幼年期~異世界の生活~
第2話 役に立たないステータス
目覚めた瞬間にガバッと起きあがった。
(生きて、る?)
セージは森の中にぽっかりと空いた広場の中央にいた。広場は半径10メートル程の円形で、ここが行き止まりのようである。
セージの前には一際目立つ大樹がそびえ立ち、その反対側には一本の道が延びている。その他は見渡す限り木漏れ日のさす森だ。
目立つ巨木を見上げながら考える。
(どこだよここ)
その疑問に答える者はいない。
セージは混乱する頭を回転させる。
(FSの問題を解ききった途端、ブラックアウトして意識がなくなって、それから……どうなったらこうなる? 死後の世界? なんてわけないよな)
見渡しても自然ばかりだが、何となく見覚えがあった。
(もしかしてFS4に出てくる神木の場所か? いやFS7の方か? ドット絵だったから正確にはわからんけど、って体が小さい!?)
手足を見ると明らかに小さい。立ってみるとだいたい1メートルくらいだろうか。
大人のときは手や腕でざっくりと測ったりしていたが、小さくなって基準もわからないため、正確なことはわからなかった。
何とか頭を回転させようとするが、次々に入ってくる理解できない状況に少しの間呆然としてしまう。
爽やかな風が通り抜ける。
セージは自然の香りが充満する空気を大きく吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
(よし。まず、ここはFSの世界、でいいのか? 意識を失う直前にFS体験版ようこそって聞こえたし。あっ体験版ってベータ版とか試用版じゃなくて、そのまんま体験って意味? なるほどな、ってそんなのあり!?)
どれだけ熱くなっても一人しかいないので何も答えてもらえない。セージは気持ちを落ち着けるようにもう一度深呼吸する。
(ふう。暫定的にFS世界に来たことにしよう。転生って感じでもないし、転移かな。元々の身体はどうなってるんだ? 今は確実に大人の体じゃないから、精神だけ転移した、ってことでいいのか? じゃあ、この体はどこからきた? 顔が見えないからわからないけど、何となく自分の体のような気はするけど。若返り転移?)
セージは巨木の下で思考を続ける。
(異世界転移か転生か。まぁ、夢を見ているが現実的だけど。過労で強制睡眠とか。それか死後の世界? まぁこんなことは考えなくていいか。覚めたらそれまでだし、覚めなかった場合を考えないと。しかしこんなところで、しかも子供の体で放り出されても困るぞ)
セージは円形の広場に何か役立つものがないか探すが全くアイテムらしき物はない。
神木にも特に仕掛けはなかった。
(神木の中に入れないならFS7ではないか。これといった仕掛けがないし、FS4なのか? ちょっとわからないけど、これからどうしよう。アイテムになりそうなものもない。あっ、そういえば)
セージは神木に向かって手を合わせて祈りを捧げる。すると、ひらりと葉っぱが落ちてきて足元にふわりと落ちた。
(やっぱりFSだ! いや、まだ決めつけるのは早いぞ。というか、神木の葉があったところで今はどうしようもない!)
ぬか喜びをしないようにと思いつつ、大ファンであったゲームの世界に来れたのかもしれないと思うとテンションが上がってしまう。
(持ち物は着ている粗末な布の服のみって武器をくれよ。そういえばステータスとか見れるのか?)
そう思うと目の前にステータスが表示された。目の前に透明なスクリーンがあるような感じで、意識をすることで表示、操作できるようだ。
セージ Age 5 種族:人 職業:
Lv. 1
HP 17/17
MP 305/305
STR(力)3
DEX(器用さ) 24
VIT(頑丈さ) 2
AGI(敏捷性)4
INT(知力)48
MND(精神力)36
(ステータス! とか言わなくていいんだな。しかも、高ステータス! 魔法使いとしては、だけど。ステータス偏りすぎじゃないか?)
STR、VIT、AGIが低い。つまり力も耐久力もなく遅いということだ。これは子供だから仕方がない。代わりに、DEX、INT、MNDが高い。
セージにはこの世界の普通はわからないが、歴代FSを考えるとレベル1でMP305はあり得ないと言っていい数字だった。
逆にVIT2というのもありえないのだが、5歳のキャラクターのステータスなんて見ることはないため、こんなものかと考える。
(5歳なのか。どうりで小さいと思った。5歳の頃にFSを始めたから? そんなわけないか。体験版がそういう設定だったという方がありえる。そんなことよりステータスだ。完全に魔法使いタイプ、というか武器もないし近接戦闘になったら死ぬな……ん? MPがあるということは、魔法が使えるのか? 使えるならこれってチートと言っても過言じゃないよな?)
ステータスを見て魔力がある、つまり魔法が使える、さらに高INTということに気づき内心テンションが上がった。
(FSで出てきた魔法が使えるってことだろ。いや、落ち着け。まだ使えるとは限らない。適性とかそんなのがあるかもしれない。ただ、INTは高いし可能性も高いだろ。完全にチートだ。あれっ? でも魔法って……どうやって使うんだ?)
歴代のFSのシステムはレベルアップで覚える、職業の熟練度を上げる、本などのアイテムもしくは人に教えてもらうなど多岐に渡る。
ステータスを良く見ても習得魔法なんて項目はない。
(レベル1だけど、ここは一つの可能性にかけて)
セージは精神統一して手のひらを付き出すように手を伸ばす。FSで魔法を発動する時によくあるポーズだ。
「ファイアボール!」
(声高っ!)
自分の声のトーンが高いことに驚きながら魔法の発動を待つ。
手のひらから炎の玉が飛び出し目の前の空間を焦がす……という想像は形にならず、爽やかな風が通り抜けた。
セージはポーズをとったまま固まっている。
(……誰も見ていないとわかっていても、強烈に恥ずかしいぞ。いいや、これは必要なこと。検証だ、検証!)
セージはそう自分に言い聞かせて再び唱えた。
「フレイム! ウォーターボール! ウィンドカッター! レスト!」
FSにあった呪文を唱え続ける。しかし、何も反応することもなく、発した声は森に吸い込まれていくだけだった。
少し火照った頬を、風が優しく冷ましてくれる。
(全く使えない。恥ずかしいだけでなく、これはヤバイな)
半分やけになっていたが、何も考えなく叫んでいた訳ではない。
もし、魔物が出てきた場合、このステータスで魔法が使えないと戦うすべがないからだ。STR3 、VIT2で装備・魔法・特技なしだとスライムにさえ勝てないことは明らかである。
それに、魔物に会わず町に出られたとしても、五歳の子供が一人でどうやって生きていけばいいのかわからない。
(詰んだな。こんなところに放置するならちゃんとしたチートをくれよ。リアルでハードモードはいらないって。魔王でさえ余裕で圧倒できるような力とか、そんなのを求めてるんだよ)
神木を見上げながら悪態をつく。しかし、それで何かが変わるわけではない。神木はざわざわと梢を揺らしているだけだ。
ため息をついて頭を切り替える。
(職業の欄が空白ってことは職業を選ぶシステムがある可能性が高い。いや、FSだとしたら確実にあるだろう。それなら魔法使い系の職業に就ければ希望も残ってるな。このステータスで成長するなら魔法の使い放題、INT補正がかかるならチートも夢じゃないぞ。よし、気分が上がってきた。とりあえず町を目指そう)
FSの一部にINTの補正はあるが、魔法毎にダメージ量の上限があるためチートは難しい。ということはもちろんセージはわかっていたが気分を上げるために見て見ぬふりをする。
暗くなる前に食糧と安全な寝床を確保するためにも移動しなければいけない。セージは神木に背を向けて道を歩き始めた。
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