第44話 対魔人戦Ⅱ
(思ったより激情的な奴だな)
魔人の奥のエリア、元々アキト達が到達目標としていたこのダンジョンの最奥と思われる場所。
恐らくあそこがダンジョンのコアなのだとアキトは考えた。
その確認の意味も込めて実験的にしようした術式に対して魔人は思った以上の反応を見せてくれた。
しかしその代償が思ったより大きかったが。
碌に訓練もしていないぶっつけ本番の異能を用いた術式はアキトの脳にダメージを与えていた。
仮面の中でアキトの鼻や目から流れる血が先ほどから止まらない。
頭痛も酷くまるで小さな虫が頭の中で暴れているような痛みがアキトを襲っていた。
以前鴻上との特訓時に
と言う事は、本来アキトを中心にしか展開異能の力に指向性を与え、攻撃に転用したことによる代償なのだろう。
(普段使わない筋肉を無理に行き成り動かせば痛めるって事と似たような感じか?)
だが、そんな事を気にしている場合ではない。
先ほどの術式があと何回使用出来るか不明だが、少なくとも連発するのは今は無理だと判断する。
「どうしたの玖珂? さっきのをもう一度使うのは無理?」
「ああ、少々反動が大きくてな。少し時間を空けないと厳しいな」
「さっきの相手の動きを止める奴は?」
「同様だ」
それは嘘だ。”
しかし、無理な術式の代償のためか異能を周囲に展開する事が今は出来そうになかった。
それを同じ軍でもないセレスティアに馬鹿正直に話す必要もないとアキトは判断した。
「だが、そうか。失敗したな」
そう仮面の中で思わず自分の失態を愚痴る。今のアキトが使える異能は自身の周囲に展開する物理結界のみ。
結果論ではあったが、セレスティアをイディオムの連中の所まで避難させてから周囲を停止結界で蔽い、その隙にダンジョンの最奥へ侵入して破壊する。これが一番スマートな攻略法だったと今更になって気付いたのだ。
(いや、そもそもこちらの異能を知らないセレスティアが私の言うとおりに動くはずがないのだから、机上の空論でしかなかったと考えよう)
「魔人、貴様名前は?」
アキトは体調が戻るまで会話で時間を稼ごうと考えた。
「そんなものはないッ! 我らの思考は常に一つなのだッ!」
そう叫ぶと魔人の羽が白く輝いた。
アキトの目の前に白い結晶体が迫ってくるが、同様に停止した。
それをアキトは無視し、”
アキトの拳を受け、果実のように破裂する魔人の顔。さらに頭部を失った魔人の身体に蹴りを入れた。腹部に放ったアキトの蹴りによって魔人の身体はくの字に折れ二つに分かれた。
「成瀬ッ! 雲林院隊長と連携して避難するように伝えてくれ。魔人との戦いが激化する可能性が高い」
『は、はい! 了解しましたッ!』
「セレスティア殿。この魔人が復活するまで時間がかかるはず。ここは任せても?」
「おっけー」
二つに分かたれた肉体はそのまま奈落の底へ沈まず、まだその場で浮遊している事にアキトは違和感を覚えた。すると先ほどと比べ早い速度で赤い粒子が発生し白い魔人が復活した。
「セレスティア殿ッ!」
「”アディシオン・アクセル”」
復活した魔人がまた結晶の羽を発光させる前に、異能を使ったセレスティアは魔人の羽をその蒼く煌めく刃で断ち切った。
銀の閃光はそれに止まらず、瞬く間に白い魔人が赤い血によって染まっていった。
「行っていいよ!」
「頼んだッ!」
セレスティアに魔人の相手を預け、アキトは飛行術式を使い上空へ上がる。
強い魔力を感じている方向へ移動した。
アキトの考えでは魔人の復活の仕組みはダンジョン内の魔物の復活方法と同じではないかと考えている。
ダンジョン内の魔物は復活する。魔石を砕いても定期的に各階層を巡回しなければまた魔物が蘇るのだ。中華国が3年にも渡って戦っていても魔物が減る事はなかったという事実から考えるとこのダンジョンという場所は
ではその外部とはどこか。間違いなく魔界だろう。
この人界より潤沢に魔力がある魔界からダンジョンを通じて魔力が流れているという事。
ならばその魔力供給源とは何か、それがこの先にあるダンジョンの最奥のコアのはず。
アキトは飛行した状態で”感応”で感知した魔力が不自然に溜まっている場所へ移動した。
そこはただの壁にしか見えないが、間違いなくこの向こう側にあるとアキトは確信する。
「ハァッ!!」
右手に魔力を集中し、壁に向けて拳を放つ。
轟音と共に舞う瓦礫と土煙の向こうにそれはあった。
それはまるで繭のようだ。
その繭の中は半透明に透けており、その中に胎動する何かがある。
心臓の様に鼓動する繭の周りには白い根のようなものが多く生えており、それが徐々に色が黒くグラデーションのように染まって行き、壁へと繋がっていた。
「ダンジョンの外見と比べて随分、神秘的な場所だ」
目の前の鼓動する繭からは生理的な嫌悪感がどうしてもあったのだが、その場所はあの魔人がいう通りに確かに祭壇のようにどこか神秘的な雰囲気に包まれていた。
アキトは飛行した状態でその繭に近づき触れようとする。
すると何か見えない壁に遮られるかのように伸ばした手が止まった。
さらに周りを観察する。
よく見るとこのフロアのやや上部に穴が開いておりその中心にまるで血管のように赤い管が集まっているのが見えた。
(恐らくあの時の術式によって生じた傷を修復しようとしている?)
「とはいえ、これを破壊すれば少なくともこのダンジョンは死に、あの魔人も復活出来ないはずだ」
アキトは自分の右手を握り、体調の確認をする。
まだ本調子とは言えないが、先ほどに比べれば遥かにマシになったと言える。
セレスティアが時間を稼いでいる間にここを破壊してしまおうとアキトは異能を展開しようとする。
「”
するとアキトの後ろから凄まじい魔力を感知し、すぐに後ろを振り返った。
白い100を超えそうな数の結晶体を浮かべた魔人がいた。
白髪の髪は血で赤く染まっており、その赤い目は血走っているためか眼球全体が赤い。
「聖域にッ! 人間風情が入るとは何事だぁッ! 死ぬがいい!!」
アキトの後ろにある繭も気にせず魔人はアキトに攻撃を行った。
振るった羽からまるで雨のように降り注ぐ結晶はまともに触れれば肉片まで残らないだろうことは容易に想像出来る。
「”
アキトの異能の前ではその輝かしい結晶も届かず、目の前で停止する。
「なぜだぁ!! 貴様はなんなんだッ!!」
「驚いたな。どうやってセレスティア殿を巻いたんだ?」
「あんな速いだけの人間なんぞ、我が力の前では無力だ!」
「……そうか。守護者を生成しセレスティア殿を襲っているのか」
感応によってセレスティアの状況を確認すると、守護者レベルと思われる魔物15体と戦闘を繰り広げている様子だった。とはいえ、流石のセレスティアを押し止めるのは難しいようで徐々に守護者の数は減ってきている。
「あのレベルの魔物を生み出すのはそれなりにリスクがあると思うが」
「はッ! この魔界領域内の魔物の生成をやめればこの程度造作もないわ!」
「だが、好都合だ」
「なんだと!?」
「――”
血走った目で大口を開けたまま停止する魔人。
それを一瞥もくれず繭の前へ移動する。
「ようやくだ。さっさと破壊させてもらうぞ」
アキトは先ほどと同じく手を前に伸ばす。
伸ばした左手が同様に見えない壁に阻まれた。
アキトはそれを確認すると腰を少し落とし、右腕を腰に添える。
「”
アキトの奥の手。範囲内の元素運動さえ停止させすべてを破壊する異能を発現した。
アキトを纏っていた魔力がまるで揺らめく炎のように波打ち、徐々に黒い炎のようになった。
「――――――ッ!」
アキトは気合を入れ吠えた。音にならない叫びをあげ、今まで以上に魔力を纏い、右腕に込める。
体内で目まぐるしく回転する魔力に身体は徐々に悲鳴を上げているのをアキトは感じたがそれを無視し、渾身の右ストレートを目の前にある見えない壁に、そしてその向こうの繭へと放つ。
****
「これでラストッ!」
セレスティアは蒼く輝く刀身を振り、急に出現した守護者のような魔物達の首を跳ねていた。
あの時、復活した魔人は自身の身体の復元よりも魔物の生成に力を入れたようで、瞬く間にセレスティアは魔物の群れに囲まれた。
いくら異能を使いそれを避けようともまるで雪崩のように迫ってくる魔物の群れを完全に無視しきれず仕方なくそれらの殲滅を優先させた。
もっともセレスティアの思惑としては魔人が玖珂の元へ行っても問題ないという腹積もりもあった。
(玖珂の異能はよくわからないけど、単純な戦闘能力だけなら多分ボクより高いと思うしね)
とはいえ、玖珂にばかり任せるわけにもいかないため、異能をフル活用し守護者の群れを全滅させ、セレスティアは急ぎ逃げた魔人の後を追った。
恐らく玖珂が行ったと思われる破壊の穴を潜るとセレスティアは思わず声を出してしまった。
「……なにこれ、どうやったらこうなるの?」
セレスティアの目の前には白い結晶の羽を生やした魔人が徐々に赤い結晶へ変わっていく様と、
光さえも吸収してしまいそうな深い闇に覆われた玖珂の向こうに開いた大穴であった。
玖珂の前には直径500m以上の穴が開き、その向こうに
都市を覆うほどに成長した大樹のようなダンジョンにここまで大きなダメージを与える玖珂の力に驚きながらもその仮面の中の顔により一層の興味をセレスティアは持ったのだった。
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