第24話 ダンジョンの魔物

「1層の魔物はどういったモノが出現するんですか?」

「ん。今は何もいないはず」

「――今はいない?」

「そう。放っておくと魔物が際限なく出現する。だから、踏破した階層に対して中華国の軍が常時展開されている。

だから、今は前線の15階層より手前の14階層まで魔物が出ない状況」

「でも一度16階層まで進んで後退しているんですよね?」

「そう。そこでさっきのカラベラが出現した。現在ハンターと中華国軍はこのカラベラの群れに苦戦し、攻略した階層から撤退を余儀なくされた」

「という事は魔物は階層を跨いで移動できる?」

「可能。より正確に言えばカラベラは15階層まで移動できるみたい。他の魔物は無理だった。

ちなみに魔石は残るけどすぐ回収しないとその魔物が

「なッ!? どうしてです?」

「魔石を核に再生、もしくは召喚されていると予想。魔石を大よそ20分~30分ほど放置するとその魔石を核に魔物が復活する。

だから、ダンジョンでは魔石をすぐに砕くか、ダンジョン外へ持ち出すかのどちらかしなければならない」


 魔物の再生。通常では考えられない現象だ。もし魔物が復活するのであれば確かにダンジョン攻略は奥に進めば進むほど停滞する可能性は高いと考えられる。

なぜなら、魔石とは資源だからだ。

倒した魔物の魔石は今や地球の新しい資源として使われている。

もし、奥へ行くほど強い魔物がいるのであれば当然倒した魔物の魔石の価値は計り知れないだろう。

だが、それを回収できない。つまり長期間のダンジョン攻略を考えるとダンジョンから資源が取れなくなるのだ。

踏破済みの階層は魔物が発生しないようにしており、奥の方の魔物を倒してもそれを持ち帰ることが困難。

 ハンターであれば、魔石は収入源になるためできれば回収したいはず。

しかし奥の階層へ行って魔物を倒しても今度は魔石を20分以内に外へ持ち出すことは不可能だろうから必然奥の階層を攻略する旨味はハンターにはない。国からハンターに対し予算が出ている可能性があるだろうが、

魔石問題を考えると軍も長時間ハンターを雇用する事は難しいだろう。

そういった問題がおそらく今のダンジョン攻略の表面化になっている可能性が高い。

そう考えると中華国がダンジョン攻略に対し、他国を入れたくない気持ちも見えてくる。

なぜなら、他国の軍がダンジョン攻略を始めても後から参戦した国は魔石を確保する事は出来ない。

ならばその予算はどこから出るのか。ダンジョン発生による復興支援は行われているだろうが、ダンジョンの攻略までもボランティアで行うとは考えにくい。

間違いなく中華国の負担になるはず。

そうでなくても他国に大きな借りが出来る中華国は発言力を失う可能性が高い。

となれば、なるほど。厄介だとアキトは考えた。


「皐月隊長。今回のダンジョン攻略はもしかして……」

「そうだね。中華国は踏破済みの階層を維持するためにしか軍を動かせない。

そして、赤龍軍も他国の援護が入り次第、前線から下げるというのが私の予想だ。

さらに肝心な所は日本、アメリカ、ロシア共に大軍は出せない。

今後、ダンジョン攻略の予算は長期間した場合は国に莫大な負担を強いることになるだろう。もちろん援助はあるだろうが……。

今の中華国は約3年もの間、自国だけで攻略していたために3ヵ国に膨大なな予算を支払う力はない。だから今回の任務では各国で少数精鋭が集まる。

それが今回対魔でもあまり部隊を出せない理由の一つだ」


「整理する。ダンジョン内は魔物が死ぬと消えるが魔石は残る。魔石は20~30分内に砕かなければ復活する。

踏破した階層を放置すると魔物が復活するため踏破するたびに、軍をそこに置く必要が出てくる。

ダンジョンが何階層まであるのか不明、これが現在分かっているダンジョンの全部」


 そうラターシャはまとめてくれた。


「なるほど、かなり厄介だという事がよくわかりました」

「玖珂隊長。改めて、君なら中華国のダンジョンの攻略は可能だと考えている。

今回日本から出せる戦力では玖珂隊長、雲林院隊長が攻略のメインだ。

そして、サポーターとして成瀬隊員と二番隊第二班班長の笠田隊員、そしてハンター3名、合計7名が参加予定だ。

当日の指揮は雲林院隊長が取るが、実質現場のエースは玖珂隊長になる。

成瀬隊員、笠田隊員はダンジョンの近くある駐屯地で待機になるため、ダンジョンに入るのは5名となる」

「まさか、二番隊の隊員はその笠田さんだけなんですか? 斯波副隊長は?」

「斯波副隊長を含めた二番隊第一班は別働隊として行動予定だ」

「――例の組織ですか?」

「そうだ。念の為ダンジョンの近くで待機予定だね、表向きはダンジョン攻略に参加しない形を取っている」

「それでもやはり5人は少ないかと思いますが……」

「確かにそうだろうけどね。どうも中華国側からの要請で小隊以上は今作戦に参加が難しいらしい」

「……やはりお金ですか?」

「一応表向きは他国の軍を大規模な形で国内に入れたくないらしいね」

「ではハンターは?」

「B+以上のハンターを国が雇っている。雲林院隊長の指揮に入る事に合意しているが……」

「何かあるんですか?」

「ああ。そのハンター達はね。『ソードドールズ』という3人チームなんだけど、その中に――」



「雲林院隊長の娘さんがいるんだ」

「――娘ですか?」

「そう。彼女は今年B+に上がったばかりで若手では有名なハンターみたいだね。おそらく雲林院隊長は娘さんが参加するから今回参加を決めているみたいだ」

「もとから決まっていたわけではないんですか?」

「いや、最初は鴻上隊長か雲林院隊長のどちらかという話だった。しかし、娘さんが参加すると知り、雲林院隊長が志願したんだ。もっとも、ちょうど同じくらいのタイミングで梓音博士の護衛任務が鴻上隊長に入ったのでどっちにしろ雲林院隊長が行くことになっていたと思うけどね」

「あまり雲林院隊長が仕事にプライベートを持ちたずイメージがないので驚きました」

「どうも娘さんは結構ヤンチャみたいでね。普段のハンター業には口を出していないようだけど、流石に今回のダンジョン攻略は危険が多いからね」


(娘さんが参加か……だから雲林院隊長の様子が少しおかしかったのかも知れないな)


「ダンジョンの話はもう大丈夫?」

「あ、ラターシャさん。はい大丈夫です。大変ためになりました」

「ならよかった。他に質問はある?」

「では、いくつか。なんでこんなにこの部屋くらいんですか?」


 今は関係ない質問だと理解しているがこのフロアに入ってから廊下とこの部屋を含めてずっと暗いのがなんとなく気になっていた。


「簡単。この世界の日の光は私たち強すぎる」

「日の光ですか?」

「そう。私たちの世界は空にたくさんの緑が覆っているため、あまり日の光を直接浴びる事がすくない。

だから、昼間とかは眩しくて困る」

「だからラターシャ殿は外出するときは日傘とサングラスをしてがいるんだ」


 住んでいた場所が違えば当然環境も違うのだ。そういった生活の変化はあるのだろう。


「でもこの世界の食べ物はおいしい、特にカレーは神」

「ちなみに廊下とかこの部屋に緑色が多いのは何か理由が?」

「単純に好きな色だからその色に変えてもらった」


 そんな理由だったのか。やたら緑一色だから違う理由があるのかと思っていた。


「ラターシャさんは魔界の事はどの程度知っているんですか?」

「魔界。正直詳しくはない。私たちの世界にも定期的に襲撃してきていたけど、何故か今は地球を攻めている。

どんな世界なのかも一切不明。正直な所、今の地球と同じような形で私たちの世界を攻められていたらすぐに落ちていた」

「なぜ地球に侵略してきたのか不明って事ですか?」

「そう。なぜ地球に魔力が満ちたのか。なぜ急に地球へ侵略し始めたのか精霊王も分からないらしい」

「では魔人とは?」

「不明。私も目撃していない。データに残っていない。

でも、赤龍軍から唯一引き出した情報として分かっているのはであるという事。

そしておそらく魔人は意思の疎通が可能ではないかと思われる」

「会話が可能という事ですか?」

「そう。報告が上がってこないけど赤龍軍の人達に向けて何かを話したらしい」

「その何かというは不明という事ですよね」

「隠しているのか、単純に意味が分からなかったのか、その辺りも不明」


 魔人。ダンジョンを攻略する上で必ず立ちふさがる強敵になる。

ダンジョンへ向かう前にアキトは鴻上に声を掛けられているため、そこでもう一度自分を高め、万全の状態で中華国へ向かおうとアキトは心に決めたのであった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る