第2話 目覚めの兆し

―ナグシャムの宿 2階―


「――――――――――」


コトハの耳に誰かが何か話をしている声が聞こえる。


(お姉ちゃん、、?でも、声がちょっと違うなあ。誰だろう、でも、おきたくないなあ)


そんなことを思いつつ、起き上がろうとするコトハ。


「ん、、んー、、」


ゆっくりと目を開けて聞くと豪華な天井が見える。


「おっ!目が覚めたわね!起きなかったから心配したわよ?」


「体ニ異常はありまセンカ?」


「、、、、、、?」


彼女は見たことのない人、見たことのない部屋に驚き口から声がでなかった。


「どこか痛いところはない?」


「ひぅっ!は、はい!」


驚き彼女は鳥が裏返ったかのような声が出た。


あははは、と笑うエイミとリィカに対し戸惑う彼女。起きたばかりは彼女の顔は明るかったが、昨日までのことを思い出したのか少し顔が曇る。


「あ、あの、ここは、どこなのでしょう、、?」


「ここはナグシャムの宿よ!」


エイミの会話の後、どたどたと階段を上る音が聞こえる。


「お!目が覚めたんだね」


「お目覚めでござるか!」


「ふんっ」


「おかえりアルド、サイラス、ギルドナ」


「お帰りなさいデス!」


帰ってきたアルド達に元気な挨拶をするエイミとリィカ。


「ああ、ただいま」


「ただいまでござるエイミどのリィカどの」


彼女は気を失った後の記憶がないため混乱していた。


「あの、、、私は、、なぜここへ?」


「あの後、気を失ったんだよ」


「あ、あの、、見ず知らずの私を助けていただいて、あ、ありがとうございます。」


「いいよ、困ったときはお互い様さ。自己紹介がまだだったよな、おれはアルド」


「拙者はサイラスでござる!」


「私はエイミよ!よろしく!」


「リィカと申しマス!よろしくお願いしマス!ノデ!」


「ギルドナだ」


「、、!!?かっカエルがしゃべった!?」


「今頃でござるか⁉拙者、会った時からしゃべっていたでござるよ」


しょんぼりとするサイラス。それをアルド達は笑いながら慰める。


「あ、あの、私はコトハと申します。よ、よろしくお願いします。あっあの、この間はパニックになって、す、すみませんでした。」


「気にすることないよ、コトハはとても辛いめにあったんだから」


アルドが話し終えるとアルドの後ろから、ギルドナがコトハのもとへ近寄った。


「おい、お前に預かり物だ。それと、お前はできない子ではない、いつも私がついている、と伝えてくれとのことだ。確かに伝えたぞ。あの時はお前が遮ったせいで渡せなかったがな」


そっと、巫女から預かった杖とブレスレットをコトハに渡す。


「お、お姉ちゃん、、、あ、ありがとう、ございます、、グスッグスッ」


受け取った杖とブレスレットをコトハは胸に抱きしめる。


「その杖とブレスレットはお姉さんの物なのか?」


「こ、このブレスレットはそうですが、、この杖は違います。この杖は、初代龍の巫女が持っていたもので、、代々選ばれし巫女に受け継がれてきたものなのです」


「選ばれし巫女、、?」


コトハはそう言うと涙を袖でぬぐい語り始める。


「あの、わ、私は選ばれし巫女らしいのです」


「ん?いきなりどうしたんだ?」


コトハの突然の告白に困惑するアルド達。


「わ、私たち龍の巫女の間では数千年に一度、選ばれし巫女という、とても魔力が強く、体のどこかに紋章の刻まれた子が生まれるのです。そ、それが、たまたま私で、、、」


これがその紋章です、と袖をまくりアルド達に紋章を見せる。

するとギルドナが問いかける。


「それがその選ばれし巫女の紋章というやつか。それほど強い魔力があるならなぜ逃げた?」


「い、いいえ、、私には、魔法はほとんど使えないのです」


「ん?どういうことなんだ?」


困惑するアルド達。悲しげな顔をしながらその質問に答えるコトハ。


「も、紋章はあるのに、つ、使えるのは、初歩的な魔法ばかりなのです。わ、私は、、思ったんです、、自分は選ばれし巫女なんかじゃないんだと、、でも、、みんなは、、『時期が来れば強くなれる。それまで私たちに封印のことは任せな』そう言ってくれていたんです。ですが、私はなんの力もなく、あの時はただ逃げるしかなかった、、みんなが必死に守ろうとしている中、私は、私は何も、、できなかった。私は何もできない、だめな存在なのです、、」


「コトハ、、、」


「何度も何度も魔法の練習や、強くなるための努力はしました。そのたびにできなくて泣いている私を、お姉ちゃんやみんなが励ましてくれて、、、グスッグスッ、、、」


アルド達はすすり泣く彼女をただ、見守るしかできなかった。


「お、お墓を、、立てたいです、、、きっとまだ、みんな眠れていないから、、」


「ああ、わかった。おれたちも手伝うよ、、、」


「あ、ありがとう、、ございます、、大きくきれいな”黒零石”という鉱石を使って作ろうと思います」


「黒零石?」


「はい、、とても大きく、太陽にかざすと透けてとても綺麗なのです。それを5

個ほど使いたいと思います」


「どこに行けば手に入るんだ?」


「イナリ高原の大きな石の陰にあることが多いので、そこを探しましょう」


「よし、さっそく探しに行こう」


「はい、、」



―イナリ高原―


「黒零石か、そんな鉱石聞いたことないな」


「拙者も初めて聞いたでござる」


「そ、そうですね。あまり知られていないかもしれません」


そういい終えるとコトハは何かを見つける。


「みなさん、これです。これが黒零石です」


コトハが指を刺した先にはボーリング玉くらいの大きさをしたきれいな石があった。

磨いてもいないのに輝きを放ち、宝石のようだ。


「よし!この調子で探そう」


アルド達はイナリ高原の大きな石の陰を隈なく探し5個の黒零石を見つけることが出来た。


「よし、5個集まったな」


「かなりの重さでござる」


「情けないわね」


「つべこべ言わずに行くぞ」


「そうデス。行きマショウ」


「みなさん、ありがとうございます。では、行きましょう」


―アルド達は何も言わずコトハについて行った―


到着するとそこにはまだ火がくすぶっており、焼けたにおいが漂っている。焼けたにおいが鼻につき、時折それは彼女の顔を曇らせる。


しばらくの間、彼女は1人1人を思い詰めた顔で見つめていた。


「ほ、本当に、、本当に、、すみません、、本当に、、、」


彼女は1人1人に謝罪の言葉を何度も何度も繰り返しながら巫女達を埋葬をした。


巫女達を埋葬し終えると彼女の顔が少し和らいだ気がした。


「あ、ありがとうございます、、本当に、、」


横にいるアルド達に声を掛けた。


「気にしないでいいよ、おれ達にはこれくらいのことしかできないから、、それに、大切な人を失う気持ちはおれ達にもわかるよ」


「、、、」


「ええ、私にもその気持ちはわかるわ、、大切な人を突然失うのはつらいわよね、、」


「あ、アルドさん、、エイミさん、、、」


「!!!?高エネルギー反応ヲ検知!!」


「リィカ!?それってどこ、、、!?」


グオオオオアア!!!


突然、周りを囲むように魔物の声が響き渡る。


「何でござる!?」


「ちっ!囲まれているぞ!」


「い、いつの間に!」


お墓を立てるのに集中していたせいか囲まれているのに気づかなかったアルド達。


「おい!敵は多いぞ」


「わかってる!いくぞ!」


怨念に取りつかれた狂暴な魔物達がアルド達に向かい襲い狂う。


グオオオオアア!!グオオオオアア!!


それを迎え撃つアルド達。

1つの排水溝に大量の水が一気に流れるかの如く魔物たちはアルド達に向かう。


「やあ!!」


アルド達は数体の魔物を倒すが、敵の数がいっこうに減らない。


「数が多すぎるでござる!!」


グオオオオアア!!!


「んん!?」


油断したサイラスに魔物が襲い掛かる。


グオアアアアア!!!


「ふん!油断するな」


ギルドナのカバーに救われるサイラス


「かたじけないでござる、、、」


「礼はいい」


「こんなに数が多いと逃げることもできないわ!!」


「バッテリーが、切れそうデス!」


じりじりと追い詰められていくアルド達。


「クソっ!このままじゃやられる!」


「あ、、ううう、、」


自分も力になりたいが何もできないコトハ。選ばれし巫女という肩書を持って生まれたのに何の力もない自分、足手まといにしかならない自分を責めていた。


(ま、まただ、、また、、私は何もできない、、いや、、いや、、)


あの惨劇がフラッシュバックする。


(いや、、いや、、、いや、、、)


ドクン・・・

コトハの持っていた杖が光りだす。

その光に気付き、戸惑うアルド達。


「な、なんだ??」


光の強さがどんどん増していき、光がアルド達を包込み、そしてそこにいる全ての魔物を包込んで行く。


「いやあああああ!」


次の瞬間、魔物たちの姿が消えていた。

コトハが放った魔法はアルド達を一切傷つけることなく、魔物だけを消し飛ばしたのだった。


「はあ、はあ、はあ、、、うっ、、、」


コトハは力を出しすぎたのか、意識を失いその場に倒れる。


「コトハ!?」


すぐさま駆け寄るアルド達。


「とてつもないエネルギー反応でしたノデ!」


「今のは、一体、、、」


「ものすごい力だったでござる」


「選ばれし巫女の力、というものだろう。これほどだとはな」


「また気を失っちゃったみたいね。とりあえず安全な場所に移動しましょ?あそこの木の陰なんてどうかしら?」


「拙者は、また魔物が襲ってこないか見張っておくでござる」


「次は無いといいがな」


―数分後―


「あっ!わ、私また気を失って!すみません、、、何の役にも立たなくて」


突然気が付き起き上がるコトハ。周りを警戒していたアルド達はコトハの方を振り向いた。


「何言ってるんだ?コトハのおかげでおれ達は助かったんだぞ?覚えていないか?強い光に包まれたと思ったら魔物が一瞬で消え去ったんだ」


「そうでござる。コトハどのがいたからこそ拙者たちはこうして生きておるのでござるよ」


「そうね!助かったわ!ありがとうコトハ!」


「礼を言う、お前のおかげで助かった」


「ありがとうございマス!!」


「そ、そうなんですか、、?でも、それは、、たまたまで、、先ほどのような魔法は、恐らく今は使えません、、覚えてもいないですし、、、」


「そんなことないさ、一歩ずつ進んでいけばいいよ」


「だったらこれが一歩目ね!」


「あ、ありがとう、、ございます、、」


「話を割って悪いがこの場所にいたままでは再び奇襲をされるに違いない」


「早急に残りの勾玉を取り戻さなければならないでござるな」


「それなら、急いで勾玉を集めに行こう!」


「ええ!そうね!」


「賛成デス!急ぎマショウ!」


「待つでござる!たしかに拙者は、急がなければならぬと申したでござるが、まだコトハどのが意識を取り戻したばかりでござる!」


「わ、私なら大丈夫です。休んでいる暇はありません。急ぎましょう」


「コトハどのがそう言うのであれば致し方ないでござるな」


行こう!と言った矢先にアルド達はハッとその場にとどまる。


「でも、その3つの勾玉の場所はどこにあるんだ?」


「それな大丈夫でござる。ギルドナどのに任せれば何とかなるでござる」


「それは無理だ。こんなに近くに強い怨念を放つ勾玉を2つも所持していては、遠くにある勾玉の気配を探すことなどできん」


「んー、では一体どうすれば、、そうでござる、リィカどのは凄まじい力を感じ取ることが出来るのでござったな?」


「それは私にも不可能デス。怨念と、実際の力とは全くの別物なのデス!」


「それは困ったな」


何か勾玉を探し出すための策はないかと考えを絞り出すアルド達。

その瞬間、コトハの口が申し訳なさそうに開く。


「あ、あのう、、その、、熟考されているところ悪いのですが、、わ、私、、その、、勾玉がどこにあるのか、、取りつかれた魔物達がどこにいるのか、、大体わかります、、」


「えええ!?」


驚くアルド達。


「わかるならなぜ先程、魔物に囲まれた時言ってくれなかったでぞざるか?」


「そ、それは、私にも気づけませんでした。で、ですが、先程、目が覚めた時から何となく、そこにあるということが、理解できるようになったのです、、」


「そうなのか?すごいじゃないか!」


「ならさっそくそこに向かおう!」


「は、はい!あ、あの、、その前に1つ聞いておきたいことがあるのですが、なぜ、こんな危険を冒してまで私を助けてくれるのですか、、?」


「ん?そんなの当たり前だろ?困った時はお互い様さ」


「え!?そ、それだけでですか??」


「ええ!そうよ、アルドは本当にお人よしなんだから!」


「そうでござる!アルドのお人よしは、世界一にござる!」


「その龍とやらが復活すれば世界は滅ぶのであろう?ならば、それは防がなければな。それにおれは、お前の姉に頼まれているからな」


「ギルドナさんは素直ではありませんノデ!」


「皆さん、、あ、ありがとうございます」


フフフと笑うアルド達。


「さあ、行こう。どこにいるのか教えてくれないか?」


「は、はい!荒寺のあたりだと思います」


「そし!出発でござる!」


「勾玉を取り戻すわよ!」


「はい!」


―アルド達は荒寺へ向かい出発した―


第2話 完














  













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