第8話 あっさりリベンジ

 次の日、セージは夜明け前に起きた。


(楽しみすぎて思ったより早く起きてしまった。なんだか感情の起伏も激しい気がするし精神まで少年になってる? まぁいっか。体も軽いしばっちりだ)


 まだ誰も起きていないのを確認してこっそり教会を抜け出す。セージは昨日から盗賊の特技、スティールを使いたくて仕方がなかったのだ。


 太陽はまだ出ていないが空が白み始めていて、明かりが無くても問題ない。

 元々教会が町の端、神木の道に近いところに建っていたため五分もかからずに着いた。


(さて、奥まで進んで逃げられなかったらシャレにならないし。森の中は暗いし。入り口付近にちょうどいいのがいればな)


 セージはスティールを使う相手、スライムを求めてキョロキョロと見渡す。


(発見! なんだか頭隠して尻隠さずって感じ。頭がどこかわからないけど)


 道の端の草むらに体を半分だけ隠したスライムがいた。入り口からはそれほど離れていない。気づかれないようにゆっくり近づいていく。


(よし。昨日のリベンジだ。覚悟しろ)


 セージは内心だけ威勢良く、実際は亀のようにじりじりとスライムに近づいていく。

 あと二十メートル程のところでスライムが気付き、セージに向かってポンッと跳ねる。スライムが反応した距離がスティールの発動範囲だ。


 セージはスライムが跳ねた瞬間、足を肩幅に開き右足を一歩前に、そして開いた手をまっすぐスライムの方に向けた。


『スティール』


 発動しても何も起こらずにスライムが近づいてくる。


(思ったよりスライムが早い! 大丈夫か? にげるか?)


 そう思った瞬間、手が淡く光ったので即座に手を閉じる。

 それと同時に目前まで迫っていたスライムは動かなくなり、少し楕円形になった。


 開いた手の上にはスライムの核が乗っている。

 しっかりと確認するように見つめると、ぎゅっと核を握りしめた。


(ふぅー。発動に時間がかかるのが厳しい。でも、成功だ! これでスライム狩りができる!)


 これは、FS12で話題になったネタだった。

 発売からしばらくたった頃、ネット上で『スライムの最も美しい倒し方』という動画があげられた。


 魔物には弱点の設定があり、スライムの弱点は中央にある核だというのは知られている。しかし、スライムの核に当てるのは不可能だ。

 魔物が傷ついたりするグラフィックなんて用意されていないからである。そこはゲームなので仕方がない。つまり、スライムの核に当たる時点でそのスライムは倒されているため、実質弱点なしになる。


 そんなスライムに対して動画を上げた人物は核を盗むという方法を取った。通常スライムを倒した後のエフェクトはスライムがバラバラに飛び散るというものだ。しかし『スティール』を使うと、スライムを傷一つ付けずにそのまま倒すことができるという何とも言えない技である。


 FS12では初期に『スティール』を覚えることができないし、核を盗んだ所で使い道がなく売っても金にならない。スライムゼリーというアイテムも手に入るが、調合の素材として低級だ。初期ならまだしも中盤で得ても無駄である。


 スライムを一撃で倒せるにもかかわらずそれを試したわけで、馬鹿界の天才だと評された。

 セージはその事をネットで知り、一度だけ試したことがある。


(いやー、あんな技でも役に立つもんだな)


 魔法が使えないと、セージのステータスで倒せるモンスターはいないため、この裏技を使うしかないと思っていた。

 ちなみに『スティール』で減るMPは2なのでセージにとっては使い放題だ。


(これでなんとかランク上げが出来そうだ。スライムゼリーを売れば少しだけどお金も得られるだろうし。無一文にはありがたい。これが無かったら詰むところだ。本当に技を覚えていて良かった)


 そして、セージは満足そうにスライムを拾って孤児院に帰るのであった。


 こっそり帰ったら朝ごはんを作ろうと起きてきたレイラに見つかった。


「あれっ? セージ君何処に行ってた……って、何それ!」


「えっと、スライム、ゼリー?」


 バレないように売りに行こうと思っていたのだが、セージにとっては一抱えもあるスライムなので隠せるはずもない。


「これ、森で見つけて、使えるかなって持って帰ってきたんですけど、捨ててきますか?」


 何とも言えない顔をしているレイラにセージもどうしていいかわからず、言い訳するかのように言った。


「そうね……とりあえずこの袋に入れておいて。お昼になったら薬屋に行きましょう。それよりもどうして森の方に行っていたの?」


「えーっと、ちょっと早く起きたので散歩に、あっご飯のお手伝いしますね」


 セージはレイラの出してくれた麻の袋にスライムを詰めて、ごまかすように昨日教えてもらった食器の準備をした。


 食事のあとは片付けをして、教会と部屋の掃除や洗濯、畑仕事だ。十歳以上の子供は、今はティアナしかいないが、町で仕事の見習いをするため出掛けていく。


 セージはローリーに教えてもらいながら掃除、洗濯に取りかかる。

 洗濯物を孤児院の庭に干しているとローリーに話しかけられた。


「やっぱり上手だよね。朝も準備してくれてたし。今までも掃除とかお手伝いしてたの?」


「えっと、何となくわかるから、してたんじゃないかな? 記憶はないんだけど」


 前世の話をするわけにもいかず、言葉を濁す。すると、あっと気付いた表情をして申し訳なさそうにする。


「そうだったね。ごめん。でも助かるよ。ティアが町に行くようになったから一人減ってたんだ」


「えっと、役に立てて嬉しいよ。そういえば、みんな一緒にこの孤児院に来たの?」


 セージは謝るローリーよりもさらに申し訳ない気持ちになりながら気になっていたことを聞いた。

 みんなの話しぶりから、新しく孤児院に来た子供がいないような気がしたのだ。


「そうだよ。みんなここからもっと南にある町に住んでたから。その町が無くなっちゃってこっちに来たんだよ」


「魔物にやられた、とか?」


「んー、良くわからないんだけど魔物というか神様みたいなもの? 山みたいに大きい亀、かな?」


「それって神霊亀?」


「あっ、それだよ。二年くらい前だし、僕らは元々孤児で先に逃げちゃったから話に聞いただけなんだけど。あれっ? セージは知ってるの?」


「まぁ、その、おとぎ話みたいなので聞いたことあるというか」


(神霊亀の侵攻クエストだ。町がなくなったってことはクエスト失敗だったのか? 二年前って結構経ってるな。次はいつ動くんだろう。今来られたら逃げるしかないぞ。絶対に勝てないし追い返すこともできない)


 神霊亀はイベント戦のようなものだ。戦って勝てなくてもいい、というより普通は勝てない。ラスボスを超える耐久力を誇り、FSシリーズの中で何度も出てきているがFS14のレイド戦を除いて倒せない魔物だ。神霊亀は一定以上ダメージを加えると元の場所に戻っていくため、追い返すイベントになっている。


「おとぎ話になってるんだ。知らなかったなぁ。あっ、あとこの洗濯物を干したら終わりかな」


 セージは頷きながら、神霊亀対策を考えないといけないなと心の中で思う。

 いままでのFSシリーズを考えると神霊亀の侵攻は再び起こるはずだった。進行方向によるが次はこの街に来る可能性もある。


(これはクエスト的なものが発生するということ? 魔王も誕生するのかな。もし、主人公的な役割を求められているとしたら、クエストをこなしていかないとゲームオーバーってこと? どうなんだろ。とりあえず次に神霊亀が動き出すまでに強くならないと)


 セージは早く強くなろうと思いながら洗濯物を終わらせるのであった。


 昼ご飯は無く、おやつという名の小麦粉焼きだ。教会は王国からの寄付金などで成り立っているが、末端に降りてくるお金は少ない。しかし、働いてもいないため食べていけるだけでもありがたいことだった。


(耐えられなくはない。とは言うものの、これが続くのはちょっとなぁ。ステータスを上げるにはちゃんと大きくなりたいし)


 簡単に言うと筋肉をつけたらSTRの値が上がる。実際にはそこまで単純ではないが、ステータスが自分の体と関係があるのは真実だ。セージとしては早く大きくなってステータスを上げたかった。


 おやつを食べたあとは夕方まで自由時間になる。セージはレイラと一緒に薬屋に行くため町の中心部に出た。


 町は人口が五千人程度であり、日本の感覚からすると小さいが、この世界では大きな町と言える規模である。

 東側はほとんどが農地だ。人口の半分が農業をしていて、多くが東側に住んでいる。教会もこの区画にあった。


 西側は木こりや鍛冶師等の作業場がある。西の方には長く続く山脈があり、その麓の森では良質な木が手に入るからだ。

 森に魔物は出るがそれほど強くはない魔物ばかりだ。唯一ワイルドベアという熊のような魔物だけは強いが、それ以外は屈強な木こりたちによってすぐに倒される。

 

 森と山が東西にあるため南北に続く通り道となっており、中心の道は商店、ギルド、宿屋などが集まって賑わっている。

 目的の薬屋は大通りから少し外れたところにあった。

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