実りの夢

@viscacha

プロローグ パラダイスの香り

この砂、この風は。

間違いない。


――やっぱりだ。


奥ゆかしい香りがかすかに漂ってくる。

さっそくあの香りに包まれにいこう。

夜ご飯の時間が来る前に。


「ヴァルヲ!ちょっと待ってくれよ!」


アルドは同類の匂いがする。

のに、とても鈍い。

仕方ないから教えてあげよう。


「そっちには道がないだろ!」

ほんとうに鈍い。


「って・・・。ヴァルヲ、いつの間にこんな抜け径を見つけてたんだ?」


あ。今日はなんだか変なのが落ちてる。遊べそうな気もする。

でも、あの香りが先だ。


「おい!大丈夫か!」

落ちてるやつは、アルドが時々一緒にいる生き物と同じ匂いがする。


「ノポウ族がどうしてこんなところに?!」

「ポポポ・・・」


「大分弱っているでござるな」

「体温とエネルギーの低下を検知。すぐに保温、栄養充填するべきデス」

「そこの小屋に運びましょ」


あの香りに包まれれば、動くようになるんじゃないか?

きっとそうだ。


「とにかく、言葉が分からないからなぁ」

いや、匂いで分かる。


「この時代のユニガンにも、ノポウ族の言葉が分かる人がいたよな」

行くなら、そこの船に乗ろう。


「お兄ちゃん、ポポロを呼んできた方が早いんじゃない?」

「あ、そうか」

「お兄ちゃんっていつも鈍いよね」

「・・・・・・」


なんだ。乗らないのか。

じゃあ一人で行ってこよう。



***


今日も、すばらしく奥ゆかしい香りだ。

パラダイスだ。


「白葉っぱに怯えてたけど・・・ちゃんとお話したら分かってくれたみたい」

「じゃあ、あのノポウ族は奴隷として連れてこられたのか?」

「うん。開拓地にはまだたくさん仲間が残ってるって」

「連れてきた人間というのは何者でござるか?」

「・・・よくわかんない。力がものすごく強くて、反抗できないって言ってた」


... zzz


「解せんでござる。人間は一人なのでござろう?ノポウ族が束でかかってもかなわないとは・・・」

「アルド・・・。あのね、ボク・・・助けてあげたい。残ってるノポウ族を・・・助けてあげたい」


... zzz


「ああ、もちろんだ」

「未踏の地のデータにはとても興味がありマスノデ!」

「古戦場跡の西側に抜け道があるって行ったよな?」


... zzz


いつの間にか。船が動いている。


... zzz


すごく気持ちがいい。

この瞬間が永遠に続けばいいのに。

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