第3話 悪い夢
―荒寺 山門前―
あたりは薄暗く、空を見上げると日の光が一切差し込まぬ深海のように厚い雲に覆われている。時折光る雷はここには近づくな、という警告のようにも感じられる。
「ついたでござる。ここは相変わらず気味が悪いでござるな」
アルド達は荒寺の山門前まで到着した。
荒寺と呼ばれているだけあって崩壊の度合いが酷い。荒寺と呼ばれている由縁が見て取れる。いつから人々の往来が途絶えたのだろうか、人が訪れた痕跡が一切ない。あたりを見回すと、”物陰から得体のしれない何かが飛び出してくるかもしれない”という不安が頭の中を駆け巡る。
「う、うううう、、、」
アルドがふと、コトハの様子を見るとコトハはなにやら小さく小刻みに震えている。
「どうしたんだ?」
「え!?い、いや、何でもないです、、」
突然、アルドに声を掛けられビクつくコトハ。それに対しサイラスは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべアズサに問いかける。
「もしかしてコトハどの?怖いのでござるか?」
「そ、そんなことないです、、」
「コ、コトハは、こ、怖がりなのねー」
エイミは自分が怖いと思っていることを、みんなに悟られたくないのか強気な自分を装っていた。だが、震える声を完全に抑えることはできなかったようだ。
「エイミさん、少々声が震えているようデスが?もしかしてエイミさんも怖いのデスか?」
「そ!そんなことないわよ!わ、私がお化けを怖がるわけないでしょう!」
「ん?お化けなんて一言も言ってないぞ?」
エイミはアルドに的確な突っ込みを入れられた。
「え!?こ、こういうところなんだから、ふ、普通お化けだと思うでしょ!?ね??」
「ふん、くだらん、そんなものこの世にいるはずもない」
ギルドナは腕を組みながら呆れたような顔をした。
「とか言って、ギルドナも怖がってたりしてな」
「ギルドナどの、安心するでござる。その時は拙者がビシッとお守りするでござる」
ギルドナを茶化すアルドとサイラス。
「ほう?いい度胸だ。どちらから斬られたい?おれはどちらからでも構わないぞ?」
ギルドナは腰に掛けている剣にそっと手を伸ばす。
「じょ、冗談だよ。悪かったよ、、」
「ま、まったく、ギルドナどのは冗談が通じないでござる」
慌てて止めるアルドとサイラス。
「ふん、冗談だ。本当に斬るわけがないだろう」
ギルドナは腰に掛けているから手を離す。
2人から冗談の通じない人だ、と馬鹿にされたことが気に障ったのか、自分も冗談だと返すギルドナ。
あはは、と笑うエイミとリィカ。それにつられるようにして一緒に笑うアルド達。
「フ、フフ、あはははは!」
「!??」
初めて見たコトハの笑う姿に目を丸くするアルド達。
「あ!あの、すみません、、おかしくて、つい、、」
申し訳なさそうに俯くコトハ。
「初めて笑った顔を見せたわね!笑っている方が可愛いわよ?」
「え!?か、かわいくなんて、、」
恥ずかしそうに顔を赤らめる。
「そうでござるな!笑顔は女性の花にござる!」
ここぞとばかりにキメるサイラス。
「サイラス、、?それ、気持ち悪いわよ?」
「エ、エイミどの、、?そこまで言わなくてもよいでござろう?」
「確かに笑っている方が、コトハはかわいいよ」
「そうデス!かわいデス!ノデ!!」
(アルドって誰にでもそういうこと言うのよね、、確かに可愛いけど、、)
心の中で呟くエイミ。
「そ、そんなこと、、あっ!みなさん!それよりも、勾玉を取り戻さなくては!い、行きましょう!」
照れくさくなり誤魔化すコトハ。
「それもそうだな、行こう。道はこっちでいいのか?」
荒寺の奥を指すアルド。
「は、はい。そちらの方向で間違いないかと」
奥へとぐんぐん進んでいくアルド達。
するとサイラスがコトハに向かい質問する。
「コトハどのは巫女なのでござろう?何ゆえ、お化けが怖いのでござるか?」
急な質問に驚くコトハ。
アルド達は立ち止まってそれを聞いた。
「え!?あ、あの、、なんせお化けは、人に取り憑いてしまうのですよ!?そして取り憑いた人を夜な夜な家の周りを裸で走り回らせたり、お団子をバクバクと食べさせ太らせたり、一晩中、家の前に穴を掘り続けるという、とても残虐非道な事をさせるんですよ!?」
(コ、コトハ、それば絶対に嘘だと思うぞ、、)
アルド達の頭の中に一斉に疑念が浮かぶ。
「そ、そんなことをされては、もう、、お嫁にいけません!」
「だ、誰にそんなこと聞いたんだ?」
不思議に思い戸惑いながらも質問するアルド。
「お、お姉ちゃんです。昔、小さい頃二人で遊んでいるとき毎回暗くなってくると、お姉ちゃんが言うんです。お化けが出て取り憑かれるぞって。私はもっとお姉ちゃんと遊びたかったのに、、」
微笑むアルド達。アルドは優しく、そっとコトハに言う。
「アズサのお姉さん、いい人だったんだな」
キョトンとするコトハ。しかしアルドが瞬きをした瞬間、瞳に移った彼女は嬉しそうに笑っていた。
「は、はい!お姉ちゃん、ちょっと変っていますが、とっても優しいんです。私が悪さをして怒られた後も慰めてくれたり、魔法の練習にも付き合ってくれたり、、おかずを分けてくれたりと本当に、とっても優しい、お姉ちゃんなんです」
微笑ましくも寂しそうな顔をするコトハ。
彼女の目が少し潤んでいるように見える。
「お姉ちゃん、最後に笑っていたんです。私を逃がしてくれた後、私に向かって先にい行きなって、またすぐに会えるよって。そして、魔物に向かっていったんです」
「私たち、どこか似てるわね。」
悲しい顔で話しかけるエイミ。
「え?、、」
「私もね、小さい頃お母さんを失ったの。いきなり合成人間っていうのに襲われて、大勢の人がパニックになって逃げまどっていたの。そもそも誰も自分たちに襲い掛かってくるとは思ってはいなかったから。その場所はカーゴシップっていう乗り物に乗らないと逃げることが出来ない場所でね?その乗り物には逃げ出す人でぎゅうぎゅうになっていたの。でも、お母さんは私だけを押し込むと、私に微笑んだわ。大丈夫だから行きなさいって。全然大丈夫なんかじゃないのにね」
「エイミさん、、」
「だから、気持ちはよくわかるわ」
「エイミもコトハもつらい思いをしてるもんな」
「でも、今はアルドや新しい仲間もできたし、きっとお母さんもそばにいて見守っていてくれると思う。コトハも今はつらいだろうけどきっとお姉ちゃんや他の巫女達がついているから」
「あ、りがとう、ございます、、」
「こんなこと言うの私らしくないわね。ね、アルド」
「そ、そうか?そんなことないと思うぞ。エイミは普段から明るく振舞いながらも周りのことをしっかり考えて行動もできるって知ってるよ。エイミはおれの大切な仲間だ」
「え!?な!なによいきなり!」
バシン!とエイミはアルドの肩が外れるかと思うくらい強く叩く。
「いて!!」
アルドはエイミに叩かれた衝撃でよろけていた。
エイミは慌てて後ろを向く。
コトハがエイミの顔を見ると、あつく熱された鉄のように顔を赤らめブツブツと何か言っていた。
「フフ、エイミさんの方が私よりよっぽどかわいいですよ」
エイミは先程よりも顔を赤らめ、今にも火を噴きそうだ。
ドクン!ドクン!
「「!!!?」」
笑いあっているのもつかの間、急に勾玉が脈を打ち出す。
「た、大変です!話し込んでいる場合ではありませんでした!早く取り戻さないと」
「そ、そうだな。早くいこう!案内してくれ!」
「はい!」
アルド達は残りの勾玉を取り戻すために気合を入れる。
荒寺の奥へと進んでいくと本堂の一番奥の部屋から魔物の気配を感じる。
アルド達はゆっくりと覗く。
「あ、あそこです!」
コトハの指に刺された場所には怨念に取りつかれた魔物が数匹、勾玉を重ね合わせ、崇拝している。それは、まるで何かの宗教の神を祀っているようだった。身の毛もよだつ光景を見てしまったエイミはガタガタ震えだし、喉に栓がされているかのように言葉をつまらせる。
しかし、エイミの反応とは打って変わり男たちは闘争心を燃やしていた。
「あれしきの数、先程に比べれば屁でもないでござる」
「容易いな」
「ちょ、ちょっと待ってよ!私まだ心の準備が、、」
「一気に行くぞ!」
エイミの言葉は、合図と共にかき消された。
グオオオ!?
「やああああ!!」
魔物達はアルド達の奇襲に気付くも、それは時すでに遅くあっけなく魔物たちは倒された。
しかし、こうしている間にも勾玉の脈はどんどん大きくなっていく。
封印が解けるまで一刻を争う。
アルド達は、急いで魔物達が持っていた勾玉を地面に並べた。
「これで勾玉をすべて取り戻したでござる!コトハどの封印を掛けなおすでござる!」
「は、はい!ええと、、ええと、、」
ドクン!ドクン!ドクン!
脈が段々と大きく加速していく。
「我、再び荒れ狂う龍を沈めんと、、、」
封印の詠唱の途中で、脈が加速し禍々しい光を発し勾玉に亀裂が入る。
亀裂が入るのと同時にその場にあるすべての物を飲み込むかのように禍々しい煙が溢れ出る。
「み、みなさん!伏せてください!」
コトハはアルド達に警告するが間に合わない。
「う、、、!」
溢れ出る煙によってアルド達と本堂の天井は吹き飛ばさた。
壁に背中を打ち付けられながらも、上を見上げるアルド達。そこには、先程の煙を体全体にまとった巨大な龍の姿があった。
「そ、、、そんな、、、」
「ア、アルドどの。拙者達は、何か悪い夢でも見てるのでござろうか?」
「こいつが龍だと、、?」
「私のデーターベースとデータが一致しまセン」
「わ、私の言い伝えの龍とも全く違います」
「な、なんなの、、あれ、、」
しかし、その姿は皆の想像の領域外だったため、恐怖で固まりその場に立っていることしか出来なかった。
なぜなら、龍の胴体は一つだけしかないのにも関わらず胸元から長い首の頭が5つ生え、その頭は独立して動いている。その上、各頭には青い目が左右3つずつ付いており、目を合わせただけで魂が刈り取られてしまうのではないかという錯覚を起こすほどの凶悪な瞳をしている。そして、全体の色は闇を焦がしたかのように赤黒い。
「グオアアアアア!!!」
突然、龍が咆哮する。
「う、、、咆哮だけでこれか、、」
あまりの咆哮の威力で周りにある木々が砕け散る。
咆哮を終えると龍はアルド達を1人1人ギロリと見つめた。
「貴様が選ばれし龍の巫女だな?」
龍が地面が揺らぐような低い声で問いかける。
「は、、はい、、、」
「フッ、、貴様ごときがか?我は貴様を見ていたぞ、、、」
あざ笑うように話しかける。
「え!?」
「長きにわたり勾玉の中より貴様ら選ばれし龍の巫女と呼ばれる女を見てきた。だが、貴様のような出来損ないは見たことがない」
「わ、私は、私は、ううう、、、」
問い詰められ言葉が出ない。
「コトハは出来損ないなんかじゃない!」
アルドは言い返すが相手にもされない。
「貴様からは、かけらも魔力が感じられん。以前、貴様らの社を魔物に襲撃させたが、貴様は泣きわめいてしかいなかったな。他の奴らも手ごたえはなかったが、貴様ほど愚かな奴はいなかった。大昔に我を封印したあの女は気に入らないが、魔力で満ちていた。最早あのような奴は二度と現れんだろうがな」
「いい加減にしろ!」
アルドが激昂する。
「先程からわめいてる貴様は誰だ?その腰に下げている物。その異質な剣はなんだ?」
「オーガペインだ!」
素直に答えるアルド。
次の瞬間オーガペインが震えだす。
「アルド、こいつは今まで戦ってきたやつとは格が違う。気を抜くな」
「オーガペイン、、、?」
アルドはオーガペインを見る。
「貴様、なぜそんな餓鬼にいいように使われている。」
「・・・・・・」
オーガペインは何も答えない。
「まあいい、封印も解けたことだ。まず初めに貴様らから葬ってやろう」
龍の一番右の頭の口にエネルギーが集まっていく。
「高エネルギー反応!きマス!」
「行くぞ!」
「わかってるでござる!」
ボオオオオウ!!!
龍の口から超高温のまばゆく光輝く炎が放たれる。
「まずい!!!」
「終わったでござる、、、」
「みんな逃げて!!」
アルド達は慌てふためく。
「み、みなさん!わ、私がお守りします!」
後ろからコトハがアルド達の前に出る。そして呪文を唱え杖を発光させる。
「混沌、穢れ、禍を打ち砕きし我が盾よ、守りし者を救わんがため、我が眼前に姿を現せ!」
(お願い!盾よ出て!)
攻撃がアルド達の目前に迫る。
「もうダメだ!」
パアアアアアン!
「!??」
攻撃がアルド達の前ではじけ飛んだ。
「!??、、何が起こったでござるか!?」
「何が起こった?炎がはじけ飛んだぞ」
「コ、コトハがやった、、のか?」
「い、いいえ」
龍の方を見ると龍は沈黙していた。
「・・・・・・・」
「まだ、体がなじまぬのか、、、貴様ら、命拾いしたな」
そういい終えると龍は空を登りまほら湖の方へ進路を定めた。
恐らく体が馴染むのを待って攻撃を仕掛けてくるのだろう。
「た、助かった、のか?」
「間一髪だったでござる」
「あの龍、恐らく半端なく強いわよ」
「想定外の大きさでシタ!」
「ふん、見てくれだけであろう」
「も、申し訳ありません!わ、私がお守りすると言っておきながら」
謝罪をするコトハ。
「大丈夫、気にしないでいいよ。誰も怪我はなかったしな」
「それよりもあのバカでかい龍、どうやって倒すでござるか」
「それは、あとから考えよう。まずはあの龍の行き先を考えよう」
「ア、アルドさん、それは大丈夫です。お、恐らく龍はまほら湖へと向かったんだと思います」
「奴は、なぜまほら湖なんかに飛んだのでござるか?」
「そ、それは、分かりません。でも、龍の居場所ならわかります。これでも選ばれし龍の巫女ですから」
「そうでござるか、、」
「では、お前を信じまほら湖へ向かうぞ。奴は復活したとはいえこの世界に馴染んでいない。叩くのなら今しかない」
ギルドナがアルド達に提案する。
「それもそうだな。みんな、行こう」
「わ、私、今度こそ失敗しません、、」
「ああ、期待してるよ」
「出発するでござる!」
―アルド達はコトハを信じまほら湖へと向かう―
第3話 完
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