異形の龍

まさまさ

第1話 つかの間の休息

―東方 紅葉街道 甘味処-


心地の良い日差しが和傘をの隙間を抜けアルドとサイラス、ふたりを照らしている。

アルド達は日々の戦いの疲れをいやすためつかの間の休息をとっていた。


川にはガラスのように透き通った水が流れ、ところどころでは太陽の光が水面に反射し、暖色から寒色へとグラデーションをしたステンドグラスのように見える。


「東方の甘味はやはりうまいでござるな~」


「ああ、やっぱりこのお店の団子はうまいな」


「こんなにのんびりする日も悪くないでござる」


「ずっと戦いっぱなっしだったもんな。そういえばサイラス東方出身なんだよな?」


「そうでござる。時代は違うでござるが。懐かしいでござるな、あれかいろいろあってカエルの姿にされてしまったでござるが、今ではこの姿にも愛着がわいてきてるでござる。泳ぎならアルドにも負けないでござるよ」


「ははは、サイラスらしいよ」


アルドとサイラスは甘味処でくつろいでいた。


「ほかの仲間達は今頃何してるんだろうな」


「エイミどのとリィカどのは町で”しょっぴんぐ”をしているでござる、エイミどのは着物に大層ご執心だったでござるからな」


「ギルドナはどこに行ったんだ?」


「ギルドナどのは森に行くと言っていたでござる」


「森に?なんでまた森なんかに行ったんだ?」


「なにやら嫌な予感がすると言っていたでござる」


「嫌な予感?」


「拙者にもよくわからんでござる。さて、うまい甘味も食べたところで、」


『きゃああああああああ!!!』


サイラスの声を遮り遠くで女性の悲鳴が聞こえた。


「サイラス!」


「うむ!」


アルドとサイラスは悲鳴のする方向へ全力で向かった。


森の中から逃げてきたのだろうか、森の入り口付近で魔物が傷ついた女性を追っている。


ガゥゥゥ!ガゥゥゥ!


魔物が女性に武器を振り上げるが、すかさずアルドとサイラスが助けに入る。


ガゥゥゥ!ガゥゥゥ!


魔物がわめきたてる。


魔物はアルド達に襲い掛かる。


サイラスがおとりになりアルドを援護する。


「アルド!今でござる!」


「やあああ!」


アルドが斧で薪を割るかのように魔物を両断する。


「かなり手強かったでござる。なにやらこの魔物、様子が変でござらなかったか?」


「ああ、確かに他の魔物と違ってかなり狂暴だったな。それに、なんだか禍々しい煙をまとっていたな」


アルドとサイラスは倒した魔物を見下ろしていた。

突然、後ろから女性が切羽詰まったかのように声をかけてきた。


「あの、、、助けてください!!せっ、世界を守ってください!!」


アルドとサイラスの後ろから女性が急に駆け寄り懇願する。


「なっなんと!!きゅうにどうしたというのでござるか!?」


「一旦落ち着こう?どうしたんだ?」


「あっ、す、すみません!見ず知らずの方を巻き込むわけには、、、忘れてください!」


女性はハッと我に返ると踵を返し、走り出そうとした。


「待つでござる!」


「おれたちに出来ることがあるなら、力を貸すよ」


「ほっ、本当ですか?っ、でも、、、」


「ああ、言ってみな?」


「はい、ありがとう、、ございます、、で、では、私たちは古代より代々受け継がれてきたこの”龍の勾玉”を守りし”龍の巫女”なのです。そ、それで、その勾玉に封印されし龍が、ふっ、復活しそうになっているのです!」


「龍?」


「龍の勾玉?復活?なんと!、、、さっぱりわからんでござる」


「は、はい、私たち龍の巫女に代々伝わる伝説があり、はるか昔、突然、空に暗雲が立ち込め、龍が現れ、雷(いかづち)の如く民や街を破壊し尽くしていました。そ、そこに颯爽とある女性が現れたのです。そ、その女性が初代龍巫女なのです。初代と龍は死闘を繰り広げ、ようやく龍を5つの勾玉に封じ込めることが出来たのです。その後、強い魔力を持った巫女が集められ、龍の巫女となりました。そして、現在まで何代にもわたり龍の巫女たちの祈りによって、なんとか龍の封印を保ち続けることが出来たのです」


「この地にそんな伝説があったなんて知らなかったでござる」


「おれも驚いたよ。龍なんておとぎ話の世界の生き物だと思っていたよ」


「で、ですが、その封印も長きにわたる時間の末弱ってきているのです。私たち龍の巫女はその封印の力を保つために何千年もの間、毎日祈りを捧げてきました。しかし、初代龍の巫女の力には及ばず、、、ふ、封印されし龍の怨念があふれ出し周りにいた魔物を狂暴化し、その怨念にとりつかれし魔物に勾玉を持ち去られてしまったのです。そ、それで、、私以外の龍の巫女達は、みんな、、みんな、、」


「そんな、、、」


アルドは巫女の手に握りしめられた禍々しい光を発する手のひらくらいの大きさの勾玉を見る。


「それが、その龍が封印されてるっていう勾玉なのか?」


「は、はい、、、本来、勾玉は五つありました、、初代は五つの勾玉に龍を封印したのです。」


「なんとっ!」


「それじゃあ、あと四つは!?」


「、、、まっ、魔物に持ち去られました。」


「早く取り戻さないと!」


「それならあと3つだ」


急な声に驚いた3人は一斉に声のする方向へ顔を向けた。


「ギルドナ、、、?」


「ギルドナどの?」


女性の視界にギルドナの手に持っているものが入る。


「、、、!!その手にお持ちになっているものは!!?」


「これか?これがお前の言っていた龍の勾玉だろう?なにやら森の方から嫌な予感がしたんでな。その場所に向かってみれば魔物に襲われた痕跡のある社があった。数人倒れていたが1人の女が俺に言った。『奪われた龍の勾玉を取り返してほしい』とな」


「それと、これをお前に、と」


ギルドナは龍の巫女に何かを渡す。


「、、、、!?」


―ギルドナの回想―


ギルドナは1人、森の奥へ向かい歩いていた。


「なにやら嫌な予感がする、、禍々しい気が森の奥深くから発せられている。」


ガウウウウ!

魔物が突然現れギルドナ向かい叫びだす。

叫んだと同時に魔物はギルドナに向かい走り出す。


「ほう?おれとやるのか?身の程をわからせてやろう」


魔物がギルドナに向かい武器を振り下ろすがそれを受け止めるギルドナ。


「ふん!その程度か?」


魔物をあざ笑うギルドナに対し魔物は激昂する。

魔物とギルドナは戦った。


「くらえ!!」


グオアアアア!!


「思い知ったか?」


魔物はギルドナに倒され、倒された魔物から何かが落ちる。


「これか、、、この嫌な予感。禍々しい気の正体は」


ギルドナは落ちた勾玉を拾い上げ、魔獣が来た先を見据える。


魔獣が来た先には明るく何かがともっている。


「あれは、、?」


木々が生い茂る森の中を進み、空間を抜けるとそこにはギルドナの予想だにしない光景が待っていた。


「、、、まるで地獄だな」


何かを祭っていたのだろうと思われる祭壇や家がごうごうと荒れ狂う龍のように燃え盛り、周りには深く傷ついた巫女姿の女性が数人倒れていた。


ギルドナは倒れた女性たちに駆け寄った。


「おい!ここで何があった!」


「・・・・・・・・」


「おい!、、、」


声をかけるが一人として返事が返らない。


「無駄か、、、」


ギルドナが諦めかけたその時


「うう、、、」


今にも力尽きそうな倒れた女性がそこにいた。


「おい!お前!」


ギルドナは女性に駆け寄り抱きかかえる。


「勾玉、、、龍の勾玉を、、取り返してください、、、本来、、なら、、それを守るのは我らの役目ですが、、、あと一歩、、及びませんでした。」


巫女は突然、ギルドナに頼みを言い出した。


「話すな、傷に触るぞ」


「ダメです、、、それは、、、できません、、あの勾玉を5つそろえられてしまっては、、世界が滅びてしまいます!それに、、そろわずとも解けかかっている封印。

本来で、、あれば、勾玉を5つそろえ、生き血を捧げるのですが、、その儀式を行わずしても龍は、復活を遂げてしまうかもしれないのです。じ、時間がないのです」


「なんだと?その勾玉とはこれのことか?」


先程、魔物が落とした勾玉を巫女に見せる。


「!?、、、はい、、取り返してくださって、ありがとうございます、、、それと、、こんなことを見ず知らずの人に頼むのは、間違っているでしょうが、、あの子を、、あの子をお願いできませんか、、?」


「あの子だと?いったい誰のことだ」


「はい、、私と同じような格好をしている女の子です、、彼女が希望なのです、、」


「希望だと?」


「はい、、、彼女は、、、選ばれし巫女。彼女に、、、これを、、」


女性が杖を取り出す。


「これは、この杖だけは、、守り通せました、、これを彼女に、、、それと最後に、、あの子に、、あなたは、、できない子なんかじゃない、、私が、私たちが、

いつもあなたの傍にいると、、このブレスレットも、、一緒にお願いします、、、」


「なぜ会って間もないおれにそんなことを頼む?必死で守り通したのだろう?おれが快く聞き入れるとは限らんぞ?」


「フフ、、勘ですよ。あなたは、、いいお人です、、私の勘、よく当たるんです」


ギルドナは顔を一瞬しかめるが、その後フッと微笑んだ。


「フッ、いい人、か、、」


「はい、、お願い、、します、、、」


彼女は、ゆっくりと瞳を閉じた。


「お前の頼みは、しかと聞き入れたぞ、、」


―現在に戻る―


「そ、それじゃあ、まだ生きて、、!?」


「、、、、、」


ギルドナは無言のまま首を横に振った。


「そっそんな、、、」


彼女はそう言い終えると拳を握りしめ唇をかみしめた。


彼女の唇からつーと一筋の血が流れた。


「わ、私のせいです。選ばれし巫女なのに、、何も、、何もできなかった!

ただ、、逃げていただけだった。みんな、、みんな、、」


「そんなこと、、」


アルドが慰めようと彼女に手を指し伸ばそうとするが、彼女に振り払われる。

次の瞬間、今までの彼女のから発せられていた弱い声からは想像できないような声で叫んだ。


「あ、あなたにはわからない!何も!私の気持ちなんて、、、」


そう言って彼女は意識を失った。


「おい!しっかりするんだ!大丈夫か!?」


「アルド、落ち着くござる。この女性はただ気を失っているだけでござるよ。」


「それならよかった、、とりあえず安全なところに彼女を運ぼう!」


「そうでござるな」


「近くの宿屋に向かうぞ」


「ああ!」


アルドは女性を背中におぶり、宿へと急いだ。


―ナグシャムの宿へと到着したアルド達―


女性を担ぎながら階段を上り部屋にあるベッドの前までアルド達は来た。


「ここでゆっくり休ませてあげよう」


アルドは担いだ女性をそっとベッドへ寝かせた。


「巫女どのは龍の復活と申したでござるな?今回は拙者もギルドナどのと同じく嫌な予感がするでござる」


「サイラス、、、とにかくエイミとリィカを探そう」


「そうでござるな」


「おそらくエイミどのとリィカどのはイザナにいるでござる」


「よし、さっそく合流しよう」


「行くぞ」


イザナに向かい走り出す。


―イザナに到着するアルド達―


「はあ、はあ、やっとイザナに着いたな」


「そうでござるな、、、、ナグシャムから、、イザナに走って来るのは、、流石に骨が折れるでござる」


「ふん、おれはこれしきのことでは息は上がらん」


「ははは、凄いな、ギルドナは」


「自慢はいいでござる。さっそく探すでござる」


くまなく探すアルド達。


―数時間後―


「しっかし、イザナは広いでござるな」


「そう簡単には見つからないさ」


「ん?」


ギルドナが何かに気づく


「ん?」


続いてアルドとサイラスも何かに気付いた。


「エイミどのとリィカどのにござる!」


エイミとリィカのもとに向かいアルド達は走り出す。

エイミとリィカと合流するアルド達。


「探したよ、エイミ、リィカ」


「どうしたの?そんな血相かいて、あ!もしかしてアルド達ったら私の着物姿がそんなに見たかったのかしら?」


「違うでござる」


「う、、、わかってるわよ。冗談よ。それで、そんなに血相かいてどうしたの?」


「それが、大変なことになったんだ。大昔の龍の封印が解けて世界が滅びるかもしれないんだ」


「なんですって!?って、アルド達、それ本当の話なのかしら??」


アルドの口から急に予想だにしない言葉が発せられエイミは戸惑う。


「嘘ではない、この目とこの耳で直接見聞きしたからな」


ギルドナの真剣な顔を見て信用するエイミとリィカ。


「龍なんておとぎ話の世界だけの存在かと思っていたわ。まさか実在するなんて、、」


「わたくしのデータベースにも掲載されておりません!ノデ!」


「おれたちも話を聞いたときは、はっきり言って驚いたよ。まさか本当に龍が存在するなんて」


―アルド達は一連のことの流れを説明した―


「ええ!?その子を1人でナグシャムの宿のおいてきたの!!?また襲われたらどうするの!?」


「それなら問題ない、おれが2つとも持っている。魔物どもはこの勾玉からあふれ出る怨念によっておびき寄せられるからな。ここにある限りあの女の身は安全だ」


「そっか、でも一刻も早くナグシャムの宿に戻らなきゃ!事態が深刻なことに変わりはないわ!」


「大至急デス!」


「そうだな。急いでナグシャムに向かおう!」


―アルド達は急いでナグシャムへと向かった―



第1話 完





















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