第3話 虚言と本音
アルド達がセレナ海岸へ向かうと、ザミの民(?)と強面の男達が戦闘していた。少し離れた場所にフードを被った人物がいた。
アルドはフードを被った人物に話しかけた。
「おい、大丈夫か? 後は俺たちがやる」
アルドとサイラスは、強面の男達と戦闘を繰り広げているザミの民(?)に斬りかかった。二人は同時に交差し、エックスの軌道を描いた。
手応えがあまり無い。
アルドとサイラスは斬りつけた武器を見てみると、粘液が纏わり付いていた。サイラスは、ゲコと鳴き、アルドは、ベトベトの剣を見ながら唸った。
「これのせいで斬れなかったのか」
リィカがハンマーを振りかぶってザミの民に突進して行った。後ろから、エイミもフットワークを駆使して近づく。
「デハ、コレではどうデスカ」
「次は顎を完全に粉砕してあげる」
二人の打撃をモロに受けたザミの民(?)は、後方に激しく吹き飛んだ。片膝を着き、リィカのハンマーが決まった腹を抑え、口から白いモヤをブワリと漏らした後、話し始めた。
「一応この宿主がいなければ、状況が再現できなくて困るんだがなあ。ここで滅ぼされちゃ意味がない!」
ザミの民(?)から空を覆いそうな程の白いモヤがブワリと立ち上がった。ザミの民(?)はその後、ドサリと力無く倒れた。
白いモヤは意思を持っているかのように集まっていき、形を成していく。空中で黒く大きなカエル様の形に成りドスンと地面に降り立った。辺りには土埃が舞う。土埃の奥から、ぬぅと黒いアマガエルの顔が覗き出し、全容が顕になっていく。
それはまるでサイラスの親戚。黒いアマガエルが着物を身に着け二足で立ち、その手には三叉の矛を携えていた。黒いアマガエル様の妖魔はゲロロロと鳴いた後、続けた。
「先程のようにはいかないぞ。さあ、我の水に包まれて、もがき苦しみ溺死せよ」
黒いアマガエルが、三叉の矛を天に掲げると、アルド達の足元から水が勢いよく吹き上がった。
アルド達は、紙一重でかわし一度黒いアマガエルから距離をとった。
エイミがサイラスに言う。
「あれってあなたの知り合いとかじゃないわよね」
サイラスが答える。
「あんなにデカいカエル男仲間は知らないでござる。まさかと思うが、そなたも魔女にカエルにされたのでござるか!」
サイラスの問いに黒いアマガエルは、空中に水球を作り出し、アルド達に高速で撃ち出しながら答えた。
「我のこの姿は、古代より更に昔、とある大妖魔の呪いによるもの! 魔女など知らぬわ! 潔く溺れ死ね! 英雄アルドとその一行よ」
撃ち出された水球をアルド達がかわし、それが地面に生える草の上に落ちるとじゅわぁと跡形もなく溶かして焼いた。
アルドは剣に炎を纏い、黒いアマガエルに斬りかかった。
「今度は一味違うぞ!」
焼き斬られた傷を庇いながら、怯んだ。
「どうやら、火に弱いようでござるな。アルド! どんどん斬り込むでござる! 拙者達はサポートするでござるよ!」
アルド達は、アルドの火炎斬りを軸に攻め立てた。
黒いアマガエルは、三叉の矛を地面にガランと落とし、息も絶え絶えとなった。アルド達も所々に強酸の水球を浴び、満身創痍の様相である。
黒いアマガエルが地に臥しながら口を開く。
「くっ……。我がここまで追い詰められるとは、やはり英雄と呼ばれるだけのことはある……。だが、いいのか? そこのザミからきた男。そやつは、我と共にこの時代に飛ばされてきた憐れな男ぞ? 我らの目的は元の時代に帰ること。信じられなかろうが、我らはこの時代より一万年以上昔の東方よりやってきたのだ! はっはっは。我がここで滅べば此奴はこの時代で生きる術なく野垂れ死ぬであろう。此奴に乗り移っていた時に記憶を覗きみた。人の成功を妬み嫉み、自ら努力もせず、他人の小さな疵を見つけてはそれを大きく話してみせる事くらいしか能のない厄介者! 好いた女が漁師に恋し、始めた漁で潮に流され、我と出会い、溺れ死にかけた憐れな男」
エイミが冷静にツッコむ。
「ねぇ、それって同情に値するのかしら。身から出た錆じゃないの?」
サイラスが血払いし、刀を鞘に納めた。刀からは黒いアマガエルの粘液と赤い血液がセレナ海岸の草の上に飛び散った。
「人としては、ある意味可哀想でござるな。本人としては、さぞ生きづらいでござろうから」
納刀から抜刀術の様に腰を落として構える。
リィカもハンマーを一回転させ構え直した。
「ソレにあなたが滅んでも、その方を古代に送る手段は持ち合わせていますノデ! 後ろ髪引かれず、綺麗に滅ぼされて構わないノデ!」
アルドの腰のオーガベインが震える。
「クククク、話を聞いておれば呆れるようなことを。妖魔風情が、今際の際に人間の心配か! 悪党は悪党らしく最後まで非情を貫かぬか。アルド、我を使え」
アルドはオーガベインを抜き、アナザーフォースを展開した。
黒いアマガエルは三叉を拾い直し、半透明のバリアをアナザーフォースより一瞬早く展開した。
畳みかけるアルド達。しかし、手応えが全くない。
アナザーフォースを使い切ったアルドが口を開いた。
「全く効いてないのか? あのバリアどうなってるんだ」
アナザーフォースが終わった後も、黒いアマガエルは三叉の矛の柄を地面に突き立て、その場に座してバリアを展開している。
今まで遠くで戦いを見守っていた強面の男達のリーダーとフードを被った人物が話しかけてきた。
「兄さん方、アイツはおそらく東方に伝わる昔噺に出てくる、『噂好きのイザヤ』ってやつでさぁ」
フードを脱ぎ去り、若い女性がそれに続けて話す。
「神話に近い昔噺らしいの。人に取り憑き記憶を読み取り、噂を流す太古の妖魔。元は人間だったのだけれど、大妖魔の怒りに触れ、醜いカエルの呪いをかけられ、人のいない外海に閉じ込められたらしいわ」
アルドは彼らに尋ねた。
「あのバリアはどうにかならないのか」
強面のリーダーは腕組みして答えた。
「あれは、東の大陸の伝承にある逆鉾なんじゃないか? そうだとしたら、神器に等しい。それに兄さん方、見てくだせぇ。アイツ少しずつ回復してますよ」
よく見ると、徐々にアルド達が与えた傷が塞がっていた。
「早いところ手を打たないと、マズイでござるぞ。こちらは満身創痍、カツカツの状態でござる」
リィカが検索を終えて語り出した。
「東方の逆鉾の伝承に気になる一文を発見しまシタ! 『祓うは目に見うる理』つまり、観測可能な攻撃以外はあのバリアをすり抜けますノデ!」
エイミが疑問をぶつける。
「結局、攻撃ができないんじゃアイツが回復しきっちゃうじゃないの! 攻撃以外って何があるのよ」
リィカが答える。
「能力低下が通りマス。あのバリアの展開。相当の集中力を要するようですノデ! デバフを叩き込めば、解ける可能性が極めて高いデス!」
アルドは号令をかけた。
「リィカ主体で攻めるぞ! 行くぞ!」
黒カエルのイザヤは、三叉の矛の矛先を地面に突き刺した。
その身体の殆どは白いモヤになって輪郭が曖昧になってきている。
「よもや神器をも上回ってくるとは、我はそなたらを甘く見ておったようだ。あの腐れ大妖魔に一太刀食らわせてやりたかったが、それも叶わぬ夢……か……。その愚かな……男を……たの……む」
イザヤはモヤと成り、セレナ海岸の潮風に流され霧散した。
息を切らしているアルド達に強面のリーダーとフードを被っていた若い女性が話しかけてきた。
「やったな! 兄さん方!」
「見事です! あのイザヤを退けるなんてすごい腕前です!」
剣を納めながらアルドは彼らに聞いた。
「さっきは色々と教えてくれて助かったよ。それがなきゃやられてたかもしれない。ところで、なんであんた達はあのイザヤってやつと闘っていたんだ?」
二人は顔を見合わせ、アルドに自己紹介を始めた。
「これは申し遅れまして。私は、東方で伝承の研究をしているオイネと申します」
そう言った若い女性は、フードマントを脱ぐと丁寧に折りたたみ、肩にかけていた荷に仕舞った。空色の着物を召しており、黒く長い髪は艶があり、上品な雰囲気を醸し出していた。
続いて、隣の強面の大男が中腰になり膝に手を当てて喋り始める。その後ろで手下と思われる屈強な男達も同じような姿勢をとっていた。
「あっしは、東方にて骨董商をしておりやすムアと申しやす。あっしらは、商売しにリンデの港町に滞在してやしたら、このあっしの悪人面のせいか、人拐いだのと噂を流されやしてね。商売での噂ってのは痛手が過ぎる。このまま黙ってちゃあ腹の虫が治らないってなもんで、噂を流してる奴をひっそり探ってたんですよ。そしたら、東方での昔噺『噂好きのイザヤ』みたいなことが目の前で起こりましてね。後を追いかけてたら、そこの嬢ちゃんと鉢合わせて今に至りやす」
オイネは続けて話始めた。
「私は、ちょっと野暮用でリンデを訪れたんですけど、同じく昔噺の『噂好きのイザヤ』みたいなことが目の前で起こったんで追いかけていたの。このまま放っておくと昔噺みたいにとんでもない事になる気がして」
アルドは腕組みして二人に訊こうとした。しかし、満身創痍のエイミが口を挟んだ。
「アルド、気になるのはわかるんだけど、一度王都に戻らない? そこで座るなりなんなりしながら、ゆっくり話しましょうよ」
リィカもサイラスも後ろでフラフラになりながら頷いた。
「それもそうだな。ユニガンの酒場の人達も気になるし、一度酒場へ向かおう」
ムアは、気を失っているザミの民をひょいと担ぎ上げ、アルドに言った。
「こいつは、あっしらが運びますんで」
「ああ、すまない。頼んだ」
アルド達はユニガンへ向かった。
アルド達が東門を通ろうとすると、門の前に兵士がわらわらと群がっていた。
アルドがその中からいつも警護していた兵士を見つけ、声をかけた。
「どうしたんだ。なにかあったのか」
東門を警護していた兵士が答える。
「それが、ついさっき、樽いっぱいに火薬を詰めた商人がここを通ろうとしまして捕らえたところなんです」
よく見ると群がる兵士達の中に、取り押さえられている商人の男がいた。
「お手柄だったな。それで、俺たちの検閲は……」
「今、この男から情報を聞き出すところでして、一時的に検閲は取り止めております。それにアルドさん達ならば、大丈夫でしょう」
アルドとオイネとムアの手下達は検閲を受けず王都に入った。
酒場に着くと、倒れていた人達はおらず、いつも通りとなっていた。ぞろぞろとアルド達が入ると、店のマスターが話しかけてきた。
「ウチの店で私も含めて大勢人が倒れていたんだけど、何か知らないかい」
サイラスがゲコと鳴き、答える。
「これからその話をするでござる。マスターも一緒に聞くといいでござるよ」
アルド達は席に着き、オイネたちから話を聞くことにした。アルドが口を開く。
「それで、『噂好きのイザヤ』って昔噺を教えてくれないか」
オイネとムアは顔を見合わせて、オイネが話し始めた。
「東方ではポピュラーな昔噺です。幼子が変な噂を流さないよう教訓を込めた昔噺でして、大筋はこうです。噂好きのイザヤという男が、ある事ない事を吹聴して人々の注目を集めていました。ただの人間の噂話を流すことに飽きたイザヤは、事もあろうに、当時、神と同様に怖れられていた大妖魔の噂を流すようになりました。語りでしか存在を知られていない大妖魔の噂は、それはそれは人々の注目を集め、イザヤは大変満足しました。有難い話を聴けたとお金を渡してくる者まで現れました。味を占めたイザヤは、大妖魔のない事ない事を吹聴していました。お金も名声も得たイザヤは、妻子と我が家を持つ事ができました。ある日、いつものように大勢の前で大妖魔の噂話をしているイザヤの目の前に、稲光が落ちました。イザヤの話を聴いていた人々は、その稲妻によって一人残らず焼かれて死に絶えました。一人だけ助かったイザヤは恐れ慄き、我が家へ逃げ帰りました。妻子に話かけようとした途端、目の前で稲光が走りました。そこには焼け焦げた妻子の遺体だけが残っていました。泣き崩れるイザヤに、小さな黒いアマガエルがどこからともなく跳んできて、話しかけてきました。『これより先、お前が話しかける者、皆、稲光に焼かれる事になる』イザヤは、この黒く小さなアマガエルが大妖魔の使者だと気がづきました。妻子を目の前で殺されたイザヤは言いました。『ならば、貴様も稲光に焼かれねばおかしいではないか! さぁ! さぁ! 焼かれろ!』イザヤが小さく黒いアマガエルの前で泣き叫びます。しかし、稲光は落ちませんでした。『どうやら反省という事を知らないらしい。実に愚かな人間だ。どうやら、これでは罰にならぬようだな』そう言って、小さな黒いアマガエルは、どんどんと大きくなっていきました。家の屋根から頭を突き抜けさせる程、大きくなった黒いアマガエルは言いました。『このカエルと合体し、人のいない外海で一生暮らせ。お前は人の世にも、妖魔の世にも必要ない。代わりに、永遠の命と飢えない身体をやろう』そう言った後、イザヤと巨大な黒アマガエルは閃光となって、海へと飛び立ちました」
オイネはそこまで話し終えると、ちらりとムアを見た。
ムアはオイネの後に続ける。
「その嬢ちゃんが言ったのが、子供に聴かせる昔噺でさぁ。そんでこの話には続きがありましてね。それ以降、東方の港町では、漁で沖まで出ると大ガエルに襲われる事件が多発したらしいんでさぁ。その記録はどっかの文献にも記されてるらしいでさぁ。その生き残りの漁師が別人のようになっちまったらしくてね。今まで他人の噂話なんて流すような奴じゃなかったのに、知っていることを混じえて有る事無い事を吹聴するようになったんでさぁ。それを聴いていた人も、ある日を境に同じように知っていることを混じえて噂話を吹聴するようになったんですわ。港町は、もう普通の状態じゃなくなっちまって、そのまま、町は滅んじまったって話でさぁ。その後、『噂好きのイザヤ』は外海から人に取り憑き、その人の記憶を読み取り噂を流す。その噂話を聴いた人にも取り憑き、それを繰り返し町を滅ぼすって言い伝えになったんでさぁ。これは、どっちかってぇと大人向けの忠告じみた話だったんですがね……」
肩を落とすムアにアルドは質問する。
「その噂話と今回の件、結果的に同じだったけど、どうしてそうすぐに結びついたんだ?」
ムアとオイネは再び目を合わせて言った。
「そりゃあ、昨日まであっしらと同じように噂話を聴いてた漁師の嫁さんって人が次の日に同じ服着て、別の噂話を同じ酒場で始めたんじゃねぇ……」
「私もそれを見て確信したわ」
アルドは驚いて言った。
「え? その漁師の奥さんってもしかして……」
ムアの手下が抱え上げていたザミの民が目を覚ました。
「うっ……。ここは?」
「おう、目を覚ましたかよ。ここはユニガンの酒場だ。お前さんは、イザヤって妖魔に取り憑かれてたんだよ」
手下に下されながら、ザミの民は毒付いた。
「そうか。まだこの時代なのか。くそっ! あの妖魔、役立たずのクズがっ!」
ザミの民は樽を蹴りあげようとしたが、足の指を痛める結果となった。足を抱えて蹲る。
「お前、妖魔に取り憑かれてる自覚があったのか」
腕組みをして尋ねるアルドに、ザミの民は拗ねるように話し始めた。
「俺は、ザミってとこで漁師やってたんだ。ある日、嵐にあって海を遭難したんだ。飲水もなく、日照りにやられて朦朧としているときだった。魚でも浮いて出てこないかと海面を眺めていると、あのカエルがガバァっと船に乗り込んで来やがった。俺が乗ってた船は小舟同然でな。あいつからすりゃそこに置いてある酒樽みてぇなもんだろうぜ。あいつの重みでどんどん海水が船に入って来てた。半分沈没しかけてる船の上であいつは俺に言いやがった。『お前に取り憑かせてくれるならば、このまま陸に辿り着かせてやろう』って。あいつがそう言うもんだから、二つ返事で了承してやったさ。そうしたらあいつは大口を開けて、俺に襲いかかりやがった。正直、死んだと思ったよ。目が覚めたら、リンデっていう港町の漁師の船に引き揚げられてた。その後、若い夫婦の家に何日か居候して、適当に金目のもんを家からパクって出て行った。盗んだ金で酒を呑んでると、頭の中で声がした。あのクソ妖魔の声だったよ。『漁師夫婦に分身を取り憑かせた』だの『光の穴に入るために、力をかなり使った』だの『力を取り戻すのに噂による人間の負の感情が必要』だの言われた。俺が『そんなのどうでもいいから、俺をザミに返せ』って言うと、時を渡る為にもう一度力を取り戻して、同じような穴を深海で探さなきゃならないとも言い出した。だから、俺は自分の町に帰る為にあいつに協力していたんだ。仕方ないだろ。俺もアイツの被害者だろ」
エイミが口を開いた。
「イザヤの方がマシな気がしてきたわ」
サイラスが続く。
「つまり、お主を拾った漁師夫妻は、イザヤの分身に取り憑かれて自身も知らない間に、噂を流していたわけでござるな」
リィカが提案する。
「どうやら、役者は揃っていないようデスね」
酒場のマスターが口を挟んだ。
「リンデの漁師夫婦なら、まだユニガンにいると思うぞ。この酒場で目を覚ましたときに、実家に泊まろうなんて言ってたと思うからな」
リィカが呟く。
「ワタシの集音マイクに劣らぬ性能ですネ」
アルドは、漁師の奥さんの実家を訪れる事にした。
東門から抜けてまっすぐ突き当たりの家をアルドが訪れると、漁師夫婦は寄り添いながら、晩御飯の支度をしていた。席にはいつものおばあさんが座っている。
「あの、ちょっと二人とも今から酒場まで来てくれないか」
「ああ、アルドさん。ちょうどシチューができましたので、食べて行かれませんか」
浮かれ気味の奥さんはアルドを夕食へ招いた。
「悪いが、後にしてくれ。夕刻に二人して酒場で気を失っていただろ? それに関係した大事な話なんだ。来てくれ」
アルドは腕組みしてその誘いを断った。家を出る際、微笑みながら見守るおばあさんに一言残した
「おばあさん、すまないな。出来るだけ早く帰すから」
アルドは夫婦を連れて酒場へ向かった。
アルドが酒場へ戻ると、サイラスとムアが腕相撲をしていた。手下達は随分盛り上がっている。
少し離れた位置に、エイミとリィカとオイネ。ザミの民は隅っこで酒を舐めていた。マスターはカウンターでグラスを拭いている。
ムアを力でねじ伏せたサイラスがアルドに言う。
「これで役者は揃ったようでござるな。答え合わせといくでござるよ」
オイネと漁師の旦那は目を合わせると「あっ!」と互いに大きな声を上げた。
オイネは、漁師とその手を繋ぐ女性とを交互に見るとマスターのいるカウンターの方へ歩いていった。
奥さんは何かを察し、「え? 何? あの子と知り合いなの? ねぇ?」と漁師の旦那に質問していた。
アルドはこの場をなんとか持ち直すために声を張った。
「悪いが、漁師夫婦には聞きたいことがあるんだ。それが終わったら、帰ってくれていいから。そこのザミから来た男に見覚えがあるか?」
アルドは酒場の隅っこで酒を舐めている男を指さして言った。
漁師の旦那は、奥さんをなだめながら答えた。
「前回の漁で拾った奴でちげぇねぇな。いつの間にか居なくなっちまったな。生きてやがったか、よかったよかった。知っての通りゴタゴタしちまってよ。言いそびれちまった」
奥さんは、旦那を怪訝な顔で見ながら答える。
「そうよ。家にあったお金持って消えちゃった人で間違いないわ。それよりねぇ、あの女の人とはどういう関係なのよ」
アルドは奥さんに構わず続ける。
「それで、二人はザミの男が来てから、記憶が抜けるなんて経験はあったか」
漁師の旦那は奥さんに詰め寄られながら話す。
「確かに、言われてみりゃ身に覚えのねぇ話をされることや、知らねぇ服をいつの間にか着てる事が増えたなぁ。あんまり気にしてねぇもんで、それも言いそびれてたなぁ。てぇしたことじゃねぇと思ってたんでな」
アルドが追及する。
「身に覚えのない服ってどんな服なんだ」
「ここで気絶して起きたら、持ってたぜ。着てきてやるよ」と言って、漁師の旦那は酒場を飛び出した。
奥さんは不機嫌そうにカウンターで酒を飲むオイネをじとりと見ながら話し始めた。
「私もいつの間にか酒場にいたり、酒場にいたと思ったら家に帰ってたり、記憶が飛ぶことは何度かあったわ。でもその話と夫の浮気話とは関係ないと思ってたから、特に話すことはなかったわね」
夫の浮気という言葉を強調して話す奥さんにアルドはハラハラした。リィカが小さな声で話す。
「コレがワタシの求めていた修羅場ですノデ」
そんな中、酒場に赤と白と緑をマーブリングした様な派手な色をした吟遊詩人調の男が入ってきた。その男が口を開く。
「おう、待たせちまったなぁ! なんかめんどくせぇ服でよぉー! 脱いだ事はあったが、着たことがねぇもんで手間どっちまった」
アルドは合点がいったという感じで話し始めた。
「つまり、ザミの民とイザヤが元の時代、自分の町に帰るために、この漁師夫婦を操って、噂を広めたわけだ。それに使われたのが、今、漁師の旦那さんが着てる派手な衣装。あれを着ていれば、多くの人は人相よりも服装の方が強く印象が残る。中の人間が変わっているかどうかなんて気にする人は少ない。どうせ他の人間に話すときは、その服の特徴をいの一番に話すだろう。そうして、噂話を広めるうちに、イザヤの分身は色んな人たちに乗り移り、その人達の記憶からまた新しい噂を作り出して広めたわけだな」
アルドがザミの民を睨むように問い質すと、酒を舐めながら拗ねた子供のように言う。
「だから、そう言ったんじゃん。こいつはアホなのか」
エイミに小突かれ、酒を溢すザミの民。アルドは暴言を聞き流して続ける。
「それで、イザヤに操られている奥さんを酒場で目撃した二人は、ザミの民を追っていたというわけだな」
ムアとその手下、カウンターで飲んでいるオイネは答える。
「ああ。そうだぜ」
「ええ。そうよ。私の野暮用は今、済んだけど」
漁師の奥さんが何か言いたげなのを無視して、アルドが続ける。
「そして、イザヤを倒した今、あとはこのザミの民をどうするかという問題だけだな。それは、俺達に任せてくれれば大丈夫だ」
サイラスがゲコと鳴くと締めの言葉を言う。
「これにて一件落着でござるな!」
笑うサイラスの後ろでは、ザミの民はサイラスの姿に再び気絶し、漁師の奥さんはオイネに詰め寄ろうとしており、それを漁師の旦那とムア達が止めに入っている所だった。
(なんだこれは)
アルドは困り果て、リィカは目を輝かせて記録しており、エイミは呆れ果てた。
<第四話へつづく>
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