第6話 良い盗賊になります

 神木の道にある教会から村までは結構距離があり、セージの足では一時間程かかることになった。


(さすがに疲れるな。子供の体だとなかなかしんどい距離だった。でも有益なことも多く聞けたし良かった。それに、ここがFSの世界だってことがわかったからな)


 セージはルシールとレイラに対して止めどなく質問し続けた。特にこの世界や国のこと、そして職業などのシステムについてだ。


************************************


「この国の名前ってなんですか?」


「グレンガルム王国のラングドン領だ。ラングドン家は男爵ではあるが武力は周辺の領より一つ抜けていると言われているほど勇猛だぞ。聞いたことはないか?」


 グレンガルム王国は知った名前だったが、ラングドン領は知らなかった。王国名はFS15で出てきたのだが、その時は国の名前だけで実際に行けるわけではなかったからだ。

 とはいえ、セージはFSの国の名前を聞いて内心テンションが上がっていた。


「すみません。グレンガルム王国は知っているんですが。アーシャンデール共和国の隣ですよね」


「そうだけど。もしかして、セージ君は共和国出身なの?」


 FSだということが確定して喜びを抑えきれずにやけているセージにレイラが聞いた。


「わかりませんが、違うと思います。そんなことより職業について教えて欲しいんですけど」


「お前、自分のことを知りたいと思わないのか?」


 ルシールは呆れたように言いながらも教えてくれる。


 職業は戦闘・支援職と生産職の二つに別れていて、現在わかっているものだけでも数多くある。


 戦闘・支援職

 下級職:戦士、魔法士、武闘士、狩人、聖職者、盗賊、旅人、祈祷士、商人

 中級職:聖騎士、魔導士、暗殺者、探検家

 上級職:勇者、精霊士


 生産職

 下級職:木工師、鍛冶師、薬師、細工師、服飾師、調理師、農業師

 中級職:技工師、魔道具師、錬金術師、賭博師

 上級職:創造師


「中級職は下級職をランク30まであげてマスターすればなれるぞ。たとえば戦士と聖職者をマスターすれば聖騎士になれる。上級職は、どうやってなるのかわかっていない。神に選ばれた者しかなることができないのかもしれないな」


(ランク30でマスター? ランクって熟練度と同じかな? 上級職って名前ならなれそうだけど、条件が厳しすぎるのか? そもそも自分のランクはどうなってるんだ? あー疑問が溢れる)


「ランクってどうやったらわかるんですか?」


「戦闘・支援職一覧で見れるだろ。ステータスは知ってるのに何でわからないんだ」


「なるほど。記憶喪失って困りますね」


(経験値とか覚えた魔法とかも表示できるのかな? とりあえず戦闘・支援職一覧っと)


 ルシールに適当に答えながら戦闘・支援職一覧を表示する。セージの職業は当たり前だが全てランク1であった。


 戦士  ランク1

 魔法士 ランク1

 武闘士 ランク1

 狩人  ランク1

 聖職者 ランク1

 盗賊  ランク1

 旅人  ランク1

 祈祷士 ランク1

 商人  ランク1


「全て下級職でランク1ですね」


(チート設定で全部マスターしてるとか勇者になれるとか無いのか)


「当たり前だろ。スライムから逃げてるくらいなんだからな。そもそも職業なしじゃないか。ちゃんと職業をとって魔物を10体倒すとランクが1上がる。もちろん自分のレベルに合った魔物だ。例えば、レベルが4になるとスライムを何体倒そうとランクが上がらなくなるぞ」


(へぇ、それでも魔物10体でランク1あがるなんて良心的だと思うな。ちょっと職業が多いけど。バランスを考えるとレベルの上がりが早いとか、敵が強いとか? 全部マスターするためには慎重にいきたいところだけど)


 セージには収集癖があった。無駄になるとわかっているアイテムを取りに行ったり、確実に使わないとわかっている呪文を覚えるために戦闘で役に立たない職業にしたりするタイプだ。

 なので、セージは当たり前のように全てをマスターすることを考えていた。


「レベルはスライムだけでもあがるんですか?」


「あがるが、スライムなんぞでレベル上げしなくてももっと良い獲物がいるぞ。下級職のままだとレベル限界が30だが、騎士でもないならそんなにいらないだろう。冒険者に頼めばレベル10くらいすぐ上げてもらえる。金はかかるけどな」


 この世界にはパーティーのシステムがあり、最大五人まで登録できる。その時、パーティー内の経験値は分配されるので、戦わなくてもレベルが上げられるのだ。


 例えば、レイラがそうである。万が一にでもスライムに負けないように、ラングドン家の騎士とパーティーを組んで他のメンバーが戦い経験値だけを貰ってレベルを上げていた。

 このレベル上げの方法は誰でも行っており、冒険者の収入源の一つになっている。


「パーティーなら全員ランクが上がるんですか?」


「いや、基本は魔物を倒した者だけだ。回復や支援魔法を使った者も上がることはあるんだが、何もしなかったら上がらない。まぁ農民や職人は戦闘職のランクが上がらなくても気にしないな」


(ふむ。パーティーシステムありで経験値は分配されると。ランクは貢献度的な設定があるのかな? 回復魔法なんて雑魚戦の戦闘中に使わないし聖職者に対して厳しいシステムだな。商人なんてどうするんだ?)


「お金もないですし、早く戦えるようになりたいんです。自力でランクを上げながらレベル上げします」


「おっ、意外とそういうタイプなのか。強くなれたらラングドン家の騎士にしてやるぞ」


「ありがとうございます。頑張りますね」


(まぁ騎士になるつもりはないけど。せっかくFSの世界に来たんだから色んな所を見て回りたいし)


 心の中で否定しながらも当たり障りなく笑顔で答えるセージに対してルシールは嬉しそうに続ける。ルシールの憧れは騎士だった。


「やっぱり騎士は格好いいからな。だが、レベル上げより重要なことは自らを鍛えて、技を磨くことだぞ。自分の体がステータスになるんだ。セージは大人になるにつれて勝手にステータスが上がっていくだろう。しかし、いくら力が上がろうとも技が未熟で相手に当たらなければ意味がない。それに、今から鍛えておけばステータスの伸びも変わってくるぞ」


 ルシールは自分が言われてきたことをセージにも得意気に話す。


(ステータスは体と連動するのか。そうだよな。VIT2みたいな低ステータスのままだったらどうしようかと思った。一撃死なんてシャレにならないからな)


「精進しますね。ランクを上げたら何ができるようになるんですか?」


「使える特技や魔法が増える。たとえ呪文を知っていても聖職者が最初に使えるのはレストやヒールくらいだな。ハイヒールやアンチポイズンを使えるようになるにはランク上げが必要ってことだ」


 ルシールに加えてレイラも説明を補足してくれる。


「職業は教会で決められるのよ。マスターしてないのに職業を変えると覚えていた特技とか魔法が使えなくなるからね」


「ただな。騎士にとってランクよりレベル、レベルより訓練が重要だぞ。特技やステータスに頼っていては強くなれん。鍛練こそが強くなるための秘訣だ」


 ルシールが熱く語っているが、実際強くなる上でレベルが重要視されているのは確かだった。ランクが高いよりレベルが高い方が強い。そして、中級職はレベル50が限界だが、限界になったとき出てくるのは鍛練の差である。


 セージはルシールは脳筋タイプなのかと、失礼なことを思いながら質問を続ける。


「生産職の場合はどうやってランクを上げたらいいんですか?」


 これにはレイラが答えた。


「生産職はどうやったら上がるかはっきりしていないの。いろいろな物、すごい物、綺麗な物を作ると上がりやすいとは言われているけど」


「おい。強くなりたいんだろ? 生産職のランク上げに気をとられず鍛練をだな」


「ルシール様。騎士になれるのは一握りですから。それに孤児院では十歳からは働いてもらわないといけませんし」


 むぅとルシールが唸る。レイラとしては孤児院での生活を考えて、騎士などではなく職人になるのが現実的だと考えていた。


「生産職のランクが上がると作ったものに強い効果がつけられたり、効果の種類が増えたりするわ。低ランクだと下手っていうのもあってあまり良いものを作れないし、マスターして一人前とも言われているの。今から少しずつでも練習しておけば早く一人前の職人になれるかもね」


「そうなんですね。頑張ってみます」


 セージは生産職一覧を見ながら曖昧に笑う。


 生産職一覧

 木工師 ランク2

 鍛冶師 ランク1

 薬師  ランク9

 細工師 ランク14

 服飾師 ランク11

 調理師 ランク30 マスター

 農業師 ランク21


(転生特典というかなんというか。日本での暮らしの分が反映されているのか。なんか調理師マスターしてるし)


 セージは一人暮らしの約十年間、ほとんど三食自炊していた。さらに、日本では味噌汁、カレーライス、ムニエルなど統一性はない。和洋中からインドや韓国料理など何でも作れたという状況を考えると調理師がマスターされているのは当然である。


(鍛冶なんてしたことないし、木工は小学校の授業くらいか。服装師は手芸をしてた時期があったのと日常のちょっとした繕い物といったところだろう。農業師は家庭菜園とかしてたし、子供の頃は畑で水やりと収穫はしてたからなぁ。細工師と薬師は……なぜだ?)


 誠司はある化学メーカーの技術者であり、薬剤師でもなければ薬を作ったこともない。


(わからないけど何かの行動が加算されているんだろうな。まぁランクが高いに越したことはない。生産職も地道に上げていかなきゃいけないけど、とりあえずは戦闘・支援職だ。スライムから逃げてるような状態は何とかしたい)


*********************************


 ということで、様々なことを聞きながら歩き、町の教会に着いてルシールと別れた後、セージはさっそく職業の取得を頼んだ。

 ちなみに、教会でしかできないことは、職業の取得である。


「それで、本当に盗賊になるのね?」


「はい」


(とりあえず、今の選択肢はまず盗賊しかないからな)


 この世界ではランクが上がったら自動的に魔法が使えるわけではなく、魔法が使えるランクになり、その魔法について学び、呪文を正確に唱える事が必要なのだ。

 セージのステータスなら魔法士を選ぶのが最適だろうが、魔物に攻撃するための呪文を知らないのである。そして、一般の人は攻撃能力の無い生活魔法を使う人しかいない。


 物理攻撃はステータスに補正がかかってもどうこうできる値ではないため除外すると、残ったのは盗賊だった。

 盗賊には『スティール』というアイテムを盗む特技があるとわかった時点でこれしかないとセージは考えていた。


「本当に悪事には使わないね?」


「はい。もちろんです」


「聖職者をおすすめするけど」


「盗賊でお願いします」


「あなたが盗賊になったことは記録されますからね」


「わかっています」


 これを聞かれるのは三回目だ。

 ただ、疑われるのは仕方がないことでもある。悪事を働くために盗賊になる人もいるからだ。


 『スティール』の特技は魔物だけでなく人にも使える。

 知らないと盗まれ放題になるので、自己防衛のため盗賊の『スティール』の発動方法はだれでも知っている。逆にそのお陰でセージは『スティール』の使い方を教えてもらえたのだが。

 盗られないように注意するためレイラは説明したのに、その話の後に盗賊になりたいなどと言えばそれは疑われるだろう。


「はぁ。職業を決めるのは本人の自由だから私に止める権利はないけれど。盗賊なのね」


「はい。お願いします」


 笑顔で答えるセージにレイラはもう一つため息をついて、女神像の前に連れていき手順を説明する。

 セージはレイラに教えてもらった手順通りに祈りを捧げる。


「女神リビア様。盗賊としての技能をお授けください」


 そう言うと、温かい光に包まれた。

 セージがステータスを確認すると職業に盗賊が記入されている。


(よしよし、これで実験ができる)


 レイラはにんまりと笑うセージを見て疑惑を深めるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る