第1話 ノポウ族、開拓地、人間?

不気味な雲しか見たことのないこの島に、昼と呼べる昼があるのかないのか、アルドは知らなかった。


「なぁギルドナ、このあたりは天気のいい日ってあるのか?」

「たまにはある」

「うーん。たまに、か」


この気候で開拓して作物が育つんだろうか、と考えたところで・・・

(まぁオレが考えてもしょうがないよな)


「ヴァルヲ起きろ、降りるぞ」


ヴァルヲはまだ眠そうだった。


***


降り立った古戦場跡はオーガ族が現れたときと変わっていない。紫がかった暗雲がのしかかった空は埃に黄ばみ、焼けただれたままの荒地の色は今日もよどんでいる。何度も来たい場所ではない。


「西側に抜け道があるんだったよな」

「西の方角に生体エネルギーを検知。敵ではないようです。ノデ!」

「ノポウ族でござるか?」

「とにかく行ってみよう」


突進してくるモリガミをするりと避けて背後から斬りつける。オウガ族を相手にしたあとでは、もう前のように手こずったりしない。


魔物の骸の向こうに、船が思ったよりも遠く、土煙にけむって見えた。ツタが絡んだ枯れ木を脇目にさらに西へ進むと、見覚えのあるノポウ族がいた。


確か、マクミナルと商談をしていたノポウ族だ。

(――多分。)


「え、えーっと・・・」

(ノポウ族は個別の名前がないんだったよな・・・)

「・・・久しぶり、元気だったか?」


「・・・ ・・・ポ?」


「うっ・・・すまん。ポポロ、抜け道について聞いてくれるか?」

「うん」


ノポウ族は抜け道を知っていた。その上、開拓地のノポウ族を相手に商売をしているらしい。


「朽ちた武器を集めて、開拓地の仲間に流してるのか!」

「これで、ナットウ・イート、デス!」

「はいはい、納得ね」

「抜け道はこっちだって」


枯れ木と岩の向こうに、獣道が見えた。


「ありがとな!」


アルドがノポウ族に手を振ると、ノポウ族も手を振ってくれた。

アルドの顔に、この上なく嬉しそうな表情が広がった。


***


獣道はそれほど続かず、五分も歩くと少し広い道になった。

枯れ木と岩がややまばらになり、ところどころ耕したような痕跡があるものの、それでも畑と呼ぶにはほど遠い。


「ここを開拓するのは難しいんじゃ無いのか?」

リィカのお下げが高速回転する。

「リンとカリウムは農耕が可能な範囲デス。が、窒素が決定的に足りません。ノデ!」

(・・・まったく分からないぞ・・・)

「ノデー!」

「えっ?!」

転瞬、リィカの鉄槌が魔物の脳天に命中した。


「そもそもお天道様がこうも見えなくて大丈夫なのでござるか?」

「作物にもよるんじゃない?」

「ポポッ」

「うしろだ、サイラス!」


「魔物がいるところで開拓作業なんて・・・ひどいよぅ」

「ポポロサン!」


目の前に、ノポウ族が何人も倒れていた。


***


「ここが開拓地の集落でござるか」

ぱっくりあいたサイラスの口から舌がはみ出している。


ザルボーの地下集落に似た景色にもかかわらず生活の匂いがないのは、ほとんどのノポウ族が道ばたに倒れるか、ぐったりと座り込んでいるからだ。

「こんな・・・」


ポポロが駆け出すのを

「おい、魔物がいるかもしれないぞ!」

と呼び止めるアルドの脇を、ヴァルヲが駆け抜けていく。


ヴァルヲがポポロの前に立ちはだかり、尻尾をピンと振り上げる。


「合成人間?!なんでこの時代に・・・」

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