第2話 IDAの生き字引
サナの居住場所は、レゾナポートの学生寮だという。
アルドはエアバスでH棟からシティ・エントランスへと向かった。
遠くから時を告げる鐘の音が響く。ここからはセントラル・パークの時計台がよく見える。心地よい風が吹き抜け、アルドは大きく伸びをした。
「あら、剣士さんじゃないですか?」
聞き覚えがある女性の声に振り返ると、赤髪のポニーテールが風に揺れていた。
いつぞやのオカルト記者だ。
「鉄砲玉のひと! この前は助けてくれてありがとう」
「いえいえ、あれくらいお安い御用です。ところで今日はどうなさったのですか? もしかして、またIDEA絡みの事件が……!」
「いや、今日は事件ってほどじゃないよ。とある女の子が落とした学生証を探してるんだ」
「それは、早く見つけ出さないとまずいですね。ご存じだと思いますが、うちの学生証には、IDAクレジットというIDAシティ専用の電子マネーがチャージできるようになっています。早く見つけないと盗まれて悪用される危険性が」
「確かに、急がないと!」
アルドは彼女と別れ、レゾナポートの方向へ駆け出した。
そんな時、禍々しく黒い霧が行く手を遮る。陰鬱そうな男子生徒が三人、湧き出てくるように地面から出現した。
「ネタを……ネタをよこせぇぇええええ!!」
飢餓状態の獣の咆哮のような叫び声。彼らは、先ほどの彼女とはまた違うオカルト記者たちだった。
「またか! こんなやつらに構っている場合じゃないのに。制服に着替えておくんだったな」
アルドは物影を探して走った。すると前方で、ルイナが腰に手を当て険しい目つきでこちらを見つめているではないか。
「ルイナ、助けてくれないか! オカルト記者たちに追われてて……」
「前に言ったよね。学校の中では風紀委員としてちゃんと見てるから、って。それなのに、どうしてちゃんと学生服を着ていないの?」
「わかったわかった! オレが迂闊だったよ。すぐに着替えるから!」
オカルト記者たちは、ルイナの姿を見てぴたりと足を止めた。
「げっ、あの子は……風紀委員で生き字引のルイナさん……こ、ここは撤収だ」
オカルト記者たちは黒い霧と共に消えていった。
「……ルイナの存在感、すごいな」
「相手が誰であろうと、風紀の乱れは見逃さない」
アルドがきちんと学生服を着て学生証を提示すると、ルイナは満足そうにうなずいた。
「ところで、何か困りごと?」
アルドがことのあらましを伝えると、ルイナはやれやれと首を振る。
「闇雲に探し回るより、学内のアンドロイドに聞いた方が早くて効率的。私も一緒に行く」
「助かるけど、学校の時間なのに悪いな」
「今日はもう授業ないから大丈夫。それに、仲間だから」
先ほどまでの厳しさを消し、ルイナはふわりと笑った。
しかし残念なことに、アンドロイドに聞いてみても学生証の届け出はなく、IDAシティのプレート上をスキャンしても学生証の反応はないという。
「どういうことだ?」
アルドは首を傾げた。
「アンドロイドがミスをするとは考えにくいけど」
ルイナも怪訝そうに呟く。
「念の為に、最後にサナが言った場所を探しに行ってみよう」
二人はH棟のスカイテラスへ急いだ。
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