第25話 ハンターチーム

「ハァハァ……」

「体感したな? それが俺が考えたお前の弱点だ」


 アキトは鴻上と模擬戦を行い五番隊の訓練所の床に倒れて息を切らしていた。


「分かったと思うが、アキトの異能は最強に近いが決して無敵ではない。ちょっと頭が良い奴なら攻略法も思い付く、これを対処する方法は分かるな?」

「考えを止めない、知識を蓄える……ですか?」

「そうだ、前にも言ったが自分の力を過信するな、絶対と盲信すると必ず足元を掬われる」

「はい、ハァハァ……ありがとうございます」


 アキトは鴻上から指摘されたアキトの異能の欠点。もっとも、それに気付き実行出来る奴はそうそういないと鴻上からも言われたが、それでも自身の異能の欠点を知ることが出来たのは明日、ダンジョン攻略へ向かう前としては僥倖だったとアキトは考える。


(もしこれが実戦だったら……僕は冷静に対処出来ただろうか)


 そんな自問自答を行い息を整え鴻上に礼をした。少なくとも次同じ事をされても対処可能だとアキトは考える。

その為には鴻上の言う通りやはり知識を蓄えるしかないのかもしれない。


「そういや、アキト。この前教えた感応だかな、あれは普通の探索術じゃない」

「え? そうなんですか?」


 そんな今更な話をしながら鴻上との訓練を終了した。出来れば新しい魔術式を覚えたかったのだが全く捗らなかった。

魔力を事象へ変換する式はアキトが思っている以上に難しく一つ覚えるのがやっとであった。

もっとも戦いながら使用するのはアキトにはやはり無理だったため、使う際は異能で亀のように籠るしかないのはアキトも情けなく感じている。

 ただ魔術式はボロボロだったが雲林院の歩法術を盗む事には成功した。何故か鴻上も使えるようだったためレクチャーして貰えたのだ。

最初は何か悪い気もしたが鴻上からは、


「技は盗むものだろう?」


 そう言われると確かにと思ってしまう辺り自分も単純のようだ。

この歩法『雨燕アマツバメ』と言うらしいが、これは足に魔力を貯め、地面と足の摩擦を薄くし、まるでスケートのように滑って移動出来る。但しスケートと違うのは滑る箇所を意図的に変更し、踏み込みと滑る動きを自在に行うことにより動きに大きく緩急を付ける事が出来る点だ。

これは1度戦ったアキトはその厄介さを身に染みて理解している。そのため中華国へ行くまで出来れば習得したい技能であった。


「とはいえ、だ。動きは以前に比べ遥かに良くなった。実戦を経験したのが良かったか」

「ありがとうございます。鴻上隊長は護衛の方はどうですか?」

「俺が護衛に着いてから妙な連中の気配は消えたみたいだ。かなり厄介な連中だな」

「そうなんですか? 単純に鴻上隊長に恐れてるとかじゃないんですかね」

「阿呆。そんなヤワな連中じゃない。俺が気配を察知すれば奴らの居場所は感応で直ぐに分かる。連中はそれを理解している気がする。まぁ単純にかなり遠くから監視してるのか、何か違う手を考えているのか読みにくいな……」

「単純に諦めたという事は?」

「そんな簡単な話ならいいんだがな」


 そういって鴻上は何かを考えるように目を細め視線を研究所の方へ向けた。


「兎に角だ。こっちは何も心配するな。お前は明日の事を考えろ良いな」

「はいッ!」




 そうして次の日。

中華国へ移動する日がやってきた。

アキトと成瀬は既に準備を終えて今回の作戦の同行者達と合流するべく市ヶ谷へ移動をしていた。


「玖珂隊長は食事する時はどうするんですか?」

「梓音博士に口元だけ開けるように改造して貰ったから何とかなるさ」


 現在は車でアキトと成瀬は移動をしている。運転は以前静岡の作戦時にヘリに同乗していた中川が運転をしている。


「今回はアーマーや外套の予備は既に飛行機内に運び込まれています。一応現地に設営されている屯所にて各国ごとに簡易住居が割り当てられる予定ですが……」

「報告によると14階層までは単純な移動だけでも4時間以上は掛かるようだからね、恐らく攻略へ行くチームはダンジョン内で野営する事になるか」


 空間拡張した鞄に一応軍幕も用意してある。

こういう時、魔道具とは本当に便利だと思った。食料も多少味のあるチューブタイプの携帯食を用意してある。

これはあまり美味しくないがお腹も膨れ栄養バランスも取れてる新しいレーションのようなものだ。


「私は前回と同様に異能を使い隊長達を補佐致します、軍用通信になるため玖珂隊長と雲林院隊長に通信を繋ぐ予定です」

「それで良いだろう。雲林院隊長にも許可を取っている。ハンターについては出発前に聞いた通りなら雲林院隊長に扱いは預けて良いと思うしね」


 対魔本部より市ヶ谷基地へ移動する際、雲林院隊長から今回のハンター達について改めて話を聞いていた。

今回同行するソードドールズは実は斯波が元々結成したハンターチームらしく、斯波は雲林院と出会い婿入りする事になってから斯波はハンター業を廃止し軍へ入る形になったらしい。

3人チームだったソードドールズは、斯波が抜けた事により2人チームになったそうだ。

その後人数を増やす事もなく2人でハンター業をやっていたそうだが、雲林院と斯波の間に生まれた娘が成長し、

現在はハンターチームの3人目として活動しているとの事。

 雲林院の話では元々斯波が所属していたチームであり、雲林院と斯波の娘が所属しているという事もあってソードドールズに白羽の矢が立ったのではないかと考えているようだ。今回の中華国のダンジョン攻略作戦は機密が絡むことが多いため、信用できるハンターを国も探していたのかもしれない。

 そうして、移動中の車内でアキトと成瀬はラターシャより知りえた情報の共有を行いながら市ヶ谷基地へ移動するのであった。


 到着した市ヶ谷基地はアキトが想像していたような基地と少し違っていた。対魔の本部のような高い建物がいくつかあり、まるでオフィス街のような雰囲気だ。そして広く開けた土地にはいくつものヘリや戦闘機などが置いてある。

この魔物が出現する現代では戦闘機の出番は今は殆どないらしい。というのも空に魔物がいないからだ。

もっともそれは今は見つかっていないだけであって今後どうなるかは不明との事なのでいつでも出撃出来るように常にメンテナンスはしているそうだ。

 今回中華国までの移動は魔石を使用し新たに製造された新型の飛行機だ。

飛行機の表面は鏡のように反射しており形がアキトが知っている飛行機から随分と変わっている。

これに乗ると約2時間で現地まで移動が可能との事で以前の約2倍の速度で到着できるらしい。


「玖珂隊長、私は航空自衛隊所属の佐藤です。お待ちしておりました。既に斎藤殿は到着されておりますのでご案内いたします」

「分かった。成瀬は念のため荷物の確認を」

「はっ! 承知しました」


 アキトは佐藤の後に続くように近くのビルの中へ入った。ここもホテルのようなエントランスになっており、恐らくこの20年内に作られた建物なのかとアキトは考える。佐藤の後に続き、エレベーターに乗って目的の部屋へ到着した。


「ただいま対魔零番隊、玖珂アキト隊長が到着しました」

「入り給え」

「はっ!」


 佐藤は目の前の扉を開けアキトを中へ入るように促す。


「失礼します」


 アキトは歩を進め中へ入る。

そこには以前会った斎藤と雲林院、そして見知らぬ3名の人物がいる。

鋭い視線をこちらに向ける3名をアキトも見る。

 3名の中の一人、立ち位置などを考えると彼がチームのリーダーなのかも知れない。

こちらを値踏みするように見る男。年齢は30歳手前くらいだろうか。引き締まった肉体は装備の上からでもよくわかる。

両手に装備したガントレットなどからおそらくアキトと同じ近接格闘戦を得意としている様子だ。

そして、中央の男の後ろに二人の女性がいる。

一人は大よそ20代半ばくらいだろうか。腰に短杖があるため恐らく前衛で戦うタイプではないだろう。

短く切りそろえられた髪から覗く瞳はとても強い意思を感じる。

 そして、もう一人。

恐らく彼女がそうか。少し長めの刀を腰に携え長い髪を後ろにまとめいる。

腕を前で組みこちらを怪訝そうに睨んでいる。腕を組んでいるせいか女性らしい身体の部分が協調されているが、

彼女の纏う気配から間違ってもそんな気分にはならない。


「玖珂隊長。彼らの紹介をしましょうか。

今回同行するハンターチーム『ソードドールズ』です」


 そう齋藤がハンターの紹介を促す。


「どうも。オレは葦原大和あしはらやまと、このチームのリーダーだ。

後ろにいるのはチームメンバーで、」

天沢凪咲あまざわなぎさよ、よろしく」

「玖珂アキトだ。よろしく」


 互いに観察するように慣れあわず最低限の自己紹介を済ませる。本当はもっと和やかにやりたかったが、とてもそういう雰囲気ではないのはさすがのアキトも理解していた。


「おい、お前も自己紹介しろ」


 葦原は首を軽く後ろに回しまだ自己紹介をしていない彼女に声をかけた。


「――雲林院雫うじいしずく。あんたそんな変な仮面付けてるけど本当に対魔の隊長なの?」


(初対面で何でこんな喧嘩腰なんだ?)


 そう思わず入れれないアキトは今後の任務に一抹の不安を感じた。

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