働いていた。

 ちなみに、レイラは結婚で商会に嫁ぎ、代わりにティアナの二つ上で、酒場で働いていたミランダが聖職者として勤めている。

 レイラは修道女らしさがあったが、ミランダはかなり俗世にまみれている感じがするなとセージは思っていた。


 セージは感慨深く色々なことを思い出しながら鍛冶屋から教会に帰ると、知らない人がいた。


(誰だこのおっさんは。なんかゴツい人だな。年は50歳くらい?)


 きゃあきゃあと子供がまとわりつき、穏やかな表情で高い高いをしている。


(悪人には見えないけど、歳にしてはかなり鍛えてる。身なりも良いし有名な騎士か冒険者かな)


 セージは男に近づいて話しかける。


「どちら様ですか?」


「おっ! 孤児院の子供か? 俺はギル。君にもこれをやろう」


 ギルは腰に付けていた麻袋を開けると、そのまま閉めてセージに突き出す。


「最後の一個だ。袋もサービスしてやる」


 ニッと笑うギルから袋を受け取り中身を見た。


(おおっ! クッキーだ! なかなかやるなこいつ。どうりで他の子供たちと打ち解けているはずだ)


「ありがとうございます」


「子供なのにしっかりしてるなぁ。もう働きに出てるのか?」


「えぇ、鍛冶屋の方で」


「そりゃ偉いもんだ。いつか俺の剣を造ってくれ」


 ぐははっとギルが笑う。


(しかし、クッキーを持ってくるってことは、かなり良いところに雇われている騎士に違いない。しかし、どうしてこんなところに?)


 セージは甘味が好きだったのだが、この世界に来てからほとんど口にしていなかった。高級品だからというのもあるが、そもそもこの町では売ってないのだ。庶民で高級な甘味を楽しむ者なんていないから仕方がない。


「それで、ギルさんはどうしてここに?」


「薬屋の……トーリだったか?の師匠でセージという者に会いに来たんだ」


「そうなんですね」


 セージは表情を変えることなく答えたが、周りの子供たちがザワついた。


「んっ? みんなどうした?」


 ギルが不思議そうに聞いたが、セージが周りを見渡すと皆黙った。

 色々な物や魔物の肉を寄付し、孤児院の改築までしているからというのもあるが、セージの普通とは違う雰囲気を感じとっていたのだ。ここに来て一週間しか経っていない子も含めて、孤児院の子供たちはセージを特別視している。

 セージ自身は、自分の言うことをよく聞いてくれるのは年長者だからかなと思っていた。


「ところでセージにどんな用があるんですか?」


(まずは目的を調べないとな。なんかやらかしたっけ? 場合によってはこっそり逃げよう)


「セージって高品質薬を作ってるだろ? って子供にそんな話はしないか」


「そうですね。みんな聞いたことがないと思います。その高品質薬っていうのはだめなんですか?」


 まわりで、えっ?っという顔をしていたがセージはそんなこと気にしない。


(うん。嘘はついていないぞ。他人事のように話しているだけで)


「いやいや逆だ。高品質っていうのは……まぁすごいってことだ。俺は見たことがないがな。それでラングドン領の領都に呼んで、それを作って貰おうって話だ」


「薬屋で購入すれば良いんじゃないですか?」


「そうなんだけどなぁ。週に20本しか造ってねぇんだって。もっとガツンと大量に造りゃいいのによ」


(そんなに作っても普段は売れないから。増産しようと思ったらできるけど鍛冶も改築もあるしなー。でも、なんで急に来たんだろう)


「20本で足りないんですか?」


「最近魔物の動きが活発になっているんだ。おっと、安心してくれ。ここまでくることはない。俺たち騎士が魔物を蹴散らしているからな」


「良かった。それなら安心ですね」


(つまり、厳しい戦いで回復薬が大量に必要ってこと? 高品質を使うってことはかなり高レベルのはずだが、それでも苦戦するとなると結構ヤバイんじゃないか? というか、このおっさんも援護に行った方が良いのでは? 強そうだし)


 ぐははっと笑うギルに対して微笑みながらセージはそう考える。


「おっ、話が終わったようだ。お嬢!」


「その呼び方はよせ。ちゃんと名前で……」


 お嬢と呼ばれた人が歩きながら不満を口にするが、途中でセージと目があった。


(なるほど。まさか貴族自ら来るなんて、よほど切羽詰まっているのかな?)


 その姿はルシール・ラングドン。ラングドン家の長女であり、以前セージをスライムから助けた少女である。現在は十七歳であり、少女というより女性と言った方が良いだろう。あどけなさが無くなっていたが面影はあった。


「お久しぶりです、ルシール様。あの時はありがとうございました」


 ギルと話していたときは少しの子供らしさを意識していたが、ルシールに対してはバレているので対応を切り替える。


「やはりセージか。大きくなったな」


「ええ、十一歳になりました。ルシール様は凛々しく、美しくなられましたね」


「……世辞などいらん」


「本心ですよ。さてルシール様、ギル様、立ち話も何ですから孤児院の中でお話ししましょう。応接室などはなく私の部屋になりますが」


「ああ、そうだな。ここでする話でもない」


「それでは早速行きましょうか。みんなは夕食の準備をしてて。エリィ、指示は任せる」


 セージはエイリーンという一歳下の子に丸投げして、自分の個室に向かった。


「何がどうなってんだ……」


 ギルは呆然と呟きセージとルシールについていった。

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