第3話 ヒドラの化石、ヒドラの軌跡

ユニガンいち賑やかな通りで、マクミナルは虫眼鏡を片手に、ガラクタのようなものを懸命に吟味しているところだった。

ヴァルヲがマクミナルにすりよっていくと、見知った顔にマクミナルは人なつこい笑顔を向けた。

「おやおやノポウ族のお仲間が増えたんですね」


「元気そうでよかった!オレ達、いまヒドラについて調べているんだ」

アルドが話をする間、ヴァルヲはマクミナルのガラクタをじっくり楽しんでいた。


「ヒドラですか・・・。それはまた難題をもってきましたな」

「絶滅したのはどれくらい前なんだ?」

「だいたい、約2万年くらい前まではまだ生息していたようです」


(あの時代で見たことがないな・・・)

ミグレイナ大陸はおろか、2万年前には別の大陸でも、ヒドラの話を聞いたことがないアルドだった。

「その頃はどこにでもいたのか?」

「2万年くらい前の化石はルチャナ砂漠で発掘されていますね」


「そうか、参考になったよ。ありがとう。また誰かに騙されないようにしてくれよ!」

「そうですね、ははは。あ!ヴァルヲくん、それは大切な史跡の・・・!」


ヴァルヲを抱き上げて逃げるようにその場を離れるアルドに、リィカが声をかける。

「現在のルチャナ砂漠は、2万年前のチャロル草原デスネ」

「ああ。でも、チャロル草原でもベガの森でも、ヒドラなんて見たことがないぞ」


「ヒドラじゃない他の名前になってるとか?」

エイミが口を開く。

「うーん。でもマクミナルは知ってたぞ」

「あ、そっか・・・」


「考えていても仕方ないでござる。古代のサルーパで聞き込みをするでござるよ」

「アルカリ性デス!」

「はいはい、賛成ね(アルカリ性だと反対になるんじゃ・・・)」


***


サルーパに着くと、ヴァルヲはさっそく駆け出した。ヴァルヲと対照的な真っ白のレディたちにちょっと心惹かれる、ほどじゃないが、やっぱり気になる。


ヒドラのことを知っていたのは、お地蔵さんを教えてくれたおばあさんだった。

「ヒドラとは懐かしいねぇ。わしらが小さいころは、病気の特効薬にヒドラを使ったもんさ。だからヒドラ狩りがはやってね。いつのまにか、ヒドラはいなくなっちまったよ」

「じゃ、じゃあ、もうヒドラはいないのか?一匹もいないのか?」

「ああ、ヒドラ狩りは儲かるって言ってね。みーんな狩られてしまったわね。最後の一頭がベガの森にいたけどねぇ。もう何十年も前に、最後の一頭を獲ったっていう話を聞いたよ」

「そうか・・・教えてくれてありがとな」


***


「もはやここまででござるか」

二足歩行のカエルががっくり肩を落とすと普通のカエルに似ている、とアルドは思った。


ポポロが不安そうな顔でサイラスを見上げている。

「いや、ポポロ殿、諦めたわけではござらん。拙者は・・・」

明らかに動揺しているサイラスが、懸命に言葉を探している。


「サイラスさんから発汗を検知。焦っている状態と思われマス」

「ちょっとリィカ!」

「こういう時は、冷静になるべきデス」

「冷静になっても、ヒドラが絶滅してちゃどうにもならないじゃない」

「異時層ではどうでしょうか」

「リィカ、それだ!」

アルドがすかさず食いついた。ディアドラがアナベルとして生きていた向こう側の世界なら、あるいはヒドラがまだいるのではないか。


「これからはリィカ殿の冷静さを少し見習うでござる」

「ポッポー!」

ポポロが歓声を上げる。テルコとプルードのところから戻ってきたヴァルヲも、調子よく尻尾を振り上げた。


(たとえヒドラがいなかったとしても・・・)

「ノポウ族を助けないと開拓も進まない。とにかく異時層へ行こう」


ヴァルヲが張り切って歩き出す。その尻尾が得意そうにピンと立っていて、一縷いちるの望みどころか、必ずヒドラがいるような、アルドはそんな気持ちになった。

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