追憶の胡蝶と夢見のサナギ

柚木はる

プロローグ

 遠い遠い、遥か時の彼方。

 第七代ミグランス王朝の時代より800年後の未来。

 ――AD1100年。

 人々は汚染された土地を捨て、天空の島々へと移り住んだ。

 

 曙光都市エルジオンは、空中に浮かぶ大都市である。

 プレートと呼ばれる新たなる大地の上に、見上げるほど高い白亜の建物がそびえ立つ。アルドは時空の穴を通り時を超え、この世界を目の当たりにした。バオルキーの村で普通に暮らしていたなら、決して見ることのなかった景色を。


 そんな宙まで突き抜けるような蒼穹の下、足音が響く。

 時空の冒険者アルドは、エルジオンのガンマ区画を駆け回っていた。

 額に汗を浮かべ、街の喧騒に負けじと声を張り上げる。


「ヴァルヲー! どこにいるんだー! ……いつも食事の時間には戻ってくるはずなのに、今日はどこまで行ったんだ?」


 息を切らして武器屋イシャール堂の前まで戻ると、ちょうど店の中から仲間のエイミが姿を現した。


「見つからない?」

「駄目だ。どこにもいないよ」


 エイミは首を傾げた。


「もしかしたら、ガンマ区画の外に出ちゃったのかもしれないわね。アルド、手分けしましょう。私はシータ区画の方を探して来る」


 亜麻色の髪と緑の髪飾りがふわりと揺れ、シャンプーの甘い匂いが風に香った。


「ああ、頼んだよエイミ。オレはカーゴ・ステーションの方を探してみる」 

 

 ――再びアルドは駆け出す。こうして今日もまた、新たなクエストが幕を開けた。

 

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