第3話 迫りくる危機

 アルドとルイナは校舎の階段を駆け上がり、屋上のスカイテラスを目指す。

 テラスに出る扉を通り抜けると、体が突風にあおられた。

 生い茂る草木や花々が風に揺られている。

「アルド、手分けして探そう」

 ルイナの提案にアルドはうなずいた。

「ああ。オレは奥の方を見て来るよ」

 アルドは四つん這いになり、茂みや花の下、黄色いパラソルが設置されたテーブルとベンチの周辺を探した。

「お、こんな所にライフマーク! ……いや、今見つけたいものはこれじゃないな」

 地道に探索を続けていると、

「ぐぅ……ぐぅ……」

 ベンチの方から、誰かの寝息が聞こえた。

 アルドが近づいて見てみると、水色の髪に黄緑がかった毛先の男子生徒――マイティが昼寝をしていた。

「毎度のことながら、気持ちよさそうに寝てるな」

 その時、マイティの手から一冊の本が滑り、ぱさりと音をたてて草原に落下した。

 本を拾おうとアルドが屈むと、草の陰にカード状の物が落ちているのが見えた。

「これ、学生証じゃないか! やっと見つけたぞ。 ……って、あれ、この写真は?」

 次の瞬間、頭上で射撃音が響く。

 アルドは反射的に銃弾を回避し、武器を構えた。

「何なんだ!」

 見慣れない小型のドローンが浮遊していた。

 合成人間が使役するサーチビットに酷似しているが、この銀色の機体には見覚えがない。なぜこんな場で自分達を襲ってくるのだろうか? 

 考える間もなく、ドローンは射撃を繰り返してくる。

 アルドが一人奮闘していると、背後から水の魔法が飛んできた。

「眠~~い! けど僕がんばるね!」

「ありがとう、マイティ!」

 先ほどまで眠りこけていたマイティが、杖を手にし魔法を繰り出す。

 次に炸裂したのは、風の斬攻撃だった。

「アルド、これはどういう状況?」 

「ルイナ! わからないんだ。とにかく倒さないと!」

 三人でドローンに攻撃を浴びせるも、相手の火力の強さに押されてしまう。

 激しい閃光と衝撃波に吹き飛ばされ、アルドは地面に膝を着いた。

「……ふ、二人は無事か?」

 アルドの背後で、マイティとルイナがぐったりとした様子で倒れている。

「オレが、倒さないと」

 剣を杖のように地に突き立て、アルドは立ち上がろうとした。

 しかし、ドローンの主砲がまたしても火を噴く。

 もう駄目かとあきらめかけたとき、

「もう一人の私、力を貸して!」

 聞きなれた少女の声が響き、アルドの前に氷の障壁ができた。

「胡蝶の夢!」

 次いで、凛々しい少女の掛け声と共に、刃が煌めく。

「サキ! イスカ!」

 白制服に身を包んだIDEAの少女達が振り向き、微笑んだ。


 ――IDEA。IDA Defense Executive Associationの略称。

 IDAスクールの敷地内で起きた事件を解決するための組織だ。

 所属する学生はその証として、通常の学生服とは異なる白制服の着用が許可されている。

 治外法権のような特性を持つスクールの敷地内では、エルジオンの警察機構であるEGPDであったとしても足り入りが容易ではない。それに代わってIDAスクールを守っているのが、IDEAという組織である。

 

「今です。アルドさん!」

 サキの叫びに答えるように、アルドは力を振り絞る。腰の大剣――オーガベインを引きぬき、乱れのない太刀筋で機体に一撃を浴びせた。

 ドローンは撃破され、粉々になって草原の上に砕け散る。

「アルド、到着が遅れてすまなかった」

 頭を下げるイスカにアルドは首を振った。

「ギリギリのところで助かったよ。ありがとう二人とも。マイティとルイナを早く病院へ連れて行こう」

 無事に負傷した二人を病院に送り届けた後、アルドはイスカに尋ねた。

「さっきのドローンは何だったんだ? 前にサキと一緒に暴走したクレイドルシステムを倒したことがあったけど、まさか、またあの機体が?」

「いや、あのときとはまた違う事件なんだ。最近IDAシティで謎の機体が学生を狙う事件が頻発していてね。被害者には共通点があって、みんな図書館の書物を手にして倒れていた。私達IDEAは、その調査を急ぎ進めているところなんだ」

「そうだったのか。オレも協力するよ。でもその前に、行かなきゃいけない場所があるんだ。後で合流しても構わないか?」

「大丈夫だよ。作戦室でまた会おう」

 アルドは去っていく白服の少女の姿と、先ほど拾った学生証の写真を見比べた。 

 絹糸のように流れる金の髪に、黒い蝶の髪飾り。理知的な青い瞳。


 ――それは落とし主のサナではなく、イスカの写真に間違いなかった。

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