第3話 はじめてのたたかい
神木から進むと曲がりくねりながらも一本道が続いていた。
森林浴するとリラックス効果が高そうに感じる清浄な道をテンポ良く歩く。
(FS4の神木かと思ったが、『神木への道』と道の形が違うな。FS11以降はよく神木が出てくるけど、たいてい広場の中央に神木があったし。もしかしてFSの世界じゃない? もしくはFSの世界の知らない場所?)
FSシリーズには何度も神木が出てくるのだが、広場に入って正面、道と反対側に神木が配置されているのはFS4と7だ。そして、FS7の場合は神木の根元に地下へ入れる入口があるのだが、なかったのでFS4だと考えていた。
そして、セージの知るFS4の『神木への道』は直線的な道や同じような道が繰り返すはずである。ゲームの表現のしやすさや容量上の問題でそうなってしまうのだ。
しかし、この道は一本道でも曲がりくねった形をしており、FS4とは似ても似つかない。
(まぁとりあえずは町に出てから考えよう。今までのFSだったら町さえ見れば絶対にわかるはずだし、新しいフィールドだったとしても他の土地のことを聞けばいいんだし。あーでも、こうやってゆっくり森の中を歩くなんて久しぶりだな)
現代日本の都会に暮らしていたセージは、森の中を歩くなんてことはなかなかないことだった。
普通に森林浴を楽しみながら歩く。気分良く鼻歌まで歌ってしまいそうな感じだった。
それを遮ったのは、後ろから聞こえたガサッという音。
嫌な予感を抱えながら振り向くと、青いゼリー状の丸いヤツがいた。
体長五十センチメートルほど、最弱と呼ばれる魔物。
(スライム! FSのスライムとそっくりだ! とはいってもスライムなんてそんなにバリエーションがないか。まさか本物のスライムに会えるとは、ってここ魔物でるのかよ! FS4では出なかったのに! やっぱり違う場所だ!)
スライムに目はないが、ふと目があったと感じた。
次の瞬間にはスライムがプヨンと跳ねて飛び掛かってくる。
(ヤバい!)
セージは驚きながらもとっさに叩き落とそうとしたが、手が弾かれ体当たりがクリーンヒットした。
胴体に直撃し、尻餅をついて転ぶ。
(痛……くない?)
衝撃はきたが、何か見えない壁に遮られたようで、痛みはほとんどない。
一瞬なぜだろうとポカンとしたが、あることに気づいた。
セージは振り向きながら立ち上がり、そのままスライムに背を向けて一目散に逃げる。
(ステータス表示)
走りながらステータスを確認した。
するとHP の項目が9/17になっていた。
(やっぱりHPが減ってる。ってダメージでかっ! HPが0になったら死ぬのか? それとも、バリア的な何かが無くなるのか? どっちにしてもヤバくて検証できん。というか俺の足遅すぎ! 五歳だからか!? そりゃAGIも低いはずだ!)
心の中でパニックになりながら、追いかけてくるスライムを確認する。
(くそっ、初っ端からハードモードかよ! 最弱から逃げなきゃいけないなんて!)
セージはスライムよりも遅く逃げ切れない。しかし、スライムは跳ねるようにして移動するためどうしても動きが直線的になる。
道から外れて森に入り、木の間を縫うように進めば避けることは難しくないことに気づいた。
セージは道を見失わない程度に森の中をジグザグに動きながら、スライムの攻撃を避けつつ逃げる。
(とりあえずこのまま進むしかないが、五歳の体力がヤバい。けど、せっかくFSの世界に来たんだ! 死んでたまるか!)
セージは息が乱れてきているのを感じていた。それに森の中でいつ足をとられて転ぶかもわからない。それでも、逃げ続けるしかなかった。
幸い、全力疾走ではなくても木々を盾にして当たらないように進めるのだが、逆に言うと全力疾走したところで直線的にはスライムの方が早いので逃げ切れない。
(んっ? あれは……)
木々の隙間から家の影がちらりと見えた。
セージは慌てずにスライムを確認しながらジグザグ走行を続けて良く見る。
(よし、廃墟じゃないよな! ちゃんと手入れがされた家だ! 中間地点の宿屋的存在、であってほしい!)
そんな願望を心の中で叫んだ時、視界の端に森にあるはずのない色に気づいた。
緑色と茶色がひしめく空間にパッと現れる赤色。スライムとフォルムは一緒だが、色が赤い。
(レッドスライム! FS4には出ないはずなのに! なんなんだここは!)
近づかないルートを考えたが、追われながら急に方向転換なんてできず、あっけなく見つかった。
ポヨンポヨンとこちらに跳ねてきてレッドスライムが何やらキュキュっと高い音を出し続ける。
(なんだこの音)
嫌な予感が駆け巡る。
最後にキュイッと音を出すとレッドスライムの目の前に浮かんだ火球が放たれた。
(まじかよっ!)
猛烈な勢いで飛んでくる火球を避けようと横に飛び込むようにして転がったが、ぐぐっと火球が曲がってくる。
(追尾機能付きかっ!)
そう思ってもすでに転がった後。
なすすべもなく背中に直撃した。
(死ぬっ!)
しかし、当たった感触はあったのだが、熱くもなく衝撃もない。
すぐに立ち上がり脱兎のごとく逃げる。
(ステータス表示!)
HP 8/17
(よし! ほぼ減ってない! 固定ダメージじゃなくて良かった! MND万歳!)
と思った瞬間、スライムの体当たりを避けきれず肩に当たる。
HP 3/17
(肩に当たっただけで減りすぎ! ちょっとハード過ぎるぞ!)
この時点で魔法は無視することに決め、スライムの体当たりを避けることに注力する。
再び火球が飛んでくるが手で払うだけで霧散した。
HP 3/17
(ダメージ0もありなのか。ミス判定? 手に当てたからか? いや、考察はあとだ。体当たりを注意しないと。あと一発食らったら終わり。もうすぐ森がなくなる。家の回りに障害物が無いから、全力ダッシュしかないけど、ギリギリ無理じゃね? でも行くしかない! あとは誰か味方になってくれる人がいるのを祈るのみ)
盗賊の根城の可能性も考えていたが、今は助けを求めるしかない。ただ、この場所に漂う神聖な雰囲気から、セージはおそらく味方になる人がいるだろうと予測していた。
後少しのところで、家から出る人影が見えた。
(ナイスタイミング! ついてるな!)
「ぁ、たすっ……助けて!」
息が上がっていて、声を掠れさせながら叫ぶ。
その人はこちらの方に気づくと、慌てたようにこちらに向かってきてくれた。
(よし! この感じは当たりだ!)
こちらを見たときの反応に悪人らしさはない。しかし、大人というには小柄すぎる。
(子供、か? 女の子だ! 戦えるのか!?)
その姿は簡単な革の防具を装備し、帯剣した10代前半の女の子だった。肩くらいまである髪をポニーテールにしている。顔つきは中性的で、髪が短ければ少年か少女か迷うところだろう。
「スライムっ、スライムがっ!」
危険を知らせようとセージは叫ぶが、女の子は真剣な表情でこちらに向かってきた。
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