第11話 鍛冶屋とドワーフ

 薬屋を出るとすぐに森へ向かった。

 セージは職業のコンプリートを目指している。それには何年かかるかわからないため、できることは早くしようと思っていた。


(ゆくゆくは自立もしたいしなぁ。スライムでは稼げないし、他の魔物も倒せるようにならないと)


 そんな事を考えながら、教えてもらった植物を集める。薬草はどこにでもあるようでたくさんとれたが、毒消し草と退魔の花は少し、センの葉は見つからない。


(この辺にセンの葉はないのかな? 山の方がありそうだし)


 森の外周部分をうろうろとしていると途中でレッドスライムを見かけたがそっと逃げた。


(レッドスライムはダメだ。スライムだけでランクを上げれるだけ上げないと。しっかし、調子にのって採りすぎたな。スライムを入れていた麻袋がパンパンだ。ゲームみたいにいくらでも入る袋とかがあればいいのに)


 そう思ったとき、セージはあれ?っと思った。FSシリーズで登場することに気づいたのだ。


(シリーズ全てではないけど、ある。ということはこの世界にもあるはず。聞いておけば良かったな)


 帰ったら聞こうと心に留め、森を出る。


 薬師のランク上げのため、薬草や油などを煮るものが欲しかったのだが、中央の通りでは小銅貨で買える鍋なんてない。

 教会の物を借りることもできるだろうが、素人が採集して調薬するよくわからない物のために使われたくはないだろうと考える。

 そこで、職人から直接なら安く買えるのではと思って鍛冶屋の区画に向かった。


 町の西側には職人の区画が形成されている。

 ある程度職業別にかたまっており、北西辺りが製錬所や鍛冶屋の多い場所だ。ずっと煙が上がっているので分かりやすい。


(とりあえずは鍛冶屋かな。鍋のようなものさえあれば今のところはなんとかなるし)


「だから丁寧にやれって言ってんだろうがぁ!」


「すみません!」


 怒声が聞こえてくる店を覗いてみると、がたいの良いドワーフに対して小柄な少年が謝っている。


(ドワーフだ! いや、本当にドワーフかな? ドワーフっぽいけど。ただ単にずんぐりむっくりした背の低い人?)


 見るからに髭を蓄えたドワーフ顔だったが、セージはリアルでドワーフに会ったことがなかったので判断がつかなかった。


「おい、そこのお前。何か用か?」


 ワクワクが抑えきれずにじっと覗いていたセージは、じろりと目を向けられて慌てて取り繕った。


「あの、鍋のような容器を探していまして。ちょうどその人が持っている物がちょうど良いなと」


「ん? こいつのことか?」


 少年から鍋を奪ってセージに見せる。それは金属鍋、ではなく土鍋だった。

 一人用の土鍋のようなコンパクトなサイズで蓋はなく、土器とも言える。


(鍛冶屋でも窯業やってるんだなー。窯業でも鍛冶師ランクってあがるの? それなら少し楽になるんだけど。それよりもまずはこの鍋が安いのかどうかだ。金属よりは安いだろうけど)


「そうです。ちょうどそれくらいの鍋が欲しかったんです。それはいくらで売ってもらえますか?」


 ドワーフは呆れたようにため息をつく。


「おい、お前。ガキにはわからんかも知れんがな。よく見てみろ。厚みがなってねぇ。それに、ほらここに薄くヒビがあんだろ。歪みもあるし丁寧さが足りねぇんだよ。使えなくはないが売りモンにならねぇ」


 親方が鍋を指してダメ出しをしていく。言い方はキツいが的確ではあった。


「そうなんですね。でも、ほとんどお金がないので普通の鍋だと買えないんです。できれば安く譲って頂けませんか?」


 親方がじっとセージを見る。


「変なガキだな。この辺じゃ見ないがどっから来た?」


「セージと申します。昨日から東側の孤児院で暮らし始めました。よろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げる。すると、セージを見る目が少し柔らかくなった。

 セージのことを、最近親を亡くした子供だと考えたからだ。


「……そうか。俺はドワーフのガルフってもんだ。こいつは弟子のダリアだ」


 ガルフの心情に全く気付かず、セージは心の中で叫ぶほどテンションが上がっていた。


(やっぱり!! ハーフエルフに続いてドワーフだ! 意外と種族が混じって生活してるんだなー。今までのFSではくっきり分かれていることが多かったんだけど、この地域独特のこと?)


「ガルフさん、ダリアさん。よろしくお願いします」


 気持ちを落ち着けて丁寧にお辞儀するセージにガルフが鍋を持って説明する。


「それで、この鍋だがな。使っているうちにすぐ割れるかもしれん。それでもいいのか?」


「はい。割れるまで使います」


「そうか、金はあるのか?」


「小銅貨二枚あります。足りなければ稼いできます」


「ほう。どこで稼ぐつもりだ?」


「この小銅貨も薬屋でスライムを売って得たものなので。また売りに行きます」


「薬屋ってことは大通りのでかいところか? それともトーリのとこか?」


「トーリさんの店です」


 ガルフは少し考えて、鍋をセージに差し出して言った。


「売ってやるよ。小銅貨一枚だ」


(小銅貨一枚ってことは100円くらい? 一人用サイズとはいえ安すぎ。大量生産の現代日本でもなかなか無いぞ。でも原価は安いだろうし、いいのかな?)


「あの、そんなに安くていいんですか?」


「ガキがそんなこと気にするんじゃねぇ。まったく。あのな、こんな風にどうしようも無ねぇ鍋、割るしかねぇんだ。それを買うってんだからそれで十分だろ。おい、ダリア。早く客の対応をしろ」


「あっ、はい。あの、ありがとうございます」


 慌ててお礼を言うダリアに、セージは鍋を抱えて小銅貨一枚を渡す。


(とりあえずはこれで薬師のランク上げをしていこう。ゆくゆくは回復ポーションを自分で作れるように。回復量が足りなくても元々のHPが低いからな。とりあえず回復手段が出来れば良いや)


「初めて自分の作品が売れて、嬉しいです」


 お金を受け取ったダリアが感動したように言った。


「僕もこんなに安く鍋が買えて良かったです。また来ますね」


「はいっ! 次はもっと良いものを作りますね!」


 そうして鍋を手に入れたセージは意気揚々と教会へ帰るのであった。

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