第13話 回復薬は高品質になりがち
さらに二か月後、準備を終えたセージは薬屋を訪ねた。
なぜ時間がかかったのかというと、道具と魔法が必要だったからだ。
蒸留器などの道具の作製はガルフに頼んだ。トーリとは知り合いだったらしく、作るのに技術のいるガラス器具だったが快く引き受けてくれた。もちろんセージは金欠なのでお金は全てトーリが出す。
それだけなら一ヶ月もかからなかったが、二ヶ月かかったのはセージが魔法士のランク上げをしていたからだ。
魔法士が使える生活魔法『ファイア』と『ウォーター』に加えて『ドライ』が必要だったのである。
薬草の取り扱いの注意点として、採取後早く乾燥させる程良いが炙ったり炒ったり直接加熱すると薬効が失われるため『ドライ』の魔法が最も適切だと記載されていた。『ファイア』と『ウォーター』は加熱と清水に利用する。
生活魔法ではあるが、『ドライ』は厳密に言うと中級の水魔法でありランク10以上に上げる必要があった。そこで、最初はスライム、レベル4からはレッドスライムを狩り、ランク上げを行ったのだ。
ランク上げはスライムに対して『スティール』を発動して倒すことで行う。マスターしないと職業を変えたときに特技が使えなくなるため、まずは盗賊マスターから始まり、その後に魔法士ランク上げという大量のスライムを倒すイベントが始まったのだ。
レベル3まではスライムだったので楽だった。しかし、レッドスライムを狩るときはスライムを避けなければならない。
森の中なのでレッドスライムの方が色としてはわかりやすいのだが、数が少なくてすぐには見つからなかった。かといって無茶して死ぬわけにもいかないため結局二か月かかってしまったのだ。
その成果としてレベル6になりこれ以上はレッドスライムでランクが上がらないところまできた。もうスライム&『スティール』でランク上げが出来なくなったが、魔法士ランク13までは上げることができた。
二か月で、しかも五歳なのに自力で魔法士ランクを上げて来たセージは異常なほど早いのだが、トーリはさすが神の子だなと思うだけだった。
ちなみにトーリはレベル30なのでこの方法でランク上げはできない。エルフの女性は魔法士になりがちだが、トーリはハーフエルフなので魔法士のランク上げは諦めて、商人をマスターしていた。
(とりあえずレッドスライムでランクが上がらなくなるまでとか簡単に考えてたけど辛かった。レベル6になったときの達成感は半端なかったなー)
レベル6に上がったときは思わず一人でガッツポーズをしてしまったほどだ。
これでセージのランク上げは一旦終わりである。それは魔法使いランクが上がっても魔法は生活魔法しか使えないからだ。
生活魔法は魔法士ギルドや教会などで誰でも教えてもらえて、大抵は親が子供に教えている。
しかし、下級魔法は冒険者ギルドか魔法士ギルドで登録した者しか教えて貰えないのだ。さらに、中級以降になると弟子になって個人的に教えて貰うか、呪文が書かれた本を買う必要があり、どちらにしても有料になる。
セージは早くランク上げをしたかったため攻撃魔法を覚えたいのだが、五歳ではギルドへ登録できないし、本を買うお金もないため、全く覚えていない。
そもそも攻撃魔法は危険なため、十歳以下の子供に教えてはいけないことになっている。
(鑑定も覚えたいけど、商人のステータス補正は全職業で最悪らしいからな。中級魔法を覚えるまでランク上げはおあずけだ。まずは魔法書を買うための金。そのための回復薬だ)
魔物との戦闘は耐久力のない今のセージにとって非常に危険である。物理攻撃を行う職業はもちろん無理だ。即諦めるレベルのステータスをしている。
また、攻撃魔法でも下級魔法では足りないと思っているので中級魔法を覚えようとしていた。レベルの上がった今でさえスライムの攻撃が直撃したらHPが三分の一程度削られるのだ。
低ランクの魔物とはいえ、もし倒し切れず反撃を受けるとHPがなくなる可能性があった。
そこで、セージは回復薬の売り上げの一部をもらって中級魔法書を買おうと計画していた。
金のことで頭がいっぱいのセージと回復薬の製法のことで頭がいっぱいのトーリは、本の通りに作り終えると、専用のビンに入ったHP回復薬が5本出来上がった。
トーリはそのうちの一本をそっと手に取り、感動したように眺める。
「綺麗……こんな物ができるなんて」
「確かに店に置いてある物とは違いますね」
トーリとは対照的にセージは冷静である。作成したポーションは青く透明な液体だ。店の物は少し濁りのある深い緑の液体である。
(正直見た目的には店の回復薬の方が効きそうだな。良薬口に苦しって感じで。作り方に間違いはないはずなんだけど)
「これって成功ですか? 鑑定でも使えたら良かったんですけど」
そんなことを考えていると、感動から復活したトーリが言った。
「鑑定なら私が使える。商店をやってるんだから当たり前だが職業は商人だ。鑑定結果は、高品質のHP回復薬だ」
(高品質ね。なんだか錬金術師系チート感があるな。せめてもうちょっと試行錯誤して高品質を得られるような流れじゃないと拍子抜けというか。まぁ本の通りに作ったんだから高品質なのは当たり前なんだけど。しかし、FSに品質なんてあったんだな。FS1と10だと回復薬の回復量が違うけど品質の問題だったのか?)
「品質が良いなら良かったです。高品質ってことは上手く出来たってことですよね?」
「その通り。上手くできたというか、きっと現代で最高の品だ。さすが師匠だな」
「……師匠?」
セージは以前もそう言われていたのを思い出したが、その時はテンションが上がって言ったんだろうと聞き流していた。
「ああ、セージは私の師匠だ。良かったらこれからも教えて貰えないか」
「本のことを教えるのは構いませんが、師匠はおかしくありませんか? 一緒に回復薬を作ったんですから。そもそも僕が弟子入りしたいと言っていたんですからトーリさんが師匠では?」
「いいや、違う。セージ、店の回復薬の品質はどうだと思う?」
棚に置いてあったHP回復薬を指す。でもセージにはポーションの良し悪しはわからない。
「ええと、どうでしょうね。効きそうな見た目ですけど」
「普通の品質だ。でもそれが私の限界だった。良質ですらないんだ。でも、師匠が作ったポーションは高品質。格が違う。普通の物を作っていた私が高品質の物を作った者に対して何を教えることがある? 今、私は高品質の回復薬の作り方を知ってしまったのだ。そして、HP回復薬の他にも高品質薬の作り方を教えて欲しい。つまり、セージは私の師匠だ」
熱く語るトーリに対して引き気味のセージは、師匠と言われるほどのことはしていないと主張するが聞き入れられない。
ただ、トーリの言うことは生産職の世界で一般的でもあった。自分の製法より良い物を教わった場合は師匠と弟子の関係になりその間だけの秘密にするのが基本のルールだ。良い製法は一子相伝にするほど秘匿されることもあるくらいである。
(いやいや、そんな無茶な。本を読んだだけなのに。さすがに五歳に向かって師匠なんておかしいんじゃないか? 薬師ランクも12だし。薬師として作ったのって十種類もないぞ)
結局、師匠はおかしいという主張は聞き入れられず、五歳にして師匠になるセージであった。
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