第1話 彼女の落し物

 アルドはエイミと別れた後、カーゴ・ステーションへと向かった。

 市街地とIDAスクールを結ぶカーゴ乗り場の前では、制服を身にまとった学生たちが談笑している。


 IDAスクールは、エルジオンのプレートを1プレート全て使って作られた学府都市だ。学年はロウ、ミドル、ハイの区分に分かれており、各4年ずつの就学期間を過ごすことになる。通う生徒たちは優れた資質を持つ若者ばかりで、各分野の先端教育を学ぶのだ。


 アルドは乗り場の周辺を探したが、黒猫の姿はどこにも見当たらない。

「ここにもいないか」

 途方に暮れていると、背後からぽんと肩を叩かれた。

「アルドじゃん! こんな所でどうしたの?」

「フォラン!」

 声をかけてきたのは、IDAスクールに通う生徒の一人で仲間のフォランだった。

 鮮やかな紫色の長い髪。へそ出しのセーラー服とミニスカート。胸元を鮮やかに飾る赤いスカーフが印象的な少女。

「ヴァルヲが急にいなくなっちゃったんだよ。街中探しても見つからなくて、ここまで来てみたんだ」

 フォランは紫の目を見開いた。

「え!? やっぱり、あの時の猫はヴァルヲだったんだ!」

「それ、どういうことだ?」

 アルドは首を傾げた。

「さっき、エア・チューブステーションの辺りで見たんだよね。ヴァルヲっぽい猫が走って行くの。ちょっとはっきりしなくて、悪いんだけどさ」

 極度の猫嫌いであるフォランは、気まずそうに俯いた。

「いや、情報ありがとう。そっちに行ってみるよ」

 フォランに手を振り、アルドは先を急いだ。


 IDAスクールの校章がペイントされた黄色いカーゴに乗車する。すぐに、校舎H棟へと続くエア・チューブステーションへ到着した。

 アルドはカーゴから降り、周囲を見回す。

「にゃーん」

 どこかから、聞きなれた猫の鳴き声が聞こえた。

 その方向へ向かうと、一人の女生徒が黒猫の頭を撫でていた。

「ヴァルヲ! 一匹でこんな遠くまで来ていたのか?」

 アルドが呆れて言うも、ヴァルヲは我関せずとその場に丸くなる。

「この猫ちゃん、君の仲間?」

 女生徒が言った。腰まで伸びた青い髪は艶やかで、IDAスクールの制服を指定通り身にまとっている。真面目そうな印象の少女だ。

「ああ。ヴァルヲを捕まえてくれてありがとう。俺はアルド」

「どういたしまして。あたしはサナ」

 別れてすぐ、サナは立ち止まってカバンを凝視した。

「あれ、なくなってる!?」

「どうしたんだ? 何かなくしたのか?」

 沈黙の後、サナは口を開いた。

「夢……かな。……なんちって」

 そう言って曖昧に笑う。

 夢?

 アルドは腕を組み、彼女をじっと見つめた。

「ごめんごめん。意味わかんないよね。実は、カバンにつけたパスケースごと学生証を落としちゃったみたい」

「オレも探すの手伝うよ。ヴァルヲを捕まえてくれたお礼」

「ありがとう」

 二人で付近を探したが、パスケースはどこにも見当たらない。

「オレは違う場所を探してみるよ。他に立ち寄った場所を教えてくれないか?」

 サナは少し考え込み、とつとつと喋り出した。

「学生寮を出て、H棟の教室で授業を受けてたわ。それから友達とテラスでお昼ご飯食べて……今ここに来た感じ、かな」

「よし、サナが辿った道を探してみよう!」

 アルドは再び蒼穹の下を駆け出した。

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