第39話 17階層守護者

「バインドアーツ”フォルスチェイン”」


 ウィリアムは拘束用アーツを使用した。地面や壁から魔力で出来た鎖が幾重も出現し対象の守護者を縛った。手、足、首といくつもの鎖が絡まり身動きを封じている。


「くっ! 予想以上に力が強い、あまり拘束できません」

異能アビリティ属性魔法アトリエイトフォルス” アーススピアッ!」


 ソニアは属性魔法を使い、地面や壁から5つ以上の岩の形をした槍が出現しグリズリー型の守護者を襲った。

土煙を舞い上げながら魔物を襲った岩の槍はすべて守護者へ当たったが、

僅かな傷だけをつけるだけにとどめていた。


「グアァァアッ!」


 腕や足に絡みついた鎖を引きちぎり口から涎を垂らしながら守護者がこちらに突っ込んでくる。地響きを立てながらこちらに走ってきた。


異能アビリティ属性魔法アトリエイトフォルス” アースウォールッ!」


 こちらに突進してくる守護者の前に分厚い岩の壁が出現する。

しかし、轟音を立てながら守護者はそれを破壊し接近してきた。


「魔力による耐性が思った以上に強いようですッ!」

「一旦距離を取った方が良さそうだね、アルフレッド准尉ッ!」

「はいよー」


 気の抜けた返事をしながら守護者エリアの奥まで進んでいたアルフレッドがこちらに向かって手を振っていた。


異能アビリティ”キャスリング”」


 アルフレッドの身体が光り、ヴァージル達の近くまで接近していた守護者も光に包まれる。そしてその光が眩く光ると、アルフレッドのいる場所に守護者がおり、守護者のいた場所にアルフレッドがいた。


「ヴァージル大尉。あいつに何か呼称をつけませんか? 一々熊とか呼ぶのも締まらないんですよね」

「そうだな。では呼称”ローバス・ガルディ”としようか」

「はいはい。ではそれにしましょっか」


 そしてそれに入れ替わるようにセレスティアが腰からナイフを抜き守護者へと向かっていく。


「――異能アビリティ”アディシオン”」


 セレスティアが早送りの映像のように急激に加速し右手に持ったナイフを守護者の首を落とそうと腕を振るった。

セレスティアの攻撃にローバス・ガルディは後ろに仰け反り後退した。

攻撃を受けた箇所から出血が見られるがまだ致命傷ではないようだ。


「ガァアアッ!」


 眼孔の赤い光が一層輝く。

長い手を鞭のように使い、ローバス・ガルディはセレスティアを襲った。

しかし、さきほどまでその場所にいたセレスティアはすでにおらず、攻撃したローバス・ガルディの腕から6つ以上の赤い線が走る。


「思ったより硬いなぁ」

「援護しますッ! 異能アビリティ属性魔法アトリエイトフォルス”ロックハンドッ!」


 地面から手の形をした岩が出現しローバス・ガルディの顎を下から殴り上げた。


「ァァアアッ!」

「魔力をたくさん練ると疲れるんだけどなー」


 そう言葉を零しセレスティアの持っているナイフが銀色に光った。

短い刃だった刀身が蒼い魔力によってその刀身を伸ばし、綺麗な銀の剣のようになった。


「よいしょっ!」


 少々力の抜けるような掛け声を出しながらまたセレスティアはその場から消えた。

その瞬間、ローバス・ガルディのその長い腕は血を撒き散らしながら胴体から切り離され、さらに身体をくの字に曲げながら壁に激突したのだった。

 しかし、ローバス・ガルディは失った腕をまったく気にも留めず、口を限界まで開け、まるで狂気に飲まれているかの様にセレスティアにさらに攻撃を加えようとした。


「”アディシオン・アクセル”」


 セレスティアは魔力をさらに高め、強く踏み込みを行い、また消えた。

そしてセレスティアに襲い掛かろうとするローバス・ガルディの周りに銀色の軌跡が舞う。

眼にも映らないようなスピードで動くセレスティアの軌道に合わせてローバスの身体から肉が削がれて行く、断末魔を出しながらそれでも懸命にセレスティアを殺そうと残った腕を振るうが、銀色の光が舞うごとにローバス・ガルディの腕がなくなり、足がなくなり、

眼孔の赤い光が鈍くなり始めた頃には、その悪魔のような角が生えた頭部も地面に転がり、17階層の守護者は身体を蒸発させながら倒れた。


「さすが守護者といったところか、随分硬かったようだね」

 

 セレスティアの近くに来たヴァージルが蒸発する守護者の死体を見ながら話しかける。


「うん。前に戦ったクマより随分硬い。それに魔力に耐性があるみたいだから結構厄介で

まいったかも」

「さすがセレスだな」

「いや、アルフレッド准尉。守護者がこのレベルであればやはり厄介ではないですか?」

「ソニア軍曹の言う通りだね。あまりセレスティア頼りになるのは避けたい所だ」

「多分あのレベルならヴァージル大尉でも倒せたんじゃないかな?」


 そうセレスティアはヴァージルに質問を投げた。


「倒せるだろうが、時間が掛かる。それでは意味がない。それに私の異能は燃費が悪いからね」

「まぁヴァージル大尉の異能は結構強力ですしね」

「だが、私の魂はあまり進化しておらず、魔力の器が広くない。そういう意味ではセレスティアが羨ましいね」

「ふふふ。ボクは結構魔力保有量が多いからね」

「いや、結構なんてものでは……ヴァージル大尉」


 そうウィリアムが後ろを見ながらヴァージルに言葉を投げた。


「ん、どうやら。追いついてきたようだね。少々予定と違うが、向こうのリーダーと少し話をしようか」


 ヴァージルの前方、17階層の守護者エリアの入り口に日本軍である雲林院とソードドールズのメンバー4人がいたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る